ep.38 束の間のひと時
時間を有効に使おうと思った時もありました。ちゃんと迷宮でレベリングしようと思ってました。だがしかし、ベッドが俺を捕まえて離さないんだ・・・。
俺だってちゃんと迷宮にいきたいよ?でもね、仕方ないんだ。あぁ、また睡魔が俺を呼んでる。行かなきゃ。
「ご主人様〜、いい加減起きてくださいよ〜。もうお昼ですよー!!」
遠くからルナの声が聞こえる。ちっ。もう少しで睡魔と逢い引きできたというのに・・・。仕方ない、起きるか。こんなに寝てしまうとは思ったよりも昨日はしんどかったようだ。
まぁ、全力の身体強化を発動した上でSランク魔物との長時間の高速戦闘は、10歳の体には少々厳しいのは道理か。
今日は雑事を終わらせる日にするとして、明日から迷宮へ潜ろう。
迷宮に潜る前に新しい武器とかお願いしといて、頑張ったご褒美にしてもいいな。だったらガルさんに頼んで貴重な鉱石とホーンキマイラで武器・防具を作ってもらわなきゃ。なんならエンペラーダイナソーの素材も使ってもいいかもしれない。
そういえば、クインを2人に紹介しなきゃ!最近ずっと亜空間に入れっぱなしだったから、拗ねてないといいけど・・・。
「出ておいでクイン」
・・・・ふるふる!
「ごめんごめん!最近バタついてたんだよ〜許しておくれ!」なでなで
ふるふる!!
良くも悪くもクインは素直なようだ。チョロくって助かるぜ。
「もう、ご主人様入りますよ〜?・・・・!!?魔物!?ご主人様逃げて!」
今クインは横になっている俺の上でマウントを取ったような状態のため、端から見れば襲われているようににも見えるかもしれない。
「ルナ、こいつはクインと言って俺の従魔だ。紹介するのが遅れて悪いな」
「クイン、ですか?魔物図鑑に載っているのを見ましたが、その魔物ってクイーンジェノサイドビー、ですよね?」
「よく勉強しているね、えらいぞルナ」
「エヘヘヘヘ」
「クイン、この女性はルナと言って俺の大切な仲間だ。仲良くしてやってくれるか?」
ふるふる!!
フラフラとルナに近寄っていき、周りを飛んでいる。どうやら気に入ったようだ。
「クイン、もう1人ヨミという女性がいるが、その人も大切な仲間だから仲良くしてやってくれ」
ふるふる!
うんうん。クインは本当にいい子だな〜。さーて、仕方ないから起きてさっさとやることやるかぁ!
リビングに行くとお昼ご飯が作ってある。今日はヨミが作ってくれたみたいだ。今日のお昼は白パンにハイオークのステーキ、野菜ゴロゴロポトフのようだ。なかなかがっつりだが悪くない。
「おはよう?ございますご主人様。うふふ、今日のお昼ご飯は私が作ったんですよ!ってその生き物は?!」
「こいつはクインと言って俺の従魔だ。紹介が遅くなってすまない、仲良くしてやってくれ」
「か・・・」
「か?」
「可愛いです〜〜〜〜〜〜!!!!はぁん、とっても可愛いです〜〜〜〜!!!」
気に入ってもらえたようだ。・・・ちょっと異常な気もするが。こらヨミ!クインをクンカクンカするな!
「にしても今日はたくさん寝てしまったよ。遅くなってごめんな。今日も美味そうだ、顔洗ったらご飯にしようか」
水魔法で簡単に口をすすいで、顔を洗う。この世界には生活魔法というのがある。その中に「洗浄」というものがあるが、これは大変に便利な魔法だ。俺はこの世界の魔法が苦手なので、基本魔法は創作だった。しかし、ルナが生活魔法を使えたので教えてもらったのだ。
やはりこの世界の魔法はこの体にはよく合わない。でも、何回か練習しながら独自のイメージを製作した。歯ブラシで歯を洗浄したり、服を洗浄したり。汚れ全てをひとまとめにして、それらを綺麗にする魔法。それが俺の洗浄、いや『清浄』だ。
「「「いただきます」」」
ではまずポトフから。・・・美味い。じっくりコトコト煮たであろう根菜類は、口に入れるだけでほろほろと崩れる。なのに全く煮崩れしていないのは、ひとえにヨミの調理技術のなせる技だろう。
ステーキも火入れが完璧。噛めば噛むほど溢れ出る肉汁、肉を彩る絶妙な調味料。特にこの胡椒が・・・胡椒?!
