ep.70 決戦前夜
対策をとるにしてもやることはいろいろある。まずどれくらいの邪神教徒が王都に向かって来ているかの把握は最重要項目だ。
頭痛が酷いがルナのためにも国のためにも泣き言は言っていられない。
…ドラゴンに乗っているのがおよそ50人、飛龍タイプの魔物が30匹でそれに5人くらいが乗っている感じか?敵勢力としては約200人が攻めてきているのだろう。
国王にその旨を伝えると、信じてくれたのかその想定で作戦を考えてくれるらしい。俺達は遊撃部隊なので、その都度考えて勝手に行動していいと了承をもらった。
国王はこう言ってくれているけど、実際に現場を取り仕切る人はいい顔しないんだろうなぁ…。まぁ、なんとかしよう。
王城を後にしてひとまず家へと帰宅した。俺も色々準備しないといけないだろうし、遊撃としての作戦も考えないといけない。
「ご主人様、私たちはどうやって動きましょうか?」
「うーん…。まずはルナに接触しようと思ってるんだけど、学院に被害が出たらまずいしどうしようか」
「だったら私とヨミでルナに会ってくるよ。女同士の方が話しやすいこともあるだろうし」
…ミレイちゃんの言うことも一理ある、か?俺も行きたいけど邪神教もどうにかしないといけないし。
「わかった。ルナは2人に任せる。何かあったら空に火魔法を打ち上げてくれ。そうしたらなるべく早く駆けつけるから」
俺が迎えに行きたいけど、ここはルナを誑かした邪神教に鬱憤を嫌と言うほどぶつけてやる。…書庫で読んで浮かんでいた魔法がある。全部捕まえて国王の下に連れて行ってやろう。
…人に使うのは少し憚られるけど、この際だから仕方ない。ん?というか、俺の収納にあの本を入れてしまえば邪神教に取られることはないんじゃないか?
俺は天才か?!
とはいえ、邪神教のやつらも本がどこにあるかまでは知らないだろう。けど、本を探すとしたらやっぱり本があるところを探すだろうとは想像できる。
・・・・。
なんだか急に学院に行きたくなってきたな。
「ちょっと学院に行ってくるから、2人も準備頼むね!」
「わかりました。お気をつけください」
「私も頑張るからね!」
ミレイちゃんは何を頑張るのか分らないが、やる気があるのはいいことだ。何かあったとしても指輪があれば万が一と言うこともないだろうしね。
学院に着くと真っ先に書庫へと向かったが、すでに複数の騎士が配備されておりかなり厳重に警備されていた。…なんでこんなに手配が早いんだよ!
仕方ないので見つからないように学院を後にし、家に帰る前にレブラントさんのところへと寄って情報共有をしておいた。
レブラントさんの方でもいろいろと話をしておいてくれるらしい。一応未確定の情報ということも伝えたが、念のために商業ギルド等にも話を通してくれることになった。これで少しでも被害が減ればいいのだが。
家に着くと2人の姿が見えない。どこに行ったのか探していると、机の上にメモ書きが残されており、迷宮でミレイちゃんのレベルを上げてくるとのことだった。部屋にいたクインもいないので、どうやらクインも着いていったらしい。
リスクヘッジの一環に用意しておいたものだけでは不安なので、俺ももう一つ策を用意するとしよう。・・・相手がドラゴンを用意するならこっちもドラゴンに頼ったって誰も文句は言わないよな?
「と言うわけでグランツァール、明日の朝に操られているドラゴンが襲ってくるみたいなんだけど、手を貸してくれないか?」
『…ほう?』
話した途端にグランツァールの声色と雰囲気が変わったが、今までにないくらいの覇気を感じる。以前呪いにかかっているときもかなり危険な感じだったが、それとは比べものにならない程だ。
「多分だけど、グランツァールに呪いをかけた奴らだと思うよ?」
『これはこれは…。ちょうど療養も終えようと思っていたところだ。この際リハビリも兼ねてそやつらを駆逐するのを手伝ってやろう』
ただ、下手にまた呪いをかけられても面倒だし、どうにかなるもんなのか?
『呪いをまた新たにかけられることはないだろう。それに我も馬鹿ではない。この療養の1年で対呪い用の魔法を編み出してある。まぁ、人間種には使用不可能な竜魔法ではあるがな』
竜魔法というのは聞いたことがないが、恐ろしく強力だろうというのは想像できる。敵になられると厄介だが仲間ならこれ以上ないほど頼もしいな。
問題はどうやって連れて行くかだけど、まさかドラゴンのまま来てもらうわけにもいかないし、やはり人化してもらうのがいいだろうか。
「おそらく明日の朝にはやつらは襲ってくるから、もう付いてきてもらってもいいかい? できれば人化してほしいんだけど」
『あいわかった』
人化を始めたグランツァールはどんどん姿が小さくなっていき、金髪で長身な細マッチョのイケメンへと風貌を変えた。
・・・何も知らなかったら、まじで普通の人間にしか見えないんだな。ただ気になるところと言えば、竜の尻尾が生えていることくらいか。
話を聞く限りだと、魔法で尻尾を見えなくすることも可能らしい。
しかもちゃんと服を着ている。魔力で作成することが出来るのかな?
