ep.86 食卓上の心理戦②
皇帝の言っていてたことを考慮しつつ、それぞれの証言を基に考えると、だれか一人が完全に嘘をついているということになる。
まず基本的に証言者たちの言っていることを正しいものとして整理していこう。
思うとか推測が多いけど、確実な答えを知っているなら言えばいいだけだしね。
まず、嘘吐きが一人だとして、②もしくは④が嘘吐きだとした場合には矛盾が発生する。
ということは、②と④は嘘吐きではない。それにより自動的に嘘吐きは①か③のどちらかということになってしまう。
⑤と⑦と⑧の証言は、一見して意味がありそうだけど、実はたいした情報が含まれていない。
仮に嘘吐きが①だとすると、③と⑥が矛盾してしまうから、自動的に犯人は③のイルワマターとなってしまう。
ちょっと人数が多くてややこしいけど、簡単なクイズと一緒だな。この手の問題は前世でも解いたことがあったし、お手の物だ。
「アウル君、みんなの証言を聞いたのは君だけだけど、誰が嘘をついているか分かったかい?」
「はい、たぶん大丈夫だと思います」
ジーニウスも俺を気にかけてくれていたのか、みんなのところへと行くのに付き添ってくれた。
「みんな!アウル君が一人の嘘つきを決めたらしいよ!」
そもそも今思うとイルワマターの発言はおかしかった気がする。
嘘つきを特定できなければ俺とリリーを追放するって言っていたけど、そんなのなんの解決にもなっていない。
自分が犯人でなければ、自分も殺されると考えてもおかしくない。
「では発表します。皇帝陛下並びに第一夫人に毒を盛ったのは・・・」
ゾクッ!!
「っ!!!」
名前を言おうとしたとき、首筋がチリチリするような悪寒が全身を駆け巡った。
まるで、本能が全力で俺に訴えかけてくるような、そんな感覚だ。
まて、そもそも本当にイルワマターが犯人なのか?確かに、昨夜の話を聞く限りでもリリーを殺そうとしていたのは間違いない。
それを阻止するためにジーニウスが使用人を買収しなおしているから、毒など盛られるはずがない。
アリスティアに関しては、イルワマターの作戦を流用しようとしていたはずだから、積極的な作戦と言うわけでもないはずだ。
なにかが頭の中でひっかかっている。・・・大事な何かを見落としているような、そんな違和感が頭を離れない。
「アウル君?嘘つきは誰だい?」
「おい!早くしろよ!毒を盛った犯人は誰なんだ!」
・・・毒を盛った犯人?
そういえばあの人、あのときなんであんなことが言えたんだろう・・・。
「イルワマター様、恥を忍んでもう一度お伺いしますが、あなたがアリスティア様を犯人だと思った理由はなぜでしょうか?」
「なっ!?私を疑っていたのですか?!」
「・・・ちっ。この際だから言っておこう。俺を篭絡しようと近づいてきた女は、逆に俺が篭絡させてもらった。メルミルには悪いとは思ったがな。生憎、俺はほかの兄妹たちほど賢くない。ただし、女の嘘に気づけないほど鈍感じゃない。・・・まぁ、家族の気持ちは分からんがな」
ちょっと意外だけど。ただの馬鹿ではなかったようだ。
「それに、俺から情報を抜こうとしていた女から、アリスティアの作戦を聞いたときは流石にヒヤッとしたぜ。まさか、この晩餐会で兄妹全員を失脚、追放しようとしていたんだからな。そんなわけで、一応俺もそれに対する準備はしてたんだが、無駄になったな」
全てを見破られていたアリスティアは、悔しそうに唇をかみながら服の裾を握りしめている。
馬鹿だと思っていたイルワマターに見抜かれていたのが、相当悔しいのだろう。
「では、改めて聞きますがなぜアリスティア様が犯人だと思ったのですか?」
「俺はてっきり、作戦がバレたのを察して、急遽作戦を変更して親父たちを殺してそれを俺らに押し付けようとしたんだと思ったんだよ」
やっぱり・・・。
「最後にもう一つ、なぜ一回だけの質問に制限し、間違えた場合に私たちが追放と言うことにしたのですか?」
「そんなのアリスティアが犯人なんだから気を付ければいいだけだし、上皇に気に入られているリリネッタは元々邪魔だったからな。俺としてはどっちでもよかったんだ」
この人は、本当に単純で分かりやすい人だ。
・・・そして、操りやすい人でもあるのだろう。
「今ので完全に犯人が分かりましたよ」
