ep.77 迷宮攻略⑤
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。詳しくは活動報告にて随時更新していく予定です。
余談だが、シュガールはヨミの収納に入っていた。最初は邪神教を捕縛するのに一緒に戦っていたらしいが、ルナを見つけてからは邪魔をされまいと仕舞っていたそうだ。
・・・ヨミらしいと言うべきか。でもまぁ、みんな怪我はしてたけど死んではいなかったので問題なしである。
※※※
「で、海に来たわけだけど・・・どうやってこの海攻略しようか」
「「「・・・・」」」
どうやらルナもヨミもミレイちゃんも、誰も考えていなかったらしい。みんなハッとした顔をしている。
…みんな邪神教との戦いで疲れてんのかな?
ティアラに関してはもはやダンジョンに興味がないのか、砂浜を走り回っている始末だ。
ヘっ・・・水着が眩しいぜ。下手に水着という概念を教えたのが失敗だったな。魔力で一瞬で再現されてしまった。まぁ、それで胸を押し付けようとして、ヨミに止められてからは自粛したみたいだけど。
その止めた理由が抜け駆けはずるい!と言うものだったから本当にヨミらしい。
それにしても黒の紐ビキニって、なんでああも男の心を掴んで離さないんだろうが。…不思議だ。
「俺もいろいろ考えたけど、この海を攻略するのはまだ難しいと思うぞ?」
「う~ん・・・シーサーペントを狩り尽くしますか?」
「どうしましょうか・・・」
「私はこの階層でも全然レベル上げになるから問題ないけどね」
確かに。ミレイちゃんは強くなったとはいえ、ルナとヨミに比べるとまだレベルが低い。
「そうだね。俺とレティアで少し考えてみるから、みんなはシーサーペントでも狩ってレベルを上げてくれ」
さて、これでとりあえず2日くらいは稼げたわけだけど、本格的にどうしようかな。
正直、ここの迷宮に狙いを絞って攻略する必要も無いとは思う。もっと序列の低い迷宮とかを探して行けばいい気もする。
この世界には野良迷宮というものが無いらしいので、基本的には108個で全部のはずだ。
それなのに俺たちはいきなり4番目の迷宮を攻略しようとしている。…あれ、かなり無謀じゃね?
ということで、急遽俺は家に帰ってグラさんとレティアに相談してみた。
「ふむ、迷宮攻略か。我らが参加したら下手をすれば4番迷宮といえど、5日も掛からずに攻略してしまうだろうからな」
「そうですね…。まだ未熟なティアラですらいい線行きそうです」
いや、あなたたちが攻略するって話じゃなくてだな。
というかグラさんはそわそわしながらレティアを見るな。話せたのが嬉しいのはなんとなく分かるけど、尻尾出てきてるから!ビタンビタン煩いし。
「えっと、そうじゃなくて海の中を俺たちがどうやったら攻略できるか聞きたくて…」
「なんだそれを先に言わんか。…ふむ、そこはシーサーペントがわんさか出てくるのだな?」
「だとすると、下手をすれば外海よりも難易度が高い可能性があります」
どういうことだ?
「シーサーペントが亜竜と言われているのは知っているな?…あやつらは進化を果たせば水竜になる可能性を秘めているのだ。火属性でいうとサラマンダーも同じだな」
「逆に言えば、そんな強い魔物は本来数が多くありません。…それ以外にも海には危険な魔物が多いです。それらを攻略しようとすると…」
なるほど、正攻法では難しいってわけね。
「分かった。ありがとう2人とも。ちょっと方向性が見えてきた気がするよ」
海エリアは真正面から馬鹿正直に攻略するんじゃないってことだ。
今までが力技でどうにかなってたのが奇跡だったのかもしれない。
要は海に住む魔物にバレなきゃいいんだ。
そして、おそらく海の底にある次の階層へ行く場所を見つけると。
海の底にあるのなら階段は現実的じゃない。かといって扉があるとも思いにくい。
「・・・そうか、転移か」
よし、大体の予想はついたな。あとはその場所をどうやって探すかだけど、それもある程度の目途はたった。
よし、皆のところへ戻るその前にっと。
「クイ~ン、どこだ~?」
クインの支配する森エリアへと来てみた。いつも迷宮攻略するときはクインを浅層の森エリアに放している。
こうすることで、クインが森エリアに住む部下を使って蜂蜜を集めてくれているのだ。
他にも発生するオークなどを駆逐して、レベル上げも行っているらしい。
部下の指導もしているらしく、ここの蜂さんたちは精鋭揃いだ。
「ふふ、クイン。早かったね」
俺が呼ぶとすぐに来てくれるクインは本当に可愛い。体を擦り付けるようにして甘えてくるのだ。
前世では『猫吸い』というのが流行っていたけど、最近の俺のブームは『蜂吸い』だ。
クインに限るけど。
「クイン、俺たちはさらに深層へ行ってくる。次の階層がなにになっているか分からないけど、ついてくるか?」
ふるふる!!
