ep.8 石鹸
さて、金も手に入ったしどうしようかな。風呂も作ったし、あとは『石鹸』か。
「ということで、今日は石鹸作ろうと思うんだが。材料が何にもないな。そうだ、クイン。椿って花知らないか?種から油が取れる花なんだが」
ふるふる!!
「お、知ってるのか!よかった〜。獣の油はどうしても臭くなっちゃうからな〜」
クインが案内してくれた場所には椿がたっぷり生えていたので、畑の近くにも植えていつでも採れるようにすれば石鹸に困ることはないかな。
1リットルの油を作るには2〜3kgくらいの種が必要と言われているのでかなりの量が必要となる。クインにも手伝ってもらいながらコツコツと集めていく。
時間にして2時間くらいだろうか。とりあえず椿油を2リットルくらい作れるくらいには種を採ることができたが、こんなことをしていては椿なんてすぐになくなってしまうな・・・。これは早急的に植えて増産しなければ。
とりあえず油の確保はこれで問題ないだろう。次はどうにかして強アルカリを用意しないとなぁ。
石鹸作りでは強アルカリの水酸化カリウムを作る必要がある。水酸化カリウムは水酸化カルシウムと炭酸カリウムを混ぜることで作り出すことができる。炭酸カリウムは灰を使って作ることができるし、適当な雑草を集めて燃やして灰を作って、水の中に入れて攪拌させると10分程度で沈殿した灰と上澄みに分かれる。
あとは上澄みの部分だけ取り出すと炭酸カリウムを抽出できるはずだ。・・・記憶が正しければだが。
お次は水酸化カルシウムだな。確か水酸化カルシウムは生石灰に水を加えて作るんだったな。レブラントさんに前頼んで生石灰は買ってあるので大丈夫だ。
あとは強アルカリに油を混ぜれば石鹸の完成だ。椿油を中心に作った石鹸のため匂いがとてもよく地球のとまではいかないが、こっちで買う石鹸なんかとは比べるべくもなく品質がいいだろう。
「ふぅ、あとは固めれば完成だ。そうだ、どうせなら形も凝ってみようかな」
どうせならと木を加工して花の形や宝石の形、よくある石鹸の形などにしてみたが・・・なかなかいい感じかもしれない。
その日の夜、実際に使ってみたがなかなかよかったのでこれも売ろうと思えばそれなりの値段で売れるだろう。そうやって1人で椿石鹸を使って風呂でだらだらとしていたら、案の定母に見つかったので石鹸を薦めてみた。
「あら、これはいつもの石鹸とは違うのね。これどうしたの?」
「いつもの石鹸は汚れの落ちが微妙だったから、どうせならと思って作ってみたの」
「そうなの?確かに泡立ちもいいし獣臭くもないわね。花のいい匂いがするわ!偉いわよアウル!」
風呂上がりの母はいつもより綺麗でさらに花の匂いを纏わせているせいか、息子の俺でも驚くくらい艶と色気があったと思う。
次の日、さらにツヤツヤした母とげっそりしている父が印象的だったが何があったんだろうか。
こんな充実した日々を過ごしているうちに雪がちらほらと降り始める季節になっていた。
「アウル君、いつもすまないね。君の作るクッキーと石鹸はかなりの人気でね。王都で売るとあっという間に売れてしまうんだよ」
事実、アウルの作るクッキーや石鹸は王都で密かに流行り始めており、ちらほらと貴族や豪商たちが調べ始めていた。それでも未だにバレていないのは、ひとえにレブラントが色々なところで行商を行い候補地を分散していること、さらに護衛を信頼している者に厳選しているというのもあって未だに隠し通せていた。
誤算なのは、思ったよりも貴族や豪商の動き始めが早かったことだ。それでもアウルに迷惑をかけたくなくてあれこれと手を回していた。
「じゃあ、アウル君。今回もありがとう、これが今回の代金だよ」
いつも通りずっしりとした皮袋を受け取った。もはや中身は見ていないが、もう金貨だけで2000枚くらいあるだろうか。まぁ、全部両親には内緒なのだが。レブラントさんにはかなり稼がせてもらった。
「・・・レブラントさん、大丈夫ですか?」
「え?あぁ、大丈夫だよ。どうかしたかい?」
「いえ、そろそろこの商品の出所や作り方などについて貴族や他の商人が知りたがっている頃かなぁと思いまして」
「え!?」
(やはりな・・・)
「レブラントさん、少しの間売るのは止めようと思います。どっちにしろこれから冬ですし、その間になんか新しい何かを考えておきますよ!」
「・・・ははは、アウル君には本当に敵わないな。君、本当に6歳かい?」
「見たまんまですよレブラントさん。来年の春を楽しみにしていてください。きっとあっと驚く何かを用意しておきますよ」
そういうとヒラヒラと手を振りながらレブラントさんは王都へと帰っていった。俺も色々頑張らないとな。
とはいっても春まではまだまだあるし、ざっと見積もっても4ヶ月はある。それに今後は貴族関係の奴らや利益に目が眩んだ豪商のアホどもがここに押しかけて来る可能性もあるな。
不当な権力に屈しないためにももっと力がいるな。何物も寄せ付けないくらい!!