「「「!!」」」
「いったい誰なんだよ。いい加減教えてくれよ!」
イルワマターはもう我慢が出来ないようだな。
「犯人はジーニー様、いえ、ミゼラル・フォン・ジーニウス、あなただったんですね」
「「「ええっ?!?!」」」
「・・・ちなみに、どうしてか聞いてもいいかな?」
焦ったり驚いたりはしないんだな。予想より理性的な反応だ。
「えぇ、とは言っても私も危うく間違った方向へ誘導されるところでした。『嘘つきは一人』と考えたときに、皆様の証言を考慮するとそれに当てはまるのがイルワマター様しかいなかったからです。・・・それに、嘘をついたからと言って、犯人とは限りません。なのに、あなたは犯人なら確実に嘘をつくといった」
俺もこれのせいで流されるところだった。嘘つき=犯人だと思い込んでしまったんだから。
「今回のこの事件がややこしくしくなったのは『嘘つきが1人』という前提条件のせいでもあります。本当は結果的に嘘つきは2人いたんですから。ただし、イルワマター様は自分の言っていることが嘘だと思っていないので、皇帝の恩恵にも反応しなかった。だって心の底から犯人をアリスティア様だと思い込んでいたのですから」
結果を見れば嘘つきは2人いたのだが、そこに心理的な錯覚と恩恵による追い打ちがあったせいで、事実上の嘘つきは一人にしか見えなくなってしまったというわけだ。
「・・・イルワマター様がそう思い込むように仕向けたんですよね?ジーニウス様」
「・・・・」
これでもまだ認めないか。存外厄介だな。
「ではもう一つ、あなたが犯した決定的なミスをお教えしましょう」
俺もついさっきになって気づけたことだ。
「皇帝陛下たちが倒れる前も後も、誰も毒についてなど喋っていなかったですよね?」
「・・・そうだな」
まぁ、俺とジーニウスは言葉の裏に意味を込めて喋ったとはいえ、直接喋ったわけではない。
「皇帝陛下たちが倒れた後、あなたはなぜすぐに毒によるものだと判断できたんですか?・・・イルワマター様たちの作戦はあらかじめ潰していたんですよね?」
「・・それは、銀食器が変色したからだ」
これで最後だ。実の親に手をかけたんだから、それなりの報いを受けてもらいたい所だ。
人としても尊敬していたし、出会い方が違えばもっと別の結果が待っていたのかもしれないだけに、非常に悲しい気持ちだ。
仲のいい親友になれたかもしれない人だったのに。
「ジーニウス様は、銀食器をワインに浸ける前に『毒を盛られていた』と言ったんです。毒ではない可能性もあったのにも関わらずそんなことが言えるのは、それはもう犯人以外に知りえないことなんですよ・・・」
あの時点ではまだワインによる毒なのか、はたまた魔法によるなにかか、それこそ邪神教の呪いの可能性すらあった。
銀食器を浸けた後に『毒が盛られていた』と言ったならば、俺も分からなかったのに。
本当に些細なミスだけど、それが決定的な証拠になったというわけだ。
「・・・はぁ~。降参だ。アウル君の言うとおり、全て俺の計画だ」
認めてくれて助かった。これでもシラをきられたら俺もなすすべがなかったから、ギリギリだったな。
「アウル君を少し頭の切れる子供だと思い込んだ俺の負けと言うわけか・・・」
「なぜこんなことを?」
「なぜだと?・・・平民であるアウル君には分からないだろうね。長男にも関わらず、三女に皇帝の座を奪われるかもしれないという屈辱が!・・・良くも悪くも上皇様の影響力は絶大だ。皇帝である俺の父よりも、権力を持っていると言ってもいいだろう」
結局はそういうことか。
「そんな上皇に気に入られているリリネッタが皇帝になるのは揺るぎない事実だろう。リリネッタは頭もよく、行動力もある。さらに民からの信頼も厚いんだ。このまま父が退位してしまったらまず間違いなくリリネッタが皇帝になってしまうだろうが、抜け穴はあった」
「・・・それが、皇帝が突然死んだ場合、というわけですね。さらにリリーがいなくなれば好都合だった。だからイルワマター様の発言をあえて止めずに採用したのですね。皇女を犯人として追放すれば完璧だから」
「・・・そういうことだ。そうすれば長男の俺が必然的に皇帝になれる。これには上皇も口出しできない習わしだからな。俺はただ、どうしても皇帝になりたかっただけなんだ」