「そうか、じゃあ行こうか!」
クインも俺と冒険をしたいと思ってくれていたのか、すぐに肩に乗ってくる。
今では肩乗せも慣れたものだ。最初は襲われてるんじゃないかと母が心配していたからな。
海エリアにつくと同時に、ものすごい爆発音が聞こえた。
何事かと思って遠洋のほうを遠視すると、小さい飛竜に乗った3人が、空中からシーサーペントを攻撃しているのが見える。
「・・・ってことは、あの飛竜はティアラか」
俺の考えていたことは既に4人によって実行されていたみたいだな。
海中がだめなら空から行けばいいってことだったんだけど、言わなくてもみんなは気づいたのか。
俺が帰ってきたことを知らせるために空へと綺麗な花火を打ち上げる。グラさんの加護のおかげで、火の扱いがグッと楽になったからできる芸当だ。
5分と待たずに戻ってきたが、やはり龍の飛行能力は伊達じゃないようだ。
「おかえりなさいご主人様」
最近ルナは俺に対して少し砕けたように思う。未だにご主人様呼びだけど、少しずつ打ち解けてくれているような気がして嬉しい。
「何かわかりましたか?」
ヨミは一気に距離を詰めてきて、最近だと前に比べてボディタッチが激しいように思う。呼び方もアウル様に変わったしね。
「いや、もうみんなが実践してたことに行き着いたよ」
「じゃあやっぱり空からってことね?」
やっぱりってことは空からを提案したのはミレイちゃんか。彼女の恩恵である効率化によるものかもしれないな。
「そういうこと。そしてこれは俺の勘だけど、次の階層へ行くのは階段じゃなくて転移の魔法陣によるものだと考えてる」
理由を説明したらみんな納得してくれたのか、魔法陣を探そうということになった。だが、そのまま魔法陣があるとは思いにくい。
きっと神殿のような何かの中にあるのが普通だろう。…しかし、ここから急に難易度が上がっているような気がするんだけど、何か理由があるのかもしれない。
「それじゃあティアラ、悪いけど頼むね」
「任せて!」
人型だったティアラが見る見るうちに、龍へと変わっていく。変化する過程はグラさんやレティアでも見たけど、やっぱり神秘的だ。
ティアラの上に乗って空の上を飛んだけど、俺空飛ぶのはじめてじゃね?!
