ep.48 迷宮攻略④
自分の家のベッドで起きて思ったが、やはりマットレスの作成は急務だと思う。別に今のが悪いとは言わないが、上を知ってしまうともはや我慢ができない。
外に目をやるとやはりまだ太陽は登って居ない。別に早く起きる必要はないのだが、慣れというのはなかなか抜けないもんだな。
魔力鍛錬と型の練習が終わる頃には太陽が登り始める。汗を拭きながらリビングに行くとクインが寝ているのが見えた。そーっと動いてもいつも気づかれてしまう。
ひとしきりクインを愛でた後に朝ごはんを作る準備をするが、なんだか朝ごはんを作るのはいつの間にか俺の担当になってるな。いや、別にいいんだけどね?
まだ時間はあるので久しぶりに市場に行ってみようかな!ちなみに市場へは買い物籠を持って行くのがマナーとなっている。
外はいつもより寒くて息が白む。朝早いというのにすでに大通りにはたくさんの人が行き交っており、市場は盛況だ。冬だというのにこれだけの食品が売られているのはさすが王都というところか。とは言っても新鮮な果物などは少ないし、日持ちしそうなものや迷宮産の食材が主力らしい。
「おば・・・お姉さん!その卵ってなんの卵?」
「あら坊や、お使いかい?えらいねぇ!これはワイルドクックという鳥の魔物の卵だよ」
「いくらですか?」
「1つで銅貨5枚だよ」
「じゃあ20個ください!」
「随分たくさん買うんだねぇ。えーっと・・・金貨1枚だけど、持ってるのかい?」
「はい!」
ピカピカの金貨1枚を渡すと少し驚いた顔をしていたけど、すぐににこやかな顔になって卵を籠に入れてくれた。数えると21個ある。
「1つおまけだよ!またお姉さんのところに買いに来てね!」
どうやらお姉さんと言われたのが存外嬉しかったようだ。こういうところは田舎も都会も一緒なんだな。
ワイルドクックの卵は地球の鶏卵よりもふた回りくらい大きい。1つ500円と考えると高級だけど、こんだけ大きいし魔物の卵って考えるとそんなもんなのかな?
そのあとも色々と回って迷宮産という野菜や果物を買うことができた。市場の人たちと色々話したら、「スリード」という街に野菜や果物が取れる迷宮があるらしい。ナンバーズ迷宮では無いものの、未だに最下層へ到達している人はいないとのことだ。あと鉄のインゴットを見つけたので10本買った。
他にも「港町ニネン」ではたくさんの魚介類が買えるらしいので、まだこの世界の海には行ったことが無いので是非行ってみたいところだ。
家に帰るとさすがに2人は起きてるかと思ったけど、シーンとしたものだ。どうやらまだ寝ているらしい。・・・疲れてるんだよなきっと。
新鮮な卵が手に入ったのでどうせなら卵料理を作りたい。けど何がある?オムレツ、目玉焼き、卵焼き、卵とじ・・・うーん。
あっ!あれ作ってみよう!
ボウルに卵黄と卵白を分けて、お菓子作りの時に使っている泡立て器で卵白を一気に攪拌する。ちんたらやっていると終わらないので身体強化を全開で発動するとものすごいスピードでメレンゲが完成した。
次に卵黄に牛乳と砂糖と塩を混ぜたものをメレンゲに加えて軽く攪拌する。
熱したフライパンにバターとオリーブオイルを加えてそこに卵黄を加えたメレンゲを流し込む。蓋をして3分待つ。その間にベーコンを焼きながらサラダを用意しておく。
3分したら焼けているメレンゲを半分に折り曲げて皿に移す。別個に作るとしぼんでしまうので3人分の巨大スフレオムレツの完成である。
完成した途端に匂いに釣られたのか、2人が起きてくる。
「おはようございますご主人様、たくさん寝てしまいまして申し訳ありません・・・zzZZ」
「もう、ルナ起きなさい。ご主人様が美味しそうなご飯を作ってくれているのですから食べましょう?」
顔と歯を洗った2人と一緒に朝ごはんを食べる。クインには生肉を与えてある。今更だけどクインって肉食なんだな。
「!!すごいですご主人様!新食感です!美味しいです!」
「うふふ、朝からこんなに素晴らしいものを食べられるなんて、とっても幸せですね」
どうやら美味しかったようだ。一口食べてみるとジュワッと口の中でとろけるスフレオムレツ。濃厚な卵の風味とコクが口いっぱいに広がってめちゃくちゃ美味しい!
