ep.44 黒幕は…?
王城のベッドは最高の寝心地だった。我が家のベッドも中々だけどやはり比べてしまうと見劣りしてしまう。お金ならたくさんもらったし、ワンランク上の寝具を買ってもいいかもしれないな・・・。
贅沢というのはある種の毒だ。1度慣れてしまうとそれなしでは生きられなくなる。この点に関してはいつの世もどこの世界も一緒ってわけか。
朝ごはんも物凄い豪華なものだった。見たことのない料理なのでなんていう名前なのかすら分からないけどね。
そのあとお風呂に入ってさっぱりとして部屋で待っているとメイドが数人来てルナとヨミを連れて行ってしまった。どうやらパーティーに向けておめかしをしてくれるようだ。
・・・え?俺も?なんでメイドさんたちはギラギラした顔してるの?
うわ!ちょ、どこ触ってるの!嫌だーーーーーーー!!
うっうっう・・・。グスッ・・・。こんなんじゃお嫁にいけない・・・。あ、お婿か。
かれこれ2時間近く着せ替え人形として遊ばれてしまった。・・・にしてもルナとヨミ遅いな?いつになったら帰ってくるんだろう。
そう考えていたらルナとヨミが入って来た。
「えっと、ご主人様。ど、どうでしょうか?に、似合いますでしょうか?」
「うふふ、惚れてもいいのですよ?」
目の前に現れた2人はまるで天使のようだった。綺麗な銀髪を編み込んでいる髪型、ダークグレーのドレスが銀髪に良く似合っている。真面目なルナの良さは残したまま上手にまとめられている。
対してヨミ。ヨミの明るめの茶髪には軽いウェーブがかかっているおかげで大人っぽさに拍車がかかっている。真紅のドレスがさらにヨミの色気を引き立てている。本当に見ているだけで生唾を飲み込みそうになってしまう。
そんな2人に見惚れていたせで、反応が遅れてしまった。
「2人ともとっても綺麗だ・・・。本当に良く似合っているよ」
心からそう思える。もともと綺麗だったけど化粧をすることは無かった。しかし、今は違う。しっかりとした化粧をした2人は貴族の令嬢と言われても信じてしまいそうだ。
「「エヘヘヘ・・・」」
「ンンン!皆さま、そろそろ会場の方へ移動をお願いします」
・・・メイドさんたちがいるの忘れてたようだ。我を忘れるとはこういうことを言うのか。
案内された部屋には見るからに高価そうな服を着た人が数人いる。辺境伯の姿は見えないのでここにいるのは下級貴族なのかもしれない。
良く見ると冒険者らしき人もたくさんいるみたいだ。我慢できないのかすでに料理を食いまくっている。まぁ、今まで見たことないような高級料理が目の前にあれば我慢するなと言う方が無理なのか?食べ放題らしいしな。
そのまま壁際の椅子に座りながらジュースを飲みながら3人で待っていると司会と思わしき人の声が聞こえてくる。
こんなにも聞こえるのは何かの魔法か魔道具だろうか?
「では今よりスタンピード撃退及び王都内の魔物討伐を祝うパーティーを始めます!まずは国王陛下の登場です!」
盛大に拍手されながら登場した国王陛下だが、玉座の前に着いた途端辺りがシーンと静まる。
「今日は忙しいところよく集まってくれた。突如発生したスタンピードだと言うのに、被害は最小限に食い止められたことは皆の頑張り故のものだと思う。また今回のスタンピードで殉職してしまった者たちの為にも、今後もライヤード王国を発展させると誓う。加えて、元フィレル伯爵によって王都に持ち込まれたホーンキマイラを撃破した者についても心から感謝する!今日はささやかではあるが料理を用意した。たくさん飲んで食べて欲しい!乾杯!」
国王の音頭でパーティーが始まった。司会の進行によるとまずは歓談するとのことらしい。
見ていると家族同士で集まっていろいろ話している。人によっては冒険者に話しかけたり、料理を楽しんでるものもいる。