・・・やばい、気づいてしまった。
「・・・りだ」
「え?ご主人様何か言いましたか?」
「お、俺空飛ぶのは無理だぁー!!!!!」
やばいやばいやばい!今更気づいたけど、空を飛ぶってこんなに怖いの?!慣れられそうに無いんだけど?!しかし、ティアラは俺の叫びなど物ともせずに飛んでいく。
「降ろしてくれえぇぇぇぇー・・・・」
※※※
気づけば海の奥にあった孤島についた。そこには神殿があったけど、転移魔法陣じゃなくてふつうに階段があった。海の底に魔法陣があると思ってたけど、まさか孤島があるとは。
しかし酷い目にあった・・・。飛ぶということを甘く見ていたよ・・・。もう二度と空なんて飛びたくない。俺は一生地に足着けて生きていきたい。空なんて飛べなくて良いんだ。そもそも人は飛べるように出来ていないんだから。
「うふふ、アウル様にも弱点ってあるんですね」
「ご主人様、可愛いです・・・」
「アウル、今情けない顔しているわよ・・・?」
うるさいっ!なんとでも言え!スカイダイビングやっているやつの気が知れないぞ。
「よし、じゃあ次の階層へ行くぞ!」
「ふふ、無かったことにしたわね」
「ご主人様、可愛いです・・・」
「ま、まぁ、そんなアウルも嫌いじゃないわよ」
色々あったけど、次の階層に着いた。次の階層にはそれはそれは綺麗な海が広がっていた。37階層が真っ青な海だとしたら、次はリゾートような海とでも言うべきか。エメラルドグリーンの色をしているのだ。
「また、海・・・。分かっていたけど、信じたくない・・・」
また空を飛ばなければならないとは・・・。この迷宮は本当に意地が悪い。いい加減泣くぞ。
海の方を見るとそれはそれは大きいイカがたくさんいるように見える。ダイオウイカのさらに巨大版だ。
「あれはクラーケンですよアウルさんっ!」
ティアラはこんななのに意外と物知りだな、腐っても龍ってわけか。
「・・・俺が殲滅してくる」
『意志ある雷霆よ、生ける竜となりて彼の者を殲滅せよ、雷竜"ライトニングドラゴン"』
招来系の魔法が意志の無い龍を属性魔法で模した技だとしたら、これは全く別の物だ。僅かではあるがあの竜には意志が有る。
レティアの召喚する龍とは次元は違うけど、俺の使える魔法ではこれが限界だろう。やはり人間には限界があるのかな。
俺の召喚した雷竜がクラーケンを次々と屠っていくが、4体倒したあたりで掻き消えてしまった。やはり持続させるのは相当に難しい。もっと魔力制御の訓練をしないといけないかもしれない。
「ご主人様、あんな魔法使えたんですね・・・いつの間に・・・」
「ふふふ、アウル様楽しそうですね」
「私もあんな魔法使えるようになりたいなぁ~」
後ろが何か言ってるけど、今の俺は誰にも止められないぞ。まだ目に見える範囲でもクラーケンは8体はいる。まだ雷竜は出せるけど、さすがにそんな何発もだせないぞ・・・?
「「「私たちもいるよ!」」」
「みんな・・・、よし狩るぞ!」
4人で陸から攻撃しまくること1時間で目に見える範囲のクラーケンは倒しきった。その頃ティアラは・・・砂で山を作っていた。
「ティアラ、砂で作るの上手いな」
「そうなの!こんなにお城を綺麗に作れたのは始めてかも!」
城・・・?城ってなんだっけ。いや、触れない方がいいか。
「アウル、次の階いくわよ!!」
ミレイちゃんはやる気満々だな。それだけ強くなりたいってことなんだろうけど、俺の周りの人はなんでこんなに頼もしい人ばかりなんだ。
「う、うん!」
あれ、ってことはまた・・・
「空は嫌だぁぁぁぁぁー・・・・」
※※※
気づけば40階層のボス部屋の前にいた。恥ずかしいことだが、気を失っていたようだ。起きたときに誰かが膝枕をしてくれていたっぽいんだけど、誰だったんだろう?
「40階層前が海エリアだったから、水系のボスだと思うんだけど・・・」
確か35階のボスがサラマンダーと言われる火属性の亜竜だったはずだ。それを考慮したうえで40階層のボスを考えると。
「水竜、かな?」
「水竜ですか?」
「ふふふ、私の水竜とどちらが上かしら」
「私もそんな強い魔法使えるようになるかしら・・・」
大きい扉を開けて中に入ると水竜、というよりはかなり巨大なオオサンショウウオのような魔物がいた。それも本当に巨大だ。ちょっと見た目が気持ち悪いのが難点かな・・・。
「この敵は俺一人にやらせてくれないか?」
今の俺がどれくらい強くなっているのか確認したいし、試してみたい技もある。みんなも俺のわがままを受け入れてくれたみたいだし、好きにやらせてもらおう。
気を失ったおかげか魔力は回復している。万全の状態だし、俺の杖術がどこまでやれるのか知れる。
「グリッターランス×10」
光り輝く槍が10本、虚空から発生して水竜へと飛んでいくが、レティアに防がれたように超純水による水の障壁で防がれてしまった。
「40階層でこの強さってちょっとやりすぎだよな・・・」
水竜もやられてばかりではないようで、大きな口から大きな水弾を何発も吐き出してくる。・・・レティアの攻撃を見ていなければ驚いていたかも知れないが、今となってはレティアの下位互換でしかない。
障壁で真正面から防ぐ訳ではなく、斜めに障壁を張ることで逸らすようにすると受け流しやすいと気づいたのだ。
相手の攻撃も効かないけど、俺のさっきの攻撃も防がれてしまう。
しかし、サンダーレイはグリッターランスへと進化した。そしてさらにこの技は進化する。俺もいつまでも同じでは無いからな。
「雷霆の矢×5」
俺の攻撃にさっきと同じように超純水での防御をしていたようだが、そんなものは意味ない。
Gyuaaaaaaaaaaaaaa?!?!
