ep.37 嵐の前の静けさ
場所は王都冒険者ギルド、ギルド長室。
「まぁ、とりあえずソファーにでも掛けてくれ。茶でも出そう」
ルナとヨミは座らず、またもやソファーの後ろで待機するらしい。
お茶はギルド長が直々に入れてくれるようだ。フワッと香るいい匂いに、少しだけ心が安らぐのが分かる。
どこか懐かしいそんな匂い。そう、まるで昔静岡に旅行に行った時に飲んだ緑茶のような…
「って緑茶だ!」
「お、このお茶知ってんのか?たまたま手に入れてな。このなんとも言えない匂いにハマっちまったんだ。これの良さが分かるとは、若いのに大したもんだぜ?」
久しぶりに飲む緑茶は本当に美味しかった。体中に染み渡るようで、お茶請けに煎餅か饅頭が欲しくなった。
…今度作ろう。是非作ろう。ついでにこのお茶もレブラントさんに頼もう。
「さて、聞きたいことは沢山あるんだが…。まずは自己紹介から始めようか!俺の名はバラック。王都の冒険者ギルドのギルド長をやってる」
「俺の名前はアウルです。年は10歳。ランドルフ領のオーネン村という村出身の貧乏農家です」
出身を伝えると、この世界の地図と思われる物を見ながら、オーネン村を探しているみたいだ。
「お、ここか。アザレ霊山の近くの村なんだな」
「そうですね」
「次だが、そこの嬢ちゃん2人はお前さんの奴隷で間違いないか?」
「間違いないですよ」
ふむ。と言って顎に手を当てて考え事をし始めるギルド長。しかし、しばらく考えた末に出てきた言葉は信じられない物だった。
「単刀直入に聞くが、その2人を冒険者ギルドに売る気はないか?もちろん対価は支払おう」
ギルド長がその言葉を発した途端に張り詰める空気。キレそうになりかけたが、自分よりも凄い怒気を後方から感じ、少し嬉しい気持ちになってしまった。
しかし、ギルド長。てめーはダメだ。
「あ?」
威圧と魔力重圧を無言で発動する。物凄い圧にテーブルやコップが軋み始める中、体勢を崩さないのは流石だと言える。しかし、ギルド長は確実に辛そうな顔をしている。全力でないとは言え、ここまで耐えられるとは。伊達にギルド長はやってない、か。
「はっ、そっちのが本性か。さっきのは冗談だ。だからさっさとこの威圧を解いてくれ」
「はぁ?まさか俺を試したのか・・・?」
「端的に言えば、そういうことだ。まぁ、試したのはお前だけじゃないがな。仲間に恵まれたんだな」
ルナとヨミにちらりと視線を移したということはそういうことだよな。しかも、今度は奴隷とは言わずに仲間と言ったか。案外悪い奴ではないのかもしれない。
「ルナとヨミには助けられてばかりです。本当に良くやってくれています」
「「…えへへ。それ程でも」」
なんか後ろで照れてるのが2名いるが、華麗にスルーだ。
「そろそろ本題に入るぞ。まずホーンキマイラについてだが、なぜあそこにいると知っていた?」
んーまぁ、そうなるよな。
「俺のスキルみたいなもんかな?とにかく、気配が分かるんですよ。王都内に強い気配がしたから不思議に思ったって感じです」
「ふむ・・・。次だが、お前はどうやってアレを倒したんだ?正直、お前がアレをどうやって倒したのか全く分からん。というか、本当にお前が倒したのかすら未だに信用出来ていない。仮にもアイツは推奨討伐ランクSの化け物だ。それに対し、お前は冒険者資格も無いような10歳の子供。信じろといわれてもなぁ」
今更言われて確かに、とさえ思ってしまうな。10歳はこんなに強く無いのが普通か……困ったな。こんな時はやっぱりアレか。
「端的に言えば恩恵のお陰ですよ。あとは運が良かったんだと思います」
困ったときの恩恵頼み。ついでに威圧と魔力重圧を再度発動する。しかもさっきより強めにだ。
というか、ぶっちゃけ俺の体は創造神謹製の特注品の可能性が高い。恩恵は器用貧乏というよく分からないものだが、今はそれのせいにするしかあるまい。どうせ、恩恵はバレないし。
「わかったわかった。信じるから威圧を解けっての。…にしてもそんな恩恵が本当にあるのか?もし、不都合無ければその恩恵を教えてほしいんだが」
「さすがにそれは出来ません」
「はぁ、だよなぁ〜。他にもたくさん隠してることはあるんだろうが、その調子じゃ言わなそうだし、今回は諦める。じゃあ次でとりあえず最後だ。お前は今回の一連の事件をどう思う?というか、何を知っている?知っていることが有れば教えてほしい」
