ep.7 砂糖の精製
クインが仲間になってからはや2ヶ月がたった。そしてその間にはちみつも定期的に採らせてもらっている。実際に舐めてみたけど、地球のはちみつとはレベルが違うほどに美味しかった。母も舐めていたが、悶絶するほど美味しかったらしくクインへの懐き方がすごかった。
そしてやっと、やっと、やっとテン菜が収穫できる時期になったのだ。シュガービーツとも呼ばれるテン菜は、その丸々と太った根っこの部分にたくさんの糖を貯める植物である。
テン菜から砂糖を作るのは意外と簡単なのだ。
①テン菜の皮を厚めにむき、1cm角のサイコロ状に切る。
②大きな鍋に入れた70℃のお湯にテン菜を入れて、お鍋を毛布や厚手のタオルで包んで1時間置く。
③ザルに通してテン菜を取り除き、残りの汁を強火で煮詰めていく。
④アクを取りながら1時間ほど煮詰めていくと、トロトロして水あめのようになってくるので、弱火にして更に煮詰めていく。
⑤色が白っぽく変わったら、お鍋を火からおろして、ぐるぐるとかき混ぜ続ける。
⑥固まり始めたら、お皿の上に移す。
⑦固まったら好みの大きさに割って完成である。
一応これで砂糖は完成なんだが、このままだと良く知る砂糖って訳ではない。色が茶色なので見た目的には黒糖に近いかもしれない。若干のえぐみも感じるしね。・・・よし、ここまでできればあとは魔法でなんとかしよう。
イメージはここから砂糖だけを抽出していくイメージ「抽出!」
お、おお!?すごい!茶色かった砂糖から色味が取れて白っぽい砂糖ができた。完全に白くはならなかったのでもう一度抽出を使うと地球でもみたことがある真っ白い砂糖を精製できた。
「完成だ!!」
あと残り98株あるテン菜を淡々と精製するだけだ。どんどん作る。作る。作る。気づけば日が暮れておりあっという間に5時間近く経っていたらしい。しかし、その甲斐あって小さい甕100個分作ることに成功した。およそ30kgくらいあるだろうか。
これだけあれば当分持つだろう。また冬が明ければ大量に植えることができる。種はまだたくさんあるし次はこれの倍の量を、いや3倍作ろう。少量ならレブラントさんに売り出してみてもいいかもしれないな。
なんにせよ、砂糖とはちみつが手に入った。これでお菓子が何かしら作れそうだ。あとは鶏だな。前回レブラントさんに鶏を3羽仕入れるように頼んである。これで卵が手に入るので本格的にお菓子作りが可能になる。両親には内緒で鶏買っちゃったけど、自分のお金で買った訳だし怒られるようなことはないだろう。・・・ないよね?
それと。明日で俺も6歳になる。この世界もどうやら一年は365日らしい。そのため不自由なく暮らせている。
さて。一晩寝たら俺の誕生日となった。クインは今日も相変わらず俺の肩の上にいる。女王蜂だから巣にいないといけないのかと思ったが、代理の女王蜂を置いているらしく大丈夫とのことだ。クインは思ったより俺に懐いており、家の中では基本的に俺のそばにいる可愛いやつだ。
日課の手伝いを終わらせる。もう少ししたら収穫の時期のためそしたら小麦が手に入る。粉挽き作業が面倒らしいが、そこは俺にいい案がある。というか魔法の力でごり押しするだけだけどな。フハハハハハハ!!何とでも言うがいい!力は正義である!
・・・んん!まぁ、平和的に力を使うことに躊躇はない。
「アウル〜、今日の夕飯はご馳走よ!楽しみにしててね!」
母が腕によりをかけて料理を作ってくれるらしいが、そういえば両親の誕生日っていつなんだろう。いつも祝ってもらってばかりで何かお返しをしたことなかったな。そうだ、卵はないけど今ある材料で作れるお菓子を作って日頃の感謝を返そう!
