ep.64 学院祭⑤
テンドとさっきから構内を回っているのだが、さっきからルナ達3人の気配が追ってきている気がするのは気のせいか?
おそらくだが動きを予測されて、先回りされている気がする。
予測されていることすら想定して動いているのだが、それでも限界があるだろう。
はっ!もしかしてテンドが構内にいることに気づいてしまったのでは?!ルナとヨミは実際にテンドと戦っているわけだし、気配に気づいてもおかしくない!
こんなところで鉢合わせしたら間違いなく戦闘になってしまう。これはもっと本気で逃げなければ!
『あ~!アウル!あそこで演劇があるよ〜!』
こんなときに演劇だと・・・?確かに演劇は面白かったけど、そんな逃げ場のないところに行ってしまったら、どうなるかは明白だ。
「いや、演劇は時間が合わないからあっちに行ってみようよ!」
『そうかな〜?ふふふ、アウルさっきから何から逃げてるの〜?』
げっバレてる・・・!!
「実はかくかくしかじかで・・・」
『あ〜なるほどねぇ!それはそれで楽しそうだね〜!…うん、こっちだよ!』
結局休憩時間は構内を回るのは二の次で逃げ回ることに終始してしまい、シフトの時間が来るまで鬼ごっこをしてしまった。
途中、向こうは二手に分かれて追ってきたりもしたが、テンドの助けもあってなんとか逃げ切ることに成功した。
『あははは〜、君といると退屈しないね!とっても楽しかったよ!』
「あはは・・・それはよござんした・・・」
つ、疲れた・・・。鬼ごっこの途中からルナ達が本気で追ってきたけど、テンドも興が乗ったのか逃げるのに付き合ってくれたおかげでなんとかなったな。
『ねぇアウル、僕に何か聞きたいことがあるんじゃないの?』
「えっなぜそれを?!」
『ふふ、顔に書いてあるよ。今日楽しかったから何か1つ教えてあげるよ』
察しがいいというか、本当に掴み所のないやつだ。今のところ敵なのか味方なのか分からないけど、敵にはしたくないな。
国王と話し合った内容をざっくり伝えると、何か納得したような顔をしている。どうやら何か知っているみたいだ。
『う〜ん・・・。ヒントだけ教えてあげるよ』
と言って額に額を当ててきた。って、えぇ?!顔ちかっ!?
『うん、間違いない。アウル、君は───』
テンドから伝えられたのは衝撃の事実だった。
『じゃあアウル、今日は楽しかったよ~。また遊ぼうね』
満足したのかテンドは何事もなく帰っていった。とりあえずは任務完了というところか。
屋台に戻るとレイとマルコがすでに休憩から戻ってきており、準備をしているところだった。
「あれぇ〜?アウル大丈夫〜?」
「うむ、アウルを探して3人の女性が訪ねてきていたが大丈夫か?」
「あっうん大丈夫だよ。じゃあ張り切っていきますか!」
その後何事もなく文化祭2日目が終わった。売り上げは全部モニカ教授が管理しているので詳細は分からないが、消費した材料を見る限りかなり好調らしい。
ルナとヨミに頼んで大量に用意してもらった材料も、多すぎると思ったがちょうど無くなるくらいかもしれない。食べ歩きじゃなくて持ち帰りの客も多いようで大量注文する人もいるようだ。
念のためにと作っておいた整理券が役に立ったらしい。
レブラントさんは俺が接客しているときに丁度来てくれて、全ての味を全てのグレードで買って行ってくれた。
例に漏れず、レシピを売ってほしいとなったが、料理の実は貴重なので断っておいた。
これ以上お金を貰っても使いきれないし、一人がお金を持ちすぎるのは良くないだろう。
とは言っても付き合いもあるので、マヨネーズだけは無償でレシピを提供した。
もちろん生活魔法の浄化を重ね掛けするくらい徹底させるのを忘れない。
これが今回いろいろお世話になった分の代金でいいですよと伝えたのだが、貰いすぎだと言うので貸し1つという事になった。
・・・ただの平民の割にはどんどん色んなところに貸しが増えていっているが、気にしたら負けだ。
家に帰るとジト目をしているメイドさんが2人。
あんな目で見つめられると何かに目覚めそうなってしまう。本当に危ない所だったとだけ言っておこう。
テンドが来ていた旨を伝えると驚いていたが納得してくれた。
