ep.69 それぞれの決意
ルナの手紙には生い立ちについて書かれていた。やっぱりと言うべきか、ルナは今は無くなった国の元王女だったらしい。
過去を明かさなかったのは、色々と因果があり迷惑はかけまいとしていたからだそうだ。そして、文の節々に俺への感謝の気持ちと謝罪の言葉が書かれていた。
なにより、読んでいくにつれ滲んだ箇所が見受けられる。…ルナはこの手紙を書きながら泣いていたのだろう。
最後の方なんて震えるような字で『絶対に帰ってくるので、待っていてください。行ってきます』と書いてあった。
・・・俺は馬鹿だな。
女神様のお陰で魔力や頑丈な体に恵まれ、前世の記憶のお陰でお金にも不自由していない。
結果的には全て俺の力だが、今の俺が独力で得たものじゃない。全て与えられた物ばかりだ。
別にそれが悪いこととは言わない。が、やはりそう簡単に納得できるものでもない。
今まではそのことに目をつむり、好き勝手にやってきた。今まで得たことのない力を前に浮かれていたと言えば、まさにその通りだろう。
だが、ルナは違う。
最初は闘う力こそ手助けしたやったが、それだけだ。あとは自分の努力であそこまで強くなった。
そして誰かに頼ればもっと簡単に解決できるかもしれないのに、誰の力を借りるでもなく自分自身の力で何とかしようとしている。
・・・自分が情けない。
のんべんだらりしたいけど、自分の大切なものも守れずにそんなことしてる暇なんてあるかっ!
のんべんだらりとするのは大切な物を取り戻した後でも遅くない。
頑張った分だけその分ダラダラしてやる。
今更ながら覚悟は決まった。今までの俺は良くも悪くも、上手く流されて生きてきたと思う。
母の言う通りちゃんと学院にも通っている。まぁ、いい出会いもあったわけだが…。
流されることが悪いことだったとは思わないが、そこに俺の意思があったかと言われると、それは否だ。
俺がルナの部屋で手紙を読み終え、色々考えているとヨミとミレイが部屋へと入ってきた。
「ご主人様、ルナは…?」
「ルナ、行っちゃったの…?」
2人はきっとだいたいの想像がついているのだろう。
「…ルナからの手紙だ。2人宛てのもあるから、ひとまず読むといい」
10分くらい時間をかけ、読み終えるころには2人は号泣していた。
「ご主人様…。私は頼りないでしょうか…?言ってくれれば手を貸してあげられたかもしれないのに…!」
ヨミはずっとルナと一緒にいたものな…。
「…アウル!ルナお姉ちゃんを助けてあげたい!私は、2人みたいにまだ強くはないけど…それでも出来ることはしたい!」
ミレイちゃんは、いつもはルナとヨミと対等に話しているけど、本心では姉のように慕っていたんだな。
「ルナは俺たちを巻き込みたくなかったんだろう。だから1人で邪神教の所へ行ったんだと思う」
それに、手紙には「これ以上、家族や大事な人を失いたくない」とも書いてあった。
……俺たちの出会いこそ、いい形では無かったが今では家族同然のように思っている。
「「・・・・」」
「迎えに行こう。ルナを。そして、ついでに邪神教とやらをサクッとぶっ潰すぞ!」
「はい!任せてください!」
「うん!」
それと勘だが、今回の宰相殺しにも邪神教は大きく関わっている気がするのだ。
そうと決まれば、やることはたくさんある。念のために国王に事の次第を説明しに行かねばならんだろう。
◇◇◇
解説ちゃん『このとき、ヨミとミレイはこれから邪神教と壮絶な戦いが繰り広げられることを想像し、武者震いのような感覚に陥っていた。しかし…アウルだけは、考えることが違っていたのだった』
◇◇◇
「とはいえ、学院を無断で何日も休むわけにもいかないし、幸い今日は休日だ。明日は風邪という事で何とかしよう」
「…と言いますと?」
「…どうするの?」
「今から邪神教を潰しに行くぞ?」
「「えぇぇぇ---?!」」
そんなに驚くことか?いくら大事な仲間が何かしらの理由で連れていかれたんだとしても、敵は所詮人だ。人ならどうとでもなる。
テンドやヨルナードみたいなやつが出てきたら確かにヤバいけど、あんなやつそうそういないだろう。ましてや、自然が相手というわけでもない。
「でもご主人様、どうやってルナの居場所を見つけるのですか?」
「そうだよ!居場所も分からないのに!」
「いや、分かるぞ」
「「・・・!?」」
書庫での成果が生かせるときが来たな。ルナの魔力は覚えているし、探し出すことは可能だ。
『魔力サーチ』
対象をルナにセットして検索する。
・・・場所は・・・。ふむ。
「場所が分かったぞ」
「どこですか?!」
「どこなの!?」
「行ったことが無いので詳しいことは分からないが、おそらくルナの現在地は帝国の帝都だな。今は動いていないから、そこに何かあるんだろう」
ただ、昨日の夜いなくなったとして、もう帝国にいるのか?いくら何でも移動が速すぎる。
まさか空間魔法の使い手か、それに準じる魔道具か恩恵持ちがいるのか・・・?