何作ろうかな。卵がないから大したもんは作れないけど、クッキーならいけるかな。幸いにして油はあるし。クッキーは作り方が簡単なので材料を混ぜ合わせて作るだけだ。しかしここで問題が発生した。肝心のオーブンがない。
・・・魔法だな。土魔法で窯を作って簡単なオーブンを作り上げると火魔法で焼き入れをする。溶き卵は塗れなかったがそこそこ美味そうにできた。というか作りすぎてしまった。まぁ、最悪明日はレブラントさんが来る日らしいので売ってもいいかもしれないな。
「「アウル、6歳の誕生日おめでとう!」」
夜になると母が俺の大好物であるウェルバードの唐揚げと森イノシシの肉を使った野菜炒め、それと野菜ごろごろポトフを作ってくれた。ウェルバードは父が買ってきてくれたらしい。本当に最高の両親だと思う。俺からもお返ししないとな。
「これ、美味しくできたと思うけど2人に。日頃の感謝とか色々!」
クッキーをもらった2人は少しの間があったあと、俺を抱きしめながら泣いてしまった。泣くほど嬉しかったようだ。
しかし、感動的なところはここまでだった。クッキーをみたことのない2人はどんな食べ物なのかわかっていなかったが、一口食べた途端に手が止まった。と思ったら手のスピードが上がり、黙々と食べ始めた。主に母が。
母と言ってもこの世界では結婚は14歳から可能である。そして俺を産んだのは16歳の頃と聞いているので母は22歳くらいとまだまだ若いのだ。そんな母に甘味を渡したらどうなるかなんて簡単に想像がつく。
「アウルちゃん」
アウルちゃん!?
「これ、なんて食べ物なの?」
「これはクッキーって言う食べ物だよ」
「そう・・・。これは今あるぶんだけで終わりなの?」
「えっと、クインの分は別にとってあるけどそれでもまだたくさんあるよ。作りすぎたから明日レブラントさんにでも売ってみようかと」
「ダメよ!!!売ってはダメ!!戦争が起こるわ!!」
と言うことでクインの分以外のクッキーは半ば強引に母に接収されてしまった。甘味に飢えた女というのは恐ろしい生き物だと知った一日である。しかし、日ごろの感謝の印なので、思う存分食べてほしい。
「そういえばこんな素晴らしい物どうやって思いついたの?」
「うえぇ!?あ、えーっと、恩恵の、おかげかな?」
「まぁ!アウルちゃんの恩恵は本当に素晴らしいのね!これは創造神様に感謝しないといけないわ!」
「う、うん。そうだね」
「アウルちゃんもどんどん素晴らしい物を作っていいのよ!」
「わかったよお母さん」
父はというと途中から空気になってたな・・・。母にクッキーのカゴを取られて、しゅんとしてる姿は見ていて涙が出そうになってしまった。
何はともあれ両親が喜んでくれたので本当に良かった。
次の日、レブラントさんが行商にきたので事前にまたクッキーを作っておいた。あとは砂糖とはちみつだ。はちみつは木の入れ物を作って入れてある。
「おや、アウル君。今日はどうしたんだい?ラルクさんとは一緒じゃないのかい?」
「今日は1人で来た!えっとね、これとこれ、あとこれって売れないかな?」
レブラントはこの時初めて真っ白な砂糖をみた瞬間だった。
「アウル君、これはもしかして砂糖かい・・・?」
「そうだよ。テン菜から作れるんだ」
さすがにレブラントもテン菜から砂糖が精製できるのは知っていたが、ここまで綺麗なものは作れない。作れても茶色くて少しえぐみのあるものだけだ。試しに一口舐めて見たけど、えぐみもなく上品な甘さが口の中に広がる。
「アウル君、これはまだあるかい?」
「えっと、20個までなら売れるよ」
小さい甕一つあたり300gくらいの容量のため20個で6kgの量になる。
「買いましょう!全部買わせてほしい!この甕一つあたり金貨5枚でどうだろう!この甕もよくできているから金貨5枚と銀貨5枚だ!」
うーん、てことは総額金貨110枚=110万円だ。砂糖だけで100万というとかなりの高額な気がする。売ろうと思えばまだあるが、自分用にもとっておきたい。それでももっと高いと思うのは俺だけだろうか。試しにもう少し煽ってみようかな。
「レブラントさん、足元見てないよね?」
「・・・はぁ、さすがラルクさんの子供だ。甕の値段込みで金貨7枚でどうかな」
「レブラントさん?」
「はははは、アウル君には敵わないな。金貨8枚だ。エンドだよ」
