ep.73 vs邪神教③
お陰様で【ネット小説大賞受賞】させて頂きました。これからも細々とですが更新頑張りたいと思います。あまりこちらで広告とかしたくないので、詳しくは活動報告の方に書かせてもらっています。是非見てやってください。
SIDE:アウル
青龍帝に言われて半ば仕方なく砦へと進むが、目の前に魔力の結界のようなものがある。これに感知されれば呪いが始まってしまうのだろう。
相手の強さが分らないのに、30分という時間制限をつけるのはあまり得策じゃないとおもうんだよなぁ。・・・そもそも感知されなければ良いのではないか?
魔力の結界ならばバレずに進むことが出来る気がしてならない。目には目を、結界には結界をってか?とは言っても、俺は結界張れないし無意味なんだけど。
愚痴ってもしゃーないし、申し訳程度に聖属性の魔力でも纏っとくか。ヨルナードに言われて魔纏の練習した成果がここで活きたな。今度お菓子でも作ってやろう。
結界を越えるとねっとりとした魔力の壁があったが、なんとか通ることが出来た。一応聖属性の魔力を纏ってはいるけど、なるべく早く青龍帝の娘を探した方が良いだろう。
空間把握!
うおっ?!予想の10倍以上広いぞ…。地下もかなり広いみたいだし、これを30分なんて無理だろう。・・・俺じゃ無ければ。
至る所に警備をしている男や女がいるな。というかほとんど女ばかりか。きっと男のほとんどが学院へと攻め入っているんだろう。
いつもはここにあの人数がいるのかと思うとさすがに忍び込むのは無理だが、ちょうど良いと言って良いのかここにいる警備は30人もいない。
ニヤリ
「助け出した暁には全員捕縛して、ついでに蓄えているだろう素材や金品を頂いてしまおう」
そうと決まれば善は急げだ。幸いこんだけ広くても空間把握のおかげで迷うことも無い。そしてすでに青龍帝の娘と思われる存在も見つけたし、かなり順調だ。
気配遮断しながらバレないように且つスピーディーに移動していくと、後もう少しというところであることに気づいてしまった。
「・・・青龍帝の娘のところに行くにはこの部屋を通らないと行けないのに、あきらかに敵が待ち構えてるんだよなぁ。それも俺の知っている人が」
人間不信になりそうだよ…。嫌いじゃ無かったのに、こんなところで会うってことは、戦闘は不可避だよねきっと。
そう思いながら扉を開けると、中は30m×30mくらいの大きな部屋に出た。そしてその中央には見知った人が立っている。
「何でこんなところにいるんですか?・・・モニカ教授」
普段の教授からは感じられない覇気を感じる。髪も綺麗に梳かしてあるし、なによりちゃんと服を着ている。別に普段も着ているのだが、今は何というか少しセクシーなドレスを着ているのだ。
ただ、そのせいか残念な胸が余計残念に感じる。・・・日頃ルナやヨミのを見慣れているせいか、なんだか可哀想とすら思ってしまった。
「おや、誰かと思ったらアウルじゃないか。それこそ私の台詞だ、何故こんなところに?というか何か失礼なことを考えたな?」
「質問を質問で返すのは教授としてどうかと思いますよ?・・・ただ時間が無いので言わせてもらいますが、この部屋の奥にいる家出性の青龍帝の娘を連れ帰りに来たんですよ。・・・いえ、貧富の差について考えていただけなので気にしないでください」
「あぁ、そっちか。年頃の女の子だしまだ家には帰りたくないんじゃないかな?女性に無理強いをするのは感心せんぞ?」
そっちか。だと?・・・そう言えば青龍帝も俺の真に探す人がとか言っていたな。ほかに誰かいるのは間違いないようだ。
モニカ教授は何故か自分の胸に手を当てながら少し俯いている。「・・・貧富の差・・・」と呟いている気もしたが、きっと気のせいだろう。
確認するが早いか「空間把握」を発動して念入りに探すと、巨大なドラゴンの近くの部屋に倒れ込んでいる人間が3人いるのが分る。そして、かなり状況が芳しくないと言うことも。一刻も早く回復魔法を使ってあげないと命が助かるかどうかギリギリのラインだ。
「こんな問答してる時間すら勿体ないので、通らせてもらいます!」
全力の身体強化、感覚強化、遅延呪文を発動する。さらに本気の魔力重圧とダウンフォースを教授に向けて発動した。
「うぐっ・・・これほどか君は・・・!」
さすがに初手でここまでやられるとは思っていなかったのか、完全に動きを止めることに成功した。急いで横を通り過ぎ、次の部屋へと行こうとした。
直感と言うべきだろうか?特に前触れも無く、ただなんとなく扉を掴もうとした手を引っ込めて横へと本気で跳んだ。
「ほう。これを躱されたのは初めてだぞ」
なに?!さっき完全に動きを止めたはずだ。あと15分は動けないように魔法を発動したはずなのに、もうすでに掻き消されてるし。
何かしたのは間違いないんだろうけど、何をしたかすら分らなかった。さっきの攻撃を躱せたのも本当にたまたまだ。躱せたのは偏に、ヨルナードとの模擬戦や迷宮での修行をしているおかげだろう。
俺がさっきまでいたところに視線を移すと、何か鋭いものが通ったかのように地面が抉れていた。
「・・・教授ってもしかしてめちゃくちゃ強いですか?」
「私が弱いなんて一言も言ったつもりなかったけどね?」
っち!ここにきてまさかのヨルナード級かよ!俺って何でこんなに運無いんだろう・・・。ステータス値上では運高いはずなんだけどなぁ。
ステータス嘘つくじゃん!畜生!
