ep.43 謁見
遅くなりました。
応接室で待っているとノックの後にドアが開かれた。
素朴だが高そうな服を着た男性、年齢は50歳くらいだろう。白髪がいい感じに似合っているナイスミドルな人が入ってきたが、この人が宰相なのだろうか?
「お待たせして申し訳ない、私はこの国の宰相をやっておりますガリウス・フォン・フィーラルと申します。一応侯爵の爵位を拝命しております。此度はこの国の危機を救って頂き本当にありがとうございます」
やはり宰相のようだ。それもかなり人間が出来ているように思う。自分で言うのもなんだが、こんな子供が強大な魔物を倒したと言ってもおいそれとは信じられないだろう。
・・・もしかしたら内心ではそう思っているのかもしれないが、それを全く表に出さないのは好感が持てる。
まともな貴族は少ないと思っていたが、宰相がこんな出来た人間なら当分は安泰だろう。
「私はオーネン村の農家出身のアウルと申します。この度は王城へと招聘頂き光栄の至りです。しかしながら、平民出身ゆえ言葉遣いが不出来なことをお許しください。それに宰相様がその様な丁寧な言葉を使う必要もないのでどうか」
向こうがあんなに誠意ある態度なんだから、こっちもそれ相応の対応をしないと失礼だよな。
まぁ、上手く喋れるかどうかは別だけど・・・。
「おやおや、ではお言葉に甘えよう。それに君は平民の子供とは思えない程に喋れているから安心したまえ。・・・それで、そちらのお嬢さん方もご紹介いただけるのかな?」
あっやべ、紹介するの忘れてた。思ったより俺も緊張しているみたいだ。
「紹介が遅れまして申し訳ありません。右からルナとヨミです。・・・2人は一応私の奴隷なのですが、謁見の際に問題ないでしょうか?」
「ほう、このお嬢さん方が・・・。報告は聞いているよ。スタンピードでの英雄だとね。重ね重ね君たちには感謝する。本当にありがとう。謁見の間に入ることも問題ないから気にしなくても大丈夫だ。なにしろこの国を救った英雄なのだからね」
「「いえ、私たちはご主人様をお守りしたかっただけですから」」
「ふふふ、そうかそうか。それではアウル君には盛大に感謝しないといけないな!」
奴隷身分の2人にでも感謝の意を示すとは、本当に愛国心が強い人なんだな。さすがに身分があるから俺たちに頭を下げるようなことはないけど。
・・・貴族がみんなこんな人だったらいいのになぁ。
「さて、挨拶も済んだことだしあまり時間もない。早速で悪いんだが、今後の予定についての確認と所作等について話をしてもいいかな?」
「はい、すみませんがよろしくお願いします」
「「お願いします」」
まず、今後の予定だが一時間後くらいに国王のいる謁見の間に通されるらしい。
そこで今回の事件の概要の確認と、褒美の授与をされるとのことだ。
褒美がなにがいいか聞かれるらしいが、「陛下の御心のままに」というのがマナーだと知った。
・・・まぁ、一国の王様にあれが欲しいこれが欲しいなんてさすがに言えないわな。
言ってもいいけど、こんなところで目立っても面白くない。
第3王女様くらい若ければ、お菓子で釣れるからいいんだけどね・・・。
それと、謁見が終わった次の日に盛大にパーティーをするらしい。俺たちは立役者として参加が決まっているらしく、謁見が終わっても帰れず、泊まることになっているようだ。
他にも宰相からは面白い話が聞けた。
「そう言えば、5日前に第2騎士団のオレンツって人とイルリアって人が来たんですが、私のところに来るのになぜあの人たちが選ばれたのですか?」
「オレンツとイルリアだって?・・・ふふふ陛下も人が悪い。その2人は第2騎士団団長と副団長さ。おそらく陛下に頼まれたんじゃないかな?アウル君を下見して来い、とね。まぁ、私の勘だけど陛下はそういうところがあるから」
まじか?!そんな人が来てたなんて流石に思わなかった。
「そんな偉い2人だったのですか・・・。ちょっとオレンツ団長に殺気を飛ばされたので驚いたのですが、要は様子見された、ということですね。急なことだったので変に思っていたのですが少し納得しました」
「殺気を飛ばされたのかい?!それは第2騎士団の団長がすまないことをした。・・・第2騎士団は実力はあるんだが、変わり者が多い騎士団でね。私もよく悩まされているよ。それに、最近も・・・、おっとすまない。込み入った話をするところだった。今のは忘れてくれたまえ」
「もう気にしていないので問題ないです。それに本気じゃないのは分かっていましたから」
「そう言ってもらえると助かるよ。じゃあ、私も用があるから失礼するよ。またあとで謁見の間でね」
どうやら第2騎士団というのは変わり者が多いらしい。・・・確かにイルリアさんは変わっていたな。それでも副団長だと言うのだから実力はあるのだろう。
「ん?ヨミどうかした?」
「あ・・・いえ、なんでもありません」
「そう?ならいいんだけど」
さすがにヨミも緊張しているのかもしれない。なぜかルナは上級貴族相手でも物怖じしないし、王女様にもビビってなかった。
もしかして本当は良い所のお嬢様だったりするのか?!
