ep.76 一通の手紙
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。詳しくは活動報告にて随時更新していく予定です。
「いい天気だなぁ~…」
青い空、白い雲、光輝く太陽の下でする農作業というのは、とても充実している。
ちょっと疲れたら庭にあるロッキングチェアに腰かけて、ゆらゆらと揺られながら空をぼーっと眺める。
そしてまた農作業に精を出す。1つ1つ丁寧に世話をしてあげれば、この子たちは美味しい実を作ってくれるからな。
「・・・最高に幸せだ」
こう言っては不謹慎だが、これも全部邪神教のおかげだ。
学院の方がまだ復旧が終わらないそうで、あと2週間は休校になると聞いている。
その邪神教はと言うと、襲撃した教徒の9割強が捕まり、殆どの力を削いだお陰で奴らは当分何もできないだろう。
運転資金も漏れることなく回収したしね。そのお金は全てルナの家族に譲渡した。
・・・全部は貰ってくれなかったけど。とりあえず当面の分だけという事で少しだけにしていた。
残りは俺が預かっていてほしいとのこと。まぁ、金があると分かると変な気を起こす奴が現れてもおかしくないからな。
なので俺はのんびり農作業に明け暮れているという訳だ。
今日はルナ、ヨミ、ミレイ、ティアラの4人で女子会だそうだ。
そして俺の家には・・・なぜかまだグラさんとレティアがいる。
何故君たちは当たり前のように我が家で寛いでいるんだ?
ただ飯喰らいかと言ってやりたいところだったが、グラさんからは希少鉱石詰め合わせを貰えたし、レティアからは龍の鱗をもらえた。
・・・あと一週間は滞在を許可しよう。
ちなみにルナの家族は家を探しに行くと言っていたから、我が家にいるのもあと1週間くらいかもしれない。
それでも、最近のルナは本当の意味で活き活きしていると思う。
無事に家族を救い出せてよかったな。
「さて、収穫を続けますかね。・・・ん?誰だ?」
玄関辺りに感じたことのない気配が複数ある。家に目をやると、レティアも気付いているようで頷いてくれた。
グラさんはまだ寝ているらしい。・・・やっぱり駄龍だ。
「どちら様でしょうか?」
玄関に行くと王国ではあまり見ない形式の服を着た初老のおじさんが立っていたのだ。
「あなた様が英雄アウル様でございますね。申し遅れました、私はミゼラル帝国第三皇女リリネッタ様の執事、カイエンと申します」
「英雄ってわけじゃないですが、アウルです。今日はどんなご用件で?」
「これを皇女様より預かってきております。お受け取りくださいませ」
執事から手渡されたのは一通の手紙だった。それも高級そうな真っ白い紙だ。
前々から思っていたことだけど、帝国には地球の技術がある気がするのだ。
テン菜然り、大豆然り、そしてこの白い紙だ。いずれは行ってみたいところだ。
「では確かにお渡しいたしました」
馬車に乗って帰っていったけど、あの馬車も普通じゃないのかな?バネを採用しているとかしてそうで怖い。
にしてもこの手紙・・・。なんだか嫌な予感がするんだよなぁ。
差出人はあの皇女様だろ?レーサムの公爵子息を顎で使うような人物だ。
普通じゃないとは思うけど、一応手紙だけでも読むか。
とりあえず家に戻り、俺とレティアの分の紅茶とお茶請けを用意した。
「さっきのは誰だったのですか?」
「帝国の皇女様の執事だってさ。この手紙を渡されたよ」
「ふむ・・・?変な呪い等はかかっていませんね」
俺も確認したけど変な仕掛けはなかった。後は内容だけど・・・意外と達筆だな。
なになに?
・・・・・・・はぁ?
ゴテゴテと文が飾られていて、なにを伝えたいか解読するのが難しいけど、おそらくこんな感じだと思う。
・レーサムの公爵子息達を差し向けて申し訳なかった。
・今回の邪神教との戦いを見て感動した。
・謝罪も込めていつか帝都へ招待したい。
・従者や仲間が居れば連れてきてもらっても構わない。
・帝都への招待とは別に学院で今度会って話がしたい。
おおまかにはこんな所だろうか?詳しくは、フランゼンさんかマリアーナさんに聞けば貴族の手紙について教えてくれるだろう。
帝都に行くにしても、学院を卒業した後がいいかな…。どうせならゆっくり観光したいし。
でもこの感じだと学院が再開したら、ひとまず会いに来いってことになるのかな?