このエンドというのはこれ以上はないということだ。それにレブラントさんはこんな辺境にも来てくれる優しい行商人だ。これ以上いじめるのはよくないだろう。
「ありがとうレブラントさん、これはおまけであげるよ」そう言ってクッキーを手渡した。
「これは?」
「これはクッキーというお菓子です。砂糖作れたので作ったんです。良かったらどうぞ」
さくっ
「!!アウル君!こ、これは、というか砂糖を含めてだけど君が作ったのかい!?」
「?・・・そうですが」
「・・・なるほど」
(この子は神童だ。今までにない砂糖の精製。至上の甘味の作成。これは勘だがあの隠密熊もこの子が関わっているだろう。この子は今後おそらくどんどん有名になる。今のうちに仲良くしておいて損はないだろう)
このレブラントという男は見た目で人を判断しない男であった。たとえそれがどこにでもいそうな子供であってもだ。
アウルは顔立ちが整っている子供って印象だったが、1人の人間として接しようと決めた瞬間だった。
「もしこのクッキーというお菓子がまだあるのなら、小さいこの籠一つで金貨5枚で買い取りますよ」
籠にはクッキーが10枚しか入っていない。ということはクッキー1枚で銀貨5枚という破格の値段だ。1枚5000円のクッキーなんて俺には想像できないな。
「え、そんなに高くていいんですか?」
「ええ、これだけ美味しければ必ず売れるでしょう」
「じゃあ、あるだけ売りますけどこれを僕が作ったと誰にも言わないでくださいね?」
「約束しよう」(やはりこの子が作ったのか・・・)
籠はなかったのでレブラントさんの持っている籠を借りてクッキー200枚を売った。よって金貨100枚だ。
「じゃあ、これで売りたいものは・・・あれ、もしかしてこれもかい?」
「え、いやでも十分な金額で売れたので、別に売らなくてもいいかなとは思いますけど」
「いや、買おう。これ、はちみつだよね?しかも、この匂いと色・・・ジェノサイドビーかな?」
ジェノサイドビー?クインってそんな物騒な名前の魔物だったのか。
「ちょっとなんて名前かはわからないですけど、魔物のはちみつです」
「この容器一つで、そうだな・・・金貨5枚で買わせてほしい」
「えっと、全部で10個までなら売れます」
「全部買おう。えっと今計算するから待ってくれ」
「金貨310枚ですよ」
「・・・・・・そうだな、ちょっと重いけどこれ」(この子は算術のレベルもすごいな・・・是非うちにほしい逸材だ)
レブラントさんからもらった皮袋はずっしりと重く、持つのが大変なほどだったのでバレないように身体強化を発動した。
「じゃあ、レブラントさん。またね〜」
「なぁアウル君、君が成人したら是非うちで働かないかい?」
「えぇ?僕はまだ6歳ですよ。それに、僕は貧乏農家が性に合っていますから」
貧乏農家は一回の取引で金貨310枚も稼がないのだが、根が貧乏農家の彼は自分の異常性がまだわかっていなかった。
帰っていくアウルを見送るレブラントは今仕入れた商品をどうやって捌くか考え始めるが、この先きっとあの子は絶対に面倒ごとに巻き込まれるだろうと思いながらも、なんとかギリギリまでせめて彼が10歳になるまでは隠し通そうと決めたのだった。
金貨310枚の大金は人目がなくなったタイミングでアイテムボックスに収納した。ルンルン気分で家に帰ると母が待ち構えており、どうしたんだろうと思っていると母の後ろにクッキーを作った時の片付けを忘れたのを見つけた。
「アウルちゃん・・・クッキー、作ったの?」
「えっと、うん」
「そう・・・。そのクッキーはどこにあるの?」
「え、ここにあるよ」
そう言って後で食べようと取っておいたクッキー100枚を取り出した。
「なぁんだ、よかった。てっきりアウルちゃんがクッキーを売ったのかと思ったわ。はい、クッキーはお母さんが管理します」
献上させられてしまった。これは仕方ない。いつの世も母は強いのだ。それに母はまだ若い。甘味の誘惑には勝てないのだろう。
クッキーを食べる手が早すぎて残像が見える。気のせいか?しかし、これでは金貨は俺が持っておいた方がいいだろう。何かあったら渡せばいいだけだしな。
貧乏農家は今日も平和である。
ちょっとずつ更新していきます。
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