・・・なーんて、さすがにありえないか。じゃないといくら怪我してたとはいえあんなに安く買えないもんな。
ルナはいつになったら俺に打ち明けてくれるのか分からないが、俺もそれに応えられるようにもっと頑張らなきゃな。
・・・適度にだけど。
「にしてもまだ一時間くらい時間あると思うと、案外やることないね」
ん?気配察知に反応がある。・・・メイドじゃないな。それに真っすぐこっちに向かって来てるな。
またもノックの後に扉が開かれる。ノックの返事を待つという文化は無いのか?
・・・平民相手だと無いか。
「やぁやぁ、俺の名前はライヤード・フォン・ゼルギウス。一応この国の第2王子だ。君がホーンキマイラを屠ったという少年だね?」
「お初にお目にかかり光栄でございます。私はアウルと申します。あの魔物を倒せたのは運がよかったのです」
「あぁ、そういう堅苦しい言葉遣いはいらないよ。俺も苦手だしね。・・・運、ね。もし運がいいだけでランクS魔物が倒せるならこの国に騎士団はいらないな」
「それは手厳しいですね。ではお言葉に甘えまして。でもまぁ、ホーンキマイラを倒したのは本当ですよ」
「たしかに・・・かなり強いみたいだねぇ。それに魔力量も桁外れみたいだし。ねぇ、俺の部下になるつもりはない?俺と一緒に何か大きなことをしないか?」
野心もあって人の能力を見極める力もかなりある、さらに本人もかなり強いのだろう。おちゃらけているように見えるが一切の隙が無い。かなり鍛えているのが分かる。それにこの人も魔力量が並じゃないな。下手をすればルナよりも多いんじゃないか?
俺ら以外にもこんな人がいるなんて知らなかったな。ステータスを覗いてみたいけど、バレたら流石に厄介だしやめとくか。
「いえ、私は辺境の貧乏農家ですから宮仕えは性に合いません。ありがたいお話ですが・・・」
「そっか~・・・。残念だけど今のところは諦めるよ。それに、君とはまたどこかで会える気がするからね!」
そう言って殿下は去って行ってしまった。勢いのある凄い人だったな。年は20代前半くらいだろうに、あの迸るような才能と野心。あれは敵に回しても味方にしても厄介なタイプだろう。気をつけなきゃ。
殿下が去ったあとにまた来客があった。それも次はノックもなく突然入って来た。
見た目はオークと見紛う程にふくよかな男性で、いかにも贅沢三昧していますという体をしている。
「ふん、お前がアウルとかいう子供だな?ホーンキマイラを倒したというのは本当か?」
この高圧的な態度のデブは一体だれだ?名乗りもしないとは貴族とは思えないな・・・。本当に宰相の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ。
しかしここで騒ぎを起こすわけにもいかないし・・・。とりあえずまだ我慢だな。
さすがにこんな所で騒ぎがあれば村にまで被害が及ぶかもしれないし。
「はい、そうですが」
「そうか、ではお前がオーネン村のアウルで間違いないのだな?」
「?そうですが、それがなにかされましたか?」
「いや、それが分かればよいのだ。宰相様から聞いているかもしれんが、明日王城でスタンピード撃退と王都内に現れた魔物討伐を祝うパーティーが開かれる。それでお前たちは国賓待遇で王城に泊まることになっている。それで少々話があるのだが・・・」
と、ここでメイドの人たちが時間になったことを知らせてくれた。どうやら謁見が始まるらしい。
「ちっ、もう時間か。夜にまた部屋を訪れるからそのときに話そう。言い忘れていたが、私はリステニア侯爵だ。覚えておけ」
あのオークモドキはリステニア侯爵と言うらしい。
どうせ碌な用件じゃないんだろうな。
にしてもいよいよ謁見か。さすがにちょっと緊張してきたな。
「じゃあルナ、ヨミ、行こうか」
「「はいご主人様」」