「驚いたか?その雷は本物の雷と同等の電圧、およそ1億Vだ。本物の雷の前に超純水は無意味だぞ」
魔力をかなり使う上に、制御も大変だけどこれは俺の使える単発攻撃の中でもかなり強い技だと思う。
雷霆の矢に打ち抜かれた水竜は苦しそうにしていたけど、まだ死んではいない。腐ってもボスなのだろうけど、もうこれで終わりだ。
「雷霆」
水竜は完全に沈黙して、消え去った。・・・巨大な魔石と宝箱を残して。
みんなの方を見ると、嬉しそうにしているルナとやや機嫌の悪そうなヨミとミレイちゃんがいた。ティアラはいつも通りでのほほんとしている。
・・・きっと俺が雷属性の魔法ばっかり使ったからなんだろうけど、仕方なくない?相手が水属性だったし。
そんなみんなを無視して宝箱へと近づいていくと、みんなも走って追ってきた。さすがに宝箱の中身が気になるよな。では開けてみよう。
これは・・・
「スクロールだ」
「「「スクロール?」」」
しかしなんのスクロールだろう。使ってみたい気もするけど、まだ怖いな。せめてグラさんとレティアがいるところで使えばなにかあっても対応できそうだ。
「これはあとで使ってみるとして、今は次の階層へいってみよう」
みんなで恐る恐る降りていくとなんだかひんやりしているように思える。凍土の可能性もあるけど・・・
「ご、ご主人様、今日のところは帰りましょう?」
「うふふ、ルナは怖いのは嫌いかしら?」
「・・・骨が歩いてる・・・」
次のエリアは墓場だったのだ。・・・それもスケルトンやゾンビが当たり前のように徘徊しているのだ。
「よし!今回の迷宮攻略はここまでにしておこうか。レベルも少しは上がっただろうしね!」
ほぼ満場一致で迷宮攻略は終了した。ヨミは大丈夫そうだったけど、みんなはグロッキー状態だ。実物のゾンビがあんなに気持ち悪いとは思わなかったよ・・・。
※※※
家に帰るとルナの家族もグラさん達も揃っており、ご飯を作ってくれているようだった。なんでもマリアーナさんが故郷の料理を作ってくれるそうだ。
まだまだご飯までは時間があるらしいので、早速だけどスクロールを使ってみようと思う。
「レティアはこのスクロールが何か分かる?」
「恐らくとしか言えませんが、召喚のスクロールだと思います。それも、術者の魔力に応じて召喚できる物が変動するタイプのやつです」
なるほど。ということは俺の魔力が万全なときであればそれなりの物が召喚できると言うことか。
幸い魔力は回復したし、いつでも行ける。
「みんな、悪いんだけどこれは俺が使ってみても良いかな?」
「もちろんです」
「うふふ、アウル様が召喚したら何が出るのか楽しみです」
「・・・女の子はいやよ?」
妬きもちやいているミレイちゃんも可愛いな・・・。ただでさえ美少女だというのに。
「えっと、この魔法陣に魔力を全力で篭めれば良いんだよね」
「そのようです」
よし、鬼が出るか蛇が出るか。・・・魔法陣に魔力を篭め始めて、ほぼ全ての魔力を篭めて倒れそうになったタイミングでスクロールが光り始めた。光が収まり、そこにいたのは・・・
「初めまして、貴方が私を呼び出した主ですかな?ふむ…、龍の加護を2回ももらっているとは。・・・私はどうやら凄い主人に呼びだされたようですね。申し遅れました。私は『アルフレッド』と申します」
魔法陣から出てきたのは、黒いタキシードに身を包み白いカイゼル髭を蓄えた初老の男性だった。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
【外伝】も更新しました!




