ep.52 入学試験①
昨日、王女様に招待されて王城へ行ってきた。
お菓子はいくつか用意しておいたが、一番人気だったのはやはりケーキだろう。
迷宮産の果物をふんだんに使ったフルーツタルトは絶品だった。
個人的にはみたらし団子が一番美味しいと思うのだが、緑茶に慣れない彼女たちは紅茶に合うケーキのほうが良かったみたいだ。
途中、王妃様が乱入してきて大変な騒ぎとなったが、この話は割愛させていただこう。
あまり思い出したくないからな。
ぶっちゃけ王女様と言っても、友達の家に遊びに来たくらいの感覚ではあったが、褒美をくれるということなので、なにか考えておいてと言われてしまった。
特にこれと言って欲しいものは無いのだが…。
なにか欲しくなったら王女様に言えば買ってくれるらしい。
その後は特に目立ったイベントもなく平和な日々が戻って来た。
試験日まで一応念のために勉強しなきゃということで、勉強しようと思ったのだが、クインが迷宮へ行きたいと言う。
仕方ないのでクインの支配する迷宮へ行くと、クインがふらふらと森へ飛んで行った。
きっと長い間空けていたので、様子が見たかったのだろう。
この階層で襲われることはほぼないので、ログハウスを出してここで勉強することにした。
ルナとヨミには試験日まで休暇を出した。
最初は傍を離れません!と言って聞かなかったが、この隙に休暇ついでに冒険者業でもしたら?と言ったら2人が話し合った結果、休暇を受け入れてくれた。
夜は帰ってくるのだが、朝ご飯を食べるとすぐに出かけていく。
わざわざログハウスに帰ってこなくてもいいのに、とは思っていても言えない。
きっと毎日冒険者稼業を頑張っているのだろう。…休暇がメインだったのにな。
クインも数日すると戻ってきて家の中で寛いでいる。どうやら視察?は終わったようだ。
気分転換に森を歩くとクインが蜂の巣へと案内してくれて、ハチミツを分けてくれる。
しかもよく見ると蜂の巣ごとにハチミツの種類が違うようなのだ。採取する花の種類を変えているのだとするとかなり芸が細かい。
「ありがとうクイン。いつも助かるよ」
ふるふるふる!!
俺にしがみついて嬉しそうに頬ずりしてくる様は小さい女の子みたいだ。
・・・というかクインは女の子か。
森エリアにはハイオークなどがいたはずなのだが、あまり見かけない。何故かと思ってみていると、どうやらハイオークらはクインの部下にやられているらしい。
お肉が欲しくなったら、言えばハイオークを殺すのはやめてくれるだろうし多分問題ない。
ルイーナ魔術学院の入学試験は『国語』『算数』『武術』『魔法』の4科目だ。歴史とかは入学してから学ぶ内容だという。
まぁ、平民が歴史を学ぼうと思ってもなかなか厳しいしな。
国語は簡単な言葉の言い回しや文字が書けるかというレベル。算数も小学校高学年レベルなので俺にとっては問題ない。
なので早々に筆記の勉強を終わらせて、森で杖術と魔法を練習している。
杖術もだいぶ勘を取り戻してきたし、あとは成長を待つだけだろう。
ただ一番悩んだのは魔法だ。魔力操作や魔力増幅のための訓練はしているのだが、俺の魔法はこの世界のものとは異なる。
下手をすれば一発で危険人物扱いされかねない。と思う。
だが俺のことを知っているのはアリスと王女様だけ。目立たないように地味な奴を演じていれば、すんなりと卒業できるかもしれない。
「よし、試験の魔法は他の子の様子を見ながら調整しよう。武術も抑えて戦って、適度に結果を出そう」
迷宮で訓練や素材集め、ゴロゴロしたりしているうちに、試験前日となった。
この日はさすがにマイホームに戻って過ごすことにした。2人もこの日だけは1日家にいて家事をしてくれた。
「ご主人様、明日はとうとう入学試験ですね。お体は大丈夫ですか?」
「ふふ、心配しなくてもご主人様なら大丈夫よ」
「ありがとう2人とも。でも心配ないよ。まぁ、目立たないように適当にやってくるさ」
