ep.6 風呂と仲間とときどきハチミツ
テン菜を植えてからはや1ヶ月が経過した。定期的に魔法で成長を促しているせいか滞りなく成長しているようだ。あと2ヶ月も経てば収穫までこぎつけられそうである。
ちなみに、醤油と味噌にもチャレンジしているが未だに完成まではこぎつけていない。魔法で醸造や発酵などができないかと試行錯誤しているがもう少し時間がかかりそうだ。
「あと少しなんだけどな・・・」
それっぽいものはできてきているので試しに果実のペーストと醤油モドキで照り焼きも作ってみたが、いい線いっていた。両親もめちゃくちゃ美味いと褒めてくれていたので、あと少し検証したらとりあえずは完成しそうだ。
砂糖ができたらもう一度チャレンジだ。さすがにみりんの作り方は知らないが、かわりの物なら知っている。
いつかそれが見つかればいいけど。
そんな訳で今日は調味料系は一旦置いておく。日課である畑の手伝いをして今は自由時間だ。
ちなみに最近では井戸水ではなく俺が水瓶に魔法で水を入れるのも役目となっている。
「前回の隠密熊で学んだが、俺はまだまだ弱い。魔法が使えるからっていい気になってはいけないな。こんなんじゃ何かあった時に誰も守れない。せめて両親と畑だけでも守れるようにならなきゃ」
今回新たに練習する魔法は高威力の魔法と防御特化の魔法だ。いつもの林で土の的をいくつも作る。
「今までは単発の魔法しか使わなかったけど、ライトみたいに並列的に同時に何個も発動できればいいのか?」
何個も並列的にウォーターボールを起動する。今並列起動できるのは20個くらいが限度だが・・・。あれ、実はこれすごいんじゃないか?単純に弾幕が張れるって強いんと思うんだよな。
魔物にどこまで有効かは不明だが、これはこれで使い道があるはずだ。目標は50個の並列起動を目指してみよう。まだ俺は5歳だし、年齢×10個の並列起動を目標に練習しよう。
このアルトリアでは宮廷魔導師でさえ並列起動は最高で50くらいと言われており、5歳ですでに20の並列起動ができていること自体驚異的なのだが、師匠もなく全てが独学のため自分の凄さに気づいていなかった。この自分の異常性に気づくのはもっと後のことである。
「よし次だな。弾幕的な強さはこれで目処が立ったけど、あとは敵が強い場合用の単発の威力が必要不可欠だよなぁ。なんの属性にしよう・・・・・・」
最近になって気づいたが、一応どの属性でも使うことができるけどその中でも得意属性があることに気づいた。それは「風・土・水・雷」の4つだ。何故かはわからないが発動がすんなり行えるのだ。
ここでも宮廷魔導師でさえ使える属性は最高でも4つと言われているのに対し、すでに9属性「火・水・土・風・雷・氷・空間・無・聖」が使えているという異常なのだがそれに気づかない。
そしてそれだけの数の属性を難なく使えているのは、ひとえに恩恵によるものだと気づくのももう少し後になってからである。
「うーん、威力のみを考えればやはり雷かな・・・」
目標は地球時代でも最強レベルの技だった"超電磁砲"をイメージ。鉄貨を手に持ち弾とする。某漫画の主人公のような感じだろうか。
「レールガン!」
ズガンッッッッ!!!
・・・は?
5重に作っていた的は跡形もなく吹っ飛び、さらに奥が見えなくなるくらいまで木がなぎ倒されてしまっている。
・・・・うん、まぁ一応完成かな?うん、これがあればとりあえず大丈夫な気がする。
本当はもっといろんな属性の強い技を作ろうかと思っていたが、なんだか呆気にとられてしまって作る気がなくなってしまった。
「よ、よし。次は防御魔法だな。考えられるのはやっぱり土だけど、雷の電磁フィールドみたいな感じもかっこいいな。できれば障壁のような魔法も作れないかな。純粋に魔力を練ればいけるか?」
その後4時間近く試行錯誤してなんとか電磁フィールドと障壁魔法を発動することができた。ただ、まだイメージが完璧ではないため、何度も練習が必要だろう。
時間も夕方になったため、家に帰って家族とご飯を食べる。そういや最近何故か両親が俺を早く寝かせようとしてるけどなんでなんだろう。そんなに疲れた顔してるのかな?