ただ、3日目はミレイちゃんもかなり忙しいようなので、一緒に回る予定はないとのこと。
ただルナとヨミも見たいところは殆ど見終えたらしいので、サクラをやってもらうことになった。
今のままでも収益1位は取れそうな気はするが、念には念を入れて損はない。
さらに明日は極上コースでのみ販売されていた有料甘味のメニューを増やすことにした。
ショートケーキ、フルーツタルトの二種類である。
これは極上コースを利用した客全員に周知しており、まず間違いなく買いに来てくれるだろう。
・・・ただそのせいで今日は徹夜確定だけどな。
事前にいくつか作っておいた分があるけどおそらく足りないだろう。
1グループ1ホールまでとし、限定30ホールとしている。なので二種類合わせて60ホールだ。
もはや業者のレベルだと思う。
値段はお祭りという事もあり、少々割高の白金貨5枚とさせてもらった。
ケーキ1つに500万円使うなんて本来なら考えられないな・・・。
それでも希少性ゆえに売れると踏んでいる。もし売れなかったらクラスのみんなで食べようと思う。
「ってことで2人にもケーキ作り手伝ってもらうからよろしく!」
「任せてください!ルナ、どっちが多く作れるか勝負だよ!」
「ふふふ、勝った方がケーキをいただけるという事ですね?」
「絶対に負けないから!」
「寝言は寝て言うものよ?」
わぁー楽しそうな所悪いけど、余分にケーキ作るつもりはないぞ・・・。
仕方ないから、収納にある適当な甘味で勘弁してもらおう。
2人の頑張りもあって太陽が昇る前にはケーキは完成した。
1時間くらい仮眠して畑の世話をする。学院祭が終わればまた種を蒔こうと思う。
本来なら数ヶ月~数年かかるような植物も、促成栽培のお陰で難なく育つ。
醍醐味が無いような気もするが、俺が村に自分の畑を持つようになってちゃんとした農家になった際は魔法なしで育てよう。
今はまだ俺は学生だし、なんちゃって家庭菜園という感じだ。
今ある金も土地買って家建てて家畜買ってっていろいろしたらかなり使えるだろう。
あとは村興しの一環で、村の生活レベルを上げるのに使おう。目指すは辺境の大都市だ。
近くにはアザレ霊山があるから、冒険者も誘致することができそうだしな。
ふふふふふふ、楽しくなってきた!これでミレイちゃんと結婚して子供もいれば完璧だな。
ルナとヨミも働きたいと言ってくれればそのまま傍にいてほしい。
ミレイちゃんが許してくれれば2人も・・・。
まぁ、これは追々か。当面は学院生活を頑張るのとテンドが言っていた"あの事"についてか。
考え事しながら作った今日の朝ご飯は暑い日にぴったりのメニューだ。
冷製トマトパスタ、葉野菜とバラ肉の冷製しゃぶしゃぶサラダ、アプルジュースである。
冷製パスタに厚切りの炙りベーコンをトッピングするのがポイントだ。
あまり寝てないので脂っこいものが食べれなかったが、これならスルスル食べられた。
もそもそと仮眠から起きてきた2人も、食べ始めたらペロっと食べたみたいだしぴったりだったな。
「ご主人様!この冷たいパスタは素晴らしいです!夏に食べるには持ってこいですね!」
「ふふふ、重くなくて食べやすい上にとっても上品なお味でした」
ちなみに冷製しゃぶしゃぶサラダは醤油ベースのタレに料理の実の酸味を足してみた。
ポン酢っぽい気もするけど、やっぱり酢とは違う味わいになってしまっている。じゅうぶん美味いと言えば美味いのだが・・・。
「じゃあ俺は先に行くけど、途中からサクラ頼むね!お金はいらないから、店の前で美味しそうに食べたり食べ歩いてくれればいいから」
「食べるお仕事ですね!なんて素敵なお仕事でしょうか!」
「うふふ、殿方たちが食べたくなるように宣伝しておきますね」
えっと、ヨミはどうやって宣伝するつもりなのだろう・・・?聞いてみたい気もするが、時間も無いのでやり過ぎないようにだけ釘を刺しておくか。
「ルナもヨミもほどほどに頼むよ?やり過ぎたらサクラだってばれるんだから」
「「かしこまりました」」
これで準備は完璧だ。きっと学院に行ったらまた女子勢にヘアアレンジを頼まれるだろうから、ちょっと早めに出ている。
こんなに流行るんなら、魔石を利用したヘアアイロンの開発をガルさんにお願いしようかな?
