ep.71 vs邪神教①
その日の夜、ある夢を見た。ある少女の家族が悪い奴らに人質に取られ、女の子が苦しみながらも悪事を働いているという夢だ。
「…夢、か。妙にリアルな夢だったな。それにあの女の子、きっと…」
ピコーン!
今の時間はまだまだ夜だろう。恐らくだが、朝まで3時間はあるだろうから、朝方3~4時くらいか。
そんな時間だというのに邪神教の奴らが動き始めただと?この調子だと、明け方すぐくらいには襲撃してくるじゃないか!
大分まずい!予想より相当早いぞ?!急いで国王の所へ行かないと!
…念のためにグラさんも連れていくか。今頃リビングのソファーで寝ているだろうが、この際仕方あるまい。
ミレイちゃんとヨミにも声がけして準備を促す。
「グラさん! 奴らが動き出した! 国王の所へ行くから付いてきてくれないか?!」
「国王…?あぁ、あのハナタレ坊主の所か。いいだろう、一緒に行ってやる」
国王をハナタレ坊主って…。流石と言うべきかなんというか。
全速力で王城へと走ったのだが、俺の最大身体強化した速さにも余裕で着いてくるあたり、ドラゴンと言う存在の理不尽さが窺い知れる。
…こっちはいっぱいっぱいだってのに、そんな涼しい顔されると自信なくすぞ!
それでも尻を叩かれながら走ったせいか、過去最速だった気がする。
夜だというのに衛兵の方は真面目に働いているのを見ると、この国も悪い奴らばかりでは無いのだと思ってしまった。
たまに碌でもない貴族なんかがいると、そのインパクトが強すぎて貴族全体が悪く見えるから不思議だ。
俺が人間関係に恵まれていて、質の悪い貴族とあまり絡みがないせいもあるが。
そういや、帝国の3年生は下級生を使って俺を潰そうとしたんだっけ。
…やっぱり貴族と言うのは質が悪いな。
時間も夜だというのに、国王へはすぐに通された。どうやら寝ないで作戦や情報収集を行っていたらしい。
「陛下、このような時間に申し訳ありません」
「そこまで言わんでも分かる。奴らが動き始めたのであろう?」
「はっ、その通りでございます」
「情報感謝する。…こうなるのではないかと思って一応準備はしておった。お主が来た時点で既に伝令を走らせているから安心せよ。…まさかとは思うが、隣にいらっしゃるのは赤龍帝殿ではないか?」
「赤龍帝?」
「ようハナタレ坊主、ずいぶん大きくなったじゃねぇか。そういや赤龍帝なんて呼ばれてたこともあったなぁ」
どういうことだ?グランツァールはレッドドラゴンじゃないのか?
「あぁ、アウルには言ってなかったか。俺も広義的にはレッドドラゴンで間違ってないんだけどな。レッドドラゴンの中でも特に力の強い一体のことを赤龍帝と呼ばれるのだ」
えっええ~?!まさかの新事実なんだけど…。グラさんってそんなに凄い存在だったの?!
だとすると、そんな存在に呪いをかけた奴って何者なんだ…?まず間違いなく厄介な相手なのだというのは想像に難くない。
「おお、やはり赤龍帝殿でしたか!あのときお会いした姿から全くお変わりないですな!」
「当たり前だ。俺らは数千~数万年生きる種族だからな。今回は相手方にもドラゴンがいるって言うじゃないか。それに、今回の相手には俺もちょっとばかし貸しがあるからな。手を出させてもらうぞ」
グラさんが赤龍帝だと分かってからは、国王の顔つきもやや温和なものになった。
さっきまではずっと難しい顔をしていたが、これで大分戦力増強になって撃退する目途がたったのだろう。
「では申し訳ないが、赤龍帝殿には相手側のドラゴンの相手をお願いしたい」
「おう、任せておけ。絶対に食い止めて見せよう」
呪いは俺が解けばいいのだが、完全に支配されている状態での解呪は成功するか不明なので、グラさんに抑えてもらう必要がある。
それに、どこかに呪印があるはずだ。それさえ見つけられれば何とかなるかもしれない。
「アウルは変わらず遊撃に回ってくれ。各場所の隊長、団長クラスにはお主のことは通達してある。できれば厄介そうなところから撃破してもらえたら助かるがな」
だろうと思ったよ。人使い荒すぎるんだよなこの国王。それができるから国王なのかもしれないけどさ。
報告を終えて家へと戻ると美味しそうな匂いが外まで広がっている。朝ご飯はトンカツかな?