3人で一つの皿をつっついて食べるのも悪く無い。ちゃんと皿に取っているけど、なんか同じ釜の飯って感じでいいな。
「今日は2人は休日にしようと思う。ちょっとやりたいこともあるし、色々あったからここらで羽を伸ばして来てほしい」
「またお休みが頂けるのですか?ありがとうございます」
「なんだか平民の方よりいい暮らしをしている気がします」
それはそうかもしれない。平民にあまり休日という概念はないから、どちらかというと冒険者みたいな生活だ。まぁ、資格を持っているのだから冒険者といえば冒険者か。
「あ、それと。明日から数日迷宮にまた潜るからよろしくね〜!」
「・・・上げて落とすとはこのことを言うのですね」
「うふふ・・・迷宮ですか。嬉しいです・・・」
「まぁまぁ、今回はレベル上げというより食材や素材の調達がメインだから変に大変なことはしない予定だから安心してよ」
「そういうことなら!」
「ご両親へのお土産を探しましょう」
確かに。お土産になりそうなものもあったらいいな。お肉とかキノコとかか?あ、サンダーイーグルの羽毛で作った掛け布団とかあるといいかもしれない。あとはシアにあげる用にも何か用意しないとね。
2人はウキウキで着替えて出かけて行った。外が寒いのでコートを買えるようにお金を渡そうかとも思ったけど、まだスタンピードのお金があるというので断られてしまった。
・・・なんて頼もしい奴隷だろうか。なんか不思議な感じだ。
「さて、俺も頑張ろうかな」
とりあえずはレブラントさんにレシピを売る準備かな。この世界にまだ綺麗な紙は無いので羊皮紙にレシピを記していく。クッキーやスコーンなどの数種類の簡単なお菓子のレシピを書いてしまう。
お菓子を作るのに必要な器具の作り方や実物を木材で削って作ろうかな。泡立て器は仕方ないので鉄のインゴットに魔力をぶち込んで作る。
・・・気づけば魔力にものを言わせて金属を加工するの得意になってるな。簡単な加工だったらお手の物だ。アクセサリーとか作ればこれだけで食っていけそう。
本当は鉄で作ると鉄臭さが食材に移ってしまうので嫌なのだが、あくまで見た目を伝えるためのサンプルだからいいよね。
他にも燻製の作り方や必要な施設を記した羊皮紙も用意した。気づけばお昼時なので適当に肉を焼いて済ませる。
「ふう、レブラントさんにはこれを今度売ればいいだろう。あとは・・・砂糖を抽出するための魔道具か。って言ってもあれはテン菜が無いと意味ないしなぁ。テン菜自体はほとんど帝国で独占されているらしいし、どうしようかな」
あっ、もしかしたら野菜や果物が取れるっていう迷宮に砂糖が取れる野菜や果物があるかもしれないし、今度行ってみよう。
あとは抽出を付与した魔道具を作るっていうことだよね。・・・もったいないけどミスリル使うか。
高ランクの魔石を網状のミスリルで包むように縁取る。抽出を付与していくが、思ったよりもうまくいかない。・・・神銀使うか。
さっきの魔石とミスリルに神銀の小さな塊を取り付けてから、再度付与してみるとうまくいったのでこれで完成だ。
試しに果物を絞ってそれに抽出を使ってみると、微量だが砂糖が作れた。さらに副産物として果物のペーストみたいなのができた。これはこれでドライフルーツペースト的な感じか?・・・甘味はないけどね。水分はどこかにいってしまったけど、まぁいいか。
これ料理に使えるかもしれないから、レブラントさんから買おうっと。
まだ昼下がりくらい、ゴーレム研究したいけど時間が微妙だな。うーん、仕方ない。今日は諦めるか。
結局、そのあとはお菓子作ったり収納の中を整理したりで時間を潰してしまった。収納を整理してわかったけど、収納の中には数え切れないほどの魔石があった。2人が帰ってきたらギルドに売りに行こう。
せっかくなので夜ご飯も作ってあげるか!最近同じようなご飯ばかり食べている気がするし、ここで一発新しいご飯でも用意しよう。
ということで収納からいろんな野菜やキノコ、お肉などを出して卵と小麦粉と水を混ぜた衣に浸す。熱した油に入れて一気に揚げる。色々野菜のかき揚げやきのこ、肉の天ぷらを作っていく。
天つゆはないので基本は塩だ。天ぷらだけでは味気ないので魚の干物と味噌汁、昆布とかがないのでキノコでだしを取っている。あとは押し麦を試しに炊いてみたら案外うまくいった。少し水が多かったので少しお粥っぽいか?