毎度の如くテンドのやつが絡んで無いだろうな…?
「とりあえず場所は分かったが、すぐに出発は出来ない。今から急いで支度をしよう」
「わかりました!必要そうな物資は任せてください!冒険者業で慣れております!」
「私は料理を作っておくね!動きながらでも食べれそうなの作っておくよ!」
「うん、そっちは2人に任せた。俺も少し準備したいことがあるから、家を出るね。昼までには戻るから。じゃあ行動開始だ!」
「「はい!」」
大方の準備は2人に任せておけば間違いないだろう。かく言う俺はちょっとしたリスクヘッジのための準備だ。
※※※
限られた時間内だったが、なんとか準備は完了した。
「2人とも準備はいい?」
「もちろんです」
「準備万端だよ!」
出発のために、午前中を使って用意したものを出そうとしたとき、魔力サーチに動きがみられた。
「・・・2人ともちょっと待って。予定変更。このまま王都にいるよ」
「えっ何でですか?!」
「何かあったの?」
「えっとね、ルナの魔力がかなり速いスピードでこっちに向かって来ているんだ。進路を考えると、王都に来るんじゃないか・・・?」
本当にすごい速さだ。この感じだと明日の朝には王国に到着しそうなほど速い。
・・・かなり遠いけど、限定的に場所を絞れば空間把握いけるか?
やったことないけど、空間把握と魔力サーチの同時発動をしてみよう。上手くいってくれよ!
魔力サーチ!空間把握!
多すぎる情報量に頭が割れそうなほど痛いが、なんとか我慢できるぞ・・・!
「やばい!!大量の人間がバカでかい魔物に乗ってこっちに向かって来てやがる!」
あえて魔物と言ったが、この感じは恐らくドラゴンだろう。大きさ、魔力ともに並じゃない。
操っているのだとしたら、グランツァールにかけられていた呪いとも何か関係があるかもしれない!
「国王の所へ行くぞ!」
俺のことは内々で話が通っているようで、無駄に時間を取られることもなく国王に会えることとなった。
とは言っても一時間近く待ったが。
応接室で待っていると国王とアグロム宰相が入室してきた。それ以外の人は国王の一声で退室となった。
「アウルよ、そんなに急いでどうしたのだ。あの件について何か分かったのか?」
「陛下、もしかしたら陛下も何か掴んでおられるかもしれませんが、邪神教をご存知でしょうか?」
「「!!」」
やっぱりな。この2人は既に何か知っているみたいだ。
「アウルがどこでその名前を聞いたのかは問うまい。…確かに邪神教が近ごろ活発化してきたという報告は上がってきている。…もしや今回の一連の犯人は邪神教か?」
「いえ、そこまでは。ただ、私の従者が1人邪神教に連れ去られましてね。魔力を追って居場所を確認したところ、どうやら帝国にいることが分かったのです。なので連れ戻しに行こうと思った矢先、魔力が動き始めたのでさらに調べたところ、どうやら王都へ向かって来ているようなのです」
「なんだと!」
「・・・それと邪神教が何か関係あるのかね?」
「・・・ほぼ間違いなく大量の邪神教徒が王都に向かって来ています。それも、おそらく何らかの方法でドラゴンを手懐けて、それに乗ってきている」
「「ドラゴン?!」」
驚くのも無理はない。あの強大なグランツァールでさえ抗いきれなかった呪いを使っているのだとしたら、相当に厄介な相手だ。
「この際なので聞きますが、邪神教が王都に攻めてくる心当たりはありませんか?」
「陛下・・・もう隠せないのではありませんか?アウル君には言うべきです」
「そうであるな・・・。邪神教と言うのは名の通り、邪神を復活させることを目的としている宗教だ。・・・やつらが狙っているのは恐らく、邪神の復活方法が書いてある書物だろう」
え・・・?待て待て待て、それなら確か俺読んだぞ?
