ep.75 幸せの一歩
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。詳しくは活動報告にて随時更新していく予定です。
今回は少し長めです。
砦から押収した資料に一通り目を通そうかとも考えたけど。そもそも俺にはもう関係ないことだと気が付いたので国王に丸投げすることにした。
最初は、青龍帝にも罰を!とか叫んでいた馬鹿貴族がいたらしいが、いつの間にか黙殺されたと聞いた。
・・・好き好んで龍と喧嘩したがるもの好きはいないだろう。
そしてモニカ教授についてだけど、当面は学院ではなく王城勤務になったそうだ。
もともと知的好奇心で動いていた人だったようで、邪神教自体には興味が無かったらしい。
なので、知っていることを話して全面的に協力するということで、晴れて無罪放免ということで落ち着いたようだ。
ルナについては家族を人質に取られていたせいで仕方なく、と伝えてある。
・・・国王には申し訳ないがイナギのことは言うと厄介なので、このまま墓場まで持っていくつもりだ。
ほかにも色々と面倒なことがあったのだが、それはさておきまずはヨミ、ルナ、ミレイちゃん達の状態だ。
ヨミとミレイちゃんの怪我はもう完治している。意識はまだ回復していないがおそらく時間の問題だろう。
ルナも同じようなもので、怪我は治っているのに意識が無い。イナギはルナに体を返すと言っていたが、実際は起きてみないと分からない。
次にルナの家族についてだけど、青龍帝のお陰もあってだいぶ具合はいいそうだ。
母親に関してはもう目覚めており、話が出来る状態にあるらしい。この様子だと、お父さんと妹さんも直に目を覚ますだろう。
「えっと、ルナのお母様でよろしいんですよね?」
かなり痩せこけているが、髪の色も同じだし、雰囲気もどことなく似ている。間違いなく母親だろう。
「はい、この度は我ら一族を助けて頂き、誠にありがとうございます…!」
深々と礼をされ、今にも頭が地面に着いてしまいそうなほどだ。
「頭をあげてください!俺は当たり前のことをしただけですので。申し遅れましたが、アウルと言います」
「アウル様ですね。私も自己紹介を忘れておりました。私はルーナリアの母のマリアーナと申します。気軽にマリアとでも呼んでください」
…ルーナリアってのはルナの元の名前か?だとしたら俺の付けた名前って同じような名前をつけていたのか。
にしてもこの人、ルナの姉と言われても信じられるほど若いな。この世界の母親ってのは皆こんなに若々しいのか?
痩せこけてなかったらこの人も相当に美人なのだろう。
「…マリアーナさんですね。まだ体調も本調子じゃないでしょうし、もう少しお休みください。私は夕飯の用意をして来ますので、お話はそのときにでも」
「ご迷惑おかけして申し訳ありません。お言葉に甘えさえて頂きます」
良くなったと言ってもまだまだ本調子には程遠いだろう。
お腹が減ってはなんとやらだ。胃に優しくて栄養の取れるご飯を作るとしよう。
なんだかご飯を考えて作るのは久しぶりな気がするな・・・。ここんところずっと忙しくしてたし、余裕もあまりなかったからなぁ。
「よっしゃ、いっちょ気合入れて作りますかね!」
とその前に。
「青龍帝、娘さんの容態はどう?」
「もう峠は越えているから心配ありません。十分な栄養と休養を取れば問題なく回復するでしょう。・・・それで迷惑でなければ、その・・・」
?あぁ、栄養か。
「丁度皆の分の夕飯を作るところだから、2人の分も作るよ」
「・・・恩に着ます。それと、私のことはレティアと呼んで頂いて構いません。娘は・・・起きたら自分で挨拶させますので」
「了解したよ。じゃあ夕飯作るからもう少し待ってて」
さて、夕飯を作るわけだけど、かなり大人数だから手の込んだ料理だと時間がかかり過ぎるな。
手間が少なくて、胃に優しい、かつ栄養豊富で美味しいご飯。
「・・・やっぱりあれかな」
こっちではまだ米は見かけてないけど大麦は普通にある。
大きめの鍋にたっぷりの水と大麦をいれてコトコト煮る。塩胡椒と味噌、旨味調味料、ワイルドクックの卵を溶き入れてさらにくつくつ煮込めば、『雑炊風麦粥』の完成だ。
元気がある人用に、念のためにオーク肉の角煮を同時進行で仕上げた。食べやすいように少し甘めに味付けしてあるのがポイントかな。
今更だけど料理の実の汎用性の高さには驚かされる。旨味も簡単に足せるから、料理の味が簡単にワンランク上がるのだ。
あとは個人的に食べたかったので、サンダーイーグルと茄子の唐揚げを作った。
・・・俺も頑張ったんだから好きな物食べてもいいよね?!
