ep.4 隠密熊
ちょっと浮かれたせいもあって両親に魔法が使えることがバレてしまった。一時はどうなるかと思ったが両親は変わらず俺を愛してくれている。
本当に両親に恵まれたので、これはあの女神様に感謝しないといけないな。
それでも両親にバラしたことで逆に動きやすくなったというのもある。基本的に朝から昼くらいまでは畑の手伝いをしている。具体的には雑草を抜いたり、葉っぱを間引いたりだ。
まだ収穫の時期ではないが、今でも収穫できる野菜などもちらほらあるのでそれの収穫も行なっている。
昼からは自由行動していいことになっているので最近だとずっと林で魔法の練習をしている。
最近父に聞いたことだが、この世界では全員何らかの魔法が使えるらしいが、本当は長い詠唱が必要らしい。
というかそれが定説となっているせいで詠唱が当たり前という感じだろうか?
俺は魔法はイメージが全てだと思っているから詠唱は全くしていない。魔法名を言うだけで発動できるまでになっている。もしかしたら女神様は俺の体をかなりサービスしたのかもしれない。
「今日はどうしようかな。魔法の練習もいいけどやっぱり調味料が欲しい、具体的には砂糖が欲しいな。醤油や味噌も一応作り方の知識はある。前世の多趣味な俺に感謝しないとな」
となれば、テン菜やサトウキビか。ううむ、どうせなら片栗粉も欲しい。よし、俺用の畑を作ろう。
「お母さん、俺も畑が欲しい!何か育ててみたい!」
「うーんそうねぇ、この辺は全部使っちゃってるし・・・。あ、そうだ。家の裏庭の空いてるとこならいじっていいわよ?」
「わかった!ありがとう!」
よし、ここだな。ってうわぁ、すんごい荒れてる・・・。
仕方ない。広さ的には10m×10mくらいの広さはあるしある程度ならなんでも育てられそうだ。
・・・でも母よ。5歳に耕させるような場所じゃないと思うんだが。母は少し天然なのかもしれないな。うん。
こんなのをえっちらおっちら耕していたら何日かかるかわからないので、こんな時こそ魔法を使うべきだろう。
「うーん、まずは雑草をどうにかしないと。ウィンドカッター!」
弱めに発生させた風の刃があっという間に雑草を刈り取るのは見ていて気持ちがいい。根っこが残っているので土魔法で地面を隆起させるようなイメージ。「アップリフト!」
見る見るうちに俺の畑が隆起していく。お次は土をまぜこまないといけないので土が混ざりあるのをイメージ。「アースシェイク!」
ここまで魔法を使ってやっと少し疲れてきたところを見ると、俺の魔力は相当すごいらしい。それでもこれからもずっと魔力の鍛錬はしないといけないな。
でもこれからは畑いじりを魔法でやれば一瞬で魔力を使い切れるので効率が上がるかもしれない。
2時間くらい休憩したらある程度魔力が戻ってきたので引き続いて畑いじりをするが、それにしても魔力ってこんなに早く回復するもんなのか?
ここであることに気づいた。
「種がないやん」
こうして俺の砂糖精製計画は頓挫した。
・・・・・ように思われた。
意気消沈しながら夜ご飯を食べていると両親が心配してきたので、思い切って相談して見ることにした。
「実は、裏庭は耕せたんだけど肝心の種がないことに気づいたの・・・」
「ハハハハハ、そうかそうかそう言うことか。ちなみになんの種が欲しいんだ?」
「んと、テン菜って言う野菜なんだけど」
「あぁ、あれか。よくそんな野菜知ってるな。あれは育てるのが難しいってんでこの王国内では育てている農家はいないんだぞ?確か隣のミゼラル帝国のごく一部でのみ作られているって聞いたことがある。でもそうだな、確か明後日は行商がくる日だ。運が良ければテン菜の種を持っているかもしれないぞ?」
「えっ、ほんと!?その種欲しい!」
「ただなぁ、聞いた話だとテン菜の種はべらぼうに高いらしいんだ。今の我が家はそこまでの余裕はないからなぁ」
「そうなんだ・・・。でもとりあえず行商人の人に色々話聞いてみたい!」
「そうだな、消耗品も買わないといけないし、ついでに聞いてみようか」
そうと決まればやることは一つである。森の魔物を狩りまくって売るのだ。幸い俺には魔法があるし油断せずにいけば負けることもないはずだ。
朝早くに起きて畑の手伝いを早々に終わらせると森へと向かう。目標はツリーディアだ。ツリーディアの角は調合すると薬になるらしくそこそこの値段になると、以前村の誰かが言っていたのを聞いたことがある。
俺も色々やってみたいから2匹くらい狩っておきたいところだ。
「気配察知!」
気配察知の魔法は森を歩いていても中々獲物を見つけられなくて作った魔法だ。イメージとしては無属性魔法と言った感じだろう。他にも身体強化なども無属性魔法だ。
(んんん、ツリーディアはどこだ・・・。くそ今の俺の索敵範囲内にはいないか。これ以上は森の奥になるから行くわけにもいかないしな。・・・お?こいつは森イノシシか。それも結構な大きさだな。とりあえずはこいつで我慢するか)
「身体強化!」
森を軽やかに走り抜ける。この時音を立てないようにするのがコツなのだがここまで走れるようになるのはかなり大変だった。
(・・・いた。どんぐりみたいな木の実を食べているな。まだ気づかれてない。よし、ここで・・・!?)