「・・・その本はちなみにどこにあるのか聞いても?」
「私は読んだことはないが、代々王家には言い伝えられている」
うわぁ・・・。なんだか凄い嫌な予感がする。
「その本はルイーナ=エドネント、所謂学院の創設者が書き残したものだと言われている。その本があるのは学院なのだ」
ほらねーーーー?!
「ただし、その本は幾重にも結界が張られているうえに、一定以上の魔力を持つものでないと認識すらできない仕掛けなのだ」
・・・やばい、汗が止まらない。
「そこまでは分かっているのだが、学院のどこにあるかまでは言い伝えられておらんのだ…。逆にその本の詳細な在処を知っているものがいるなら…」
でも待てよ?これ教えてあげればかなり感謝されるんじゃ
「俺その本…」
「最悪の場合死刑だがな」
あっぶねーーー?!
「…なぜ死刑なのですか?」
「当たり前だろう!その本があれば邪神を復活させられるのだぞ?!そんな危険人物を放って置けるわけなかろう!」
確かに…!!ただ、あの本には封印を強める方法も書かれていたはず。きっと、そこまでは伝承されていないのだろう。
説明してもいいけど、これ以上は藪蛇な気がする。それに、あの本を公表してしまったら、良からぬことを企むやつが出て来ないとも限らない。
・・・あの本のことは言わないのがこの世界のため、か。
「じゃあ、邪神教のやつらはその本を奪いに来ると…?」
「恐らくな。おおかた帝国で情報収集をして場所を探り当てたのだろう」
「となると、かなり拙いことになりましたな・・・」
アグロム宰相が頭を抱えているが、一体どうしたのだろう?
「学院にはたくさんの国の生徒がおります。もしその学院になにかあったとしたら、国際問題に発展する可能性があるのです」
・・・なるほど。他国がここぞとばかりに叩きに来る可能性も有り得るという訳か。
世界が変わっても人間の考えることは一緒だな。
「話は変わりますがアウル君。君は学院は好きですか?」
?
「えぇ、まぁ?」
「おお!それは良かった!陛下、アウル君の手も借りられそうですぞ!」
「うむ、済まないアウル。今回も世話になる。無論、報酬は出そう!!」
……まてまてまて?!なんでそうなった!!
「騎士団を街全体に配備しつつ、王城の警備、さらには学院までもとなると些か戦力が足りないかもしれませんな」チラッ
「ふむ…学院の3年生は確か王国貴族の子息たちも数多くいたと記憶しているがどうか?」チラッ
「はっ、私もそのように記憶しております」チラッ
「これは国、いや世界全体に関係しうる話でもある。第1と第2騎士団を学院へ派遣せよ。3年生で戦えるものは騎士団とともに戦うように申し伝えるのだ!」チラッ
「かしこまりました」チラッ
「ちょっとお待ちください!まだ邪神教が王都に来ると決まったわけではないのでは…?」
「ふっ、アウルよ。其方は子供とは思えぬほど聡いが、決断力にかける節があるな。備えてもし違ったら余が愚かであったと言われるだけだが、備えずにいて手遅れになってはならんのだ」
「!!」
確かにそうだ。話の規模が大きくなりすぎて少し尻込みしてしまったが、国王の言う通りだ。
「無論、其方にも存分に働いてもらうがな!王命である、アウルは従者と共に遊撃に回るのだ。…もう一人の従者も助けたいのだろう?」
「……わかりました。王命、なんとしてでも果たして見せます…。報酬は弾んでくださいね…!」
ルナが何を考えて邪神教についていったのかまでは分からない。手紙にはその辺あまり書かれていなかったからな。それでも俺はルナを助けるのだ!
SIDE:ルナ
お父さん、お母さん、ムーラン・・・私が絶対助けるから待ってて!
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
ムーラン:ルナの妹




