ep.84 世間は意外と狭い
上皇へ挨拶をした結果、100歳目前の老人とは思えない程の罵声を浴びさせられたのが、俺と上皇のファーストコンタクトとなった。
にしても、『お前の血は何色だぁぁぁあ!』って言われるほど恨まれるってのも凄いな?!
初対面とは思えないぞ。上皇が皇女の婚約者を見たいって言うから、連れてこられたと言うのに。
年寄りってのは考える事がわからんな。
「お祖父様!叫んではお体に障ります。少し落ち着いてください」
「う、うむ。そうだな。ワシとしたことがついカッとなってしまった」
「落ち着いたところで、まずは自己紹介をきちんとしてくださいね」
「おほん!遅くなったが、ワシがリリーの大好きなお祖父様のミゼラル・フォン・リュートだ」
リュート…龍斗?いや、まさかな。黒目だからってだけでこれは深読みが過ぎるか。
というか、『リリーの大好きな』って自分で言うか?そんなところでマウント取ってこなくても、俺は気にしないと言うのに。
「ふふふ、お祖父様ったらもう。自己紹介が済みましたね!ちなみにこのお2人がルナ様とヨミ様です。2人はアウル様の『従者』だそうです」
ピキッ
ん…?いま、空間が凍るというか時間が止まるような音しなかったか?
2人は笑顔だし皇女も笑顔だ。考え過ぎだったかな?
「うふふ、そうですね。私達はアウル様のおはようからおやすみまでを共にする従者ですから」
おぃいいいい!何言ってんのこの子!上皇にいろいろバレちゃうでしょうが!
ほら、上皇だって……。え、なにその微笑むような憐むような顔は。
「アウルと言ったか…。最初突っ掛かってしまって悪かった。お主も苦労しているのだな…」
なんか、急に上皇に憐みの目で見られたんだけど。何事なのでしょうか。誰が解説頼む!!
「まぁ、とにかく!遠いところよく帰ってきた。リリーが無事で安心した。邪神教の奴らが学院を襲ったと聞いて、危うく命をかけてでも助けに行くところだったわ」
強引に持ってったな。けどファインプレーだ爺さん。もう親しみを込めて心の中では爺さんと呼ばせてもらうぞ。
「心配には及びません。王国の騎士団の方達も戦ってくれましたし、アウル様が強敵を倒してくださいましたから!」
「ほう…リリー、もう少し詳しく聞かせてくれるかい?」
止めようと思ったが、その時には既に遅かった。皇女によって俺が青龍帝と戦ったことや邪神教を一気になぎ倒したことを話されてしまった。
一応、イナギについては秘匿できているようで少しだけ安心したが、それでも青龍帝と喧嘩したなど冗談としてもタチが悪い。
「ワシ以外にも龍と喧嘩出来る奴がいたとは!世の中は広いのう。しかも、その歳でとなるとリリーも男を見る目はあるようで安心したわい」
ん…?ワシ以外にもいるなんてって言ったのか。
それが本当なら、伊達に炎帝なんて呼ばれてないってわけね。…とんでもねえ爺さんだな。
「ふふふ、ありがとうございますお祖父様。とりあえず挨拶は済みましたし、一旦私たちは下がらせてもらいますね!」
「そうだな。ゆっくり休むといい。おっと、アウル君はちょっと残ってもらっていいかな?リリーのことで少し話しておきたいことがあるんだが」
「?、わかりました」
皇女のことで話したい事ってなんだろう。兄姉のこととかかな?次期皇帝に誰がなるかのことなら詳しく聞いておきたいところだけど。
上皇に促されて俺以外はみんな部屋から出て行ってしまった。
「残ってもらってすまない。本当は少し聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと、ですか?」
聞きたい事ってことは、皇女についてってわけではないのか。しかし一体なにをそんなに畏まって聞こうというのだ?
『君は神を信じるかね?』
何を言っているんだ?そんな宗教勧誘みたいな質問久しぶりに聞いたな。信じるも何も、この世界は創造神様がつくったんだから信じるに決まっている。
「もちろん、信じていますが?」
俺に第二の人生をくれた恩神だし、かなり体や才能についても融通してくれたからな。
「・・・そうか。今の言葉が、理解できるのだな?」
・・・・・・ちょっと待て。言われるまで気づかなかったけど、今この爺さん『日本語』で喋らなかったか?!
