ep.72 vs邪神教②
SIDE:アウル
邪神教やら青龍帝やらがもうすぐそこまで迫っているというのに、このタイミングでのグラさんのぶっちゃけ発言。
「グラさん許すまじ…」
「おお?許してくれるか!恩に着るぞアウル!」
・・・あ?何言ってんだ?
許すまじ・・・許すマジ?ってあほかーーい!!
言い直してやろうとしたら、もうすでに人化したまま邪神教がいるところへと走り出してやがる。いや、違うな。逃げ出してやがる。
あんの駄龍ーーー!!!
この鬱憤は敵に全てぶつけよう。大魔法使ったらたまたまグラさんがそこにいて、たまたま当たってもそれは仕方のない不運の事故だもんな。
「…ご主人様が悪い顔をしていらっしゃいます」
「しっ!見ちゃだめよヨミ!」
2人が何か言っているがもはや関係ない。
すでに邪神教のやつらも魔物から降りて地上へと降りてきているし、これは好き放題やらせてもらおう。
とは言っても俺の最大の目標はあのバカでかい青いドラゴンだ。
グラさんの力を借りられない今は自分の力だけが頼りとなる。ディンやクインの力も借りたいけど、何かあったら困るし…。
「ジレンマだな…。しゃーない、俺もそろそろ行こうかね」
「ご主人様、私たちもルナを探します」
「私たちで絶対ルナを連れ戻すから!」
「多くは言わない。ただ、死ぬな。そしてルナを頼む」
「「はい!」」
2人もルナのいるところへと走り出した。場所は俺がおおよその位置を教えているので、難なく辿り着けるだろう。
空にはまだ悠然と飛んでいる青龍帝が見える。背中にはたくさんの邪神教徒が乗っているのだろう。
というか、あんなデカいドラゴンが現れたら今頃王都中パニックだろうな。
レブラントさんや騎士団の人たちが上手くやってくれているといいけど。
GYAoooooooooooo!!!
「っと、向こうもそろそろ戦闘態勢みたいだな!!」
青龍帝までの距離はおよそ800mないくらいか?いくら、学院の敷地が広いと言っても限度はある。
あまり大規模な魔法を使ったら街にも被害が出てしまうし…。使えるのは小中規模程度、且つ威力の高い魔法だな。
最初にやるべきは雑魚敵の掃討だろ。死なない程度に加減して…
「サンダーレイン!」
邪神教徒たちが集まっているところめがけて、落雷が降り注いでいくのが見える。
っち。腐っても赤龍帝か。全部避けてやがる。
まぁでも敵勢力の3割は削れたかな?…なんか騎士団や学院の生徒たちに物凄い見られているけど、気にしている暇はない。
気にしている暇はないのだが、なんだか強すぎる視線が1つあるぞ・・・?
そう思いながらその視線の主を探すと、完全に青龍帝様がこちらをじっと見ているではありませんか。
よく見ると青龍帝の背中にはもう邪神教が乗っておらず、完全に臨戦態勢のご様子。
「今ので完全に敵として認識されちゃったかな?」
まぁ、こちらの思惑通りではあるのだが。とりあえずの問題は、青龍帝が呪いでここにいるのかどうかということだ。
最善は操られていて、本来の能力が出せない場合。これなら俺にもまだなんとかなる確率が高い。なんとか凌ぎながら呪いを解呪してやれば青龍帝については解決するだろう。
最悪の場合は青龍帝が呪いで操られている訳ではなく、自分の意思で邪神教に協力している場合だ。もしそうだった場合、本当に厳しい戦いになることが予想される。
試しに話しかけてコミュニケーションを取ってみるしかないか。
「青龍帝よ!もし俺の声が聞こえているのなら反応してくれ!」
『先ほど雷魔法を使った人の子ですね?あなたに恨みはありませんが、私も時間がないのです』
言い終えると同時に大きく口を開け、そこから水弾が放たれた。避けるのは容易いが、後ろには騎士団や生徒がたくさんいる。その後ろには学院があるせいで俺は避けるという選択肢は極力選べない。
・・・邪神教といい青龍帝といい、なんでこうも俺を制限して戦わせるのが好きなんだろうか。って今はそれどころじゃないか!
