ep.58 千剣の男
モニカ教授に言われた通り、動きやすい服に着替えて屋外の訓練場に集まっている。ちなみに服は適当に安い服を着ている。
迷宮潜るときの服でもいいかと思ったが、流石に品質が良いので平民が着てたら要らぬ面倒を呼び寄せるかもしれない。
ストレッチして待っていると突如として俺に濃密な殺気が飛んできたために、ほぼ反射的に収納から刀を出してしまった。
「げっ…!」
殺気が飛んできた方を見ると、そこには絶対に会いたく無かった男とモニカ教授が立っている。モニカ教授に変わったところは無いし、俺の周りにいたレイやマルコにも変わったところはない。
どうやら完全に俺にだけ殺気を飛ばしてきたようだ。それも、周りの誰にも気づかれることなく。
流石にそんな器用な真似出来ないぞ…?一体何なんだあいつは。
モブA「お、おい!モニカ教授の隣にいるの千剣のヨルナードじゃねぇか!」
モブB「ほんとだ!試験官の仕事は終わったのになんでいるんだ?」
どうやら自己紹介のときに聞き流していたのか、10組にはモブA・Bがいるみたいだ。試験の時も思ったけどこいつらの説明能力には舌を巻く。
って……モブCはどうしたお前ら! すごく気になるんだが?! あいつ試験落ちたの?! それとも上のクラスなの?! ここ最近で1番気になってんだけど! あいつら3人セットじゃなかったんか?!
そんな下らないことを考えながらヨルナードを見ていると、以前よりニヤニヤした顔で俺のところへと近づいてくる。
「よう、また会ったな。というか、げっ…!って言うのは少し失礼じゃないか?」
「地獄耳かよ!」
あの距離で聞こえるとか反則だろ…。
「カマ掛けただけだよ。遠目でちらっと見えたらそんな顔してるなと思ったんだ。意外とこういう駆け引きはまだまだ子供だな!!ガハハハハハハ!」
・・・にゃろう。見た目から何歳なのかすらわからないが、かなり厄介な人だな。やっぱり関わりたくない。
「おーい、じゃあレクリエーション始めるぞ〜。午後はお前らがどれくらい動けるのか見させてもらうぞ〜。ちなみに対戦相手役にヨルナードに来てもらっているぞ〜。はい、拍手〜」
まばらな拍手とともにヨルナードの紹介が終わるが、俺以外のクラスメイトはヨルナードが嬉しいのかどこか浮かれてるように見える。
・・・まぁ、滅多にお目にかかれないSランク冒険者な上に、いろんな武勇伝を持っていると言う有名人だ。俺もあの人でなければ幾分違った反応だったんだろうが。
「ガハハハハ、俺は今日からお前らに武術を教えることになったヨルナードだ。これから1年間お前らを鍛え上げてやるので、覚悟しておくように!最後まで耐えきれればCランク冒険者程度にはなれるだろう・・・まぁ、すでに俺と肩を並べるくらいに強いやつもいるみたいだがな」
最後の言葉と一緒に視線が動いたようだったので、咄嗟に視線を外してしまった。・・・だってあいつ絶対バトルジャンキーだし、絡まれたら面倒臭そうなんだもん。
モニカ教授がベンチに腰掛けながら模擬戦の様子を見てくれている。あれ、見てるよな?目、開いて・・・ないな!よく見ると心なしか船こいでるし、大丈夫かあの先生。
その代わりと言ってはなんだがヨルナードは1対5で模擬戦をしているみたいだ。かなり張り切っているようだが、冒険者かつ傭兵の彼がなぜ教師の真似事なんてしてるんだろう?
気づけば俺を残して模擬戦が終了しているみたいだった。あっという間にみんなやられてしまったのだろう。生徒たちはみんな気絶しているのか、その辺で転がっている。レイとマルコも俺を差し置いて戦ってしまったみたいだ。2人の実力を見るのはまた今度かな?