ぐっすり寝た次の日の朝、なんだか疲れた顔をしている父とツヤツヤしている母がいた。そういや母が最近になって一段と綺麗になっているのは何故なんだろう?美容液でも使っているのだろうか。ってこの世界にあるわけないか・・・。
美容か。そういえばこの世界には風呂がないな。
「よし、お風呂を作ろう」
そうと決まればささっと畑の手伝いを終わらせる。この世界は2食が基本なので昼ごはんというものはない。そのため、手伝いを終わらせればそのまま遊べるのだ。
いつもの拓けた林に行くと、昨日レールガンでなぎ倒した木をある程度収納する。ちょっとずつ木を風魔法で加工して風呂用の建材を用意。
家の裏戸のすぐそばに小さいが大人が足を伸ばせるくらいの大きさをイメージして組み上げて行く。
前世で日曜大工も趣味な時期があったためある程度のものが作れた。釘はないため木にくさび形の加工をして組み上げるという手の込みようだ。
もしかしたら両親に怪しまれる可能性もあるが、ここまできたら今更だろう。親バカ過ぎて俺がやることをあまり変だと思わない節もあるしな。
なんやかんやで2時間弱で風呂自体は完成した。
「完成はしたけどさすがに囲いがないし、屋根がないのはいやだよな・・・ええい!ここまできたら最後までやったらぁ!」
結局、自重無しで身体強化をフルに使い、風呂を余裕に囲えるくらいの小屋を作り上げてしまった。
・・・さようなら自重。こんにちは快適な生活。俺は快適な貧乏農家生活を楽しみたいんだ。
その夜、魔法を駆使して温水を用意して風呂に入っていると両親が不思議そうに眺めてきた。
え、父さんなんで裸なの?まさか入る気なの?一緒に?無理だよ狭いよ。えぇ?母さんも裸なの?みんなでは入れないよやめてよ、あぁあぁあああああ。お湯が零れる~~~…。
「おいアウル、これはまさか風呂ってやつじゃないか。王侯貴族は入っていると聞いたことがあるが、まさか貧乏農家の我が家が入れるとはなぁ」
「ほんとね、それにしてもやっぱりお風呂って気持ちいいわね。これなら毎日でも入りたいわ。ね、アウル?」
・・・母の目が怖い。有無を言わさない鋭い眼光だ。隠密熊に睨まれた時より怖いかもしれない。
「これからもたまに、お風呂用意するよ」
「うふふ、ありがとうアウル。大好きよ」
まぁ、前世では親子仲はあまり良くなかったことを考えるとこんなに仲のいい親子というのはいいもんだ。母も綺麗だし、父は頼りになる。最高に幸せな人生である。
「それにしても風呂っていうのはいいもんだな。なんだか汚れだけじゃなく疲れも取れるようだ」
父もどうやらお風呂の虜になってしまったらしい。この調子で風呂の良さを布教したいとも思ったが、風呂は俺が魔法を使えるからこんなに簡単に入れるのであって、普通であれば井戸水を何回も汲まないといけないし、それを温める薪も必要となる。そう考えるとかなり大変な重労働であるのは間違いない。
風呂上がり、急に眠気がきた。やはり疲れていたのだろう。
「エムリア、風呂に入って一段と綺麗になったな」
「もう、あなたったら・・・」
あぁ、だめだ。眠い。おやすみなさい。
次の日の朝は、いつもよりスッキリ目が覚めた。これがお風呂効果ということだろう。もしかしたら魔力のこもった水の風呂だから余計に効能が強いのかもしれない。
朝食を作っている母が鼻歌を歌っている。どうやらかなり上機嫌のようだけど、何かいいことあったのかな?
「おはようお母さん。今日はなんだか機嫌がいいけど何かいいことあったの?」
「おはようアウル。え、えぇ!?そんなことないわよ、いつも通りよ。ほら朝ご飯できるから顔洗ってらっしゃい」
なんだかはぐらかされたような気がするは気のせいだろうか。顔を洗っていると父が起きてきた。目の下にたっぷりと隈を作って。
・・・あれ、昨日風呂に入ったから疲れは取れていると思うんだけど、どうしたんだろう。
「お父さんおはよう。なんだかすごい疲れた顔してるけど、大丈夫?」
「え、?あぁ、大丈夫だ。問題ない」
フラフラと顔を洗いに行ってしまった。なんとなく心配なのでおそらく聖魔法の一種であるオリジナル魔法「リフレッシュ」をそっとかけてあげる。
「・・・?」
父もなんとなく元気になったのに気づいたようだが、特に何か言ってくることもなかったので放置した。
テン菜の世話や畑の手伝いを終わらせたので、今日は何をしようかと悩んでいると母からお肉が少なくなってきたと言われたので、久しぶりに狩りに行くことにした。
「さて、ただ狩りをするのもあれだしキノコとか薬草とか取りながら行こうかな」
この世界には薬草がある。前回レブラントさんがきた時に売り物にポーションと呼ばれるものがあり、なんなのかを聞いてみると怪我などをした時に飲んだりかけたりするとその怪我が治るんだと教えてもらった。それの材料の一つが薬草なのだという。
その時ついでに薬草の見た目も教えてもらったので俺でも取れる。比較的この森にも群生しているらしく取るのは問題ない。
お、これだな。というか、ここら一帯全部薬草じゃないか?!すごい、本当に群生地帯を見つけてしまった。
オーネン村には冒険者ギルドと呼ばれるものがないため冒険者が訪れることはほとんどない。出る魔物も弱いものばかりのためなおさらだ。そんなわけもあって薬草が採取されることもなく残っていたというわけだ。
「これは僥倖だ。ポーションの作り方はわからないけど、薬草があれば薬用の洗髪剤が作れるかもしれない。あ、そうだ。どうせなら石鹸も作ろう。今は行商から買っているけど一個銀貨5枚とかなり高い上にそこまで品質もよくない」
せっせと薬草を採取しつつも気配察知で獲物を探す。ホーンラビットは数匹いるがあまり食いでがないので今は捕まえることはない。美味いといえば美味いのだが。
ある程度薬草を採取したところで今まで察知したことのない気配をかすかに感じたので遠視を発動して気配の方をみる。
(あれは・・・蜂か?それにしては大きいな・・・。15cm近くあるぞ?)
