ep.62 学院祭③
学院祭当日の朝は雲一つない快晴。お祭りをするには持ってこいの天気だろう。
いつもより少し早起きして畑の世話やもろもろの準備を終わらせる。
朝ご飯は気合を入れるために、少し重いがトンカツを作った。それに合わせるのはスパゲティーだ。
スパカツと言えば前世でも馴染み深い物がある。カツの香ばしい匂いに釣られて寝坊助2人が起きてくる。
・・・ヨミは確信犯らしいので、実質寝坊助は1人だが。
付け合わせの葉野菜の浅漬けと卵スープで朝ご飯の完成だ。
大盛りに作ったはずの朝ご飯をペロッと平らげる2人。俺より大人とはいえ、2人前はありそうな量を難なく食べる様は驚異的だ。
大食い大会があったらいい線行くんではないだろうか?
「ご主人様は今日から学院祭ですよね?私たちもこの3日間は冒険者稼業を休憩して、学院にお邪魔しようと考えているのですがよろしいですか?」
「うふふ、ご主人様の雄姿をこの目に焼き付けねばなりません」
どうやらこの2人は最初からそのつもりだったようだ。
たくさん手伝ってもらったし、否は無い。
「問題ないよ!ただ、2人は今や有名人なんだから絡まれないように気を付けてね?」
「「はい!!」」
2人は内心、「ご主人様も負けないくらい有名人なんですけどね」と思っていたが口には出さなかった。
2人に後片付けは任せていつもより早めに家をでる。いつもより早いと言うのに大通りが賑わっているのは、学院祭のせいだろう。
レブラントさんが宣伝は任せてと言っていたが、詳しく内容は聞いていない。
あの人のことだからあまり無茶なことはしてないと思うけど、なんだか嫌な予感がする。
学院内の10組の出す屋台がある場所に着くと、まだ人は殆ど来ていなかった。
なぜだか不安が拭えないので、念のためにとあるものを作ることにする。
念には念を入れてだ。まぁ、これを使うほど混み始めたらそれはそれで良いことなのだが。
そのまま休憩スペースの確認やらなんやらをしていると続々とクラスメイト達が到着する。
受付の女の子たちがお洒落をしてきているが、いまいち物足りない。
可愛いブローチや薄く化粧をしているのだが、何が足りないのだろう・・・?
観察すること5分でそのことに気付いた。
「髪型か」
「ん~?髪型がどうかしたの~?」
おっと、独り言が口から出ていたようだ。近くにいたマルコに聞かれてしまったな。
「いや、受付をやってくれる女の子たちはみんなお洒落をしているのは分かるんだが、何か足りないと思ってたんだ」
「あ~それで髪型ってこと~?」
この際だし簡単なアレンジとかやってみるのもアリかもしれない。
幸い、前世の職場に髪型にうるさい同期がいたおかげで何パターンかならすぐにできるし。
収納から鉄のインゴットとミスリル塊をだして、形だけのヘアアイロンを作る。もちろんウェーブ仕様のやつだ。
物は試しと言うことで、マルコの髪型をアレンジしてあげた。
会った時のマルコはショートヘアーだったが、今では少し髪が伸びて肩に届かないくらいだから割と何でもできる。
ヘアアイロンにじんわりと熱を持たせるように魔力を込めて、マルコの髪に軽くウェーブをかけてあげると、みるみる髪がふわふわし始めた。
「はい、これだけでも印象は変わるだろ?」
「うわぁ~!すごいよアウル~!私じゃないみた~い!」
この前ミスリルで作った鏡で見せてあげると、かなり気に入ってくれたようだ。
その様子を見ていた女子たちはいつの間にか綺麗に列を作って並んでいた。
並んで待っている女子たちの目はキラッキラに輝いており、期待に満ち溢れた目をしている。
・・・薄々分かっていたが、全員分やらないといけないみたいだ。
まぁ、集客率アップに繋がるかもしれないし男子たちのやる気も上がるだろう。
それにこれで女子たちとはかなり打ち解けられた気がする。結局みんなに似合いそうなアレンジをどんどんしてあげた。
みんな喜んでいるようなのでこれで良かったと思おう。
男子勢に嫉妬されるかと思ったが、予想に反し真逆の反応だった。
モブA「おいアウル!うちの女子たちなんだか滅茶苦茶可愛くないか?!俺あの子にアタックしちゃおうかな!」
モブB「それ思った!髪型だけでもかなり印象変わるんだな!良くやったぞアウル!俺はあの子にアタックするぜ!」
最初は距離を置かれていたが、案外気のいい奴らなのかもしれない。
ただモブA・Bよ。今更急にアタックしても振られるのがオチだからやめておけ。ただお前らのその精神の強さは認めてやる。
準備も無事終わりあとは開催を待つのみとなった。
『えーこほん。聞こえているかな諸君。長い間学院祭を盛り上げるための準備ご苦労だった。今日から学院祭は3日間開催される。お客さんもたくさん来るが、くれぐれも問題を起こさないように。それと、収益を