お、そんな事まで聞いてくるのか。かなり上の人なのに俺みたいな奴の言うことを聞いてくれるとは。そこまで誠意見せてくれるなら、全部教えておくか。
「まず、スタンピードについてですが、俺とレブラントさんは魔香粉によって起こされた人為的な物だと考えています」
「魔香粉か……なるほど。確かにそうだとすると合点がいく、か」
「次に、このスタンピードは陽動だったと思われます」
「陽動…。スタンピードが陽動だとすると、本命はホーンキマイラによる王城への襲撃か?」
「・・・ここからは推測ですが、俺はホーンキマイラも陽動だったのではないかと考えています」
「なに?ホーンキマイラすらも陽動だと?」
「はい。ホーンキマイラが切り札だとすると、何がしたかったかというのが、やや不明瞭過ぎる気がするんです。騒ぎを起こしてどこかから注意を引きたかった、と考えるのがしっくりくるんです」
「しかし、フィレル伯爵は俺が王になるとか言ってたんだろ?」
「私は良く分かりませんが、王を殺したとしてそいつが王になれる訳では無いでしょう?」
「まぁ、それは確かに…」
「俺が知っているまたは考えているのはそれくらいですね」
まぁ、4年前のこととかも知ってるけど、一気に情報を教えるのは危険かな…?あぁ、この辺のさじ加減がよくわからん。
「あの、私からも1ついいですか?」
手を上げて発言の許可を求めるのはルナだ。
「なんかあったの?」
「はい、スタンピード中、私たちは最前線で魔物と戦っていたのですが、その最中にある男と会いました。肌が浅黒く軽薄な喋り方、化け物じみた身体能力に見たことのない能力。そして、圧倒的なまでの魔力です」
え、ルナとヨミはそんなやつと戦ったの?
「にゃんともなかったの?!」
焦りすぎて噛んじゃった、恥ずっ!
「ご主人様落ち着いてください。ここからは私が。スタンピードを食止めている私たちが気に食わなかったのか攻撃はして来ましたが、ご主人様から頂いた指輪のお陰で事なきを得ました。一瞬に3枚の障壁を破られたのには驚きましたが…」
「3枚も?!それも一瞬でか…」
相当な化け物だな。どんな魔法を使ったんだろう。
「1番驚異的なのは、障壁をただ殴っただけで割ったことです」
「魔力を使わずに殴っただけ・・・?」
「その通りです」
指輪の障壁は最悪の場合を想定して、5枚までは自動展開されるように設定してあったが、かなりギリギリじゃないか。これは見直しが必要かな。それにしてもそんなやばい奴がいるとは想定外だぞ・・・。
「あと、キマイラを召喚してあげた、と言っていました」
「!?おいおいおい、そいつはマジか?」
「事の真偽は不明ですが、言っていたのは確かです」
ギルド長もさすがに信じられないようだ。でも確かにあんな強い魔物を召喚できるとしたら、脅威以外の何物でもないわな。
「情報提供感謝する。ギルドの方でもそいつについて調べてみる。他にも思い出したことや、分かったことがあったら教えてくれ。それと数日したら王城から遣いが行くはずだ。おそらく今回の事件の立役者として呼ばれるだろうな。・・・あと、ホーンキマイラについてだが、白金貨10枚で売ってくれないか?」
「王城か〜、行きたく無いなぁ。・・・用が無いようですので、今日はこれで帰らせてもらいますね」
「あー分かった分かった、白金貨100枚だ。どうだ?」
「悪くは無いけど、やっぱりまだそれじゃ売れないから今回は縁が無かったということで」
舌打ちをしながらも諦めたようだ。さすがに白金貨100枚以上は出せないようだ。
「そう言えばギルド長さん。討伐に参加したルナとヨミの討伐報酬はいつもらえますか?」
「あぁ、それなら下の受付嬢にギルドカードを渡せばもらえる手筈になっている」
「それともう一つ。騎士団の人に接収される前にフィレル伯爵の屋敷から重要そうな書類を盗んでおきました。ルナ、ギルド長に渡して」
「こちらです」
「・・・お前さんもどこから書類を出したのか気になるが、今はあえて聞かないでやる。にしても量が多いな」
「俺が書類の中身を見ようと思ったのですが、少々今回の騒ぎで疲れてしまったので、あとの処理はギルド長に任せますよ」
「はっ、よく言うぜ。お前も肝っ玉が据わってるな。貴族に向いてるんじゃないか?」
「あはははっ、ご冗談を!それでは」
