ep.63 学院祭④
学院祭2日目の朝も晴天に恵まれており、見渡す限りの青空だ。ミレイちゃんの件についてはまだ辺境伯に相談できていないので昨日は我が家には来ていない。
学院祭が終わったら王都の辺境伯の屋敷にお邪魔しようと思う。
いつも通り畑の世話をしているが、促成栽培のおかげでほとんどの作物が収穫できる段階に来ている。畑はそこそこ広いが村にいた頃に比べればまだまだだ。とりあえずできる範囲で収穫しておくとしよう。
来週末あたりでもう1回種を植えられるだろうから、冬が来る前にはギリギリまた収穫できるな。葡萄もそこそこ収穫できたけどワイン作りにはまだまだ足りないな〜・・・。一面全部葡萄はやりたくないからどうしよう。
あ!!なんで今まで忘れてたんだよ!アイスワイン作るの忘れてた!
解説ちゃん『アイスワインとはデザートワインの一種で、甘みの強い凍結された葡萄で作るワインであ〜る』
この世界の冬は寒いし、なんなら氷魔法で再現することが可能かもしれない。これは面白そうだけど、今すぐに自分で飲めないってのが難点だ。
この世界だと15歳以上になれば成人とみなされるので、酒も15歳から飲めることとなっている。冒険者が15歳からなのもそういう理由らしい。
とにかく来週以降にまた葡萄も植えて、冬は葡萄だけを植えよう。そうすれば普通のワインと少量ではあるがアイスワインが作れるな。
ともかくアイスワインはこの世界で聞いたことないし、俺が先駆者になれるだろう。前の世界でもアイスワインは貴族のワインとして有名だったし、何かあった際に交渉に使えるだろう。というか俺が飲みたいくらいだけどな。
朝の日課を終わらせたら簡単にシャワーを浴びて身支度を整える。本当は生活魔法でも済むけど、シャワーって気持ちいいよね!
朝ごはんはパンケーキ、炙りベーコン、スクランブルエッグ、サラダ、アプルジュースだ。俺としてはかなり好きな朝食メニューである。
例のごとく2人が起きて来たのでみんなで朝ごはんを食べて学院へと向かった。今日も2人は学院に遊びに来るようだ。いつの間にか仲良くなってるミレイちゃんもいるし、2人には自由にしてほしいから丁度いいといえば丁度いいか。
・・・ミレイちゃんの制服姿可愛かったな。平民とはいえ貴族の男に言い寄られてないか心配だよなぁ。ルナとヨミには渡してるし、ミレイちゃんにも指輪をあげよう。
あれがあれば最悪の事態はなんとかなるだろうし、ミレイちゃん自身もレベリングしたから学生に負けるようなことなどないだろう。
問題は権力を使われた場合だけど、大丈夫なのかな?時間があったらそれとなく聞いておこう。
学院に着くとレイとマルコはすでに来ていた。というか女子全員来ているみたいだけど、なんだか嫌な予感がする。
「おはよ〜アウル〜!いきなりで悪いんだけど〜」
「髪・・・か?」
「そうなの〜!お願い〜!」
何人もやるのは面倒だけど、これやっとくと売り上げアップに繋がるからやっといたほうが得なんだよなぁ。・・・仕方ないけどやるか。クラスの女子と仲良くなれるのは俺も吝かじゃないし、なんならこれはある種のご褒美と思えばいいのか!
合法で女子の髪に触れるんだからな。・・・なんか発想が思春期の子供じゃん!とも思うけど、これ以上考えるのはやめておこう。
例のごとくヘアアレンジを終えたので、開店準備を始めたのだがクラスメイトも大分慣れたのか、頼もしいばかりだ。
今日はマルコとレイと3人で回ることになっている。それまではとりあえず店を回そうと思う。
ただ人生というのはそうそう上手くいくものではないのだろう。もうすぐ休憩時間になるというところである人物が現れた。
色黒で掴み所のない雰囲気に中性的な顔、おそらくというか間違いなくテンドだと思われるのだが、なぜか学院の制服を着ている。それも女子の。
『やぁアウル久しぶりだね。なにやら面白そうな気配を感じたから来てみたけど、学院祭だったんだね!僕にも何か売っておくれよ。もちろんアウルの奢りでね?』
えっと、なんでこう俺の周りにはツッコミどころの多いやつが現れるんだ・・・。確かにテンドには用もあったからいいんだけど。
「色々言いたいことや聞きたいこともあるけど、とりあえず1番オススメの奴をご馳走するよ」
『ウンウン!どうせだから一緒に学院祭を周ろうよ!エスコートしてくれるかな?』
不本意だがこいつには助けられた借りがある。それにもしかしたら重要なことを知っているかもしれない奴だから、機嫌を損ねるのは得策ではないだろう。
前の服は良くも悪くも気味の悪い服装だったから分からなかったけど、女子の服装をしているテンドは普通に可愛い女の子に見える。色黒だからこれで耳が長かったらダークエルフにも見えそうだ。・・・実物は見たことないけどね。
「あぁ、もちろん。用意するからちょっと待っててくれ」
レイとマルコには悪いけど、今日は一緒に回れないことを伝えないと・・・。