係の人に連れられて王城内を突き進む。歩くこと数分でひと際大きい扉のある所へと着いた。
係の人によるとここが謁見の間らしい。
扉が開かれて中へと入っていく。事前に宰相様に教えてもらった通り、赤絨毯が続いている最後まで行って跪く。
ルナとヨミは俺より一歩後ろに控えている。
謁見の間へと歩いてくときに見えたが、大人数の貴族がこの場にいるようだ。
謁見の間にたくさんの貴族がいるのはなんとなく不思議な感じがしたけど、そういうものなのかもしれない。
よく見るとランドルフ辺境伯もいたっぽい。
「面をあげよ」
ここで顔を上げるものだと思っていたのだが、ここですぐに上げてはいけないらしい。
「よい、面をあげよ」
2回目でやっと顔を上げる。
初めて見る国王の顔は一言で言えば威厳に満ちた顔だ。溢れ出るかのようなオーラすら感じる。
これが一国の王が持つ威厳とカリスマと言うものなのだろうか。自分がわずかに汗をかいているのがわかる。
「名をなんと申す」
「アウルと申します。後ろの従者は右からルナとヨミと申します」
身分としては奴隷だが、2人は仲間だ。国王に伝えるには従者と言うのが正解な気がした。
「其の方が王都内のホーンキマイラを撃破した本人で間違いないか?」
「相違ありません」
「そうか。スタンピードに騎士団を動員しておった故に対処が遅れてしまった。しかし、其の方のおかげで事なきを得ることができた。誠大儀であった」
「滅相もございません」
「其の方には褒美を取らす。なにか欲しいものはあるか?」
「陛下の御心のままに」
「ううむ、其の方は今齢はいくつだ?」
「今年で10歳になりました」
「3女のエリザベスと同い年ではないか。ふむ、その年でホーンキマイラを屠るとは些か信じ難いが、有能であるには間違いない、か。出はどこなのだ?」
「はい、ランドルフ辺境伯領のオーネン村というところにございます」
「平民の出と言うのは本当のようであるな。よしわかった、平民だと金に困ることも多かろう。褒美は白金貨1000枚とする」
「恐悦至極にございます!」
「次にスタンピードで活躍したという其の方らについてだが、その働きは著しく被害も最小限に抑えられたと聞き及んでいる。其の方らには白金貨200枚ずつを褒美とする。あとの細かいことは宰相のフィーラルから聞くがよい」
そう言い残すと、玉座から立ち上がり国王はいなくなってしまった。
「では詳細について伝えるのでアウルは応接室で待つように」
宰相様が今後について話してくれる。近くの騎士に連れられて応接室まで戻る。
なんで騎士なのかと思っていたら、よく見るとイルリアさんだったのだ。
イルリアさんに気付かないくらいには緊張していたようだ。
「…これで、アウル君…お金持ち、だね」
「あはは、そうですね。こんなにお金があってもどうしましょうか」
確かにこんなにお金を貰っても使うタイミングが無い。ただでさえレブラントさんのお陰で稼がせてもらっているというのに。
これなら村に帰るときにみんなにお土産が買えるな。
食べ物やお酒をたくさん買っていってあげよう。
それでも使いきれない分はどうしようかな・・・。
いずれ使うタイミングが来るかもしれないし、とりあえずは保留か。
応接室に着くとイルリアさんはどこかへと行ってしまった。なにか名残惜しそうな顔をしていたような気もするが、クッキーをつめた小さい籠を渡したら、嬉しそうな顔で行ってしまった。
そのまま応接室で紅茶を飲んでいると1時間くらいで宰相様が入って来た。
「遅くなって済まないね、ちょっと用事を済ませていたら遅くなってしまった」
「いえ、私もゆっくりできましたから。何かあったんですか?」
「あぁいや、何でもないよ。ちょっと色々と準備をね。君たちの泊まる部屋も手配済みだ」
「ありがとうございます」
「さて、まずは褒美についてだけど全部で白金貨1400枚だったね。数人で用意させたけどそれなりに時間がかかってしまった。ちゃんと全額あるから安心してほしい」