今の会話を要約すると
ア『手柄を立てすぎたから、フィレル伯爵の件についてはギルドに譲ってあげますよ』
バ『この俺に貸し1つなんて言うやつ久々に見たぜ』
てな感じだ。
会談を終えて階段を降りて様子を見ると、受付はたくさんの冒険者でごった返しており、今すぐの受付は無理そうだった。
一旦レブラントさんのところへと行って時間ずらすか。お茶も欲しいし。
「レブラントさ〜ん?」
「おや、アウル君。やっと解放されたのかい?」
「とりあえず、ですけどね。それより、王城から遣いが来て今回の立役者にされるかも知れないんですが、どうにか回避できないですかね?」
「あはははは、さすがアウル君。しかしさすがにそれは無理だよ。ホーンキマイラを倒した上に、その首謀者まで捕まえたんだからね。諦めて、準備でもしといたらどうかな?今回くらいの規模だときっと1週間後には王城から連絡が行くと思うよ」
「・・・は〜い」
やっぱりダメだったか。
「普通、平民が王城へ招聘されるとなったら末代まで自慢できるほどのことの出来事なのだけどね・・・。親御さんに自慢の手紙でも書いたらどうだい?」
確かに。王都に来てから手紙の一つも書いてない。とりあえず現状と今後の予定でも書こうかな。というかシアに会いたいから、帰るのもありか。
うん全てが一段落着いたら帰ろう。年末は実家で過ごすのがいいよね!
・・・ルナとヨミはどうしよう。紹介する?いや、でも、うーん。ミレイちゃん絶対怒るよなぁ。
あとでルナとヨミにどうしたいか聞いてみよう。もしかしたら王都に居たいって言うかもしれないし。
女心が全く分かっていないアウルであった。
「アウル君、用件は終わりかい?」
「あ、レブラントさん。今のうちにベーコンとか卸しときますね。あと、ギルド長が緑茶ってお茶を出してくれたんですけど、知りませんか?」
「お、助かるよ!すぐに売れちゃうから困ってたんだ。次までにお金用意しとくね。緑茶?聞いたことないけど調べてみるよ」
「お願いします。じゃあ、今日は疲れたので家に帰りますね。何かあったら連絡ください」
はぁ、今日はさすがに色々あって疲れた。冒険者ギルドもそろそろ空いたかな?家に帰る前に寄らないと。
「ルナ、ヨミ。ギルドに寄ってお金もらって家に帰ろう。今日は夕飯を豪華にして、パーっと美味しい物でも食べようか!」
「たくさん食べますご主人様!」
「うふふ、できたらお菓子も食べたいですご主人様」
最近、ルナとヨミとの距離が近くなったように思える。本来の奴隷らしくは無いんだろうけど、こういうのもいいよね?
でも今夜は何食べようかな~。確か魚がまだあったから魚のフライでも作ろう。コロッケもいいな。森イノシシのトンカツも作ろう。・・・揚げ物ばっかりだけど、たまにはいいよね。
お菓子はプリンを作ってあげようかな。生クリームもまだあるからプリンにトッピングしてあげたら喜ぶだろう。
「ちょうどギルドも空いてるみたいだね。じゃあ、俺はここで待ってるから」
「では行って参りますご主人様」
「楽しみにしていて下さいね」
折角なのでギルド内の椅子に座って待つことにした。ここなら2人がいくら貰えるか分かるしね。
『ではルナ様とヨミ様のギルドカードをお預かりします。先にルナ様の倒された魔物を集計いたします。えーと、え?・・・・・ゴ、ゴブリン2309体、オーク862体、グレイウルフ208体、四つ腕熊12体、鋼鉄百足4体、巨大犀6体、フォレストワーム2体、合計3403体です……。ゴブリン1体銀貨3枚、オーク1体金貨1枚、グレイウルフ1体銀貨5枚、四つ腕熊1体金貨50枚、鋼鉄百足1体金貨70枚、巨大犀1体白金貨1枚、フォレストワーム1体白金貨1枚ですので、金額の合計はええっと…。白金貨33枚と大金貨3枚と金貨8枚と銀貨7枚となります。つ、次にヨミ様です。・・・ゴブリン3019体、オーク1308体、グレイウルフ402体、四つ腕熊18体、鋼鉄百足9体、巨大犀12体、合計4768体です。金額は合計白金貨51枚、大金貨4枚、金貨4枚、銀貨7枚です。討伐参加費の金貨100枚を加えまして2人分で白金貨84枚、大金貨7枚、金貨112枚、銀貨10枚です。整理しまして、白金貨85枚、大金貨8枚、金貨3枚です。お確かめください』
まじか?!半端ないな。一瞬にして大金持ちじゃんか。2人とも俺から離れてかないよね!?