かく言う俺のところにもアダムズ公爵とランドルフ辺境伯が来てくれた。というか、そのせいで一気に会場の貴族や冒険者に注目されたわけだが…。
まぁ、もともとルナとヨミのせいで目立っていたんだけどね。
「やぁ、アウル君。久しぶりだね。アリスが君に会いたいと言っていつも煩くて困ってるよ」
「久しぶりだアウル君。ミュールが君と色々と話していたいと言っていたよ。まぁ、今はあそこの夫人達に捕まってしまっているがね」
「お久しぶりですアダムズ公爵様、ランドルフ辺境伯様。この騒動が落ち着きましたらアリスラート様の所には挨拶に行きますね。ミュール夫人がですか?では後で挨拶に伺いますよ」
2人に挨拶を返すと明らかにルナとヨミを見ている。そう言えば、2人には紹介してなかったな。
「すみません、紹介が遅れましたがルナとヨミです」
「ほう、この2人がスタンピードで獅子奮迅の働きを見せたという…。まだ若いのに凄いじゃないか。しかも2人とも貴族の令嬢と言われたら信じてしまうほどに美しい。こんな2人を連れているとはアウル君も隅に置けないな?そうは思わないかねランドルフ卿」
「全くですな。いやしかしこのアウル君も素晴らしい。聞けばホーンキマイラを倒したのはアウル君らしいじゃないか!我が領の領民として鼻が高いよ!」
雑談をしているとルナとヨミと話したそうな貴族がこちらをチラチラと伺っているのがわかる。しかし、公爵と辺境伯がいるせいか近寄っては来ない。
なので敢えて2人には離れて情報収集させよう。こんな時じゃないと集まらない情報もあるかもしれないしね。
「ルナ、ヨミ。それとなくここを離れてご飯を食べてくるといい。貴族の人たちが2人と話したそうにしている。話すついでに情報収集をしてきて欲しい。何かされそうになったらサッサとこっちに帰っておいで」
「「かしこまりましたご主人様」」
2人が離れて料理を取り始めた途端に寄ってくる貴族達。それも男たちばかり……だと思ってたんだけど、何故か夫人も多くいるようだ。
なぜだ??まぁ、後でわかるか。
「アウル君。君は本当に10歳かい…?自分の連れを敢えて離れさせて情報収集させるなんて、まるで貴族みたいだ。どうかな、アダムズ公爵家に仕えてみないかい?もちろん家族も連れてきていい。厚遇を約束するが」
「おっと公爵、それは聞き捨てなりませんな?アウル君は我が領の領民です。であれば私に仕官するのが普通かと思いますが」
さっきまで仲良さそうに見えていた2人だけど、2人もやはり貴族ということか。油断してたらいつの間にか仕官することにされてそうだ。
まぁ、そうなったら一筋縄ではいかないけどね。盛大にひと暴れはするつもりだし、断固戦おう。
「あははは、ありがたいお話ですが私はまだ10歳です。それに来年からルイーナ魔術学院に入学する予定ですので、仕官の話は受けられません」
この2人は俺によくしてくれたからな。それにこの2人なら俺を強制的に取り立てることも出来るはずだ。なのにそれをしないのはこの2人が出来た貴族だからだろう。
「うむぅ。そうか、わかった。だが、何かあったらいつでもアダムズ公爵家を頼って欲しい。君には私もアリスも世話になったからね」
「それは私もだ。アウル君は知らないかも知れないが、君のおかげで我が領はちょっとずつ栄え始めているのだ。本当に感謝する。いつでもランドルフ辺境伯家を頼ってくれ」
本当に俺は縁に恵まれてるな。こんな優しい貴族と仲良くなれたんだから。2人には申し訳ないが何かあったら遠慮なく頼らせてもらうとしよう。平民には限界ってのがあるしね。
そのあと公爵と辺境伯は国王に挨拶があるからと言って行ってしまったが、その後も立ち替わり入れ替わりでいろんな貴族の人と話すことができた。
なぜかリステニア侯爵は来なかったけど、何かあったのかな?