「ただいま、国王に報告してきたよ。朝ごはんを食べたら俺たちも学院へと行こう」
「お帰りなさいませ。験を担いで朝食はトンカツとさせていただきました」
「私も作るの手伝ったんだからね~!」
「ありがとう2人とも。…そう言えば2人のステータスを最近見てなかったね。ついでだから確認しておこうか」
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♀/ヨミ/16歳/Lv.108
体力:5900
魔力:7600
筋力:220
敏捷:300
精神:310
幸運:45
恩恵:色気
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♀/ミレイ/11歳/Lv.64
体力:3400
魔力:6200
筋力:130
敏捷:220
精神:200
幸運:60
恩恵:効率化
◇◆◇◆◇◆◇◆
2人とも強くない…?ヨミに至ってはもうすぐで俺に追いつきそうじゃん。
普段どれだけ鍛えてるんだよ。レベルは100を超えた辺りからかなり上がりづらいというのに。
ミレイちゃんも急激に強くなってるし、これなら少しは安心できるかもしれない。
そういや俺はどんな感じだろう?
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♂/アウル/10歳/Lv.158
体力:10200
魔力:42500
筋力:430
敏捷:390
精神:690
幸運:88
恩恵:器用貧乏
◇◆◇◆◇◆◇◆
おおう…。朝の鍛錬はかかさずにやっていたおかげもあって、魔力の伸びはかなりいいな。
と言っても小さかったころに比べれば、伸び率はかなり落ち着いてしまったが。
もうすぐ11歳になるし、もっと強くなるには鍛錬の時間延ばすしかないか~。
農作業しながらできる魔力の鍛錬を考えよう。
「うん、みんなかなり成長してるね。特にミレイちゃん、どんだけ無茶したか分かるような成長率だよ」
「当たり前だよ。あとで後悔したくないもん」
俺の周りにはつくづくいい女しかいないな。変なのも多いけど…。
ヨミとミレイちゃんが作った朝ご飯を食べ終え、それぞれ装備を準備する。
グラさんはドラゴンが出張ってくるまでは素手で戦うとのことなので、手ぶらでいいらしい。尻尾も隠さずに、最初から全開で飛ばすそうだ。
「よし行くぞ!」
※※※
学院に着くと既にたくさんの騎士が迎撃の準備を進めていた。よく見ると、第2騎士団の団長と副団長も見える。
そして騎士団員の中に紛れるように、制服を着た生徒たち見える。
国王は3年生だけと言っていたが、2年生や1年生もちらほらいるらしい。
人が足りなかったのか、はたまた家の意向で来たのかは不明だが、その判断が吉と出ればいいが…。
「アウル久しぶりね」
「うぉわ!?…ってミレコニアさん!どうしたんですか?先輩もこの戦いに?」
「まぁ、そんなところよ。それにしても・・・アウルったら酷い顔してるわよ。嫌な夢でも見たの?」
夢…?そう言えば夢を見たんだった。なにか重要な夢だったと思うんだけど、敵が動き始めたせいですっかり忘れてた。
どんな夢だったっけ…?
「確かに夢は見たけど忘れちゃいました。それにしても、俺に何か用でもありましたか?」
「ふふふっ、何か用がないと話しかけてはいけないの?」
「あっいや、そういうわけでは」
「そうよね。私とアウルの仲だもんね?」
そう言いながら俺の腕に抱きついて胸を押し当ててくるミレコニアさん。
きっとおそらくまた故意に当ててているのだろう。
「おっと、これ以上はそこの2人が黙ってなさそうだから止めとくわね。…いいアウル、絶対に自分を見失っては駄目よ。それじゃあね!」
またもや飛び跳ねるように去って行ってしまった。まったくもって嵐のような人だ。
にしても、「自分を見失うな」か。どういう意味だろう?
はっ?!殺気?!