上げることも大事だが、それ以上にこの学院祭を楽しんでくれると学院長としても嬉しい限りだ。長くてもしょうがないので挨拶はこの辺で。それでは今より学院祭1日目を開催する!』
何らかの魔法か魔道具で拡声された学院長の声が構内へと響き渡った。
いよいよ学院祭が開催されるようだ。
とは言ってもシフトを組んであるので、屋台で働く人と休憩する人は決まっている。
休憩中は構内を回って色々と体験したり食べ歩くのが普通だ。
ルナとヨミにもそのシフトは教えてあるので、もしかしたら俺の休憩中に来てくれるかもしれない。
そしたら3人で回るのもいいな。
レイとマルコは2日目に一緒に回ろうと言われているので今日はフリーである。
ちなみに俺は発案者と言うこともあり、初日はあんまり自由時間はない。せいぜい昼に2時間くらいだろう。
一般客や生徒たちが構内を歩き始め、今やかなり賑わってきている。
客の中には貴族っぽい見た目の人もちらほら見えるが、おそらくそこまで爵位が高くない貴族だろう。
上級貴族たちは来るとしたらもっと後だと思う。
客の入りもまずまずでスタートとしては順調だ。来店してくれる貴族様はやはり食べ歩きに抵抗がある人が多く、大半が休憩スペースで食べている。
貴族はなかなか来てくれないと思ったが、レブラントさんが色々と宣伝してくれたらしい。
いったいどうやって宣伝したのか気になるところだ。
10組の屋台で売っているのは3種類の味がある。さらにグレードが3段階選べる仕様となっている。
①ヤンニョム風から揚げサンド
②マヨから揚げサンド
③塩レモン味から揚げサンド
一番の売れ筋は何と言ってもヤンニョム風だ。安価で香辛料料理を食べられるとあって身分問わず売れている。
次点でマヨから揚げだろう。ワインビネガーで作ったマヨネーズのため、普通のものと比べると風味が異なるが問題なく美味い。
コチュジャンにワインビネガーを使うが悩んだが、味の方向性が違うので使ってない。別に今のままで十分美味いしね。
ちなみにグレードはS・A・Bの3段階用意している。
A・B・Cの3段階にしなかったのは、グレードSにすることで特別感を演出するためだ。
基本価格としては以下のように設定した。
◇基本価格◇
①ヤンニョム:銀貨1枚
②マヨ:銅貨5枚
③塩レモン:銅貨5枚
グレードS:基本価格+金貨2枚
グレードA:基本価格+銀貨2枚
グレードB:基本価格のみ
なので、高いものだと金貨2枚と銀貨1枚となる。
グレードBのヤンニョムだと銀貨1枚とお手軽なので、平民でも香辛料を楽しめるという訳だ。
また、休憩スペースにも2段階のグレードを作っており、極上コースとスタンダードコースだ。
スタンダードコースも使用料は15分銀貨5枚とかなり安くしている。
内容としては市販されている家具の『上の下』の物を採用している。紅茶なんかも用意しているので自由に飲める仕様だ。
逆に極上コースは15分金貨5枚とかなりぼったくってみた。
スタンダードコースとは違い、市販されている家具は使っていない。今回のためにわざわざ最高の物を作成したのだ。
迷宮産の最高の魔物素材を使用し、この世界にここにしかないものを用意した。
さらにはいい匂いのするアロマや、女性用の化粧水なども配備してある。有料だが、お菓子も設置しているので食べたい人はお金を払えば食べられるのだ。
平民は安く食べられるとあってヤンニョムを食べ歩いてくれる。
さらにそれを見た生徒や他の客が買いに来る。これぞ想像した通りの展開だ。
貴族達にも休憩スペースがウケたのか常に満室だ。5室も作ったのに回転としてはギリギリである。
逆にスタンダードコースを使用する人がいないので、1日目が終了したら一部屋残して、残りを全て極上コースにしてしまうのもアリかもしれない。
途中から休憩スペースのお菓子目当てにから揚げサンドを買いに来る貴族もいる程で、嬉しい悲鳴である。
お菓子はレブラントさんが卸しているという事になっているため、あまり詮索されることも無いのが救いだ。
そんなこんなで忙しくしていたが、休憩の時間になったのでみんなに任せて屋台を出た。
「ご主人様お待ちしてました!」
「ふふふ、ご主人様エプロンを取るのを忘れていますよ」
屋台を出るとルナとヨミが俺を迎えに来ていた。もちろんメイド服ではなく私服である。髪型も少し変えて帽子を被り、一応の変装はしているみたいだ。
ただ俺の目の前にはもう一人、良く見知った女の子がいた。
「アウル、久しぶりね」
「ミレイちゃん、久しぶりだね。えっと・・・」
言いたいことは山ほどある。山ほどあるが一番気になるのが一点。
「なんでルイーナ学院の制服着てるの?!」
リボンこそ平民のものだが、なぜここにいるんだ?!というかなんで制服?!