「憂鬱だ・・・」
しかし、『馬には乗ってみよ、人には添うてみよ』って言うし、何も分からない状況で安易な判断は些か早計かもしれない。
一度会ってみて無理だったら、それっきりにすればいいだけか。
「ふふ、モテる男は辛いですね?」
「そんなんじゃありませんよ、きっと」
ただ、何が目的なのかが全く分からない。一体何を考えているんだ?
その日は一日ずっと土いじりをしていたからか、農家成分をチャージ出来た気がする。
ぶっちゃけ最近の俺頑張り過ぎだもんな。息抜きも出来たし、そろそろ迷宮攻略とか行ってみるか?
ルナとミレイちゃん、ヨミを連れて行ってあげないとな。レベリングも出来るし。
あっ!そういやシュガールってどこに行ったんだ?ヨミたちと一緒だったはずだけど・・・。
あとで確認するとしよう。
ロッキングチェアで考え事をしていると、グラさんが隠れながら俺に手招きしているのに気づいた。
「どうしたの?」
「しっ!声が大きいぞアウル」
「分かった分かった。それで、どうしたの?」
「・・・最近、レティアのやつと仲が良さそうだな・・・?」
「まぁ、多少は良いと思うけど」
もしかして妬いてるとか?龍が人に妬くとは考えにくいけど…
「・・・レティアの娘、ティアラが誰の子供なのか聞いてほしいのだ・・・」
あぁ、そういうこと。
「自分で聞けばいいじゃん」
「それができたら苦労などしておらん・・・。何故か避けられるのだ・・・。目も合わせてくれないし、口もきいてくれない」
おおう、物凄い嫌われようだな。『のの字』書いてる人を初めて見たよ。
でもレティアって本当にグラさんのことが嫌いなのだろうか?
これは俺の主観だけど、むしろ好きなのではないかと疑っている。
本当に嫌いならこの家にいないだろうし。なにより、グラさんがレティアを見ていない時、レティアはグラさんを目で追っている。
まるで恋する乙女のようにも見えるのだけど、俺だけなのかな?
グラさんがレティアに視線を移すと、レティアはキリっとした顔に戻る。
・・・もしかしてそういうことなのか?なんだよグラさん!『両片思い』じゃんか!あと一歩踏み出すだけだよ!!今のこの空間とっても尊いよ!
グラさんが先日俺の家の玄関で屍と化してたのは、きっとレティアのツンな部分のせいなんだろうな。
あれ、でもそうなるとティアラって誰の子供になるんだ?
「・・・気になる」
夜ご飯作るにもまだ早いし、ちょこっとだけ聞いてみよう。
「そういえばさ、ティアラって誰との子供なの?」
「ふぇっ?!き、急に何を?!」
「いやいや、単純に誰との子供なのかなって」
「・・・そうですね、アウルになら教えてあげてもいいでしょう。絶対内緒ですよ?」
「う、うん」
「ティアラは赤龍帝・・・グランツァールとの間に出来た子供です」
「えっ??!!」
どういうことだ?グラさんは全く知らない感じだったぞ?!
「ただ当の本人は全く覚えていないようですが・・・」
「どういうこと?」
「グランツァールは火を司る赤龍帝です。本来ならばドワーフなんかが神聖視するような存在なのですが、グランツァールもドワーフもある共通点があるのです」
共通点?ドワーフと言えば、鍛冶と酒って感じのイメージだけど。・・・酒?
「もしかして、酒ですか?」
「その通りです。昔のグランツァールは酒に強くもないのに本当に酒が好きで、性格が変わるほど飲み過ぎるんです」
グラさん・・・お前ってやつは本当に酒癖が悪いんだな。
「当時の私も若かったというのもあり、酔って性格が変わったグランツァールに口説かれて一夜を共にしてしまいました」
えぇっ?レティアさんも意外と遊んでたのか?