ウィンドカッターで首を狩ろうとした時、気配察知で今までに感じたことのないほどの気配を感知した。
(なんだよ、これ)
その気配の先を見ると、そこにいたのは体長が4m近い巨大な熊だった。この森には生息するはずがない魔物なのだが、ごく稀に奥の山から降りてきてしまうことがあると神父様から聞いたことがある。
「・・・隠密熊!」
こいつの名前は確か隠密熊とか言うらしい。こいつがたまに山から降りてきて村々を破壊して回ると神父様は言っていた。
この熊の恐ろしいところは、名前からも分かるように高い隠密性にある。俺の気配察知にも近くまで来ないと反応しなかった。
(でも、これはチャンスだ。今あいつは森イノシシに夢中になっている)
遠視!
距離はおよそ100mくらいだろう。ウィンドカッターを首に狙いを定めて集中する。
ウィンドカッター!
魔法を発動した途端、隠密熊が反応した。手を顔の前で交差しウィンドカッターを防ぎやがった。ウィンドカッターが剛毛な毛皮に邪魔されて効かない上に、どうやらあいつは魔法を感知する能力があるようだ。
Gruaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!
隠密熊が叫んだと思ったら、体が硬直した。頭の中が真っ白になり行動ができなくなっている。
(やばい!)
そう思う頃には隠密熊がもうすぐ目の前まで来ていた。
「アースウォール!」
ドガンッ!!
厚さ50cm近くある土璧にみるみるヒビが入る。その隙に身体強化で後退して距離をとるが、隠密熊の機動力は恐ろしく早いのかすぐに追いつかれる。
(そうだ、こんな時こそ雷魔法じゃないか!)
「サンダーレイ!」
一筋の雷が隠密熊を襲うが、やはり毛皮に邪魔されて大きなダメージにはならない。結果としてはなおさら怒らせる最悪の事態に陥ってしまった。
(くそっ、どうするどうする・・・。あ、そうだよ、そもそも正攻法で戦う必要なんてないじゃん)
怒り狂った隠密熊は逆に周りが見えていないと言ってもいい状態である。
「ピットホール!」
走っていた隠密熊の目の前に突如として空いた巨大な落とし穴。深さは約5m程度。魔力のほとんどを持っていかれたがまだ戦える。
「からの、ウォータフォール!」
滝のように流れ落ちる水のせいで呼吸もできない上に、勢いが強いせいで穴から出ることもできない隠密熊は、為す術なしと言う感じだろうか。
今までは狩る側にいたのに突如現れた人間に狩られると言う不条理に思考が支配されているだろう。
穴が水で満たされると再度土魔法で穴を塞ぐ。
10分が経った頃くらいに様子を見ると隠密熊は死んでいた。死因は溺死。
アイテムボックスに収納して回収し、再度外に出す。水魔法の応用でさっと血抜きをして収納する。
「あぁ、もう疲れた。魔力もほとんどすっからかんだ。・・・しっかしよくこんなの倒せたな。運が良かったと言うべきか・・・。両親に絶対怒られるんだろうなぁ・・・」
そう思いながらも家に帰って隠密熊を母親に見せると、驚いて気絶してしまった。
「あぁ、やっぱり・・・」
仕事から帰って来た父も無傷の隠密熊を見て驚いていたが、気絶まではしなかった。さすがは我が家の筋肉ゴリラだ。
案の定、目覚めた母親にみっちり2時間叱られたが最後には泣かれてしまい、今後は極力無理をしないようにしようと思った。
「それにしてもアウルはすごいな!隠密熊を無傷で倒すなんて!こいつはCランク以上の冒険者が倒すような魔物だぞ?ここまで大きいとBランクくらいでも難しいかもしれないな!ハハハハハ!」
無理をしたおかげか、こいつを売ればかなりの金になるらしい。
明日は行商人が来る予定の日だ。一頭丸ごと売ればかなりの金になるだろう。売るギリギリに荷車に出せばアイテムボックスがバレることもないし、鮮度も落ちることはない。
どうやって仕留めたか聞かれるだろうが、罠にかけて殺したといえばなんとか誤魔化せるだろう。父も付いて来てくれるしな。
これが売れればテン菜がきっと買えるだろう。もしお金が余れば両親に渡してもいいし、何か買ってもいいな。短剣なんてあれば最高だ。剥ぎ取り用に使える。
なんにしても明日が楽しみだ。
ちょっとずつ更新していきます。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。