広いといっても暴れまわれるほどの広さはないし、殺すつもりもない。さらには時間もあと15分くらいしか猶予がないときている。これはちょっと厳しいぞ?
「来ないならこっちから行かせてもらうよ!」
言葉と同時に教授の姿が消えた。空間把握で位置は把握できるが、どうやら超高速で部屋中を縦横無尽に駆け巡っているようだ。
「教授はなぜ邪神教に入っているのですか!」
「・・・・」
くそ、声掛けも意味なしかよ。仕方ない、死なない程度に切るしかないな。収納から瞬時に杖を出して構える。型は八相の構えだ。
杖には十分に魔力を纏わせているが、さっきの見えない鋭い攻撃を防ぎきれるかは分からない。これはある意味一か八かの賭けでもある。
構えを解くことなく待っていると、微かにだが右から殺気が感じられた。それを確信した俺は、技を殺気目掛けて的確に発動した。
《杖術 太刀の型 陽炎》
「残念、その殺気はフェイクだよ」
唐突に左から教授の鈴の音のような声が耳へと届いた。すでに左へと振りかぶっている俺が止められる道理は本来ならば無い。そう、本来ならばだ。
「そうだと思ってましたよ教授。そう来ると、いえそう来てくれると信じていました」
俺の言葉とともに、左へと振りかぶっていたはずの俺の姿が掻き消え、右へと既に攻撃を発動している俺へと姿勢が変わった。
「なにっ?!」
『陽炎』は文字の意味の通り、蜃気楼のようなものを発生させる技だ。前世では殺気や氣などで自分の気配を相手に誤認させる技だったが、この世界での陽炎は一味違う。魔法を応用して本当に蜃気楼を発生させているのだ。
教授も咄嗟に俺の攻撃に合わせたが、一瞬早く杖の攻撃が教授の鳩尾へとヒットした。死なないように手加減する余裕がなかったため、ほぼ本気の一撃だったと思う。
それでも流石というべきか、ヒットの瞬間後ろへ僅かに飛んだのだろう。手応えに違和感を感じたのだ。これなら死んでいるということもないはずだ。
「勝負あり、ですね教授」
「・・・まさか、覚醒もしていない子供に負けるとはね。まさか恩恵を使う間もなく倒されるとは思わなかったな」
「覚醒?恩恵?」
「・・・そうか、君はそんなことも知らないのか。邪神教で知りたいことももう無くなっていたし、次は君のところでお世話になろう。敗者はただ従うのみ、ってね。うふふふ」
いったい何の話だ?教授は邪神教じゃないのか?というかお世話ってなんだよ!
「教授は邪神教じゃないんですか…?」
「心外だね。邪神教に入ってはいたけど、邪神そのものには興味はないよ。私は自分の知的好奇心のためにここにいるんだ」
だめだ、全くわからん・・・。この人が何を言ってるかわからないけど、とりあえず敵ではないのだろう。なんとなく厄介そうな予感はするが、今それを気にしている余裕はない。
「ってそれどころじゃない!青龍帝の娘を助けに行かなきゃ!」
「早くいくといい、私はまだやることがあるからね。近いうちに君の家にお邪魔するから、その時はよろしく頼むよ」
「わかりました!」
会話を終えて急いで青龍帝の娘のもとへと走るが、全くと言っていいほど敵の姿がない。気配察知や空間把握にも反応がない。ここは本来教授の担当だったのだろうか。
魔法を使っても全く効いてなかったし、あの人の能力は未だに未知数だ。たまたま接近戦を仕掛けてくれたおかげで勝てたけど、もっと違った戦い方だったらどうなったかは分からない。
「・・・世界はまだまだ広いな。っと、着いたみたいだな」
大きな扉のある部屋へと辿り着いたが、大きな南京錠がいくつもついており簡単には入れてくれなさそうな感じがする。
試しに刀で切ってみたけどまったく切れる気配がない。魔法をぶち込んでもいいのだが青龍帝の娘に当たったら目も当てられない。(←うまいこと言った!)
