ep.78 厄介ごとは大抵連鎖する
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。詳しくは活動報告にて随時(略
目の前にいる男性は『アルフレッド』と名乗った。いかにも執事らしい名前だと思う。
というか執事でいいんだよな?
「俺があなたを召喚したアウルです。えっとアルフレッドさんは、どこから召喚されたのでしょうか?」
「ほほほ、私のことはアルフとでもお呼び下され。主が簡単に敬語で話すものではありません。私が召喚されたのは、ですか。…ふむ、そういえば思い出せませんな。記憶の一部が欠落してしまっているようです」
記憶の欠落か。・・・召喚前に思っていたことだけど、召喚する場合、された側はどこから来るのか?
ということだ。この世界に存在していた場合、その存在の生活を滅茶苦茶にしてしまう。
魔力で魔法陣を媒介にして、無から有を生み出しているのならいいが、そうでないならかなり身勝手なものの気がする。
これについても何れ調べておかなければ。レティアも知らなそうだし、モニカ教授なら何か知っているかもしれない。
「そうか。アルフの種族は人…じゃないよね?」
「よくお分かりですね。私の種族は『魔人』です」
魔人、か。ここにきて初めて聞く種族だ。いや、もしかしたら発見されていないだけでこの世界のどこかに普通に居るのかもしれない。
「…今、魔人と言ったか?魔人、アルフレッド…まさか、本当は」
グラさんが何か驚いているような気配がする。もしかしてアルフを知っているのか?
「グラさん、もしかして彼について何か知ってるの?」
「…!? いや我の勘違いだったようだ。わはははは、すまんすまん」
なにかに驚いたような気がしたけど、アルフを見ても別段変なところはない。好々爺然とした良い笑顔をしているだけだし。・・・グラさんはほんとに残念だな。
「駄龍ですね」「ふふ、残念な駄龍さんですわね」「どこまでも駄龍」
俺は仕方ないとして、ルナ・ヨミ・ミレイちゃんのグラさんに対する当たりが急に強い。彼女たちに何があったのだろうか?
・・・レティアが凛とした表情をしているように見えるが、冷や汗をかいている。
あれか。いつの間にか女同士の結束でも固まったか?女子会は魔窟だと聞いたことがあるし。
きっと彼女たちの中でグラさんの評価は無いに等しいのだろうな…
ご愁傷様グラさん。早めに決着つけろよ。じゃないと大変なことになるぞ。
「それにしても、主様はまだお若いのにとてもお強いのですな」
「いや、俺なんかより強い人はたくさんいるよ。それより美味しそうな匂いがしてきた。とりあえずご飯にしよう!」
腹が減っては戦はできないって言うしね。
「ほほ、では私は一度戻るとしましょう」
「ご飯食べなくていいの?」
「問題ありません主様。ご用命の時はなんなりと召喚してくださいませ」
そう言い残してアルフは光の粒子となって、俺の体の中へ消えていった。
一体どうなってるんだろう。召喚魔法のスクロール、謎が多すぎるな。
ちなみにマリアーナさんが作ってくれたご飯は、ボルシチに似たような料理でめちゃくちゃ美味しかった。
そしてご飯時に知らされたが、ルナのご家族の新しく住む家が見つかったらしい。
当分の間はそこに住むとのことだ。仕事も夫婦で冒険者をやると言っている。
元王族だというのに、全然そんな素振りを見せない。こんな人たちが統治する国なら住んでみたいとさえ思った。
ただ、当分はルナやヨミと一緒に迷宮や冒険に出かけて鍛えるという。
ムーランは毎日我が家へ来て、レティアから魔法や勉強を教わるそうだ。
・・・『青龍帝に鍛えられたら、いつしか最強になっていた件』、あり得そうで怖いな。
と言っても新しい家は我が家から歩いて5分と近いので、いつでも会える距離にいる。
こんなドタバタしてる食事も悪くなかったけど、次から人が減ると思うとなんだか寂しいな。でもフランゼンさんたちにも彼らの生活があるもんね。
結局、訓練として学院が再開されるまでの間、4番迷宮で40階層までの間を周回した。
・・・俺は空を飛ぶのが嫌だったので、ずっと40階層のみを一人で周回した。そのおかげか今では水竜を秒殺できるようになった。称号があれば"水竜キラー"とか貰えそうなレベルだ。
頑張った甲斐あって、レベルはかなり上がったと思う。
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♂/アウル/11歳/Lv.175
体力:11800
魔力:46500
筋力:455
敏捷:415
精神:715
幸運:88
恩恵:器用貧乏
◇◆◇◆◇◆◇◆
だいぶインフレしてきたかな?レベルが凄いことなってるし。
でも教授が言っていた覚醒ってなんなんだろう。それも聞きたいし、早く会って話したいところだ。
※※※
迷宮に潜ったり農業したり、ロッキングチェアに座ってぼーっとしたりしていたら学院が再開する日となった。あまり考えたくはないが、今日は3年のリリネッタ第三皇女に会うことになっている。
「憂鬱だ・・・」
何が憂鬱かって?・・・第三皇女に会うことじゃない。あいつらのせいだ。
「うふふふ、皇女サマに会うのが楽しみですね」
「そうですね。ご主人様に近寄る虫・・・虫は排除しましょう」
「皇女がなんぼのものよ」
みんな張り切ってるのが余計怖い。あとルナさん。虫と言いかけたの言い直そうとして、結局言い直せてないぞ。・・・ミレイちゃんに関してはもうヤクザかな?