皇帝になりたかった長男と、上皇が大好きな三女のすれ違い、ってわけか。
でもな・・・
「だとしても、あなたは自分の力で皇帝になろうとせずに逃げただけだ」
「俺は逃げてなどいない!野望のために手段を択ばなかったに過ぎない!」
聞こえはいいかもしれないが、どんなに言い繕ってもそれは逃げたことにほかならない。
「自分の親を殺してでも、皇帝になろうとしたその執念だけは認めます。でも、そんなの自分の力で皇帝になれないことから逃げているだけです。・・・皇帝と第一夫人は一命を取り留めていますし、ここからは自分で考えてください」
「・・・・うっうっうう・・ぐすっ・・・」
反省して泣けるうちはまだ戻れるだろう。
兄妹たちはどうしていいかわからずオロオロしているが、長男のやったことを責めるようなことはしていない。
未だに呆けているのか、何か思うところがあるのか、俺には分からない。
なんにしろあとは家族の問題だろう。長男に何かしらの罰を与えるのは俺ではなく、当事者たちであるべきだ。
皇族内でこんなことがあったと知れ渡るのはあまりいいことでないから、皇帝が起きてから決めるだろう。
もうすでにジーニウスの心は折れているみたいだしね。
「ひとまずこれで一件落着か」
・・・まさかとは思うけど、念のためだ。
『セイクリッドヒール』
リリーの兄妹と両親たちに向けて、聖魔法をかけておいた。
ないとは思うけど、邪神教によって呪いがかけられていないかの確認だ。
「えっ!?」
聖魔法をかけたとたんに、黒いモヤのようなものが兄妹たちの体からうっすらと滲み出て消えた。
・・・どうやらこれで一件落着ではないみたいだ。
「ご主人様、今のはもしかして」
「今のは呪いでしょうか?」
「・・・2人もそう思ったってことは、俺の勘違いじゃないみたいだね」
この件に邪神教が絡んでいるとなると、やはり怪しいのは第三夫人か?
いや、呪いというだけで邪神教と決めつけるのは早計か。
「なんにしろ、今は皇帝陛下達を回復させるのが先決だね。体力も落ちているだろうから、食堂でお腹に優しいご飯を作ってもらってきて」
「任せてください!」
「すぐに行ってきますね」
とりあえず俺は回復魔法をかけておくとしよう。
「あれ?第三夫人は?」
「体調が優れないと言って、部屋に戻りました。・・・アウル、私の両親を助けてくれたんでしょ?本当にありがとう。このお礼は絶対するからね」
まぁ、こんなことがあったんだもんな。精神的に疲れたのだろうか。
「いや、俺は俺のできることをしただけだよ」
それに、チョコレートのためだからね。
「ふふっ、ありがとうアウル!今日はいろいろあったけどとても助かったわ。ここは私に任せて先に休んでて。両親の顔色もだいぶ良くなったみたいだし」
この部屋にいた者以外、皇帝たちが毒で倒れたとは知らない。
あとは皇帝たちがどう判断するかだけだろうな。
「じゃあ、ルナとヨミが戻ってきたら俺も部屋に戻るとするよ」
2人のことだから、きっとすぐに戻ってくるだろうしね。
「うん、また明日部屋にいくからその時に今後のことを話しましょう」
そう言い残すとリリーは俺のもとを離れていった。
2人が戻ってくるまで待っていると、意外な人物が俺に近寄ってきた。
「両親を助けてくれてありがとう」
「カミーユ様、私はできることをしただけでございます」
「むぅ、そんな堅苦しい言葉はいらない。それにカミュでいい」
・・・?なんだか聞いていたよりもおとなしそうで普通な人だな。
アリスは酷い言いようだったけど、所詮は噂ってことか?
「ではカミュ様と」
「うん、それでいい。・・・それで急だけど、私の物にならない?」
長女から投げかけられた言葉は、俺の予想斜め上を行く結果だった。
今後もひっそりと更新します。評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
前話の回収話でした。納得いただけたでしょうか・・・?
情報の後出しは申し訳ないですが、満足のいく話が書けました。(変なところがあったら教えてください!)
次話からはまた普通に更新していきます。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。