「障壁展開!」
通常より魔力を込めたものを10枚展開したが、これで防ぎきれるか?
ドンッ!!!
「ぐぅっ!!・・さすが青龍帝の魔法、ただの水弾だけでこの威力とは恐れ入る」
『・・・魔法?勘違いしてもらっては困ります。今のはただ水を飛ばしただけで、魔法ではないですよ』
「なん・・・だと?」
一度は言ってみたかった台詞をこんなところで言わされるとは思いもしなかったな。それにしても、さっき青龍帝は時間がないって言っていた。
もしかしたらなにか邪神教に従わないといけない理由があるのかもしれない。とは言ってもこのまま防戦一方のままではすぐに負けてしまうか。
ひとまず相手を怯ませるくらいにはダメージを与えないと、話にもならないだろう。相手は水属性を司るドラゴンだし、雷属性が弱点なのは明白だ。
超電磁砲を使えばダメージを与えられるかもしれないが、もし避けられたり防がれでもしたら俺がやばい。あんな隙の多い技は使うのはここぞってときでいいだろう。
ひとまず様子見か。
「俺も青龍帝に恨みはないが、学院を壊されるわけにはいかないんでね!」
サンダーレイ×10!!
威力は少なくとも、速さにはかなり自信のある技だ。使い勝手もいいし様子見にはちょうどいいだろう。
『…嘗めているのですか?』
迸る光線が青龍帝へと迫るが、薄い水壁によって簡単に防がれてしまった。本来なら水に対して強いはずなのに、水壁を貫くことなく掻き消された。
「・・・さすが青龍帝サマだな。その水壁、超純水でできてやがるな?」
『驚きです。超純水を知っているとは思いませんでした。しかし、その程度の威力では雷にはほど遠いですね』
しかし、これ以上大きいといい的になってしまいますね。と言いながらいきなり光り始めたと思ったら、巨大だった青龍帝が3mくらいの大きさにまで小さくなってしまった。
「なんでもありか・・・?」
『格の違いを教えてあげますよ。本気で抗いなさい』
"水弾"
さっき飛んできた水弾は直径10mはあろうかという大きさだったが、今飛んできたのは直径1mくらいの大きさの水弾だ。
「さっきの水弾のほうが…?!」
障壁×10!!
さっきは広範囲で展開した障壁だったが、今は重ねて展開した。そうしないと防ぎきれないと直感したからだ。
パリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリン!!
威力はかなり減衰させられたが、展開した障壁は全て破られてしまった。それでもなお俺へと迫る水弾を指輪の障壁でなんとか防ぐことが出来たが、衝撃は防ぎきれずに吹っ飛ばされてしまった。
「おいおい、嘘だろ…?」
急に体中に嫌な汗が流れているのが分る。そして、青龍帝が本気を出せば俺なんて一瞬で屠られるような存在であるということも…。
『人間にしてはやりますね。本当ならもっと遊びたいのですが、時間がありません。…死になさい』
さっきの衝撃だけでもかなりのダメージだというのに…。
エクストラヒール!
「勝負はこっからだぞ!」
『・・・・』
この魔法は一度使って以来、強すぎて使うことはないと思っていたけど、もはやそんなことを言っている余裕はないな。
「六龍招来!」
火・水・風・土・氷・雷の属性龍を魔法で作り出す荒技だ。かなりの魔力を消費するが、俺の持つ技では三本の指に入るほどの威力を誇っている。さすがの龍種でもこれで無傷とはいくまい!