「なんでって・・・私がこの学院に編入したからよ。年齢的に2年生への編入だから、アウルの上級生になるわね!」
ミレイちゃんが言うには、俺が通い始めた頃には一緒になって通っていたらしい。
王都に慣れるのと、クラスに馴染むのに忙しかったらしい。さらには勉強もみっちりする必要があったらしく、俺に会いに来る暇が無かったそうだ。
「それでも私はアウルを何回か学院内で見かけたけどね」
「なんで声かけてくれなかったの?!」
「ふふ、どうせなら驚かせてやろうと思ってね!ルナから学院祭のことは村にいた時に聞いたから、その時から準備してたの」
やばい、訳が分からない。いったいどうなってるんだ?なんとなく母の一言が思い出される。
『"何が起こるか分からない"んだから油断しないでね?ルナちゃんとヨミちゃんもアウルをよろしくね』
"何が起こるか分からない"
こういうことか?!そういうことなのか?!
「というか今はどこに住んでるの?寮に入ったとか?」
「今はランドルフ辺境伯のところにお世話になっているわ。ただ、いつまでもというのはねぇ~」
チラチラとこちらに視線を送ってくるミレイちゃん。
・・・つまりそういうことだろう。
「ランドルフ辺境伯と相談させてもらうよ・・・」
「さすがアウル!大好き!」
ムギュっと抱き着いてくるミレイちゃんは、女の子特有の2つの柔らかなものをこれでもかと押し付けてくる。
殺気?!
ルナとヨミの殺気かと思ったら、周囲にいたクラスの男子の視線によるものだった。
その視線には恐ろしい物が感じられたので、急いでミレイちゃんを引き離してその場を後にした。
そのあとは次のシフトまで4人で構内を回った。たまたま演劇を見ることができたのだが、これがまた面白かった。
魔法を駆使しているからか、臨場感が半端じゃないのだ。それに役者の演技もかなりのものでついつい見入ってしまい、危うくシフトに遅れるところだった。
「じゃあご主人様、私たちは3人でまた構内を回りますね」
「ふふふ、たまに様子を見に来ますね」
「アウルさっきの件頼んだわよ!」
「わかったよ、ありがとう3人とも。みんな綺麗なんだから絡まれないように気をつけてね」
何気なく心配のつもりで言ったのだが、3人とも顔を赤くしてしまっている。
「これだからアウルは・・・」などとミレイちゃんが言っているが、シフトまで時間が無いので放置である。
屋台に戻ると変わりなく繁盛していたので、この調子でいけばかなりの収益が見込めると思う。
結局その後も客足が途絶えることは無く、1日目終了の合図があるまで忙しいままだった。
収益の管理は生徒ではなくモニカ教授がすることになっており、最終日に結果だけ教えられるらしい。
俺がいる間だけでもかなりの利益が出ているのは分かっているので、結果を知るのが楽しみだ。
次の日の下準備と極上コースの増設を終わらせて、明日の流れの確認。
簡単なミーティングをしたところで解散となったのだが、男子たちにミレイちゃんのことを聞かれ、すぐに帰れなかったのはまた別の話だ。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
『のんだら転生』の外伝も細々と更新始めました。