貴族の人たちは俺が公爵と辺境伯と深い仲にあると勘違いしたのか世間話くらいで、変な勧誘などは一切してこなかった。
公爵と辺境伯が最初にここに来てくれたのは、露払いみたいなことをしてくれたのかも知れないな。
「ご主人様、私たちもそろそろ国王陛下の元に挨拶へ行ったほうがよろしいかと」
「あー、わかった。気は進まないけど行こうか」
いつの間にか戻ってきていたルナとヨミと一緒に国王に挨拶をしに行く。
国王へと挨拶する列に並び順番が来ると、玉座には国王が座っており、隣に宰相が控えていた。
「この度はこのような催事にお呼び頂き恐悦至極にございます」
「よいよい、今日の主役はお前たちだ。もっと気を抜くがよい。それにお主は平民の出であろう。そのように無理に畏まることもない」
「恐縮でございます。では、お言葉に甘えまして」
「ふむ、アウルと言ったな。改めて此度は良くやってくれた。感謝する。ここのところ体調を崩す者が多くてな。騎士団も万全ではなかったのだ。かくいう余も万全ではないのだがな。ここ最近体が怠いのは年には勝てんということなのかもしれん」
「であれば早くお休みになられたほうがいいのでは?もしくはポーションを飲むのも一つの手かと」
ポーションで病は治せないのはこの世界の共通の認識だ。しかし、体力が戻れば免疫が少しは回復するためまったく意味がないというわけではない。
病気を治そうと思ったら、上位の回復魔法を使うかエリクサー等の秘薬を使うほかない。
「それは今でも毎日飲んでいるよ。しかし、効果はイマイチなのが現状だ」
回復魔法は宗教国家ワイゼラスが片っ端から引き抜いているため数が少ないらしいから、どうしても上手くいかないとのことだ。
一応回復魔法もかけてもらったらしいのだが、そのときは良くなったが次の日にはまた体調が悪化しているという。
「・・・であれば、他言無用ですが、私が回復魔法を少々使えますので試してみましょうか?」
「ほう、回復魔法まで使えるのか!・・・いよいよお主をこのまま平民にしておくのはもったいないのう。まぁ、よい。藁をも掴む思いだ。是非試してくれ」
「では失礼して"ヒール"」
念のため、ヒールとは言ったが本当はパーフェクトヒールを発動してある。
宰相様は良い人だが、手札を
見せすぎる必要も無いだろう。
体内部の病巣や悪い所を治癒するイメージでかけたので少しは効果があるだろう。
「お?おお!幾分体調が戻ったようだ。まだ少し怠いが軽くなった気がするぞ!感謝する」
「いえ、私にできることはこれくらいですので。では、私はこれで」
うーん、パーフェクトヒールで病気を治せても体調は直ぐには治らないもんなのか。今までは上手くいっていた気がしたけど、人によって効果が違うのかもしれないな。
「そう言えば2人とも、貴族たちから何か面白い話は聞けたかい?」
「そうですね・・・。いろいろ話しましたが気になることが一つあります」
「もしかしたら私もルナと同じことを考えているかもしれません」
「それはどんな?」
「では私から。実は・・・・・・・・・ということなんです」
「あら、やっぱり私と同じようね。私が聞いた話も・・・・・だそうです」
ルナとヨミから聞かされた内容にはいくつか思い当たる節がある。
待てよ・・・?
もしこの仮説が正しければ犯人は別にいる可能性があるってことじゃないか!
フィレル元伯爵には確認しないといけないことがあるな。
これは推測の域を出ないが、早く国王陛下に伝えねば!あそこには宰相もいたはずだ!
挨拶は一通り終わり、宰相と話している陛下の元へと急ぐ。
「国王陛下、一つ聞いてほしいお話がございます!」
「どうしたのだ?」
「今回のスタンピード及び王都内の魔物騒動はもしかしたらフィレル元伯爵以外に真犯人がいるかもしれません!」
「なんだと?!」
「アウル君それは本当かい?!」
「それを確かめるためには、フィレル元伯爵と話さねばなりません。彼はいまどこに?」
「あの者はいくら尋問しても、知らぬの一点張りらしくてな。今はとりあえず地下牢に入れてあるが・・・」
「では私は地下牢へとすこし参りたいと思います」
「アウル君、私が先導しよう。こっちだ!国王はここでお待ちください!」
「ルナとヨミはここでもう少し情報収集をしておいてくれ」
「「しかし!!」」
「俺なら大丈夫だ!頼んだよ」
「「・・・かしこまりました」」
宰相に連れられて地下牢へと急ぐ。地下牢へ行く最中に宰相から面白い話が聞けた。
「これは衛兵から聞いた話なのだがね、ここ最近リステニア侯爵がフィレル元伯爵の所に何度か足を運んでいるという話を聞いたんだ。理由は分からないが・・・」
またしてもリステニア侯爵か。俺へのアプローチがあったのはなぜか分からないが、何か用があったのは間違いない。
「そう言えば、パーティーでリステニア侯爵を見かけませんでした」
