ep.66 激突、1年1組!①
短めです。すみません。
俺の朝は早い。農家の息子の特性とでもいうべきか、日の出前にはだいたい起きてしまう。
ミレイちゃんも俺とほとんど同じようで、俺が朝の支度をし始めているくらいで起きてくるのだ。
2人で朝の支度を終えて、一緒に畑にでるのがここ数日の日課だ。
ミレイちゃんが俺の家に来たときはそれはもう驚いていた。ただでさえ狭いはずの王都に比較的広い畑を作っているのだから。
とは言っても家庭菜園に毛が生えたような程度だし、まだまだ広さは足りない。
促成栽培のお陰でまだ収穫量が確保できているが、実家に比べたら雀の涙だ。
図らずもミレイちゃんにプロポーズをしてしまったあの日以来、ミレイちゃんは俺の家から学院に通っている。
元々ミレイちゃんは好きだったし、喜ばしいことなのだがやはり気恥ずかしさというものがある。
それでも努めて平静を保つようにしているのは、ある種の男の見栄と言うものだ。
だがそんなのお構いなしに絡んでくるミレイちゃん。プロポーズ以来、かなり大胆になってきている。
ほぼ不可抗力のようなプロポーズではあったが、言ってしまったものを撤回するほど俺は男を捨てていない。
・・・ただ、言うならもっとムードとかあるじゃん。シチュエーションとかさぁ。
辺境伯には腹が立ったので、今後何かあったら絶対に仕返ししてやると心に誓っている。
「ねぇアウル、この気味の悪い果実?みたいなのなに?」
朝の農作業をしていると、畑の一角にある『料理の実』を見つけたようだ。
元々ミレイちゃんには葉野菜やブドウの収穫をお願いしていたので気付かなかったみたいだけど、とうとう見つけてしまったらしい。
「それは"料理の実"って言うらしいよ。魔力を込めると属性によって味が変わるんだ」
「すごーい!そんな果物があるんだ!こんな見た目なのに意外ね」
物は試しということで、一つもぎって甘くした実を食べさせてみた。
「!これ美味しー!!いくらでも食べられそうだよ!」
ミレイちゃんが気に入るのも無理はない。市場で売っているものや迷宮で採れた果物より格段に甘いのだ。
品種改良して糖度上げた果物のような甘さをしているので、圧倒的に美味いに決まっている。
込める魔力量によっては糖度を変化させることも可能だと最近気づいたので、本気を出せばこの実から砂糖の大量精製も可能かもしれない。
・・・まぁ、今更ではあるが。
結局そのあと追加で2つもペロリと食べたミレイちゃんは、朝ご飯を辞退していた。梨程の大きさのある実だもん当たり前だ。
お昼ご飯を2人分作って一緒に学院へと向かうが、学年が違うため校門からは別行動だ。
教室に着くとなぜかみんなざわざわしており、いつもと様子が違っていた。
レイとマルコを見つけて話を聞いてみると今日は特別授業と呼ばれるものがあるらしく、午後に外の修練場に集合らしい。
モニカ教授が所用のため数日居ないのだが、その間に決まったようだ。
なにをやるんだろうと考えていると、毎度の如く説明台詞が得意な奴らがやってきた。
モブA「おいアウル、午後の特別授業の話聞いたか?」
モブB「俺らが聞いた話だと1年1組との模擬戦らしいぜ」
「模擬戦?いったいなんのためだ?」
「なんでまた急に模擬戦なんだろうねぇ~?」
「うむ、しかも1組というのが気になるところだな」
レイもマルコも同様のことを疑問に感じていたらしい。
モブA「なんでも、学院祭で1位を取った腹いせじゃないかって話だぜ」
モブB「しかもモニカ教授がいないのを良いことに、他の教授を脅して特別授業という名目でのリンチにするって噂だ」
モブA「知り合いの3年生に聞いたんだが、どうやらこの一件には3年1組が絡んでいるらしいぞ」
・・・うぅむ。これは不味いことになったかもしれん。
俺だけならなんとかなるとしても、クラス全員となると些か厄介だな。
「というか、1組には王女と公女がいたよな?2人は何も言ってないのか?」
モブA「あぁ、どうやら理由は分からないがここ一週間くらい家の用事で学院に来ないらしい」
モブB「さすがに1組全員が悪いとは言わないが、3年の手先が数人~数十人はいると考えていいだろうな」
王女とアリスがいたらこんな茶番止めてくれると思ったが、そううまくはいかないか…?
裏を返せば公務で2人がいないところを狙ったともいえるな。
モブA「言い忘れていたが、標的の最重要ターゲットはお前らしいぞアウル」
モブB「あぁ、それは間違いねぇ。俺もそう聞いた」
・・・は?
2人が言うには俺が主導で学院祭を成功させたと思っているらしい。
確かに主導で動いたかもしれないけど、成功したのはみんなのお陰だと言うのになぜ俺なんだ?
「なんで俺なんだ?!」
モブA・B「「・・・・・」」
露骨に目をそらす2人。怪しい。
「なんか知ってるなら言ったほうが身のためだぞ…?」
そっと殺意と言うなにかを向けてあげると、2人は簡単に口を開いた。
モブA「実は学院祭が終わった後、1位取ったのが嬉しくなって色んなところで自慢したんだけど…」
モブB「そん時にアウルが凄かったって一緒に言っちまってよぉ…」
モブA・B「「アウルごっめーん☆」」
もはや謝る気のない謝罪とともにものすごい速度で去っていくモブ2人。
・・・・全面的にあいつらのせいじゃねぇか!いや、口止めしてない俺も悪いのか?
まぁなんにせよ事前に俺が狙われるってのが分かったのは僥倖だな。
これならまだ対処のしようがある。
・・・ふふふふふふふ。せっかくなので俺に楯突いたことをじっくりと後悔させてやるとしよう。
ただ俺らの代は儁秀の世代と呼ばれる程には天才が多いみたいだし、油断だけはしないでおくか。
「大丈夫~?って、その顔を見る限り問題なさそうだね~」
「うむ、アウルの強さを持ってすればなんの問題も無いだろう」
やはり俺への期待値はかなり高いみたいだ。問題があるとすれば勝ち方だ。
1組の実力を知っているわけではないけど、負けるとは考えにくい。とはいえ、俺は10組で平民だ。
派手にぼろ勝ちし過ぎても余計に目立つし、かと言って負けてやるつもりもない。
適度に手を抜いて勝てればいいんだが、中途半端に強かったりするとタチが悪い。
俺を狙ってくるのが頭の悪い貴族であることを祈るほかないな…。
祈るアウルだったが、この祈りは誰にも届くことは無かった。
細々と更新していきます。
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風邪をひいてしまい、思うように執筆できませんでした。申し訳ありません。