六匹の魔法龍が青龍帝へと向かっていく。ただ、さすがにその攻撃を食らうつもりはないのか、相手も魔法を発動した。
『…龍を操るか。水龍召喚』
青龍帝の発動した魔法は一匹の水龍を召喚する物だったが、俺の発動した魔法とは規模が違うものだった。俺の六龍は命令に従うだけのものだが、青龍帝の水龍は自律して攻撃してくる。
俺の六龍と青龍帝の水龍がぶつかり、ものすごい爆発が起こった。そしてその爆発とともに水蒸気が一面に広がった。ここまで来ればもはや霧のレベルだな。
「やばっ!…魔力でできた霧か?周囲の状況が分らんぞ」
『人の子よ。この霧の中ならば私も話すことが出来ます。聞きなさい』
何が起こっているんだ…?
『邪神教に私の仔龍が人質に取られています。ただ人質に取られているなら私でどうにでもなりますが、そうもいかないのです』
「…呪い、ですか?」
異次元レベルの強さを持つ青龍帝が邪神教に従う理由なんて、なにか理由があると思っていたがまさか子供を人質に取られていたとは。
『その通りです。…先ほどあなたは回復魔法を使っていましたが、もしかしたら聖属性の魔法を使えるのではないですか?』
「まぁ、使えますが…!」
あぁ、そういうことか。魔法の霧で結界のようなものを作ったのは邪神教の監視から逃れるためだったのか。そして、俺にお願いしたいのはその解呪ってとこか。
『察したようですね。…あの呪いは普通の呪いとは違います。我々龍種ですら防ぐことは敵わないものです。恐らく、邪神の力を流用しているのでしょう。理由は分りませんが、あなたからは微弱ながら神の気配を感じます。あなたが聖属性、それも強力な聖属性を使えるのはそのせいでしょう。そんなあなたに私の娘を助け出して欲しいのです』
なるほどね…・。きっとグラさんと同じように呪われたのだろう。ルナは確か触媒を使った呪いだと言っていたが、その力の源は邪神のものだったのか。
そういえば、ルナは呪いに詳しかったがそれもなにか関係があるのか…?
「わかりました。俺に出来ることなら手助けします」
『そうですか、なら早いほうがいいですね』
言い終えるが早いか再び体が光ったかと思うと、綺麗な青髪のモデル体型な美女が立っていた。
・・・・・裸で。
「えっ、っちょっ…!!ふ、服着てください!!」
『ん・・・?そうか、人化なんてすることないから忘れていましたね。…これでよろしいですね』
青龍帝が魔力で作り出した服は童貞を殺す服そのもので、何というかご馳走様です!
『私に掴まれ』
差し出された手を掴むと、もの凄い乗り物酔いになったかのような気持ち悪さとともにあたりの景色が変わった。
「ここは…?」
青龍帝はどうやら転移魔法を使えるらしい。俺も初めて経験したが、あまり好きにはなれそうにない魔法だな…。
『・・・ここに私の娘が捕らわれています。そして恐らくあなたが真に探している人も』
俺が真に探している人…?誰だ…?悩んでも仕方ない、行けば分るだろう。
『私の娘を頼む…!』
青龍帝が言うにはここは龍避けの結界が張られているらしく、入ることが出来ないのだという。正確には入ることが出来るのだが、入った途端に感知されて呪いが一気に進行して死んでしまうらしい。
「じゃあ行ってくる。絶対に助け出すから」
『制限時間は30分だと思います。ここは龍種でなくても人が入ったら恐らく呪いが進行し始めるでしょう。本当に申し訳ないですが、どうかよろしく頼みます…!』
視線を移すと、そこには大きな砦のような建物が見える。確かに魔力の結界のような物が感じられる。それもかなり高度な感じのやつだ。
「ふー・・・。腹くくるしかないな」
全開で身体強化をかけて使い得るものを展開して、砦へと走り出した。
SIDE:ルナ
私の目の前にはボロボロになって倒れたヨミとミレイがいる。戦いたくはなかったけど、2人は死んではいない。そもそも殺す気は全くないのだけど。
怪我をして戦闘不能になるだけでいいのだ。邪神教は邪魔者は全員殺せと言っていたけど、私にこの2人は殺せない。・・・殺したくない大切な人だ。
「ごめんね…絶対あとで報いは受けるから」
細々と更新します。
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