俺だけ残したってことは、やっぱりそう言うことなんだろうなぁ・・・
「123番、アウルって言ったな。教師になんかなるつもりはなかったが、こっちにも色々事情があってな。ついでにお前と決着がつけられるし、一石二鳥ってわけだ。さぁ、やろうぜ。なんなら今回は魔法も使っていいぜ?俺は使わないでやるからよ」
「え、いいの?」
瞬時に体全身に魔力を展開して身体強化を発動する。さらに感覚強化で五感を研ぎ澄ませることで、ヨルナードの驚異的な攻撃にも対処する。特大級の魔法を使ってもいいけど俺の修行にならない。
ここで魔力を使わずに戦うっていうのもありだけど、一旦黙らせるにはこちらの力をある程度見せるのが手っ取り早いだろう。とはいってもいきなり全力ではなくまずは5割くらいの力だ。
一蹴りで10m以上離れていた距離を詰めて、収納から木の杖を抜き放つ。一瞬の出来事だというのにきちんと対応してくるあたり、さすがと言うべきだろう。
「おいおい、お前魔法も堪能に使えるのかよ。そんなに鍛え上げられた身体強化は久しぶりに見た、ぜ!」
ぜ!とともに絶妙に弾き返して距離をとるヨルナード。
「前言撤回だ。俺も魔法を使わせてもらおう。ただ身体強化だけだがな。10歳そこそこにして俺に身体強化を使わせたんだ、お前は誇っていい。ただ、お前は今から俺に対応するのは難しくなるぞ。行くぞ、ギア1」
ギリギリ感覚強化した動体視力でヨルナードを追い、杖で対応する。ヨルナードも木剣のためいきなり杖が折れるようなことは無かったが、一撃受けただけで杖がダメになって来ている。物凄い馬鹿力なのか?!
「おお?お前、魔纏はしないみたいだな。ふむ」
魔纏?魔力を武器に通して攻撃することはあるが、あれは魔纏って言うのか?ただ、考えて見ると杖術を使うタイミングでしか魔力を通したことがないかもしれない。
ギリギリ目で追える速さで振りかぶってくるヨルナードに一度見破られた技を放つ。ただし、前回とは違い剣に雷属性の魔力を通してある。
《杖術 太刀の型 紫電》 バチバチィッ!!
「ぬ・・・!!んだよ、魔纏も出来んのかよ。教えがいがねぇガキだな。しかも俺のギア1にもついて来やがるし、本当に何モンだよ。ただ、俺はもっと早くなるぜ。ギア2」
直後ヨルナードが消えた。一応空間把握や気配察知をフル動員、さらに感覚強化で触覚と聴覚を強く意識する。もはや目に頼るのは限界だろうから、音と風の揺らぎに頼るほかない。移動速度が速すぎて空間把握でも捉えきれていないからな。
油断なくヨルナードの気配を追っていると、不意に首筋にゾクリとする悪寒が走る。咄嗟に杖を後ろに出して首筋を防ごうとするが、剣がぶつかる音がしたのはまさかの顔の目の前だった。
後ろからくると思ったらまさかの前からの斬撃。・・・指輪の自動障壁展開が無かったら完全にやられていただろう。
「なっ?!お前その指輪の魔力の波動・・・魔道具か!木剣とはいえ俺の斬撃を防ぐとはその魔道具も半端じゃないな!だが、これは俺の勝ちだな。障壁がなけりゃお前は死んでたぜ」
・・・悔しいがヨルナードの言う通りだ。完全に後ろだと思ったのに、実際の斬撃は前だった。一体どうやったかはわからないが、おそらくあいつはあれでもまだ本気じゃない。ギア2とか言ってたが、もっと早くなるのだろう。
俺も最初こそ身体強化を5割くらいだったが、すぐに全開で戦った。なのに勝てなかったのは完全に俺の上を行ったと言うことだろう。魔法を使えばもっとやりようはあるだろうが・・・。
「お前、かなりセンスがいい。ただ、魔力に頼りすぎている上に経験が少ないな。魔物相手には通じるだろうが、対人経験が全くと言っていいほど足りていない」
「・・・悔しいですが、俺もそう思います」
「ほう、意外に素直じゃないか。そういう奴は嫌いじゃないぜ。ただし、今後1年は俺がお前を鍛えてやるから安心するといい!!・・・こんなに面白くて壊れない玩具は久しぶりだからな」
おい!最後の方小さく喋ったつもりだろうが、まだ続いてた聴覚強化のせいで聞こえたぞ!玩具ってなんだよ、相当やばい奴じゃねーか!