後ろからの殺気に振返ると、そこにはムスッとしたミレイちゃんと、とてつもない笑顔なのに背後にオーガロードが見えるヨミがいた。
・・・このあとミレコニアさんについて尋問されたのは言うまでもないだろう。
こんな時だってのにブレないね君たち・・・。
しかしこの争いを止めてくれたのは、意外にもグラさんだった。
「まぁまぁ、その辺でやめておいてやれ。己の男がモテるというのは名誉なことだぞ?それだけ優れた雄を射止めたのだと誇ればいいではないか」
「それに…」とつづけたが、「なんでもない」と言い終えてしまった。
しかし、グラさんの言い分は2人に届いたようで、満更でもない感じで納得してくれた。
この2人は案外チョロいな。
「…のうアウルよ、こやつら意外とチョロいの」
グラさんも同意見だったようだな。だが、チョロいというのは時として厄介にもなりえるから要注意だな。
その後、騎士団の指示に従いながらも邪神教の動きに意識を向けていると、確実に王都に向かってきていた。ここまで来れば十中八九学院に来るのは間違いないだろう。
「みんな、やっぱり邪神教は学院に来るので間違いないみたいだ」
「ルナは私たちが連れ戻します」
「アウルは邪神教を頼んだよ!」
あっ折角なので秘密兵器を出すとしよう。
「ミレイちゃんとヨミには秘密兵器を渡しておくね」
そう言って俺が取り出したのは一体のドラゴン型ゴーレムだ。お気づきだろうが、古代都市にいたドラゴンゴーレムを持ってきているのだ。
こいつは俺に全くと言っていいほど懐いていなかったが、ルナとヨミがピンチだと伝えたら何故か思案するようになって、俺にすり着いてきたのだ。
これ幸いと連れて行こうとしたが、まさかのケーブルでエネルギー供給されているタイプのゴーレムだったのだ。
仕方ないので余っているゴーレムの核や素材を駆使して、独立型ドラゴンゴーレムへと改造させたのである。…核を3つ使用しないと独立型へと改造出来なかったが、その分出力も能力も高いだろう。
そのおかげもあって、改造した後のドラゴンゴーレムは俺にも懐いてくれたのである。このゴーレムがどれだけ強いか不明だが、ないよりはマシだろう。
それに、もともと35層程度の魔物と同程度の強さは持っていたはずなので、まず人間に負けることもないだろうしな。他にも思惑はあるが、今はいいだろう。
「ご主人様、このドラゴンゴーレムってまさか」
「そう、あのときのゴーレムだよ。念のためにね」
「名前はあるの?」
ミレイちゃんに言われて、気づいたが確かに名前をつけてなかったな。どうしようか。
「なんならヨミとミレイちゃんで名前つけていいよ?」
そう言うと2人が悩み始め、5分くらいで決まった。名前は『シュガール』にしたらしい。…シュガールってなんだっけ?なんか聞いたことが有るんだけど思い出せない。
そうこうしているうちに、遠目にだが空に黒い点が見え始めた。おそらくあれが邪神教なのだろう。・・・って嘘だろう?明らかに一匹大きすぎるドラゴンがいるのだが?おおよその大きさは分っていたけど、実際に見てみると尋常じゃないな。
「ねぇグラさん、なんか思ってたよりドラゴン大きいんだけど」
「いや、あんなものだろう。我も解放すればあれくらいになるんではないか?…王都を破壊したくないのでしないが」
とは言っても相手があの大きさなのにどうしろってんだよ…。
「ん?・・・よりによってレティアだと?!」
「レティアって確かブルードラゴンの?」
「そうだ。レティアは青龍帝とも言われていてな、我よりも強いのだ。そして何より、我はレティアに攻撃が出来んのだ・・・」
「なんで?!」
「・・・・~だからだ」
「え?なんて?」
「~~~我の想い龍だからだ!」
・・・え、えぇぇ~~~~~!?言うてる場合か!!
てか想い龍て!想い人的な感じで使ってくるなよ・・・。
「攻撃しなくてもいいから!少しの間相手だけして貰えればいいんだけど!」
「我がレティアと争う?…フッ、我には出来ん!!なので、レティアを助けてやってくれ!露払いは我に任せよ!」
開き直りやがったこの駄龍。ふざけやがってぇ…。覚えていやがれよ。
ドラゴン、もとい青龍帝と1人で戦うことが決まったのだった。
細々と更新します。
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