「ご主人様、あそこの学院は生徒の身分は関係ないものとして扱うという風に言われていますが、実際はそんなことはありません。ですので、大丈夫だとは思いますがくれぐれも注意してください」
…なるほどね。平民だと因縁付けられたりと貴族様の格好の的なわけか。
「推薦枠の平民ならばまだマシかもしれませんが、平民の一般枠となると正直想像ができません」
たしかに。推薦した貴族のメンツもあるからあまり表立っては攻撃しないということか。
でも俺は一般枠の平民。こいつは思ったよりも面倒臭そうな学院生活になりそうな気がする・・・。
「まぁ、入学前にそんなことを考えても仕方ない。今日は豪華にしたからご飯を食べよう!」
今日のご飯は海エリアで採れたジュエルクラブのカニ鍋だ。
ジュエルクラブは名の通り、宝石を殻に精製する蟹だ。これを見たときは流石に嬉しすぎて震えたね。
大きさは大きいものだと2mくらいになると魔物図鑑に書いてあった。ただ、その昔に乱獲しすぎて外界のジュエルクラブはほとんど出会えないらしい。
なので殺さないように丁寧に宝石を取ってから蟹足をもいだので、ルビーやサファイヤと言った宝石がたくさん取れた。
ただ、ジュエルクラブ自体も少ないのか全部で3体しか出会えていない。
もっと下層にいけばいるのか?
蟹味噌が手に入らなかったのは勿体ないが、そこは普通の蟹味噌で我慢した。
「「「・・・・・・」」」
蟹を食べるときに静かになるのはどこの世界も一緒のようだ。かく言う俺も夢中になって食べたのだが。
ジュエルクラブは味も美味しく、身もぎっしり詰まっていた。味も繊細でプリッとした食感が最高に堪らなかった。
「ごちそうさま。今日はささっと風呂に入ったらすぐ寝るね。悪いけど片づけは任せるよ」
「かしこまりました」
「ささっと片付けてお背中流しますね」
ヨミが来る前に風呂を出ようと思ったが、魔法を駆使したのか予想以上に来るのが早い。
・・・有能すぎるのも考え物だな。
背中を洗ってもらう際に当たる胸に心をかき回されながらも、なんとか無事に風呂場を脱出した。
あれは絶対にわざとやっているのだろうが、こっちも男だ。反応してしまうのは仕方ないよね?!
…最近気づいたけど、俺は押しに弱いのかもしれないな。いいようにされないように注意しないと。
朝起きると仄かにいい匂いがする。どうやら今日は2人が起きて朝ご飯を作ってくれているようだ。
「おはよう2人とも」
「「おはようございます」」
ささっと身支度を整えたら、2人が作ってくれた朝ご飯を食べるために椅子に座る。
今日の朝ご飯はハイオークのカツサンドだった。あとはキノコスープと果物が少し。
「ゲンを担いでみました。試験では何が起こるか分かりませんので」
「ふふ、ルナったら朝から頑張ったんですよ?寝ぼけながらも健気に料理する姿が可愛かったです」
俺はつくづく人に恵まれるな。期待に応えられるように俺も適度に頑張ろう。
「ご主人様、実は今日は冒険者ギルドから指名で依頼が来ていますので、申し訳ないのですが先に失礼します」
「すみません。本当は試験会場までお送りしたかったのですが、どうしても断れない依頼だったもので」
もう指名依頼なんて来ているのか。この1ヶ月の間に指名依頼が来るまでになっていたとは知らなかった。
実績を考えれば当たり前のような気もするが、それにしても凄いな。ご褒美に何か買ってあげなきゃ。
一応、2人が稼いだお金については好きに使っていいと言っているが、それとは別に俺が何か買ってあげたい。
「そうなんだ。無茶だけはしないように!あと、貴族様に何か言われたら俺の名前を出していいからね。本当に困ったら国王に泣きつくか、…物理的に黙らせるから」
「はい!かしこまりました!」
「うふふ、ご主人様は心配性ですね。でも心配しなくても大丈夫ですよ?」
「そう?ならいいけど。じゃあ、その依頼が終わったらお祝いでもしようか!」
「「はい!」」
お祝いに何か買ってあげたら2人は喜ぶかな?