ワインをあげたら喜んでやってくれそうな気がする。
学院に着くと案の定女子達が待っており、すでに列まで出来ていた。
流れるように作業を開始して一時間もかからずに作業を完了させた。
男子たちからはよくやったと褒められるし、女子達も喜んでるし、なにより集客率アップに繋がっているはずなので万事OKだ!
これのおかげでヘアアレンジの需要がかなり高いことも分かったしね。
そのまま準備をしていると、不意に学院中に声が響き渡る。
『諸君、今日で学院祭も最終日だ。楽しみ方は人それぞれなれど、皆が青春を謳歌していることだろう。今日の夕刻の段階で収益を集計して夜の後夜祭で栄えある収益1位を発表する!では最後の一瞬まで楽しむように!』
学院長の挨拶とともに学院祭3日目が始まった。
そして俺は後悔することになった。極上コースで用意したホールケーキの人気が凄く、回転が間に合わなくなってしまったのだ。
もはや屋台の売り物などは付属となっており、極上コースで有料の甘味を食べることが一種のステータスとなってしまっていた。
貴族間での派閥争いなのか虚栄なのか良く分からないが、よりお金を使った方が凄いという流れが出来上がっている。
誰が煽ったのかは分からないが、おおよその見当はついている。アリスが1日目に王女と来ていたのだが、おそらくそいつらのせいだろう。
学院祭内での貴族間のトラブルは国王が禁じているため、表立って争いは起きないが、そのせいで見栄の張り合いに発展しているのだと思う。
午前午後でケーキの種類を変えて販売予定だったが、午前中で売り切れそうなほどに好調だ。嬉しい悲鳴なのだが、午後からの目玉が無くなってしまうな・・・。
結局午後一番くらいでケーキの販売は終了してしまった。
代替案という事で、パンケーキの蜂蜜掛けを販売し始めたのだが、噂が瞬く間に広まりまたもや回転が間に合わなくなってしまった。
これはルナとヨミの2人の宣伝の効果も相まってだと思われる。
・・・流石にちょっと自重無しにやり過ぎたかもしれないな。これだけ流行らせてしまうとレブラント商会への問い合わせが凄そうだが、そのときはそのとき考えよう。頑張れ未来の俺!
その後も大繁盛は続き、終了のタイミングではクラスメイトのほとんどが疲れ果てて倒れているのはいい思い出だろう。
用意した材料もほとんど使い切ったし、本当にやり切った感じだ。
3日間を振り返ってみて一番印象に残っている客と言えば、やっぱりリステニア侯爵とイルリア副団長だろうか。
仲が良いのか毎日午前午後一緒に屋台に訪れて大量に注文してくれた。
そして絶対に極上コースである。最終日に至っては午前に2回、午後に2回も来ていたのでもはや常連と言えるな。
最初は会話もあったが、途中から俺は苦笑いしかできなかった気がする・・・。
逆に侯爵と副団長の満面の笑みは今でも思い出せる。
でもまぁ客の喜ぶ顔ってのはいいもんだと実感した3日間だった
。
やることはやったし、あとは結果を待つだけだな!