「言われてみれば、陛下に挨拶に来ていない。彼はいまどこにいるんだ?確か、パーティーに参加すると聞いていたが・・・」
…嫌な予感がする。なんか背中を虫が歩いているような嫌悪感。
「宰相様、急ぎましょう。なんだか嫌な予感がします」
「それは私も同感だ」
走って地下牢に着くと、地下牢の衛兵の姿が見えない。
「地下牢に衛兵がいるのではなかっ・・・?!」
喋り終わる前にその答えが見つかった。
口から血を吐いて倒れている衛兵が2人。そのどちらもがピクリとも動いていない。
「なっ?!衛兵が2人とも死んでるだと?!いったい何が・・・」
衛兵にすかさず近寄ってヒールをかけるも効果は無い。目立った外傷は無いが、脈は完全に止まっていた。
「宰相様!フィレル元伯爵のところに急ぎましょう!」
中の牢を開けるために、壁にかけてある鍵を拝借する。
「フィレル元伯爵は一番奥だ!」
走りながら気づいたが、地下牢のすべての人が死んでいるように見える。それもみんな血を吐いて倒れているだけでこれと言った外傷は見られない。
そのまま走っていくとそこには物言わぬ姿となったフィレル元伯爵がいた。
鍵で牢を開けて中に入って確認するものの、やはり完全にこと切れている。
「しかし、いったい誰がこんなことを・・・」
犯人はまだ分からないが、直前にここを訪れていたというリステニア侯爵が何かを知っている可能性が高い。
そう言えば、宰相様はリステニア侯爵が最近国家転覆を考えていると言っていたな。
「宰相様、昨日言っていたリステニア侯爵の件ですが、詳しく聞いてもよろしいですか?」
「あ、ああ。実はリステニア侯爵と第2騎士団の一部が共謀して国家転覆を企んでいるという話だ。第2騎士団は変わり者が多い騎士団だが、他にも貴族の無能な子弟が多いことでも有名なんだ。その子弟たちとフィレル伯爵家が数年前から魔物を地方に送り込んでいるという疑惑があったんだ。アウル君は知っているかもしれないが、オーネン村で起きたスタンピードを発生させたのもフィレル伯爵らだと考えている。そしてリステニア侯爵が近ごろ一部の第2騎士団と接触しているという情報を得て独自に調査したところ、リステニア侯爵が数年前から各地で部下を使って色々な調査をしているということが分かった。そのことから、もしかしたら第2騎士団を通してリステニア侯爵とフィレル伯爵はずっと前から繋がっているのではないか?という疑惑に辿り着いたんだよ」
…今の話が本当だとすれば、リステニア侯爵がここにいないのは何か意味があると考えるのが妥当だろう。
「そのスタンピードは私も幼いながら覚えています。リステニア侯爵が会場にいなかったのには意味があるはずです。私はこれから侯爵を探します!」
「まだ子供の君を頼るのは心苦しいが頼む。しかし、リステニア侯爵が何を考えているかは分からない。ホーンキマイラを倒すアウル君なら問題ないだろうが十分気を付けてくれ!私はこのことを陛下に報告してくる!」
宰相と別れて王都全域に全開の空間把握と気配察知を展開する。
すると、王都のはずれにリステニア侯爵とホーンキマイラを見つけた時に感じた気配を見つけた。
これはどうやらビンゴかもしれないな。
身体強化全開で現場へと急行すると、リステニア侯爵と数人の騎士が誰かを取り囲むように陣形をしいている。
侯爵らが取り囲んでいたのは、オーネン村で出会ったフィレル伯爵家の執事であった。
「お前は確かオーネン村で俺を攻撃してきた執事!生きてたのか!」
「お前はアウルか?なぜここにいる?!」
執事より先に反応したのはリステニア侯爵だ。
「リステニア侯爵、最近フィレル元伯爵のところに訪れていたそうですが、なぜか聞かせてもらえないでしょうか!」
「今はそれどころではない!私はあの男を捕らえなければならないのだ!!」
そう言えば不思議に思っていたが、なぜリステニア侯爵があの執事を取り囲んでいるのだ?
仲間ではないのか・・・?まさか、仲間割れによる口封じか?
いずれにせよ、この場を納めない限りなんともならんか。
「状況は良く分かりませんが、あの男を捕らえたら話を聞かせてもらいますよ!」
「私がそんな一筋縄でいくとは思わないでいただきたい」
執事が懐から小瓶を出して何か飲んだ途端、有り得ないほどの魔力の増加を感じる。
「何を飲んだ?!」
その問いに答えたのは意外にもリステニア侯爵だった。
「狂神水か・・・?」
狂神水。聞いたことがある。ダンジョンで極稀にドロップするというもので、飲めば一時的に超常的な力が手に入るが30分後に必ず死ぬと言われている水だ。
「アウル、貴様にここで会えたのは幸運だった。前回の借り、ここで返させてもらう!」
執事との戦いが始まった。
ちょっとずつ更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。