ご飯が出来たので、器によそってみんなのいる部屋へと届けようとしたら、匂いに釣られたのかみんなリビングへと移動してきた。
どうやらみんな目が覚めたみたいだ。ひとまず安心ってところかな?
念のために『エリアハイヒール』をこっそりかけておこう。
「えっと、みんなもう大丈夫そうで良かったです。各々話したいことはあると思いますが、ご飯が冷めないうちにみんなで食べましょう」
「「「「いただきます」」」」
俺とルナ、ミレイちゃん、ヨミはいつも通りの掛け声でご飯を食べ始めたけど、他の人はそれぞれだ。
『『美味しいっ!!』』
どうやらみんなの舌に合ったみたいで良かった。
蟹を食べるとき人は無口になると言うが、あれは何故なのかと常々思っていた。
けれど一つ分かったことがある。人間は美味しい物を目の前にしたとき、無口になるらしい。きっと食べることに集中してしまうんだろう。
まぁ、それだけ気に入ってもらえたという事なんだろうけどね。
そして意外だったのが、胃に優しいものと思って作った麦粥よりも、サンダーイーグルの唐揚げが大人気だったのだ。
・・・この世界の人は、内臓が強い人たちが多いのかもしれない。
静かだが決して険悪ではない空間の中、最初に口を割ったのは青龍帝ことレティアだった。
「アウル、私はブルードラゴンを束ねる青龍帝という身でありながら、今回のように迷惑をかけたこと本当に申し訳ありませんでした」
「いや、それは仕方ないよ。大事な娘さんを人質に取られてたんだから。それに大きな被害は出てないからね」
まぁ、少々地形は変わったけど死人は出てないみたいだし、学院内の地形は後々直しておけば問題ないだろう。
「そう言って貰えて助かります。・・・隣にいるのが私の娘です」
「青龍帝の娘のティアラです。この度は助けて頂いてありがとうございました」
敢えて触れてこなかったが、俺は大きな勘違いをしていた。レティアの人化した姿が若いから、娘は子供だろうと思っていた。
しかし実際は違う。人間で言う所の大学生くらいにしか見えないのだ。
レティアの青い髪に比べて、やや薄紫がかった青い長髪が特徴的な子だ。
「俺はアウルといます。解呪が間に合って良かったです。体調は特に問題ないですか?」
「アウルさん…ですね。はい、体調は特に問題あr・・・いえ、急に胸のあたりが苦しいです…!」
えっ?さっきエリアハイヒールをかけたのに、それじゃ治りきらなかったか?!
俺が一人慌て始めると、何かを察したのかルナとミレイとヨミがティアラを連れて2階へと消えて行った。
「えっと、回復魔法をかけなくても大丈夫ですか?」
「…私の娘がすみません。呪いは解けていますし、あの子も回復魔法は使えますので問題ありません。・・・もしかしたら今後ご迷惑をかけるかもしれませんが」
「え?」
「いえ、なんでもありませんよ」
最後の方なんて言ったんだろう。でもさすがは青龍帝の娘か。回復魔法まで使えるとはな。水属性は回復魔法とも親和性が高いって言うし、現にヨミも使えるからね。
「この御恩は絶対にお返しします。良ければ赤龍帝と同様に加護を授けましょうか?」
加護か。貰えるなら嬉しいけど、赤龍帝と同様ってどういうことだ?