「それ以来、彼との関係は何もありませんが、その時の子供がティアラなのです」
なるほど・・・。龍種にも一夜の過ちってあるんだな。
「でも、俺の見る限りレティアさんはグラさんのこと好きですよね?」
「・・・はい。なんというか、あれ以来素直になれず、冷たくしてしまうんです。だって、あの日のこと全く覚えてないんですよ?!悔しいじゃないですか・・・」
レティアさん物凄く乙女な件について。ちょっと拗らせてる気もするけど、俺は嫌いじゃないです!
「2人のことなので何とも言えませんが、少し素直になるだけで見える景色は変わると思いますよ?」
「・・・善処します」
あとは2人の問題だし、俺が口をはさむことじゃないな。
それにしてもグラさんは本当に残念な奴だったんだな。
「アウルよ、聞いてきてくれたのか?!」
「うん、全部聞いて来たよ」
「ど、どうだったのだ?!」
グラさんの顔は真面目そのものだ。・・・本当に何も覚えてないのか。
「いずれ分かるんじゃない?」
「なっ?!酷いぞアウル!裏切り者めっ!」
ふん、何とでも言うがいい。
「さて、いい時間になったし夕飯でも作るかな」
今日は庭でとれた野菜を使った鍋にしようと思う。
出汁は昔作った鰹節もどきと料理の実の旨味でいいか。あとは味噌で味を調えれば完成だ。
そこにサンダーイーグルの肉と迷宮でとれた魚の切り身、畑の新鮮野菜のざく切りを入れれば立派な鍋の出来上がり!
鶏肉と魚を分けるか迷ったけど、2つとも食べたいので2種類の土鍋に分けている。
鶏肉の鍋と魚の鍋だ。少し味見してみたけど、味噌の風味と魚の旨味がいい感じにマッチしているし、出汁も効いてて抜群に美味しい。
今日の夜ご飯も完璧だな。
〆用に麦飯を炊いておいて、卵と一緒にあとで『おじや』にしよう。
「ただいま帰りましたご主人様」
「ふふふ、今日もいい匂いです」
「アウルにお土産買ってきたよ~」
「アウルさ~ん!とってもいい匂いがします!」
ルナ、ヨミ、ミレイ、ティアラ達が女子会から帰ってきたみたいだけど、夜ご飯は食べてきてないみたいだな。
しかもみんなの両手には買い物したものがたくさんだ。・・・収納を使えばいいのに、なんで使わないんだろう?とは思っても言わない。
きっとあれは彼女らなりの買い過ぎないための工夫なのだろう。
そのあとすぐにフランゼンさん達も帰ってきた。みんなお腹を空かせてきているらしいね。
「ご飯できてるからみんなで食べようか」
『はいっ!』
まったくみんないい返事だよ。
「アウル、これお土産!」
「ありがとうミレイちゃん、開けてもいい?」
まぁ、返事も聞かずに開けてしまうわけだが。
「これ・・・シナモン?」
「あーやっぱり知ってたか~。驚かそうと思ったんだけどなぁ。それね、とってもいい匂いだったから買っちゃったの!何かのお菓子に使えないかと思って」
「「「「「お菓子!」」」」」
レティア、ティアラ、マリアーナさん、ムーランが急に反応した。・・・女子って本当甘いもの好きだよね。
でも最近あんまり作ってなかったし、折角シナモンもらったんだから何か作ってみよう。
「今度何か作ってみるね」
そのあとはつつがなくみんなで鍋をつつき、〆のおじやを作っているときに、手紙の話をしてみた。
このとき活躍したのはやっぱり元王族のフランゼンさんやマリアーナさんだった。
「ふむ、帝国の第三皇女ですか。会ったことはありませんが、この手紙を見る限り、なかなかじゃじゃ馬そうな皇女様のようですな」
「そうね、甘やかされて育ったのかもしれないわね。今の生活に刺激というか、何か変わったものが欲しいのかしら?」
一体どういうことか分からないが、説明してもらったらこういうことらしい。
・帝都の城に遊びに来てほしい。その際、皇帝にも紹介する。お詫びを兼ねた宴も開く。
・学院で会うのはそれの簡単な話もするつもり。
・私に仕えてみないか?