「えぇぇっ?!」
「意味に気づいたようだな。・・・そうかそうか、リリーが見つけてきた男は転生者であったか。これで少し安心できそうだの。これならあやつに殺されることもないだろう・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「もう遅いわい。お主も日本から転生したのであろう?日本語で聞いたにも関わらず、すぐさま答えたのは転生者の証だ」
ぐぅっ・・・。かれこれ11年近く聞いていなかったというのに、特に違和感なく答えてしまった。これはある意味、弊害とも言えるかも知れないな。
しかし、あやつに殺されるってのは一体。残酷だという兄姉のことだよな?
「・・・はぁ、その通りです。私は日本からの転生者です。ですが、お主『も』ってことはまさか?」
「龍と喧嘩できる人間なんて、チートを貰った転生者か、この世界の勇者くらいしか考えられんからの。想像通り、ワシも転生者だ」
「・・・勇者?勇者がこの世界にいるのですか?」
なんだかあまり聞きたくなかった情報ではあるな。勇者がいればそれに対応する宿敵がいそうな気がする。これが邪神だというならなんとなく分かるけど、邪神の欠片は俺もイナギのために集めたいからなぁ。
勇者と喧嘩とか、それもはや人の域を脱しているよな・・・。いや、龍と喧嘩ってだけでも十分か。
にしてもやっぱこの爺さんも転生者だったか。黒目はこっちの世界では珍しいし、まさかとは思ったけど本当に転生者だとは。
「いや、今のこの世界に勇者はおらん。しかし、そう遠くない将来に確実に現れるだろう」
正直、気になる所ではある。あるけど、最近の俺は首を突っ込みすぎる気があるからな…。だらだらしたい筈なのに、気づけば面倒ごとに巻き込まれている。
・・・よし、今回は聞かなかったことにしよう。
「まぁ、俺には関係ないことです。改めて自己紹介しますがアウルです。前世は北海道出身で、東京で働いていました。前世の名前は…まぁ、いいでしょう」
「奇遇だの!ワシも北海道出身だ。ちなみに北海道のどの辺なのだ?」
「生まれは函館ですが、そのあとは北見や釧路と色々なところを転々とした感じですね」
「おおお!さらに奇遇だの!ワシも函館だ!」
おいおいおい、もしかしたらかなり近い人だった可能性があるのか?なんというか、この世界というか元の世界含めて世間は狭いんだな。
結局、地元トークというか地球についての話題で盛り上がってしまい、気づけば3時間が経過していた。
「おお!これはみたらし団子じゃないか!懐かしいの~!!」
「いやいや!爺さんの作るこの煎餅もなかなかだぞ!」
3時間も腹を割って喋れば仲良くもなるというものだ。最初はどうなるかと思ったけど、斜め上を行く結果になったな。それにしても、小麦粉で作れる煎餅があるとは知らなかった。
「お前さんなら、安心してリリーを任して逝けるわい・・・」
「・・・もう長くないのか?」
「この世界に渡る際に、丈夫な体をもらったおかげでこの年まで生き延びておるが、さすがに年には勝てん。もう体中ボロボロだわい。まぁ、若い頃に無茶をしすぎたというのもあるがな!」
「そういうもんなのか・・・気休め程度にしかならないだろうけど、回復魔法をかけておくよ」
『パーフェクトヒール×3!』
「おお・・・!かなり体が軽くなったわい!これであと2ヶ月は生き延びられそうだ。感謝するぞアウル。おっと、時間が経ち過ぎているようだな。みんなの元へと戻るといい。また今日の続きを話そうぞ」
「あぁ、そうさせてもらうよ。今日は楽しかったよ爺さん!また今度話そうな!そんときにはまた回復魔法かけてやるから、せいぜい長生きするんだぞ!」
そう言って爺さんと別れた。回復魔法は念入りにかけたけど、体力を回復することは出来ても老いは治せない。・・・時間は誰にでも平等に訪れる、か。
あ、そう言えばさっき気配察知したの爺さんなのか聞くの忘れてたな。まぁ、焦らなくても今度会ったとき聞けば良いか。ついついレジストしちゃったから焦っただろうなぁ。
みんなの気配を探したら、思ったより近いところに部屋があるようで、歩いて5分もしなかった。もしかしたら皇女が気を利かせて近いところで待ってくれているのかな?