「赤龍帝と同様ってどういうこと?」
「何も聞かされていないのですか?・・・あの駄龍、ちゃんと説明もせずに加護を授けるなんて」
あっ、青龍帝もグラさんのこと駄龍って呼んでるんだ。なんか親近感かも。
玄関で未だに倒れているグラさんに視線を移すが、確かに駄龍と呼ぶにふさわしいな。うん、俺は間違ってなかった。
青龍帝が言うにはこういう事らしい。
・加護とは言葉の通り龍種の恩恵を受けることを言い、人族は洗礼にて創造神の恩恵を授かっている。
・龍種の加護と創造神の恩恵は重複して授かることが出来ないため、先に受けている恩恵又は加護を強化することになる。
・既に赤龍帝によって俺の恩恵は強化されている。
・龍種はその長い生涯で、3回までしか加護を授けることができない。
・加護を授かった副次的な効果で、龍帝が司る属性の適性を得る。また、すでに適性がある場合にのみ適性を強化する
グラさんはたった3回のうちの1回を、いつの間にか俺に授けてくれていたようだ。
・・・駄龍とか言ってごめんグラさん。
「かくいう私も未だに恩恵を授けたことはないので何とも言えませんが、私は母からそう教わりました」
少ない加護を俺に・・・か。どうせだったら!
「とても嬉しいけど、その加護って俺の仲間に授けてもらうんじゃだめか?」
「仲間に、ですか?・・・ふふふ、とても仲間想いなのですね。構いませんよ」
「ありがとうレティア」
ミレイちゃんには悪いけど、レティアの加護はヨミに授けてもらうつもりだ。
いずれ雷龍と仲良くなる機会があるといいんだけど、それは高望みし過ぎか。
「うふふ、ただいま戻りました」
どうやら話し合いが終わったみたいだが、一体何があったのだろうか。
何となくティアラがさっきよりも元気みたいだけど、触らぬ神に祟りなしかな。ここは華麗にスルーさせてもらおう。
・・・キラキラした目で見てくるけど、スルーったらスルーだ。
「ヨミ、レティアが君に加護をくれるそうだよ」
「加護ですか?先ほどティアラさんから頂きましたが…」
えぇぇ…。何してんの君たち。当のティアラは凄い笑顔だし。
「…ティアラはそれでよかったの?」
「いいの。お姉さm・・・ヨミさん達と先ほど仲良しになりましたから!」
いまお姉さまって言いかけたよねこの子。なに、さっきの15分程度席外したときに何があったんだ?!
「じゃ、じゃあミレイちゃんにレティアの加護を」
「あっ、私もティアラから貰ったから大丈夫よ」
・・・・・なんなの君たち!しかもティアラもたった3回しか授けられない加護ポンポン連発しないでよ。
「ルナは水と言うよりは雷だろうし、イナギの件もあるからな。じゃあ俺が加護貰ってもいいかな?」
「ええ、構いません」
レティアが両手を俺に向けて何か呟いた。
「終わりましたよ」
「えっ?はやっ!」
「加護と言っても所詮この程度です。・・・恩恵を覚醒させるには自分自身の努力次第ですから」
「お母さん!!」
「あら、いけない。少し喋り過ぎましたね。今のことは聞かなかったことにしてください」
覚醒。モニカ教授も言っていたけど、一体どういうことなんだろう。元宰相の言っていた進化とは違う事なのか?