しかも、どこから仕入れたかは分からないがみんな学院の制服を着ている。
「ルナとヨミはその制服どこから持ってきたの・・・?」
「ご主人様には内緒です!」
「うふふ、内緒ですよアウル様」
「「「ふふふふふ」」」
リリネッタ第三皇女様!今すぐ逃げて?!
学院へいくととくに変わることなくみんながいて、少し安心した。怪我人はいたと聞いていたけど死人はでなかったらしいのでそこまで心配はしていなかったが。
「アウル久しぶり~」
「うむ、久しぶりだな。元気で安心したぞ」
「レイもマルコも元気そうで何よりだ。・・・2人は戦いに参加したのか?」
「したよ~。親に行けって言われちゃったからね~」
「俺もだ。しかし、ヨルナード殿やアウルのおかげで少しは強くなれたと実感した。…なんとか死なずに済んだからな」
レイはかなりギリギリだったようだ。…でも本当に死ななくて良かった。これで、友達が死んだとあっては悔やんでも悔やみ切れないからな。
学院再開の初日とあって、今日は諸連絡だけで授業は明日からだった。
そして初耳だが、今年の年末休みは例年より1ヶ月長くなるらしい。なんでも、今後、同じことにならないように警備用魔道具の設置や、教員たちの全体的なレベルアップなど、色々とやるせいで開始が遅れるそうだ。
なので、実質2ヶ月くらい休みになるわけだ。この際だからゆっくり実家に帰ってもいいかもしれないな。シアの成長具合も気になるし、お兄ちゃんを忘れられたくない。
帰るならお土産をたっぷりと買って帰らないと。あとは、去年と同じく迷宮で魚介類を大量に仕入れておこう。
冬だし、魚介類もすぐには腐らないだろうから、数日に分けてお腹いっぱい食べられるだろう。
そうこうしているうちに、学院からの連絡は終わって少し早い放課後になった。
「放課後になったわけだけど…」
俺の前には張り切った女の子3人組がいる。…正直今の俺では止められる気がしない。ちなみにティアラはフランゼンさん達と一緒に迷宮へと潜っている。
お目付役というやつだろう。グラさんとレティアはムーランに勉強というか色々と教育をしているらしいが…。何故だか分からないが、とてつもなく不安だらけだ。
しかも何故かアルフレッドが俺の斜め後ろに控えている。勝手に出て来れる仕様なのかな。
「では行きましょうご主人様!」
「ふふふ、今日が楽しみで仕方ありませんでした」
「私のアウルにちょっかい出すとはいい度胸ね」
「えっと、お手柔らかにな…?」
「「「ふふふふ」」」
「不安だ…」
事前に指定されていた場所に行くと、騎士数人と執事と侍女と皇女様が待っていた。
時間まではまだあると思うのだが…、これは俺が悪いのか?
「貴様!皇女殿下に呼び出されておきながら、遅れてくるなど不敬だぞ!!」
1番若い騎士が俺に怒鳴るように食ってかかってきた。…皇女の手前、カッコつけたいのか…はたまた別の理由か。
「聞いているのか!平民の分際で図にのるなよ⁉︎」
…皇女は止めない、と。つまりはそういう事か。だったらこっちも全力出しちゃうぞ?
って、ルナとヨミが本気でキレそうだったので手で制しておく。ここは俺に任せて欲しい。…2人がやったら手加減なさそうなんだもん。
まぁ、詠唱してもいいけど、もちろん無詠唱での発動だ。
『魔力重圧』
「⁉︎な、何をし……オエッ…ゔぅ…オエッ…」
やべ、やり過ぎたか?吐かせちゃったけど、喧嘩を売ってきたのはそっちなんだからしょうがないよね。
「・・・どうやら噂以上の使い手のようですね」
ぽそりと皇女様の口から聞こえてきたのは率直な感想だろう。・・・しかし、謝罪云々だったと思うんだけど明らかに舐められている気がする。何を考えているんだ?
「何か私に用があると伺いましたが?・・・まさか今のが答えですか?」
皇女様以外に向けて威圧を飛ばす。もちろん手加減はしている。さっきの若い騎士以外は熟練の騎士なのか、あまり効いた様子はないかな。驚いたことに侍女の方も平気そうだ。皇女の付き人ともなるとこれほどまでにレベルが高いのか。
・・・エリーの侍女はヒステリックだったな。よし、忘れよう。
「うちの騎士が失礼を致しました。このお詫びは後ほど如何様でもさせていただきます。アウル様をお呼びしたのは他でも・・・ありません・・・?私、そちらのお嬢様方に何かしましたかしら?」
後ろを見ると素敵な笑顔の3人がいる。・・・背後の龍が見えなければ満点と言えるだろう。この子達はスタ○ド使いか何かなのかな?