「ご主人様!たくさん稼いでしまいました!褒めてください!」
「うふふ、ご主人様?私の方が多く稼いでいますよ。なので私の方をたくさん褒めてください!」
流石に2人も一気にお金を稼いだからか、テンションが高い。この調子なら心配はいらないみたいだ。
喧嘩は嫌なので、2人の頭を撫でて褒める。嬉しそうな顔をしているな…。そんなに頭撫でられるのが好きだとは知らなかったぞ。
はっ!?視線がすごい!ここ冒険者ギルド内じゃん!
「ルナ、ヨミ帰るよ!」
「「かしこまりましたご主人様!」」
ふう。これで用事は終わりだな。
・・・にしても、今後どうするかを考えないと。それにルナとヨミの言っていた謎の男も気になるし。
これはまた迷宮に潜ってレベリングかな?俺も改めて鍛える必要があるかもしれない。
ルナとヨミは絶対に失いたくない。
…よし決めた!下層を目指すぞ!時間はまだあるみたいだし、今のうちにやれることを精一杯やらなきゃ!
きっと数日の間は王城の遣いの人も来ないだろうし、時間は有効に使わないとね。
あ、クインも紹介してあげないと。ずっと亜空間に入れっぱなしになってたもんな。
「ルナ、ヨミ。明日からまた迷宮に潜るよ!」
「え?・・・迷宮ですか?」
「ち、ちなみに何をしに行くおつもりですか?」
「そんなの決まってるでしょ?特訓だよ特訓!次は40階層を目指すよ!」
「「まだいやああああああああああああああ!!」」
王都に2人の声が木霊した。
SIDE:フィレル伯爵
「うん?こ、ここはどこだ?って、なぜ私は牢屋の中にいるのだ!私を誰だと思っている!ここから出せ!私は伯爵だぞ!」
「静かにしろ!お前は国家転覆の罪で捕まったのだ!自分が何をしたのか忘れたというのか!」
国家転覆?なにを言っているのだこの衛兵は。
「国家転覆なぞ私は知らんぞ!」
「本当に何を言っているんだ?ホーンキマイラを王都内に手引きし、あまつさえそれを操って王城を襲おうとしたそうじゃないか!」
「なっ?!ホーンキマイラだと?」
なんのことを言っているのだ?!私はそんなこと知らんぞ?!誰かに嵌められたのか!
誰だ、誰が私を嵌めようとしているのだ……。
うーん……我ながら敵が多いから、判断しかねるな。
まさか、アダムズ公爵家か?誕生日パーティーを邪魔しようとした報いとでも言うのか!
確かに邪魔はしようとしたが・・・。しかし、あれは私の至上の甘味を奪い取ったあいつらが悪いのだ!私が手に入れていれば莫大な金を手に出来たというのに・・・!
・・・いや、もしかして。私を嵌めたのは、あの人なのか?だが、しかし・・・。
あの人はアダムズ公爵家も至上の甘味について調べていると知っていたとして、それを知ったうえで私に甘味は儲かると教えてくれたのだとしたら・・・。
伯爵家が公爵家には勝てないのは道理だ。そして私の性格を利用して逆上させてなにかさせることも想像に難くない…か。
我ながら短絡的な性格をしているものだな。こんな状況にならないと気付けないとは…。
「おい衛兵、~~~様をここへ呼んでもらえないだろうか」
「なに?何故だ」
「どうしてもなのだ!私は嵌められたかもしれないのだ!」
「何を言っているんだ。処遇が決まるまでそこで大人しくしていろ!」
くそ…。私は悪くないのに…。
SIDE:???