「ありがとうレティア。じゃあ、次は・・・」
「私達がお話しします」
手を挙げたのはマリアーナさんだ。
「改めて、私はルーナリアの母のマリアーナと言います」
「父のフランゼンと言います」
「妹のムーランです」
「アウルです。よろしくお願いします」
「私たちは…」
マリアーナさん達から聞いた話を要約するとこんな感じだった。
・マリアーナさん達『イニティウム家』は代々、邪神の一部をその身に封印していた。
・その封印は呪いとほぼ同義な物であり、逃れたくても逃れられるものではない。
・逃れる方法は最上位の聖属性解呪魔法でのみ解除できる。
・封印は子にまで及び、代々それを受け継いでいくものである。
・一族全員の呪いが解呪された場合にのみ、邪神が顕現する。
・龍種にまで及んだ呪いの源は、ルナの家族から漏れ出た邪神の力を流用していたと考えられる。
・呪いが解かれ、ルナの中にいる邪神がどうなるかは分からない。
・ルナは自分も呪われているとは知らなかった。
ということらしい。・・・情報量が多すぎてなんて言ったらいいのか分からないが、ルナが呪いに詳しかったのは、両親が呪われていると知っていたからだったのか。
それで俺が家族の呪いというか封印を解いてしまったために、ルナにその力が集約されてしまったと。
そして最後の呪いまでも俺が解いてしまったわけか。
こうやって考えてみると何とかなったとは言え、かなり危ない所だったんだな。
「・・・というか、俺がルナって名前つけたのって凄くない?」
「そうですね、あの時は本当にご主人様に運命を感じてしまいました」
そりゃそうだよな、元がルーナリアで次もルナ。素性でもバレたかと思えるレベルだ。
「・・・あの、ご主人様っていうのは一体?」
なぜだか額に青筋を浮かべているルナのお父さん。・・・仕方ないとはいえ、確かに自分の娘が奴隷に落ちたのは腹が立つよな・・・。
「お父さん、私は自分の意志で奴隷になったんだよ。そして今のご主人様に買われたの。でも心配しないで、私今とっても幸せだから!!」
「「・・・ルナ」」
娘にここまで言われたらさすがに来るものがありそうだ。マリアーナさんもフランゼンさんも複雑な表情をしている。
「正確には、邪神の力によって奴隷契約は解除されているらしいけどね」
念のため訂正はいれておこう。
「そうなのですか?!ご主人様、早く再契約をしに行きましょう!」
慌てて立ち上がって俺の手を取ろうとするルナだが、俺はどうするのが良いのだろうか。
家族にも会えてこれから一緒に暮らせると言うのに、俺の奴隷をさせるのは可哀そうな気がする。
だからと言ってルナの体には邪神ことイナギが宿っているし・・・。悩ましいな。
「ルナはもう一度家族と暮らしたくはないのか?・・・契約も解除された今、それも可能だけど」
しかし、ルナは俺の予想を裏切る速度で返事を返してきた。
「いえ、私はご主人様の傍に居たいです。それに今の私なら家族を養ってあげられますから!・・・ご主人様が許可してくださればですが・・・」
確かに奴隷契約があった場合、奴隷が稼いだ金は主人の物となる。まぁ、俺は金が余っているので貰うようなことはしていないが。
「それは問題ないけど・・・。確認だけど、なんで俺の奴隷に戻りたいの?」
「ご主人様との確かな繫がりでしょうか。あとは怪我をしていた私を救ってくれたことに対する御恩を返したいのです」
やはりか。【アルトリア】では価値観というのが地球のそれと著しく違う。
・・・うん、そろそろかな。
「ルナ、やっぱり君との奴隷再契約はしない」
「?!わ、私がご迷惑をおかけしたからでしょうか…?それとも、邪神のせいでしょうか…?」
「そして、ヨミとの奴隷契約も明日商館で解除してもらうつもりだ」
「私もですか?!何か至らない所がありましたでしょうか!すぐに直しますので…」
「いや、違うんだ。こんな大勢の前で言う事ではないのかもしれないけど、ルナ、ヨミ。君たちさえ良ければ、生涯俺の傍にいてほしい」
「・・・?そのつもりですが・・・?」
「!!・・・そ、その、よろしいのですか?」
ルナはまだ分かってないみたいだけど、ヨミは分かったみたいだな。
あと、彼女にも確認しないといけない。
「ミレイちゃん、俺は複数人を好きになっちゃったけど、許してほしい」
「はぁ~・・・。こうなることは分かってたわよ。むしろ遅かったとさえ思うけどね。アウルがそう望むならそれでいいわよ。ただし!みんな平等だからね!」
なんというか、俺にとって都合の良すぎる展開だけど、これを含めて俺の人生か。
本当にいい人たちに巡り合えたな。
「今はまだ成人前だけど、成人したら俺と結婚しよう」
「「~~~~!!」」
2人は抱き合って泣き始めてしまったけど、泣くほど嬉しいってことでいいんだよね?