「これ、胡椒じゃないか!!!どこでこれを?!」
「胡椒?あぁ、胡椒のことですか。朝、市場を見に行ったら売っていたので少し高かったですが、買ってきました。お金はスタンピードの時の賞金がありましたので問題ありません」
「これ、あとで買いに行こう!たくさん買おう!」
「うふふ、そう言うと思いまして既にたくさん買ってありますよ」
さすがはヨミだ。俺の考えること好みをよくわかっている。
「ご主人様、今日はどうされますか?・・・やはり、迷宮に行くのですか?」
ルナは恐る恐ると行った感じで聞いてくるが、今日は行かないので是非安心してほしいものだ。
「今日は迷宮には行かないよ。今日はガルさんのところに行くつもりだ。グランツァールから貰った鉱石とホーンキマイラ、エンペラーダイナソーの素材を使っていい武器と防具を作ってもらおうと思ってね!隠密熊もまだ数体残ってるから人数分の外套を作ってもらおうかな?」
「今日は迷宮は行かないのですね!わかりました!」
「隠密熊といえばご主人様、我が家に敷いてあるこれは隠密熊の進化した魔物ですよね?確か名前は暗殺熊とか言う」
「さすがご主人様です!頭の部分がなくなっているのでわかりにくいですが、この模様は確かに暗殺熊ですね!ほらこれです!」
「え?」
ルナが見せてくれた魔物図鑑と見比べると、確かに暗殺熊と書いてある。・・・子供の頃に狩った隠密熊と思っていたのは暗殺熊だったのか。推奨討伐ランクはB〜Aと書いてあるな。
「こんなにすごい魔物の毛皮を敷物としているなんてさすがです!・・・しかし、ここまで立派だと逆に頭部がないのが寂しいですね」
言われてみると確かに。超電磁砲で吹き飛ばしちゃったから頭部はないんだっけ・・・。今度は綺麗に討伐しようっと。
「さて、朝ごはんも食べたし準備して行くか!」
「「かしこまりましたご主人様」」
「ガルさんいる〜?」
「ちょっと待ってろー!・・・・・・すまん、待たせた。今日はどうしたんだ?」
「ちょっと武器と防具を作って欲しくって」
「ほう・・・。お前ら、少し見ないうちに強くなったな」
「わかるのか?」
「少しくらいならな。確かに今の武器と防具では物足りないだろう。作ってやりたいが、生憎お前さんたちレベルに対応できる鉱石がなくてなぁ。素材ならスタンピードのおかげでそこそこあるが、それでもそれなりだ」
「ふふふふふ、ガルさん。材料は俺に任せてくれ。どこか広い所はある?」
「裏に倉庫があるから、ついてこい。・・・・・ここでいいか?」
「うん、ギリギリ大丈夫そうかな。まずは素材だけどこいつらを好きに使ってほしい」
ホーンキマイラとエンペラーダイナソーを事も無げに出してやると、さすがのガルさんも驚いていた。・・・人間、いやドワーフってこんなに口が開くんだな。顎はずれてないよね?
