ep.87 犬派、猫派
少し短めです。
「私の物にならない?」
この人は何を言っているのだろう。いや、容姿は綺麗だし黙っていれば美女なのだが、いかんせん昨夜のイメージが強すぎる。それに前情報で冷酷な人とも聞いているのだが、一体どういう意味なんだ?
「えっと、それはどういう?」
「最近、私が飼っていた男が、なぜかいなくなっちゃって。代わりが欲しいと思っていたの。あなたは頭も良さそうだし、見た目も悪くない。それに・・・」
「それに?」
「すぐには壊れなそうだから」
やばい。この人ガチでやばいやつだ。サイコパスといっても過言じゃ無いだろ。なんだよペットって。人を人として見てないって事だろ?
「いえ、遠慮させていただきます」
「・・・なんで?一般的に見て、私は見た目も悪くないはず。それに私は皇族、それでも駄目?・・・あ、そういえばリリネッタの婚約者とか言ってたっけ。私の男になるなら、たまになら私の体で遊ばせてあげてもいい。どう?」
・・・なん、だと?
私の体で遊ばせてあげてもいい?なんてパワーワードだ。破壊力が凄すぎるんだけど。ミレイちゃんやルナ、ヨミで耐性が出来ていなかったら無意識に頷いていた可能性もあった。
ゴクリ
・・・確かに恐ろしい女のようだ。しかし俺はそんな誘惑に乗るほど、馬鹿じゃない。
しかし、答えたのは俺では無かった。
「ご主人様は絶対に渡しません」
「うふふ、その通りです。アウル様にはもう決まった人がいるのですから」
「そういうわけですので。他を当たってください」
「・・・そう。ますます気に入った。まだ諦めないから」
カミーユはそう言い残して俺の前から去って行った。
この一連の流れだけ見ると、美女に言い寄られているところを美女2人に助けて貰い、しかし最初の美女が諦めずに去って行くという、憧れるようなシーンではあるのだけど。
なんでだろう、全く嬉しくないんだけど。
「まったく、ご主人様はいつも厄介な人を惹き付けてしまうのですね」
「うふふ、しかも全部美人ばかりというのがアウル様らしいです」
「それは褒めているんだよね?」
それに美女だけじゃなくて、小太りのお菓子大好きな侯爵様や村人大好きな村長、それにナイスミドルなアルフだっているんだから、女性ばかりでは無いはずだ。
まぁ、美人が多いのは否めない気がするけど・・・。
「アウル!大丈夫ですか?!」
「えぇ、大丈夫です。問題ありません」
リリーはカミーユが俺に接触してきたのを心配してくれたみたいだな。にしても、アリスが言っていたのはこういうことだったのかな。
「よかった…。お二方も戻られたようですし、今日はお部屋でゆっくりしてください。お食事は後で届けさせますから」
「いや、食事は自分たちでなんとかするからいいよ。大変だろうけど、助けが必要だったら言ってくださいね」
「ふふふ、ありがとうアウル。ではまた明日」
ふぅ〜。ひとまずこれで今日は終わりか。今日はなんとかなったけど、思ったよりもリリーの護衛は大変かもしれないな…。
とりあえず、寝るとしよう。…寝ていいんだよな?
夜寝ていると、部屋をガチャガチャする音で目が覚めた。きっとヨミが本当に夜這いにでもきたのだろう。
でも、鍵を突破してくるほどヨミは非常識じゃないはずだ。だから、ガチャガチャやって俺の気を引こうとする程度だろう。また明日何か言われるのだろうけどね。
カチャン
ほら、今『カチャン』って開いた音が………音が……いま開いた音しなかった?!
ガチャリ
えっ、今鍵閉めた音したよね?!ヨミさんちょっと大胆すぎやしません?!というか、どこで鍵を入手してきたんだ?
「寝ているみたいね。こっちとしても、好都合。私の物にしてみせるって宣言してあるし、問題はない。あとは、この首輪を嵌めれば、アウルは私の物」
ちょっと待て。こいつ、ヨミじゃない。カミーユだ。このまま寝たフリなんかしてたら、この人の男にされちゃう!
「いや、起きてますから!」
「むぅ…?寝たフリなんかして、まさか私がくるのを待ってた?」
なんてポジティブなメンヘラだよ。メンヘラ属性は近くにいなかったから、いまいち実感がなかったけど、コレは相当やばいぞ!
しかも、仮にも皇女だから下手に怪我なんかさせられないし、だいぶヤバいんじゃないこれ?
「大丈夫、痛いのは最初だけであとは気持ちいいだけだから」
いやいや、なんの話っ?!気になるけどもっ!