真に伝えている内容は、俺が思っていたようなものより凄かったみたいだ。
「・・・なんか、俺が読んでみた内容とだいぶ違うんですが」
「まぁ、貴族や皇族、王族の手紙を読む機会など滅多にないだろうからな。これはさっきアウル君が言ったような内容で、勘違いさせるように書いてある」
「貴族独特の言い回しに慣れていないとこれはわからないわね。これ、勘違いしたまま会いに行っていたら皇女様に仕えることになっていたわよ?」
・・・貴族というか、皇族こわっ。なんだよそれ。手紙一枚でそんな効力持つのかよ。
「そのためにこれだけ上等な紙を用意したのだろうな。私だったら、このレベルの紙の手紙が来たら、何事かと思って疑ってしまうよ」
確かにすごい高そうな紙だとは思ってたけど・・・。執事さんも分かってたなら教えてほしいよ全く。
「助かりました、危うく騙されるところでした」
「ははは、これくらいお安い御用さ。アウル君に紹介してもらった不動産屋さんもよくしてくれたおかげで、いい家が見つかりそうだよ」
「それはよかったです!」
家が決まったらお祝いに何か贈り物でもしよう。安易だけど家具なんかがあると助かるかな?
無難にクラゲのウォーターベッドとロッキングチェア、あとは掛布団かな。
それ以外は個人の趣味もあるだろうし、やめておこう。
「・・・ん?」
ヨミやルナたち4人に視線を移すとなぜか怒っているように見える。その手には皇女からの手紙。
何故だろうすごい嫌な予感がする。彼女たちの背後に竜が見えるんだもん。
「うふふ。ルナ、皇女様ってのに会わないといけないわね」
「そうですね。私たちに喧嘩を売ったも同然です。・・・この喧嘩、私たちが買いましょう」
「私も行くわよ。皇女がなんぼのものよ」
「なら私も行きます!お姉さま達についていきます!」
ほらね?
え、うちの子たち血の気多すぎじゃない?いつの間にこんな子に育ってしまったの?
そしてティアラに関してはもはや関係すらないんだけど。
「ルナったら、あんなにはしゃぐようになってたのね・・・」
「あぁ、子供ってのはいつの間にか成長するものなんだな。これもアウル君のおかげだ」
「お姉ちゃん楽しそう」
あれ、ここには馬鹿しかいないのかな?皇族に喧嘩売ろうとしてるの、完全にこっちだよね。
なんかイニティウム家の皆さんは感動して泣きそうな雰囲気だし。
・・・グラさんとレティアは美味しそうにおじやを食べているし。
「先が思いやられるよ・・・」
しかも仲良し4人組は学院が休みの間に4番迷宮の攻略に乗り出すらしい。本格的にレベルを上げるみたいだ。
ここまで来ると逆に皇女が可哀そうですらある。
ただ、本格的に喧嘩ってなると国際問題になるからある程度で止めてやらないとな。
生徒同士の小さい喧嘩くらいならいいんだろうけどね…。
「みんな、迷宮大丈夫だろうけど気をつけてね?」
「ふふふ、アウル様は冗談が好きですね」
「ご主人様も一緒に行くんですよ?」
「当り前じゃない」
「アウルさんと迷宮デートですか?!」
『えぇぇ…。俺疲れてるんだけど。やだやだやだ!行きたくない!』って言えたらどれだけ楽だろう…。
彼女たちの目を見てしまったら断れないよ。しかもなんか有無を言わさぬ目力がある。
いつの間にこんなに頼もしくなったんだよ・・・。おれが尻に敷かれる未来が見えるんだけど。
そしてティアラよ。全然デートじゃないから勘違いするなよ。
あぁ~もう少しゆっくりしたかったのになぁ・・・。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
馬には乗ってみよ、人には添うてみよ=何事も経験してみなくては本当のところはわからないのだから、やりもしないで批判したり評価したりするべきではないということ。
80話でルイーナ魔術学院編が終了する予定です。次章についての発表は79話で!
【外伝】2/22更新します。