作り終えたご飯を収納してクインと遊んでいると2人が帰ってきた。
「「ただいま帰りましたご主人様!」」
・・・えっと、なんでまた2人は大量な雑貨や食材を持っているのか聞きたいけど、聞いたらいけない気がするので敢えてスルーしよう。
「ご飯は作ってあるから食べようか」
「すみませんご主人様!ありがとうございます」
「うふふ、きっと作ってくれていると思ってお腹を空かせておきました」
2人がどんどん逞しくなっているな。
初めて食べる天ぷらに2人がワイワイ騒ぎながら食べている。俺も舌鼓を打ちながら次々と食べるが、やはりキノコが断トツに美味い。これは迷宮で大量に確保せねばなるまい。きっと村で喜ばれるはずだ。
お風呂を沸かして入っていると当たり前のように入ってくる2人。もはや少し慣れつつある自分が怖いよ。強いていうなら眼福でした!ルナなんてまた少し大きくなった気がする。恩恵は「真面目」なのに、けしからん体をしているというね。うん。素晴らしいです。はい。
朝目覚めるとチラチラと雪が降っている。今日から迷宮に潜るので関係ないがやはり雪だと家から出たくないな。
迷宮に行くので朝の鍛錬はやめて簡単に朝ごはんを作る、スクランブルエッグ、炭火ベーコン、野菜のポトフ、パンケーキ、果実ジュースだ。これくらいなら20分もあれば作れてしまう。もはや朝ごはんを作るのも手馴れたものだ。
匂いにつられて起きてくる2人と朝ごはんを食べて迷宮へと向かう。実は国王には迷宮へ入る許可はこっそりもらっているので、冒険者ギルドに所属していなくても入れるのだ。
前回は36階層でゴーレムを乱獲していたので結局40階層にはたどり着けていない。35階層に転移して古代都市のゴーレムを乱獲しようと思ったが・・・
「ご主人様、ゴーレムがあまりいないようです」
「前回から数日経っているのになぜでしょうか?」
考えられるのはいくつかあるが、もともとここはもしかしたら魔物がいない階層だったんじゃないだろうか?休憩用の階層的な。
そしてそこに古代人が都市を築いた。
「っていうのは考えられないかな?」
「可能性はありますね。古代人が残した遺産がゴーレム、ってことですね」
「だとすると古代人の文明はかなり進んでいたかもしれませんね」
今ある情報ではこれ以上の答えはできないか。とりあえずもう少しこの階層を調べて見る必要がありそうだな。
「俺はもう少しこの階層について調べるから、2人は残っているゴーレムを確保してきてくれ」
「かしこまりましたご主人様」
「すぐに捕まえてきますよ」
さてさて、とは言ったものの。この階層はそこそこに広いぞ・・・。
5時間後。
「ご主人様、これでこの階層のゴーレムは全て確保しました」
「うふふ、ご主人様は何か見つかりましたか?」
彼女たちが確保してきたのは全部で12体。いずれもそのまま素材が残ったそうだ。
前回87体捕まえているので合計で99体。・・・なんだろう、偶然かもしれないけど、もう一体どこかにいる気がする。
「何個か面白そうな魔道具を見つけたよ。あとゴーレム作成のヒントになりそうな設計図もね」
設計図らしきものはかなり状態が悪くて、読み解けない部分も多そうだが、ヒントくらいにはなるだろう。
「というか、もう一体ゴーレムがいると思うのは俺だけかな?」
「それは私も思っていました」
「実は最後の一体は見つけてあります」
「え、それは本当?!ちなみにどこで?」
「・・・えっと、あれです」
ヨミが指差す方向を見ると、全長3mはありそうな機械製のドラゴンが鎮座している。
「・・・あいつどうしたんだ?こっちを見てるみたいだけど」
「・・・すみません。ドラゴン型のモニュメントかと思って触ったら、動き出して付いて来ちゃいました」
・・・ちょっと待ってくれ。襲ってくることもなく付いて来た?
しかも凄い懐いてるし、超スリスリしてるんだけど。
「も、物凄く懐いてるみたいだね」
おもむろにドラゴンに近づいて触ろうとするとめちゃくちゃ威嚇してくる。
え、なに俺にだけ懐いてくれない感じのやつ?
ルナにもスリスリしてるのに…
「なぁ、ヨミ。こいつ○っちゃっていいか?」
「うふふ、嫉妬ですか?でもこの子悪い子じゃないみたいなので見逃してあげませんか?」
「・・・そこまで言うなら、仕方ない」
ヨミがドラゴンに言い聞かせているようだ。っち、仕方ない今回は見逃してやるか。
ほらいけ、しっしっ。
その後37階層に行くと一面の水と砂浜が見える。おそらくだけどこれ海だ。磯の香りが鼻腔をくすぐるので間違いなく海だろう。
「海だ〜〜〜〜〜〜!」
「これが海なのですか。初めて見ましたが綺麗ですね」
「私も初めて見ましたが、こんな奇麗な景色が毎日見られたら幸せですね」
確かにこんな景色が見れる別荘があれば最高かもしれない。
木材もたくさんあるしログハウス作っちゃおうかな。
もともとログハウスは作る予定だったし、2人に手伝ってもらえれば1日もあればできるかもしれない。それに、この階層なら来られる人はほとんどいないだろうから安全だろう。
「2人がよければここに別荘を作ろうかと思うけどどうかな?」
「是非お手伝い致します!」
「うふふ、それはとてもいいですね」
結局この日は周囲の探索と家の概要を決めて終わってしまった。
周囲に魔物の気配は無く、この階層の魔物は海の中にいるものと思われる。
次の日に1日かけてそれなりのログハウスを作ってしまった。もちろんこれはいざという時に持ち運びできるように基礎もしっかり作ってある。
2人がご飯を作ってくれているのでバルコニーでのんびり海を眺めてみる。
バルコニーから見える海はとても綺麗に輝いて見えるが、太陽がないのに青く見える。なかなかに不思議だ。
そのままぼーっと見ていると大きな蛇みたいなのが海を泳いでいるのが目に映る。
・・・シーサーペントってやつかな。
ちょっとずつ更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。