「わかったよぉ〜、また今度埋め合わせしてねぇ〜?」
「うむ、了解した」
レイとマルコが分かってくれてよかったけど、マルコの含みのあるウインクが気になるなぁ。けどこれは甘んじて受けよう。
屋台の方も順調に捌けているみたいなので問題ないだろう。一応、不当に権力を振りかざすような貴族が出た場合のマニュアルも作って配布してあるしなんとかなるよね。
「ごめん待たせたね!」
『いやいいよ!待つのもデートのうちだからね!』
どうやらこれからするのはデートらしい。まさか学内でする初めてのデートの相手が学院の生徒ですらないとは思わなかったな・・・。
「じゃあ行こうか」
『人が多いから迷っちゃいそうだなぁ〜?』
このやろう。この学院にはルナとヨミもいるんだぞ!ていうかミレイちゃんすらいるのに!それなのに手を繋げというのか。しかし、機嫌を損ねたら情報が得られないかもしれないし・・・。
・・・よく考えたら俺が本気で戦っても勝てない相手なんだよな。これは尚更大人しくしておくしかないだろうが。
「手、繋ぐか・・・?」
『ウン!繋ご繋ご!』
うわっ、女の子の手って柔けぇ・・・!てかこいつ女でいいんだよな?僕って言ってたから男だと思ってたけど、まさかの僕っ娘だったとは。
心なしかいい匂いもする気がするし、変に意識して来ちゃった。こんなとこ3人に見られたら本気でやばいから、気配察知と空間把握を全力で展開しなければ!
なんとかして3人に出会わないようにテンドをエスコートしなければ!
『ふふふ、アウルも必死だね〜!でもその必死そうなところがまた面白いんだけどね!』
分かってやってやがるなこの野郎・・・。あ、野郎じゃないのか。さっさと学院回って欲しい情報聞いて丁重に帰ってもらわなければ!
『ほら早く行くよアウル!』
テンドに手を引かれてデートが始まったのだった。
SIDE:ヨミ with ルナ & ミレイ
今日は学院祭2日目。ご主人様の美味しい朝ごはんを頂いたあと、ご主人様を見送って片付けを行う。と言ってもご主人様はご飯を作りながらある程度片付けをしてくれる人なので、ほとんどやることはない。
買ってもらった可愛い服に着替えて準備をするが、念のために装備は収納に入れてある。
今日はルナとミレイと3人で構内を回る予定になっている。ルナはここの卒業生なので建物に詳しいからミレイと一緒に案内してもらうつもりだ。広すぎてさすがに昨日1日では見切れなかったのだ。
なんだか物凄い長い名前の貴族も絡んで来たけど、それとなくやんわりと避けておいた。こんなところでご主人様のお手を煩わせるわけにはいかないもんね。
「ふふふ、じゃあ今日も学院祭に遊びに行きましょう?」
「そうだね!ミレイも待ってるし!」
ルナもミレイに会えるのが嬉しいようだ。私たち3人はあの時に仲良くなって以来、実は休日に何回か会っていたりする。気づけばお互いを名前だけで呼ぶほどには仲良くなれた。
ミレイもご主人様に会いたがっていたけど、一度会って話したら甘えてしまいそうだからと言って聞かなかった。その甲斐あってたった3ヶ月で必要な学力をつけたのだから驚きだ。恋する乙女の力ということなのかな?ご主人様を想う気持ちは私も負けないけどね!!
「あ!ルナ!ヨミ!こっちこっち!」
学院に着いたらミレイが迎えに来てくれていたので早速3人で見て回ることになっている。3人で構内を回っていると視線がすごいのは昨日からだ。ルナもミレイも可愛いからすぐに視線が集まってしまうのだ。
そんな視線を気にもかけずに構内を回っているとご主人様の休憩時間になっていた。
「そういえばご主人様は今日は同級生の方と3人で構内を回るって言ってましたね」
「な〜んだ。また昨日みたいに4人で回ろうと思ったのになぁ〜」
「ふふふ、ご主人様は人気者ですから。あ、でも男性か女性かは聞き逃してしまいました」
「「「・・・」」」
気配察知!空間把握!
「ふふふ。ルナ、ミレイ、私あっちに行ってみたくなりました」
「あら、奇遇ねヨミ。私もあっちが気になってたの」
「ご主人様に言いよる女を見定めねばなりません!」
・・・ルナは真面目すぎるのが玉に瑕ね。まぁ、そこが可愛いところなんだけど。
「ってあれ?!ご主人様の近くにいるのは1人だけみたいだよ?それもかなり近い!」
ルナが言うので再度確認すると確かにご主人様の近くに誰かいる。それも本当に近くにいる。
「ルナ、ヨミ。これはもしかして謀られた?」
「ふふふ、ご主人様は悪くありませんよきっと」
「とにかく確認しましょう!」
魔法を使って3人を避けるアウル VS 魔法を使ってアウルを追う3人
本気の学院内鬼ごっこが始まった瞬間だった。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
『のんだら転生』の外伝も細々と更新始めました。