・・・・ってめんどいな。こんなに熱い展開は俺らしくないじゃないか。でもまぁ、適当にあしらえるくらいには強くならないとなぁ。
冬になれば冬眠する魔物も出て来るし、冬眠している魔物を狩りまくってればレベルも上がるだろう。なんなら冬の山は魔物も行動が鈍いだろうから行ってみるのもありかもしれない。
なんにしろ、やることはたくさんだ。
冬の農家は本当にやることがない。強いて言うなら除雪作業などだ。お年寄りの家に行って除雪してあげたり、街道の除雪などを延々とやるのだ。
さすがに6歳の俺に雪かきはやらせないのか父が雪かきに行っている。母は家の中で草のサンダルや籠を作っているので俺は本当にやることがない。
ということで、外で雪遊びと称して森の中や山の麓にお出かけ中だ。母にバレたら怒られるだろうが、そんなことも言っていられない。肉が干し肉しかないし、ミレイちゃん家が肉がなくて困っているって話を母がしていたので、分けてあげれたらなと思う。
そういえば、クインはジェノサイドビーとかいうかなり危ない魔物らしいが、なんでこんな村に近い所に巣を作ってたんだろう。
気配察知で森の中を探すがやはり動いている魔物はいないようだ。小動物ですら穴にこもってこの寒さを凌いでいる。
・・・お、この森にしてはそこそこの気配をしている奴が一体いるな。こいつを狩れば少しはレベルが上がりそうだ。ついでに森イノシシも狩ってかないと。
というか魔法も練習しないとなぁ。結局強力な技は超電磁砲しか開発してなかった気がするし・・・。あの技は単体の相手用の技だから、広範囲殲滅型の何かを考えないといけない気がする。
・・・めんどいな。ずっと魔力増幅の訓練は続けてるから魔力はたらふくあるし。擬似隕石でも降らせればいいかな・・・?さすがに危険すぎるか。
っと、ついたな。遠くから察知したより、思ったよりやばそうな相手のようだ・・・。作ったはいいが全然使ったことのない魔法も総動員していかないと怪しいかもしれない。卑怯な手を使えば余裕だろうが、それじゃ成長にならんか・・・。
『身体強化、感覚強化、視力強化、気配遮断、遅延呪文、呪文待機、マジックシールド』
「いくぞっ」
洞窟の中には数え切れないほどの魔物の骨が散乱している。これだけでこいつが捕食する側だというのが見て取れる。
(お、あいつか・・・。って、見たことあるな。隠密熊か・・・?。それも、前回のより一回り以上はでかいな。冬眠しているとはいえ、隠密熊に変わりはない、か)
ふぅー・・・。よし。
「おいこらクマ公!かかってこいや!ウィンドカッター!!」
Guaa!?GURaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!
「っち!!やっぱりこれだけじゃダメか!それでも、前回よりは効いてるな!サンダースピア!」
サンダースピアはサンダーレイよりも大きな雷撃であり、初速も早い。が、しかしこれでも決まらんとは前回のより相当強いみたいだ。
「おいおいおい!熊のくせにそんな速く動くのかよ!」
熊とは思えないほどの速さに加え、気配を断ちながら襲ってくるため気を抜けば死角から攻められてしまう・・・。
その後も一進一退のぎりぎりの攻防を続けたが、やはり決め手にかける。強い魔法の開発は急務かもしれない。
ちっ!・・・まだ遠いか。
鉄貨を構えて、放つ。
数瞬の静寂。
・・・ドスン。
そこには一体の物言わぬ熊が倒れていた。頭が綺麗になくなった状態で。
「くそ・・・。もっと強くならないとなぁ」
悔しさをひとしきり噛み締めたあと、血抜きを済ませていると洞窟から嫌な音が聞こえてきた。
「・・・え?うわあぁぁぁぁぁ!」
ギリギリで洞窟の崩落を免れたが、本当に間一髪だった。どうやらレールガンが強すぎたようだ。
この騒ぎで冬眠していた一部の魔物が活発化した気配を察知したので、一通り狩りまくって肉を確保した。森イノシシを6頭。ツリーディアを1頭。ホーンラビットを3匹狩ったところで帰ることになった。
この時アウルは気づいていなかった。さっき倒したのが隠密熊の進化した魔物であることを。
名を暗殺熊といい、Bランク〜Aランクの魔物なのだ。それに気づくのはまだ先の話である。
余談だが、ミレイちゃんの家にお肉を持って行ったら泣いて喜ばれた。そしてミレイちゃんにほっぺにキスされて親にいじられるという一幕があったがご愛嬌だ。
ちょっとずつ更新していきます。
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