ちなみにこの時、アウルがいたのは森の中腹あたりで、本当なら入ってはいけないと母に言われているところまで入り込んでいたのだが、森に慣れてきてしまっているために注意が疎かになっていた。
(はちみつ・・・!)
本来であれば未知の魔物ということでいつも以上に注意するはずのアウルだが、甘いものに目がないアウルははちみつで頭がいっぱいになってしまっていた。
本来なら、この森にいるはずのない凶悪な魔物であるということにも気づかないくらいには興奮していた。しかし、甘味への執着が奇跡を起こす。瞬時に的確な作戦を思いつき実行する。
蜂の巣がある周囲を障壁で囲い、中にファイヤーボールを発生させる。密閉された中で燃焼する炎は空間内の酸素を使い果たし無酸素状態にしてしまう。
呼吸ができなくなった蜂たちは異変に気付き次々と外に出てくるが敢え無く死にたえる。最後の1匹である女王蜂はしぶとかったが、フラフラと飛んだ後地面に落ちた。
障壁を解除し近くに行くと、まだ女王蜂は生きていた。やばいと思ってトドメをさそうとした時、不意に頭の中に何か意思のようなものを感じた。
ふと女王蜂に目をやると、なんとなくだが配下になりたいという意思というか意志が強く伝わってくる。
「お前、俺と一緒に来たいのか?」
ふるふる
弱々しく羽を動かして肯定しているようだ。良くみると可愛いし、はちみつが定期的に手に入るかもと考えると配下にするのも吝かではない。
「たまにはちみつを貰うかもしれないが、それでもいいかい?」
ふるふる
いいようだ。だったらこちらも否はない。
「そうか、今日からお前は俺の従魔だ。名前はクイン。よろしくね」
女王蜂→クイーンビー→クイン という安易な名前だが、喜んでいるような感じがするので問題ないだろう。
「それにしても仲間殺してしまってごめんな、辛いだろ。今回復してやるからな。"エクスヒール"」
ヒールの上級版をイメージして作ったのがエクスヒールだ。魔力をかなり使うが、骨折くらいまでなら瞬時に直すことができる優れものだ。まぁ、実際に骨折した時に使った訳ではないので想定ではあるが。
とりあえず巣と仲間の死骸を収納したので、クインを家に連れて帰ろうと思ったが、母に言われた肉の確保をまだしていないので、クインを肩に乗っけたまま獲物を探すことにした。
ちなみにクインの大きさは30cm近くありかなり大きい。肩に乗っているが俺がまだ5歳と小さいので端から見れば襲われているようにも見えなくもない光景である。
・・・また母さん気絶するかも。
一抹の不安を抱えながらも獲物を探していると、森イノシシとツリーディアの気配を見つけたのでウィンドカッターで一瞬で首を刈り取る。血抜きをして収納する。一応血も土魔法で作った甕に貯めてあるが何かに使えるだろうか?
最近魔法の練習をしているせいか魔法の威力もどんどん上がっている気がする。今なら隠密熊にも通用するかもしれないが、怖いので山には行こうとは思わない。
家に帰ると案の定母が気絶して、怒られた。だが、はちみつが定期的にもらえると教えると目に見えて怒りがなくなり、なんならクインを褒め始めすらしたので女性というのは切り替えが早い生き物のようだ。
どこにクインの巣を作ろうかと悩んでいると、クインから意思が伝わって来る。ふむ。なるほど。
要約すると、森で生きるために部下を大きく作ったが、別に通常サイズの蜂も使役することができるらしい。それならと明日簡単な小屋を作ってあげるというと嬉しそうに周りをブンブン飛ぶので、とても可愛く見えてしまった。
とりあえず、はちみつゲットだぜ。はちみつと酒を混ぜればみりんの代わりにもなるしな。
ちょっとずつ更新します。
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