「時間ないのに・・・。あっ」
頭が固くなってたかもしれないな。全開で身体強化を発動してっと。
「よいしょーーー!」
力任せに蹴り破ってみた。・・・扉の隣の壁を。
そこまで厚くなかったのか、ガラガラと音を立てて崩れていく壁。なんだか『扉クン』が悲しそうな気配を醸し出しているが、同情するつもりなどない。
中に入ると複雑で大きな魔法陣の中に苦しそうに横たわっているドラゴンが見える。これがきっと娘なのだろう。かなり苦しそうなのであまり時間はない。
「いま助けてやるからな」
『ぐる……?』
呪いの源を探知してやると、娘ドラゴン自体からは全くその気配がない。どうやら呪いはこの魔法陣が媒介となっているようだ。
「対象さえ分かればこっちのもんだな」
セイクリッドヒール!
1/4の魔法陣が消えたか。一回でそれしか消えないとかどんだけ気合い入れてんだよこの魔法陣。てか今更だけどこの魔法陣どこかで・・・。とりあえず悩んでも仕方ない。
セイクリッドヒール×3!!
神聖な光とともに魔法陣が消えていき、苦しそうに鳴いていた娘ドラゴンの雰囲気が少し落ち着いたように思う。
「ってまだ助けないといけない人いたじゃん!」
急いで近くの部屋に入ると、今にも意識を失いそうな大人2人と子供1人がベッドに横たわっていた。
セイクリッドヒール!パーフェクトヒール!
回復魔法のおかげで一命は取り留めたように思うけど、失った体力は直ぐには戻らない。気休め程度にはなるだろうけど、本格的には美味しいご飯と十分な休養が必要だろう。
安心したように眠り始めた3人を見ていると、誰かに似ている気がする。特に子供のこの子だ。綺麗な銀髪で整った顔立ち。そう、まるで・・・!!
・・・そういうことかよっ!!くそったれが!!
早くこのことを伝えなきゃ!!とは言ってもまだあまり動かしたくないし、なにより娘ドラゴンも連れて行かないといけない。
思ったより足止めされちゃいそうだな・・・。急がないと!
まず最初に何をやるべきだ?・・・この砦の中を自由に動き回れるようにならないといけない、か。善は急げだな。
空間把握!気配察知!
「教授もまだ砦の中にいるけど、あの人ならきっとなんとかしてしまうだろ」
この広い砦内を一瞬で蹂躙できて、且つ無力化できる属性といえば一つしかない。
「迸れ稲妻、地を這い彼の者らの自由を奪え、雷獣"サンダーサーペント"!!」
この技は最近開発した意思を持った雷の魔獣を発生させる技だ。初めて使ったけど今のところいい感じだと思う。ただ、詠唱しないと使えないのが難点だな。
発動したサンダーサーペントは物凄い速さで邪神教徒のもとへと迫って噛み付き、その後縄の代わりに教徒を縛り上げていっている。教授にも一匹向かったのだが、難なく解除されてしまった。やはり只者ではないようだ。
「よし、安全は確保できたか。ひとまず青龍帝を呼びに行こう」
全力で移動して砦の外へと行くと、美女が一人でそわそわしながら待っていた。どうやら落ち着かなくて周囲を歩き回っていたらしい。
「今戻った!」
「私の娘は?!」
「安心してください、もう大丈夫です。ただ、ちょっと手を貸してほしいのです」
娘ドラゴンの他に人間が3人いて保護したことを話した。そしてその安全を確保してほしいとも伝えた。娘ドラゴンも人化できると聞いたので、ひとまず俺の家へと来てもらうことにしよう。
閉じ込められていた場所に2人で向かって、人質3人と娘ドラゴンを回収して転移を発動してもらった。再び物凄い乗り物酔いのようなものに襲われたが、あっという間に王都へと到着した。
一気には運べなかったので2往復することになってしまったが、無事にみんなを救い出すことに成功した。あとは青龍帝にここを守っていてもらえれば問題ないだろう。
「ありがとう青龍帝。これは多分だけど起死回生の切り札になると思う」
「いや、感謝をするのは私のほうだ。・・・ふふふ、ひとまず学院へ向かうといい。まだ助けたい人がいるのであろう?」
「あぁ!俺の大切な人だ。行ってくる!」
ルナが邪神教に着いていったのはそのためだったのだ。やっぱりルナはルナだ。絶対に助け出さないとな。
そう言い残して俺は学院へと走り始めた。
【次話予告】
一緒に助けた人質はルナの家族だった?!
学院に着くと操られているのかルナの様子がおかしくて、家族のことを話しても聞く耳を持たない!突如襲ってくるルナとの激戦が始まる!
次話『アウル 死す』デュエルスタンバイ!
※嘘です死にません。つい出来心で・・・。
ルナvsヨミ&ミレイちゃんの戦いの様子は今度【外伝】のほうで書きます。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたらうれしいです。