「いえ、問題ありません。で、どのようなご用件ですか?・・・俺もこの子達をいつまでも止めておける訳ではないので。というかもう止めませんけどね」
もはや脅しだろうか。ルナとヨミは今をときめくAランク冒険者だ。ミレイちゃんは学院でもかなり成績優秀らしいし、さらに後ろにはアルフが控えている。
・・・今王都で一番安全なのはここと我が家じゃないかな。
「そ、そのようですね・・・。改めて、申し訳ありませんでした。自己紹介させて頂きますが、私はミゼラル帝国第三皇女のミゼラル・フォン・リリネッタと申します。以後お見知りおきを」
「もうご存じでしょうが、俺はオーネン村のアウルです」
「はい、いろいろと調べさせて頂きました。経歴は異色そのもの。かといってどこの貴族もちょっかいを出さないブラックボックス。さらにはAランク冒険者の水艶と銀雷の主で、先の戦いの立役者。調べれば調べるほど謎が多いですわ」
言われてみると確かに・・・俺凄いな。いや、狙っているわけじゃないんですけどね?
「お褒めに与り光栄の至りですね」
「まずは謝罪を。あなたにレーサムの子達を向かわせてしまって本当にごめんなさい。最初は勢いのある1年がいるなぁ程度だったのですが、ついつい面白くなってしまって・・・」
あぁ、この人悪意無く人を傷つけるタイプの人かも知れない。皇女という立場上、環境など仕方ない部分もあるんだろうけど・・・。ただまぁ、美人だから許しちゃう俺が憎い!
今までに無いタイプの美人が出てきたな。なんというかつかみ所の無いというか、何を考えているか分からないミステリアスというか。なんにしろ、俺の周りは美人ばかりで幸せだなって改めて実感した。
「・・・まぁ、俺もあいつらと知り合えたから良かったですけどね。でも俺じゃなかったら大怪我でしたよ」
「うふふ、そこは事前に調べていましたから。英雄ヨルナードと喧嘩できる学生など貴方くらいです」
・・・あぁ確かに。言われてみればそうだな。あの野郎には未だに勝てないし。マジ何者だよあのおっさん。リアルチートだぞ。
「たまたまですよ。ちなみにそろそろ用件を聞いても?…もし手紙に書いてあった通りというならお断りします。俺は誰にも仕えるつもりはありませんから」
「謙虚なのですね。わかりました、用件は改めて謝りたかったというのは本当です。色々無礼なことをしてしまいましたがそれも併せて謝罪致します。…ふふふ、あの手紙の本意に気づくなんて本当に面白いですね。正直な気持ちは貴方と話してみたかったのです」
さらっと人を貶めようとしてくるとか怖すぎだろ。まぁ、手紙の意味が分かったのはフランゼンさんたちのおかげなわけだけど…。
というか嘘つけよ。最初から喋ることが目的だったくせに。息をするように嘘をつくあたり流石は王侯貴族だな。
常に相手を転がして出し抜こうとして来やがる。しかし俺はそう簡単にはいかないがな。
「どうも、ご主人様の『婚約者』のルナです。私も以後、お見知りおきを」
「うふふ、私もアウル様の『婚約者』のヨミです。よろしくね、皇女様?」
「私もアウルの婚約者のミレイです。よろしく皇女様」
あぁ、我慢できずに出て来てしまったか。3人はまんまと皇女様に転がされているな。
3人的には皇女の『俺と喋りたかった』ってところでアウトだったかな?妬いてくれたのは嬉しいことだけどね。
しかし、結婚もしてないのに尻に敷かれるとは、いとをかし。
「あら、皆様全員婚約者だったのですね!まぁ、英雄色を好むとも言いますし。・・・・・しかし、これは相当頑張らないといけませんね・・・」
んん!?最後聞き捨てならないことを口走らなかったかこの人。嫌な予感が俺の周りをべっとりと付きまとうんだけど・・・
「手紙の意味もバレたのでは仕方ありません。単刀直入に言います。冬休みが明けるまでの2ヶ月の間で良いので、私と一緒に帝国へ来て欲しいのです。…私の『婚約者』として」
「「「んなっ!!?」」」
「えっ…えぇぇぇーー?!」
皇女様の口から発せられた言葉は俺の耳を素通りし、おれの叫び声とともに冬の空へと飛んで行った。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
次章の内容について、お気づきかもしれませんが。笑
一応次章でもなんとか農家の息子としてのアウルが書けるように頑張る所存です・・・。というか全くのんべんだらりしませんねコイツ。本当に困った主人公です。
皇女について詳しくは79話と80話で分かりますので!ですのでどうか!どうかご勘弁を・・・。
余談ですが体調崩しました…。皆様も風邪にはお気をつけください…。