「遅くなりましたが、『ルーナリア』さんを、僕に下さい!」
「・・・・」
「あなた、何か言ってあげて?男の子が頑張ってるんだから」
マリアーナさんに促されて、フランゼンさんが口を開いてくれた。
「・・・あの子は優しい子だ。真面目で一途で、ちょっとそそっかしい所もあるが、見る目はある子だ」
「はい」
「・・・私たち夫婦は、ルーナリアに大変な思いをさせていた。辛く苦しい日々だっただろう。・・・その分あの子には幸せになってほしいと思う」
「はい」
「・・・アウル君、どうか『ルナ』のことを幸せにしでやっでぼじい!」
「勿論です!とびっきり幸せにしてみせます!」
大号泣するフランゼンさんと、それを慰めるマリアーナさんとムーランさん。
この人たちも辛い思いをしただろうに、そんなのをおくびにも出さずに祝福してくれた。
こんな心の奇麗な人たちだ。この人たちも幸せになるべきだろう。
「今後についてですけど、どうしたいとかありますか?」
「そうねぇ、ムーランは来年で10歳になるから学院に通わせてあげたいけど・・・」
マリアーナさんはムーランさんを学院に通わせたいと。ただお金がないという感じか。
「お金は邪神教の砦から押収してきたものがたっぷりありますので、そちらを差し上げます。いくらあるかは分かりませんが、本当に大量にあるので大丈夫だと思いますよ」
それこそ小国の国家予算の半分くらいはあるのではないだろうか。
あれ・・・?もしかしてこのお金ってフランゼンさん達の国のお金だったりするのか?
「ルナから少し話は聞いています。もし復興するにも、お金は大量に必要でしょうから、これらは全てお持ちください」
「!!・・・重ね重ね、本当にありがとう。この恩は絶対に返す!絶対にだ!」
「ありがとうアウルお兄ちゃん!」
ぐはっ・・・!なんという破壊力だ・・・!年上好きだと思っていたが、俺には妹属性まであったというのか?!
・・・是非もう一度お兄ちゃんと・・・
「アウル・・・?」
殺気!?
「ミレイ、俺は無実だ」
「っ!そ、そう…。なら、いいのよ」
ん?やけに引くのが早いな。何事だ?なんでか「ミレイ、ミレイ・・・」と自分の名前を連呼しているし。女心は難しいな。
翌日、朝一番でヨミとルナとミレイちゃんを連れて商館へと赴き、2人の奴隷契約を解除した。ルナに関しては奴隷契約が本当に解除されているかの確認だ。
「これで2人は晴れて俺の奴隷じゃなくなった。今まで本当にありがとう。そしてこれからは人生の伴侶としてよろしくお願いします。…といっても4年先の話だから、それまでは婚約者だけどね」
「はい!大変お世話になりました。そしてこれからもよろしくお願いします!」
うん、ルナらしい真面目な答えだと思う。
「うふふ、奴隷生活も楽しかったですが、これからはもっと楽しくなりそうです。よろしくね?アウル様!」
言い終えたと同時くらいに抱きしめられて・・・・・頬にキスされてしまった。
え?キスされてしまった?何が起こってるんだ?・・・ただ、ヨミの唇はとっても柔らかかったのは間違いない!!なんなら押し当てられている胸が最高です!!
「あぁ~~!!ヨミの裏切り者!私だって!!」
負けじとミレイちゃんが俺の頬にキスしてくれる。
・・・そうか!ここが天国なんだな?!俺はこういう展開、嫌いじゃないぞ?!