「ふむ…やはり人の体というのは何かと不便なものだな」
「…人の姿、めちゃくちゃ格好いいんですね」
なんだか格好よすぎて思わず敬語になっちゃったよ…。人を惹き付ける魅力みたいなのが迸っている感じがするのはさすがドラゴンだな。
これがカリスマってやつなのかもしれない。
「何を言う。我はいかなる時もカッコいいのだ。アウルも我の足元くらいには美形なほうだと思うぞ」
なんかドラゴンにフォローされてるし。いや、俺はこれからもっと成長して大人の魅力を獲得する予定だから問題ないのだ!
グランツァールを連れて家へと戻るが、未だにヨミとミレイちゃんはいなかった。
どうやらまだレベリングをしているらしい。
というか毎回毎回グランツァールって呼ぶのも面倒だな。グラさんとか親しみやすくてよくないか?
「グランツァールのこと今後はグラさんって呼んでもいいか?」
「グラさん…。別に構わんぞ」
素っ気ない返事に見えるが、尻尾が嬉しそうにビタンビタンと跳ねている。
…感情が尻尾に出るタイプの人らしい。
遅くなる前に夜ご飯を作ろうと思うのだが、ドラゴンって普通の飯とか食べるのか?
「グラさんって普通に人間のご飯て食べる?」
「うむ、折角だからいただこう。アウルが作ってくれるのだろう?」
「もちろん!何か食べたいものとかある?あと苦手な物とか」
「いや、我は何でも食べるぞ。だから、アウルに任せよう」
お任せか~。信用してくれてるのは良いんだけど、逆にテーマを貰った方がやりやすいんだけどなぁ。
時間もまだあるし、少し手の込んだ料理でも作ろうかな。
今回用意するのは串カツとどて煮込み風だ。
赤味噌はないのでどちらかというと、モツの味噌煮込みといった方が正確かもしれない。
まず串カツだけど、エビ・イカ・貝等の魚介類と、茄子や長ネギの野菜類、肉類等を串打ちしておく。
衣となる材料と串をたっぷり用意して下準備は完了だ。
あとは油をテーブルに用意しておけば、その場で出来立ての串カツが食べられる。
あとはモツの味噌煮込みだが、内臓系の肉はルナとヨミが以前狩りで調達してきたものを分けてもらっていたので、それを使用する。
下茹でを2回することで、モツ特有の臭みがかなり抑えられる。ここでアクを抜くのが重要である。
次に簡単に切れ込みを入れて、根菜類と一緒に煮込む。
味付けを最初からしてしまうのは焦げたりするので最初は水で煮込み、ある程度火が通ったところで味噌等の調味料で味を調えてさらに煮込む。
煮込んでいくと水分が減るので、少し味を薄めに作るのがちょうど良いだろう。
それでも薄かったら味を足してもいいしね。
もつ煮込みを作っている間にもう一品としてポテトサラダを作った。
今日は、串カツ、モツの味噌煮込み、ポテトサラダ、パンだ。
ご飯が出来上がったタイミングを見計らったかのようにヨミとミレイちゃんが返ってきた。
「おお、ちょうどよかった。2人ともおかえ…り?!」
2人を見ると今までにないくらい血まみれのボロボロの姿で帰ってきた。
即座にエクストラヒールをかけてあげたが、服についた血はどうやら魔物の返り血らしい。
「えっと、いろいろあると思うけどとりあえず着替えてきたら…?」
「はい、そうさせて頂きます…」
「うん、着替えてくる…」
2人の表情がかなり暗いが、なにがあったのだろうか?
2人が着替えてくる間に、食べる準備を整えてグラさんと話していたら、15分で戻ってきた。
風呂は入らずに『洗浄』だけしてきたらしい。
不意にヨミが近づいてきて耳打ちをしてきた。
「…えっとすみません、先ほどは気付きませんでしたが、お客様でしょうか?」
「あぁ、それについてもご飯を食べながら話すよ」
ひとまずはご飯だ。グラさんもお腹空いたのか、さっきから涎がすごいしね。
「「「いただきます」」」
「うむ!」
串カツの食べ方を実演しながら簡単に説明してあげると、要領を掴んだのか皆すぐに食べ始めた。
やっぱり揚げたての串カツは美味いな…!
タレは一応用意したが、いまいち納得のいくものが出来なかった。
フルーツと醤油ベースのもので今回は代用だ。
モツの味噌煮込みやポテトサラダも好評で、すぐに無くなってしまった。
ヨミはモツ煮込みが一番のお気に入りで、グラさんは全部、ミレイちゃんは串カツが気に入ったらしい。
ご飯を食べながら、グラさんを紹介すると2人とも驚いていた。特にミレイちゃんは初めてのドラゴンで困惑していたのが可愛かったな。
「みんな、少し早いけど今日は寝よう。今、邪神教の位置を確認したけど、どうやら向こうも夜だからか休憩している。ただ、向こうが朝方に移動を開始したとしても昼前には着くだろう。だから明日は早めに起きて学院で迎撃の準備だ!」
「はい!」
「わかった!」
「心得た」
念のために、常に相手の位置が分かるように魔法をかけっぱなしで寝ることにしたから、相手が動き始めたらすぐにわかるだろう。
緊張しながらも寝たその日の夜は、自分が思うよりもぐっすりと眠ることができた。
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