「・・・・様、ご報告が遅くなり申し訳ありません。まず、レッドドラゴンの呪印を返したと思われる冒険者ですが、断言できるものはおりませんでした」
「なに?!そんなわけないだろう!」
「最後までお聞きください。断言できる該当者はいませんでしたが、レッドドラゴンの件及び今回のスタンピードの件も含めて私に心当たる節があります」
「もったいぶらずに早く教えないか"セラス"!」
「はい。まずレッドドラゴンの件ですが、一番可能性のある冒険者は最近登録したというルナとヨミと言う女冒険者が関わっていると思われます」
「ルナとヨミ?聞かない名だ・・・いや待てよ?確かスタンピードの報告書には『水艶のヨミ』と『銀雷のルナ』という女冒険者の活躍が目覚ましかったと書いてあった気がするが、それか?」
「はい、その2人はFランクの初心者冒険者ですが、最近迷宮に潜っていたという記録があります。また、彼女たちの身分は奴隷です」
「奴隷だと?」
「はい。その主人がアウルという少年だそうです。これは奴隷商の店員を尋問して確認済みです」
「アウル?聞いたことない名だな。お前は知っているか?」
「…最近、私はオーネン村にフィレル伯爵家の次男と行って参りました。そのときに出会った少年がアウルと言ったはずです」
「オーネン村だと?!あそこは4年前に私が実験に選んだ場所のうちの一つじゃないか!」
「その通りです。オーネン村での実験は失敗に終わった。ですよね?」
「あぁ、近隣の村も多少の被害は出たらしいが、そこまでひどい状況にならなかったはずだ。その問題点を改良し、実験に実験を重ね、やっとの思いでここまできたのだぞ!……まさかセラス、お前が傷ついて帰ってきたのはそのアウルという少年によるものなのか?」
「その通りです。正直油断しました。それに異常なまでに魔法の展開が早くて的確。あれは恩恵によるものなのでしょうが、驚異的でした」
「なぜもっと早く報告しなかったのだ!」
「すみません…。いくら強いと言っても所詮は田舎の貧乏農家。成人前に王都に来るとは思いませんでした。それに貴族を嫌っているようでしたので、アダムズ公爵家についていくとは思わず…」
「ということは何か?そのアウルという少年と女冒険者2人がレッドドラゴンを助けたとでも言うのか!」
「私はそのように考えています。また、そろそろ報告書が上がってくるころかと思いますが、ホーンキマイラを単独撃破したのがそのアウルという少年です」
「なっ…!!あれを単独撃破だと?!…今後の計画に支障を来す可能性があるな。その少年はいまどこに?」
「おそらく家にいるかと」
「そうか。所在が分かっているならとりあえずはそれでいい。…ホーンキマイラによる騒動が不発に終わったのには焦ったが、その後結局フィレル伯爵の件でバタバタしたお陰でなんとか例のものは入手できた。あとは最後の計画の準備をするだけだ」
「上手くいったようでよかったです。ちなみに少年は今後どうされますか?」
「今後の私の邪魔になる可能性がある。最後の計画の時に纏めて私が直々に始末してやろう。おそらく、その少年はホーンキマイラを討伐して国を助けた立役者として王城に招聘されるだろうから、私の方で日程を調整をしておこう。準備は1週間もあれば十分だが、念には念を入れて10日後に王城へとくるように仕向ける」
「かしこまりました。最後の計画はその時に?」
「いや、一度王城に呼んで顔を確認したのち、改めて王城へ呼び出す。その時に最後の計画を実行する」
「…いよいよなのですね」
「お前には苦労をかけたな。フィレル伯爵なんかに何年も仕えさせてすまなかった。あいつの洗脳も任せっぱなしだった上に最後の最後まで色々頼んでしまった。しかし、貴族で1番扱いやすかったのがあいつだけだったのだ。許せ。この働きには必ず報いよう」
「いえ、まだ計画は完了してはいません。最後まで、油断なさらぬよう」
「それもそうだな…。そういえば、あの色黒はどうした?」
「はっ、それが連絡が取れなくなりました。まぁ、いつもの事でしょう」
「それもそうか…」
ワイン片手に喋る男と、死んだと思われていた元フィレル伯爵家執事のセラス。
そして、男の前には怪しげに光る拳大のオーブ。
事態は一旦の落ち着きを見せたように思えたが、それはまるで嵐の前の静けさのようだった。
ちょっとずつ更新します。
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