本当に学院とモニカ教授は何考えてんだ…。
憤慨しながらモニカ教授に視線を移すと完全に寝落ちしている。鼻ちょうちんを作っている美人というのは初めて見たのだが、残念という言葉では言い表しきれないほどに残念である。
ヨルナードとの戦闘は時間にしておよそ2〜3分だったが、半日以上戦った時くらいに疲れている。これが本当の戦闘ということなんだろう。
・・・考えてみれば今までは、勝てるかどうかわからない勝負というのはほとんど無かった気がする。俗にいう俺TUEEE系だった。だが、ヨルナードとの戦闘で自分の弱点がどんどん明らかになっているのはかなりの成長だろう。
今後はルナやヨミとも模擬戦をして戦闘経験を積んでいけば、俺はさらに強くなれる気がする。
これはもはや開き直って授業を真面目に受けるしかないな!
周囲に視線を移すと、俺をキラッキラに光る目で見る生徒達の視線が凄い。まぁ、バケモノ扱いされなくて良かったけど、こんな目で見られるのは慣れてないからむず痒いな。
…レイの目が特にキラッキラしてたけど、あえて触れないでおいた。
その後、ヨルナードと簡単にクールダウンしていると他の生徒がモニカ教授を起こしたのか、いつの間にか教授の周りに生徒が集まっており、ヨルナードとともに教授の元へと走る。
「よーし、おおよそのお前らの強さや特徴は把握した。あとでお前らから提出される魔力適性の羊皮紙も確認した上で、今後の指導方針を決定するからそのつもりでいてくれ〜。ちなみに今後1年間、午前中は基礎科目の王国の歴史や算術、午後からは魔法の基礎理論と基礎武術についてだ。変更がある場合はその都度追って連絡するから私の話はちゃんと聞いておけよ〜。今日はこれで終了だから、着替えて帰っていいぞ〜」
どうやら今日はこれで終わりみたいだが、かなり疲れた。だが収穫の多い1日でもあったな。レイとマルコも相当疲れていたのかいつの間にか帰ってしまっているみたいだ。本当は図書館に篭って本を読んで紅茶を飲み、お菓子を食べたい。
・・・うん、なんて優雅な時間なんだ。
一年目は難しいかもしれないけど、二年目は絶対ぐうたらしてやる!そのためにはさっさと単位とってしまわないといけないが・・・。
家に帰ると、ルナとヨミがすでに家にいるらしく夜ご飯を作り始めているようだ。匂いから察するに、今日はパンかな?
あとはお肉を焼く炭火のいい匂いもキッチンに充満している。
「おかえりなさいませご主人様!本日もお疲れ様でした!」
「ふふ、もう少しで夜ご飯ですのでリビングでお待ちください」
ちらっと見えた感じだと、焼きたてパンに炭火で炙ったチキンと葉野菜を挟んで食べるみたいだ。あとは野菜スープかな?