「みんなお待たせ~」
「ご主人様!何もありませんでしたか!?」
「うふふ、落ち着きなさいルナ。アウル様に限って問題なんてあるはずないもの」
ヨミの俺への信頼がもの凄いことになっている件について・・・。ここまで信頼されるのは嬉しいけど、ちょっとプレッシャーがあるな。ヨミの中で俺はどんな立ち位置なのか聞いてみたい所だ。
「問題なかったようで安心しました。お祖父様は言い出したら聞かない節がありますので・・・。でもひとまずこれで第一関門は突破ですね」
確かに。・・・・第一関門ってことはやっぱり次があるって事ですよね?
「第二関門はなんなのですか?」
俺の疑問をルナが代わりに聞いてくれたらしい。本当にルナは俺の考えていることをよく分かっているな。・・・ルナだけに。
「第二関門は明日の晩餐会、ですね。私の両親と兄姉が一斉に集まるのです。そこには兄姉の婚約者や義母も集まります。ある意味ではお祖父様より厄介な人たちかも知れません・・・」
いや、いずれそういう事になるとは思っていたけど、まさか明日とは・・・。心の準備が全く出来ていないというのになぁ・・・。
「明日ですか・・・。まぁ、泣き言を言っても仕方ないですし、なんとかしますよ」
それに、何か仕掛けるならそこが絶好のチャンスだろう。…毒を盛ってそれを誰かに押し付ける、とかね。
「申し訳ありません・・・。ですが、それさえ終わってしまえば大きなイベントは終わりですから!」
他の人がどうなろうと、正直俺には関係ないけどこの皇女様に死なれるわけにはいかない。
「あ、忘れていました!これを肌身離さずつけていてください!」
「・・・これは?」
「それは『耐毒のペンダント』です。それをつけている限り、毒で死ぬことはないでしょう」
「そ、そんな希少なものを私なんかに?!」
と言っても、ルナやヨミに渡した指輪や腕輪の方が希少なんだけどな。今回のはあまり付与はしてないし。
「いえ、気にしないでください。皇女殿下のためですから」
「…そ、そう言うのであればありがたく。これで毒には耐性ができるのですね。…つ、着けて頂いてもよろしいですか?」
おっと気が利かなかったな。…でも、俺なんかが皇女にペンダントを付けてもいいのか?
うわ、皇女の首って白くて細いんだな。こうして女性の首筋をまじまじと見たことなんて無かったけど、すごく綺麗だ。
「ご主人様…?」
!…危ない危ない。危うくトリップする所だった。
「その通りです。それが皇女殿下を守ってくれますので、絶対に外さないでくださいね」
「・・・は、はい!」
えっと、毒無効のペンダントを渡しただけなんだけど、なんでそんなに潤んだ視線を送ってくるんでしょうか?というか、ルナとヨミは何故俺の脇腹をつねっているのかな?
「ご主人様、そう言えば最近首元が寂しいです」
「ふふ、そうね。魔結晶のついたネックレスなんかがいいかもしれません」
・・・そうだね。2人は婚約者だし、先に渡すべきだでした!謝るからつねるのやめてっ!!微妙に痛い!
「今度作ったらミレイちゃん含めて3人にプレゼントするね!」
「はいっ!待ってますね!」
「ふふ、楽しみにしております」
2人のこんな笑顔が見られるなら、早めに作ってあげるんだったな。俺はまだまだ女心がわかってないな。
「オホン!・・・まだ私がいるというのに、堂々とイチャつかないでくださいね?」
と言いながら俺の腕に絡みつくように抱きついてくる皇女は、なかなかの猛者だと思います。特に胸をさりげなく、というかがっつり当ててくる辺り、本当にテクニックが凄いです。…嫌いじゃないです。はい。
ピキッ
あれっ?!
また空間干渉か?!今絶対に時間止まったよね?!
「さ、3人とも・・・?」
「ご主人様はそこで座ってお茶でも飲んでいてください」
「うふふふふふ」
「すぐに済みますので」
3人とも背後に討伐ランクSの魔物が見えるよ?!
「じゃ、じゃあみんなの分もお茶入れておくね」
このあとめちゃくちゃお茶飲んだ。
今後もひっそりと更新します。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。