屋台の片づけ等は後日やるスケジュールのため、今日は後夜祭をやって解散となっている。
学院内で一番広い訓練場には巨大なキャンプファイヤーがあり、夜を明るく賑やかにしてくれている。
後夜祭はダンスとかがあるわけではなく、学院側が用意した軽食や飲み物を自由に食べる立食パーティーのような感じだった。
中央のキャンプファイヤー近くで上級生らしき人たちが楽しそうに話しているのが見えるが、俺は隅っこでレイとマルコと一緒に休憩中だ。
『諸君!3日間楽しめたかな?私も3日間学院祭を回らせてもらったが、今年は例年よりも盛り上がっていたように思う!さて、みんなお待ちかねの収益1位のクラスの発表をしよう!いきなり1位を発表してもつまらないので第5位から発表させてもらおう!』
おっ、いよいよ発表されるみたいだな。1位になれているといいんだが・・・。
『第5位!3年7組!出し物は魔道具販売!このクラスは生徒たちが作成した魔道具を販売したのであったな。作品はすべて売れたと聞いている。よくやった!』
魔道具作成か。3年の7組は魔道具作成に通じている人が多いんだろうか?
『第4位!2年1組!美味な料理を食べる会!このクラスは真の美味な料理を食べるものだったな。私も食べたが確かに一流の味であった!』
おぉ、俺が気になっていた出し物の1つだな。行きたかったけど、平民には敷居が高くて入れなかったのは残念だった。
『第3位!3年2組!貴族交流会!ここは上級貴族から果ては王族とも交流が持てるのだったな。色々な国の貴族たちが利用したと聞いている!』
これも俺が気になっていたやつだ。入場料がバカ高くて入る気にならなかったんだよなぁ。軽食も美味しい物が用意されていると聞いたけど、食べてみたかった。
というか呼ばれないけど、これは1位もらったかね?
『第2位!これは第1位とかなりの僅差で、その差はわずか金貨5枚!3年1組!演劇「勇者と魔王~最後の戦い~」これは私も見に行ったが本当に面白かった!脚本を考えた生徒は天才だろう!』
やっぱりあれが上位に来たか。見学料が席によって決まっており、高い席は驚くほど高かったのを覚えている。
それに確かに面白かったので上位に来るとは思っていたけど・・・
あれ、ってことはもしかしてもしかするか?
『3年1組を抑えて堂々の1位!1年10組!1年目にも関わらず、奇抜な発想と確かな作戦であった!もちろん売っているものも格別に美味であった!私も毎日通ってしまうほどに美味しかった!おめでとう!!』
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」」
学院長の宣言とともに1年10組の生徒たちが吠えた。かくいう俺も一緒になって叫んでいるのだが。
だが一番喜んでいるのはモニカ教授だった。
ああ見えて意外に熱い人だったのかもしれない。これは見直せざるをえないな。
こうして俺たちの学院祭は終わりを迎えた。
ちなみに・・・
後で分かったことだが、モニカ教授があんなに喜んでいたのは、1位をとったクラスの教授は1年間給与が1.5倍にアップされるからだそうだ。
・・・見直した俺の気持ちを返してほしい。
豪華商品については後日連絡が来るらしいので、詳細についてはまだ分かっていない。
何はともあれ楽しかったので大成功だ。
大成功の裏側で、1年10組が3年1組に目を付けられたことをアウルはまだ知らない。そして、また厄介ごとに巻き込まれるのだがそれはまた後の話である。
学院祭が終わり、部屋でぼーっと空を見ているとテンドが言っていたことが思い出される。
『うん、間違いない。アウル、君は元宰相を殺した犯人と既に出会い知っている。その犯人の名前は────いや、これ以上教えるのは面白くないな。ここから先の答えは君が見つけるんだ。ただ、元宰相を育てた人は既に死んでいるけど、元宰相を殺した犯人は元宰相を育てた人と繋がりがあるとだけ言っておこう』
テンドは額同士を当てると記憶を読み取れる技を持っているらしく、記憶を見る限り俺は犯人と面識があるらしい。
「俺の知っている人が犯人、か…」
俺の呟きはどんよりと曇った夜空へと消えた。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
「のんだら転生」の外伝も細々と始めました。