「その話はお断りしたはずですけど」
「私は諦めないと言ったはずだけど?」
くっ…!まるで話が通じない。一体どうしろってんだ。仕方ない、俺がヤバいやつだと認識させるほかないだろう。
だってあの人の目、今にも襲いかかって来そうで怖いんだもん!ここは、ドSキャラを演じてやる。
「仕方ない…。俺は誰かの犬になるような趣味はないんです。どちらかと言うと、綺麗で美人な人を犬にする方が好きなんですよ」
わー!我ながら言ってて鳥肌が立つほど気持ち悪い!
「わ…私が、犬に?………それは考えたことが無かった」
よしよし!予定通り引いているな!この調子でいけば上手くいきそうだ!
「今まで人を服従させることしかしてこなかったカミュ様は味わったこともないでしょうね。ほら、こんな感じですよ」
威圧!魔力重圧!
我ながら気持ち悪い事ばかり言っているが、俺に幻滅してもらうためだから仕方ない。
それに、弱めに発動したとは言え、このコンボをくらってただで済むとは思えない。
案の定、耐えられずに膝をついているな
「な、なにこれぇ!!すごい!すごいよぉ!!」
あっ、待てよ?…俺もしかしてミスったんじゃないか?コイツは、机の角で自分を慰めるような変態だ。
そんな奴にこんな刺激を与えてしまったら…。
「こんなのはじめてぇええええ!私、アウルの犬になるぅううううう!」
…あっちゃ〜。やっちゃった。
「いや、やっぱり犬など要りません。とっととお部屋にお帰りください!」
「あぁ!そんな冷たいところもいい!」
・・・変態の変なスイッチを盛大に押してしまった気がする。皇族の長女がただの変態に成り下がってしまったじゃないか。
もしかして、アリスはカミーユの性癖知ってて、近づけさせないためにあんなことを言ったのか…?
だとしたら、俺は全力でフラグを回収してしまったことになる。
「こんな気持ち初めて…。人を支配する感覚も好きだったけど、こうやって誰かに支配されるのも悪くないかも…」
ほら、むしろ余分にフラグ回収しちゃってるじゃん。どうしろってんだよこんな変態。
なんか、ランドルフ辺境伯に近い何かを感じるぞ。
ここは、ミュール夫人に変態のいなし方を聞いておけばよかった。
「とりあえず、早く部屋へ帰ってください」
「うん。今日のところは戻る。この気持ちを日記に書き留めておきたいから。…また明日」
日記を書いているのか。なんというか女の子らしい一面もあるんだな。
変態だけど。
「厄日だ・・・寝よう・・・」
次の日、朝起きて身支度をしているとヨミとルナが部屋に入ってきた。
心なしかルナの顔が赤く、ヨミの顔がいつもより笑顔に見える。
というか完全に怒っているときの笑顔に見えるのは俺だけなのか?
「アウル様、昨夜はお楽しみでしたね?」
ああぁぁ!聞こえてたってことか?!どこまで聞こえていたのか知らないが、様子を見ながら話さないと墓穴を掘ってしまいそうだ。
「えっと、カミーユ様のこと、だよね・・・?」
「もちろんです。・・・犬を飼われ始めたのですか?」
こ、言葉の切れ味が凄い。一言一言、鋭利な日本刀で斬ってくるような威力と鋭さだ。
「いや、それは誤解だよヨミ!!」
「どう誤解なのでしょうか?」
必死に昨日の流れについて弁明し、なんとかヨミの理解を得ることが出来た。
「そういうことだったのですね・・・。けど、気を付けてくださいね。あの女、相当ヤバい類の人種だと思われます」
「あぁ、俺も昨日実感したよ」
俺とヨミがカミーユのやばさについて話しているころ、顔を赤くしていたルナが口を開いた。
「ご、ご主人様!今日も素敵だワン!」
「「・・・・・」」
いま、語尾にワンってついてなかったか?それにトマトのように顔を真っ赤にして照れているルナは、いつも以上に可愛い。
じゃなくて!
「私はご主人様のためなら、犬になるワン!」
「・・・いろいろ聞きたいことはあるけど、どうしてそう思い至ったのか聞いてもいいかな?」
「昨夜、ご主人様の声が聞こえてきて、たまたま聞き取れたんです。『人を犬にする方が好きなんです』って・・・」
一番聞かれたくないとこをピンポイントで聞かれている?!
「いや、だからそれは誤解で・・・」
「で、では猫のほうが好きだったのですかにゃ・・・?」
…かはっ。
ルナさんのその健気な上目遣い、まじハンパねぇっす。
『恩恵:真面目』
これは恐ろしい恩恵だぞ?!
「・・・アウル様?誤解ではなかったということですかにゃ?」
ヨミまで乗ってくるだと!?
表現するなら、ルナは純粋で甘え上手な子猫。
対してヨミは色気たっぷりの女豹だろう。
「…嫌いじゃないです。はい」
むしろ好きとだけ言っておこう。これは早急に猫耳と犬耳の魔道具を作るほかあるまい。
このあと猫をめちゃくちゃ愛でた。
今後もゆっくりと更新します。評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
ちなみに作者は犬派です。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。