ただルナはそんな二人に張り合うことなく、俺の方を見つめながら自分の唇に人差し指の腹を当てていた。
「やっぱりあの時のって…」
「ふふっ、ご主人様。あれは2人だけの秘密ですよっ!」
「なになに??」
「?!どういうことよルナ~!」
やはりヨミは察しがいいらしい。
「内緒だよ~!!」
楽しそうに笑うルナの顔は、太陽に照らされたせいかとびっきりに輝いて見えた。
「あっ、忘れてたけどイナギって今どうしてるんだ?」
「変わったほうが早いですね」
変わったほうが?ってまさか。
『やっとでてこれたか。やぁ主殿。昨日ぶりだな』
「…イナギも元気そうだね。色々と話を聞きたいんだけど?」
『そうだな、ここではアレだから場所を移すとしよう』
我が家へと帰宅してみんなに集まってもらい、イナギの話を!と思ったのだが、お腹が空いたので朝食が先だ。
朝食はマリアーナさん、ルナ、ヨミが手伝ってくれたので、一瞬で作り終わった。
蜂蜜たっぷりパンケーキ、スクランブルエッグ、厚切り炙りベーコン、ごろごろ野菜のスープ、アプルジュースだ。
「・・・アウル君のところのご飯は本当に美味しいのね。旦那を捨てて私もアウル君を狙おうかしら・・・」
マリアーナさんが不穏なことを言っているが、完全に無視である。
「アウルさんのご飯は美味しいです。あっ、アウルさん!?胸の谷間に卵が落ちてしまいました!取ってくださいませんか?」
うむ、ティアラはかなり残念な性格のようだな。ちらっとレティアに視線を移しても、もはや我関せずといった様相で黙々とご飯を食べている。
しかし谷間に卵か・・・。それはいかんな。実にけしからん卵だ。どれ俺が成敗して―――
「アウル・・・?」
「アウル様・・・?」
「ご主人様・・・?」
「さーて、ご飯も食べたしイナギについて話そうか!」
俺の華麗なスルースキルはもはや神の域に達しているかもしれない。
「では変わりますね」
『ふぅ・・・。何から話せばよいのだ?』
そうだな、聞きたいことはたくさんあるけど。
「邪神教がなにを目論んでいたかは知ってる?」
『邪神教・・・?なんだそれは』
知らない・・・?もしかして邪神の一部ごとに自我があるのか?
「イナギは邪神の一部と言ってたけど、その欠片ごとに自我があったりするの?」
『それは是であり、非でもあると思う。ただ、我も欠片ゆえに完全な知識ではなくてな…』
「じゃあ、欠片を集めて回ればいいのか?」
『そう簡単な話ではないかもしれぬ。…我は邪神の中の【善】を司っていた欠片故に危険は少なかったが、他の欠片はそうはいかないかもしれぬ。欠片によっては凶悪な奴もいるだろうからな』
邪神にも【善】な部分ってあるのか。でも言われてみれば思い当たる節もある。
あの時、消耗していたから苦しい闘いだったけど、全快の状態だったら余裕をもって勝てた気がする。
言動こそあれだったけど、俺が死なずに勝てたのはイナギが【善】の欠片だったからなのかもしれない。
「じゃあ、他の欠片は集めないほうがいい?」
『それは、我にも分からない』
・・・へ?どういうこと?
『これは誰にも伝承されていない事だろうが、我を封印したのは我自身なのだ』
「自分で自分を封印したってことか?」
『正確には、邪神が【善】の部分の我のみを封印したのだ』
あぁ、やっと意味がわかった。善を自分の中から完全に排除したってことだったのか。
「意味がわかったよ。それでイナギが封印されて、その後にまた別の誰かによって邪神が封印されたってことだよね?」
『そういうことだ。我も封印されていた故、この世界の各地に邪神が封印されたということしか分からぬ。だから、その封印についての詳細を知らぬので、どうしたら良いかは分からぬ』
そういう事だったのか・・・。なんともまぁ壮大な話だ。ここでエドネントが残したあの本が重要になってくるんだな。
「イナギは欠片を取り戻したい?」
『うむ、できれば取り戻したいと思うぞ。でなければずっとこの娘の体に宿ることになってしまうからな』
これは難しいぞ。・・・少し考える時間がほしいな。
「とりあえず話は分かった。当分は申し訳ないけど、ルナの体の中で眠っていてほしいんだけどいいかな?」
『仕方あるまい。我もどうすればよいか考えてみるとしよう』
これで本当の本当に一段落だ。考えないといけないことは多いけど、とりあえずは一件落着かな。
これからどうなることやら・・・。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
矛盾や気になる点多いかもしれませんが、生温かい目で見守ってください・・・。