ソースは以前教えた醤油と野菜を合わせた、秘伝のオリジナルソースを使うようだ。これは夜ご飯としてのメニューかどうかは置いておくとして、味は絶対に美味いだろう。
しかし、サンドイッチ形式にするならそろそろマヨネーズが必要だよなぁ。・・・ただ酢は見つかってないし、ワインビネガーで代用かな?卵黄はワイルドクックのがあるし油もある。塩と胡椒も買ってあるからいけるな。
2人がご飯を作ってくれている間に、材料を混ぜ合わせ丁寧に作り上げていく。攪拌が大変だが身体強化を使えばなんてことはない。
魔物の卵なのでまた判断が難しいが、一応菌がいるかもしれないので聖属性の浄化を発動しておく。珍しい聖属性魔法の使い方としてはかなり勿体無いかもしれないが・・・。
「お待たせしましたご主人様!」
「・・・あら、その白いソースはなんですか?」
「これはマヨネーズだよ。2人が作ってくれたサンドイッチにアクセントとしてこれも塗って見てほしいんだ」
言われたままに適量を塗った2人と一緒にサンドイッチへとかぶりつく。
「「「美味しい!!!!」」」
炭火で炙った香ばしい香りと、秘伝のソースが絶妙にマッチしている。さらにはその味に花を持たせてくれるような爽やかなマヨネーズの味とコク。魔物の卵だからかはわからないが、くどくなくさらっと口の中を通り抜けていくのは感動ものだ。野菜のシャキシャキとした食感もさらに食欲をそそる。
「夜ご飯にサンドイッチ?って思ったけど、そんなの感じさせないほどに美味いよ!」
「いえ、ご主人様に教えていただいたものばかりですし、それにこのマヨネーズがさらに味を際立たせてます!」
「ふふふ、頑張った甲斐がありましたねルナ。ご主人様に喜んでいただけて嬉しいです」
2人は今日も冒険者としても働いてきたようだ。最近だとレブラントさんが色々な採取クエストを出しているらしいが、そのどれもが難度が高いためにほぼ全て指名依頼ということになっているらしい。
まぁ、依頼で得たお金は好きにしていいと言ってあるが、最近は特にお金を使うようなことも余り無いようでどんどん家に貯めている。いつか何かに使えるだろう。
一通り夜ご飯を食べてホッと一息入れていると、夜も遅いのにドアがノックされた。ヨミに頼んで対応してもらったら、見たことのある騎士がきているとのことだ。
「アウル、久し…ぶり」
家へと訪れてきたのは第2騎士団副団長のサルラード・イルリアだった。
「えっとこんな時間にどうしたんです?」
「…国王、から話が…ある、から…来て。そっちの、2人…も一緒で、いい」
この人は本当に喋るのが苦手みたいだな。別にわかるからいいけども、なんとかならんものかね?顔が美人なだけに惜しいと思う。
国王に会いにいくのは仕方ないとして、その前に情報収集をさせてもらおう。
「とりあえず立ち話もなんなので中にどうぞ。新しいお菓子もありますよ?」
「新しいお菓子?もちろん頂くに決まってる。国王の話なんか別にまた後でいい」
・・・騎士団としてそれでいいのか?まぁ、俺としてはありがたいのでいいのだが。お菓子は以前王女とアリスに作った残りのフルーツタルトだ。
ってお菓子の話になった途端に流暢に喋り始めたけどどうなってんの?お菓子専用の脳内回路でもあるのか??
ソファーに座るや否や、出したフルーツタルトを頬張り始めた。それも一口一口余すことなく堪能しているような食べっぷりだ。
「これは第3王女が言っていたフルーツタルトというお菓子ね。ずっと自慢されていたので気になってた。これもクッキーに負けず劣らず素晴らしい。サクッとした生地に甘すぎないこのクリームと、甘酸っぱい果物が見事に調和している。さらにこのお菓子にベストな紅茶。蒸らし方も完璧。金貨5枚払ってでも毎日食べたいくらい美味しい」
やはりすごく流暢だ。にしてもやっぱりこの世界の人たちは食レポが上手いな……。俺としては嬉しい限りだが、何か練習でもしているのだろかと疑ってしまうレベルである。
そうだ、国王からの話ってのがなんなのか事前に聞くんだった。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
年末忙しくなってきて更新が…。