というか、買わなくても俺がまた何か作るのでも喜んでくれそうだ。宝石も手に入ったし何か考えようかな。
グランツァールに鉱石貰いに行ったら何か良いのをくれるかもしれない。対価には美味しいご飯でも用意してあげたらいいか。
「発動体の指輪は持ったし、服も動きやすいやつを着た。杖と筆記用具も持ったな」
一足先に出発した2人を見送った後、準備を済ませて自分も出発した。
学院までは徒歩で30分だけど、軽いウォーミングアップがてら気配遮断しつつ身体強化を使って移動した。
それでも軽く流してなので10分で到着できた。
まだ時間じゃないというのに学院にはたくさんの人がいる。
王女様やアリスが言っていたのはどうやら本当だったようだ。
空間把握で数えるだけでもすでに500人はいる。これから時間になるまでに何人になるのか楽しみである。
着いて早々に受付を済ませたのでやることが無くなってしまったな…。
というわけで空間把握と気配察知でとりわけ強そうなやつを探してみた。
自惚れじゃないが、自分はそこそこ強いほうだと思っている。さすがに俺より強そうなやつはいないけど、10歳とは思えないやつが複数いた。
「ふぅん…。ここまで強い子供が俺以外にいるなんてな。明らかに魔力量が突出しているのが数人。うまく強者の気配を隠しているのも数人いるな。あとは独特な気配を持ってるやつがまた数人。…ルイーナ魔術学院か、案外面白いところかもしれない」
今年入学してくるであろう子供たちは『儁秀の世代』と呼ばれ、各地に一斉に才ある子供たちが現れた奇跡の世代なのだ。
儁秀とは「才にあふれている人」の意味で、才能に溢れている人の中でもとりわけ凄い場合に用いられる言葉だ。
王女がアウルに内緒にした内容というのがまさにこの『儁秀の世代』のことだった。
とは言っても、その才を生かしきれるかどうかは自分次第であるのだが。
「あれ、この気配は」
「アウルやっと見つけた!」
やっぱりアリスか。しかしたかが平民が公爵家令嬢と仲良くしてたら怪しまれ・・・。
推薦平民枠と勘違いしてくれるか・・・?いやでもバレた時が面倒だな。
「どうしたのでしょうかアリスラート様」
「えっ・・・どうしたのアウル急に。気持ち悪いわよ?」
気持ち悪いとは失礼だな・・・。
「あのなアリス、公爵家の令嬢と平民は普通こんな風に仲良さげに話さないんだぞ?」
「そんなこと言ってもねぇ。アウルは望めば法衣とは言え、伯爵位をもらえる予定なのよ?ある意味私よりも偉いじゃない」
それは初耳だ。貴族位が貰えるとは聞いたが、まさか伯爵とは。
あの国王はどうやら俺をよそにはやりたくないようだ。心配しなくても村がこの国にある限りは出て行かないのに。
「それは初耳だが、だとしても俺は平民だ。だから違和感しかない」
「それにこの学院では身分は関係ないはずよ。それは国王様も認めていることだし、この学院の創設者であるルイーナ=エドネント様がそう決めたらしいわ。だから別に大丈夫よ?」
「って言ってもなぁ…」
「むぅ…。まぁいいわ。入学前に言うことでもなかったわね。でも入学したら私たちは同列よ?ふふふ」
なんか嬉しそうだが、とりあえず目立つ前にどこかにいってくれたので難は逃れた。
アリスには悪いが、俺はのんべんだらりとした学院生活を送るので忙しい予定だからな。
適度に面白そうなやつと仲良くなれればそれでいいのだ。
『入学試験を始めます!受付番号に従って各会場に移動してください!繰り返します…~』
どうやらやっと入学試験が始まるらしい。
細々と更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。