宰相様が騎士の人たちにお金を運ばせてくる。100枚入った袋が14個ある。こんなに褒美として渡しても国としては些細な金額なのだろうと思うと、王族というのは恐ろしいな。
「はい、ありがとうございます」
「次に明日の詳しい予定だけど・・・」
その後は次の日の予定について聞かせてもらった。なんでも俺以外にもスタンピードで活躍した有名冒険者もたくさん呼んで、盛大に祝うらしい。
まぁ、俺たちだけが呼ばれるほうが場違い感があるよな。
そこでは貴族たちが有能な冒険者たちをスカウトする場でもあるらしく、俺たちは間違いなくスカウトされまくるとのことだ。
今から憂鬱な気分になってきた・・・。
あ、もしかして謁見前に来たリステニア侯爵とかいうオークモドキはそれのフライングだったんじゃないか?宰相様なら詳しいことを知っているかもしれない。
「宰相様、お聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「なにかな?」
「宰相様が謁見前に来て去られた後にリステニア侯爵と言うふくよかな体型の人が来たのですが、どういった人なのでしょうか?」
「なに?彼が?・・・こう言ってはなんだが、リステニア侯爵とはあまり関わらないほうがいい」
「それはなぜですか?」
「まだ調査中なのだがここだけの話、彼には王国を転覆しようとしているんじゃないか、という噂があるんだ。アウル君は知らないかもしれないが、アダムズ公爵家とフィレル伯爵家以外にも君に接触しようと動いていた貴族がいた。それがリステニア侯爵家なんだ」
まじか・・・。じゃあやっぱりあいつがここを訪れたのは俺を引き入れようとしてのことなんだろうな。
「えっと、実はこのあとそのリステニア侯爵様が俺の元を訪れると言っていたんですけど、どうにかなりませんか?」
「なんだって?分かった、私の方で手をまわしておこう。アウル君は安心していいよ」
「お手数かけてすみません」
本当に宰相様は良い人だな。クッキーでも渡せば喜ぶかな?
「おや、クッキーじゃないか。ありがとう、実は君のクッキーは私も大好物でね。仕事の合間にでもいただくよ」
そう言って宰相様は帰っていった。
そのあとすぐにメイドがきて泊まる部屋へと案内してくれた。
・・・・えっと、なぜ部屋が一つしかないんだろう?
いや、2人は奴隷だし当たり前といえば当たり前なのかもしれないけどさ?!
しかもベッドがキングサイズ1つってどゆこと?!
「「・・・・」」
ほら、2人もさすがに唖然として…
「ご主人様、ふ、不束者ですが、精いっぱいがんばりましゅ」
「うふふ、初めてが王城だなんてなんだか変な気分ですわね」
無かったぁーーーー?!
ルナに関しては顔真っ赤にしてるし噛んでるよ!ヨミは完全にヤル気満々じゃないか!!
うん、俺の貞操の危険が危ないよ。・・・仕方ない。今日はすぐ寝よう。言葉遣いが変だけどそれくらい危険なんだよ!
夜ご飯はかなり贅沢なものだった。さすがは王城の夕食だ。公爵家ですら見たことないような料理だった。
お風呂も流石と言うべきか、物凄い大浴場だった。メイドの人たちが背中を流そうと入ってきそうになったけど、なんとか食い止めた。
ルナとヨミに知られたら厄介だしね…。
体も無事に温まったし、ぐっすり寝たさ。ヨミは襲ってきそうな気配があったので初めて命令をした。
「ヨミ、ルナ、今日はもう寝ようね!流石におれも疲れたよ!これは命令だよ」
「か、かしこまりましたご主人様…」
「そんな?!酷いですご主人様!ううぅ…」
こいつらは王城に来ても変わらんな…。ある意味で大物だよ本当に。
ちょっとずつ更新します。
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