「お前さん、かなりできると思っておったが、想像以上に規格外だったんだな・・・。しかし、これだけの素材があればかなりの物ができるぞ!好きなだけ使っていいんだろ?!」
ニヤリと笑いながら聞いてくるガルさんの顔は、今にも素材に飛びつきたそうなほどうずうずしている。
次に綺麗な隠密熊を3体出す。
「ほう、隠密熊か。随分綺麗に倒したのだな」
「これで外套を頼むね。隠密性能があるやつ!」
「あいよ。それはすぐにできるだろう。それより、他にもいいのがあるんだろう?もったいぶらずに早く出せよ」
「まぁまぁ、次は鉱石だけどこれを使ってほしい」
取り出したのはアダマンタイトとミスリルを10kgずつ取り出した。神銀も出しても良かったが、あれは個人的に銀細工もしたかったし、とりあえずは出していない。
「お、お前さんこれは、アダマンタイトじゃないのか・・・?」
「さすがガルさん!こっちはミスリルだよ。これだけあれば3人分の武器と防具は作れそう?」
「もちろんだ!!!見た所純度は一級品だし、量も申し分ない!こ、これを本当に使っていいんだな?!今更返せって言われても返さんぞ?!」
「あ、ああ。大丈夫だよ」
ガルさんの気迫に押されて、若干引いてしまった。それにしても嬉しそうだ。今なんてアダマンタイトに頬ずりしてるぞ。
「余った鉱石は貰ってもいいか?!代金は余った鉱石を買い取るという事でいいから!!頼む!!」
「鉱石が余ったらあげますよ。それにお金もしっかり払います。だから最高のものをお願いします!素材は余ったのは売るつもりなんで、ネコババしたらダメですよ」
「ねこばば?」
「あぁ、盗んだらダメですよって事です」
「それはもちろんじゃ。でも1番いい箇所を使わせてもらうぞ?」
「はい、じゃあそれでお願いします!どれくらいでできますか?」
「うーん、そうだな。5日も見てくれれば問題ないだろ。武器と防具は以前と同系統でいいか?」
「ルナ、ヨミ、何か希望があれば伝えてくれ」
「では私から。得物は剣で問題ありません。できれば以前より2周りほど大きいものがいいです。それとできる限り硬くしていただけたら尚いいです」
「ふむふむ・・・なるほどな。そっちの嬢ちゃんは?」
「うふふ、私も得物は変わりなく短剣がいいですね。できれば予備含めて4本。それと刃渡りを10cmほど伸ばして30cmくらいにしてほしいです。属性は水と風にしてもらえませんか?」
「問題ない、了解した。お前さんはいらんのか?」
「俺はいいよ、とりあえず」
「・・・よしわかった。う〜ん、防具は魔物素材でいいとしても、ちょっと鉱石が足りないかもしれんな」
それはまずいな。どうせならいいものを作ってほしい。
「わかった、アダマンタイトとミスリルを追加で10kg出しておくよ」
「おお!話がわかるな!・・・もっと色々持ってそうだな?どうせだし出しちまえよ」
「・・・はぁ〜。ガルさんには敵わないな。じゃあ、5kgだけだぞ」
収納から神銀を取り出す。出した途端にガルさんの顔が変わり、完全に停止した。
「ガルさん?おーい。・・・ダメだこりゃ。仕方ない」
水魔法で顔に水をかけて強制起動を促す。
「プハァ!!何すんじゃい!死んでしまうわ!」
「ガルさん、これ」
「そうだ!これ、お前さん!神の名を冠する鉱石の1つじゃないか!!これは神銀だろう!?こ、これをどこで!・・・いや、それはどうでもいい!ほ、本当に俺なんかがこれを扱っていいのか?!」
「い、いいよ?」
さっきよりも物凄い剣幕で喋るガルさんの気迫は鬼気迫るものがある。顔が近づきすぎキスしそうなんだが?そのせいでルナとヨミが武器を構えてるから早く引かないと死ぬぞガルさん。
「おっとすまない、ちょっとだけ興奮してしまった。確かに材料は預かった!早速製作に入るからまた5日後に来てくれ!」
「あ、そうだ。俺たちはこれからまた迷宮に篭って強くなる予定だから、それを考慮して装備作ってくれよ〜!じゃあまた!」
「え?は?おーい!」
さて、これで装備の問題は解決だな。明日はとうとう迷宮に挑戦だ!
ちょっとずつ更新していきます。
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