ep.36 外の敵と内の敵
「スタンピードだーーーーー!!!!」
誰かの焦る声が聞こえてくる。ちらほらと至る所がざわめき始めているのが分かる。
レブラントさんと赫き翼の人たちは着々と準備をしている。
「アウル君、私は商業ギルドへ様子を見に行ってきます。もし本格的にスタンピードが始まれば、物資が足りなくなることも考えられますから、今のうちに準備が必要ですので」
「俺たちも冒険者ギルドへ行くぜ。おそらく詳しい情報も届いてるだろうしな」
レブラント商会も王都では指折りの大店となっているし、彼等はAランク冒険者だ。この行動の早さはさすがと言うべきか。
「ご主人様、私たちも冒険者ギルドへ行きましょう」
「うふふ、ご主人様は絶対に守ります!」
頼もしいな。鍛えておいて本当に良かった。
「分かった、状況も知りたいし俺達も冒険者ギルドへ急ごう」
「「はい!」」
冒険者ギルドへ着くとそこはたくさんの冒険者で溢れえっており、中には先に行った赫き翼の面々もいた。
少しするとみんなより少し高いところに顔の厳つい人が出てきた。
顔の厳つい人が出てきたと思ったらざわついていたギルド内が一気に静まり返る。
あの人はこのギルドでも偉い人かな?
「俺はバラック。ここのギルド長をやっている。もうみんなは分かっていると思うがスタンピードが起こった!本来であれば予兆があり、ある程度の対策が取れるんだが、今回はその予兆もなく後手に回っている。冬ということもあり、大抵の魔物は活動が鈍くなっているはずなんだが、どういうわけか大量の魔物が王都めがけて押し寄せてきている!あと30分~1時間もすれば王都に到着してしまう!魔物の数は推定でも1万を超えていると思われる!騎士団も参加してくれる手筈になっているが、冬のためか体調が悪く、参加できないものが多いという報告を受けた。騎士団の参加は400人程度が限界らしい!王都はお前らにかかっていると言っても過言ではない状況にある!どうか、手を貸してほしい!次に場所だが、王都の南にあるグリューエル大森林から魔物が湧き出しているとのことだ!たまたま調査に出ていたうちの職員が大量の魔物を発見したってんで今に至る!最後に報酬だが、参加するだけで金貨50枚は確約する!また、ギルドカードには倒した魔物が記録されるのでそれを元に後から別途清算する!他にも国王からも報奨金が支払われるとのことだ!Dランク以上は強制参加で、それ以下は任意参加となる!以上だ!受付を終えたものから魔物討伐に向かってくれ!」
なるほど・・・。いくつか気になる点があるが、とりあえずはいいか。
「ご主人様、私たちはどうすればよろしいでしょうか?」
「一応、Fランクの私たちは強制ではないですが・・・」
そうだよな。いくらルナとヨミが強いと言っても一万という数は脅威だ。下手すればもっと魔物がいることだって考えられる。
「ご主人様、どうか私をいかせては頂けないでしょうか!もう何かを失いたくないんです」
ルナ・・・。そこまで決意しているのか。きっと過去と何か関係あるんだろう?いつか聞けるのを待ってるからな。
「ルナが行くなら私も行きます。ルナは私がいないとダメですから」
「仕方ない・・・。俺は少しやることがある。そのあとに絶対に駆け付けるから、それまで何とか持ちこたえてくれ。それと、指輪をしている手を出してくれ」
密かに付けたこの機能だけど、まさかこんなに早く使う羽目になるとはな。
素直に手を出す2人の手に向かって魔法をかける。
ルナの手には「限定解除"轟雷"」を。ヨミの手には「限定解除"水龍招来"」を。
「その指輪には俺の魔力で魔法を一つだけ覚えさせてある。1回きりだが、ルナとヨミには教えてない魔法が使える。いざとなったらルナは"轟雷"、ヨミは"水龍招来"と叫ぶんだ。魔力が無くても使えるとっておきとでも思っとけばいい」
これだけ準備しても不安は無くならない。俺もさっさと用を終わらせないとな。
「ご主人様、説明を忘れていました。先日お渡しした指輪ですが、あれは伝声の魔道具といって指輪に魔力を込めながら話すと、私たちの着けている対のピアスへと声を届けることができるものなのです。何かありましたらすぐに連絡下さい」
そう言ってヨミが耳に着けているピアスを見せてくれる。髪の毛で見えなかったが、確かにピアスを着けていた。
確かにこれがあれば何かあったときに便利だな。
あ、そうだ。
「忘れてた、服はメイド服を着てほしい。あれは魔物の糸を使って作った一級品で下手な防具よりも防御力が高いんだ」
「魔物の糸製のメイド服ですか…なんというか、さすがご主人様です!」
「うふふ、戦場にまでメイド服を着ろだなんて、ご主人様は独占欲がお強いんですね」
「お前らな…。というかルナ、なにが流石なのかあとできっちり聞いてやるからな!……だから絶対に死ぬな!」
「「かしこまりましたご主人様!」」
颯爽と受付を済ませて2人は魔物討伐へと行ってしまった。
2人を見送った俺は、鐘が鳴った時から発動していた気配察知と空間把握に意識を向ける。
「やっぱり何かをするならこのタイミングだよな、フィレル伯爵!」
捉えていたのはフィレル伯爵の屋敷があるあたりにある強い気配。まだ動いてないが、過去に察知したエンペラー・ダイナソーに匹敵するかもしれない。
その近くには何人かの人の気配も感じられる。
・・・うん、間違いなくフィレル伯爵のものだ。あと一人はどこかで会ったことがあるはずの気配なんだけど、どこだっけ…。
「悩んでも仕方ないか、先にこのことをレブラントさんに報告しなきゃ!」
「レブラントさんいる?!」
「アウル君?こっちだ!」
「会えて良かった!今ちょっとだけ時間いい?」
「ちょっとなら大丈夫だが、どうしたんだい?」
「フィレル伯爵のところに物凄く強い気配がある。それもエンペラー・ダイナソー級のやつ!」
「なんだって?!ということは・・・。もしかしたら、このスタンピードは仕組まれた可能性があるってことかい?」
「確証はないけど、タイミングが良すぎる気がするんだ。それに今回のスタンピードは不可解な部分があるって冒険者ギルドでも言ってた!」
「うーん・・・」
「なんかこう、人為的にスタンピードを起こす方法とかってあるのかな?」
「人為的にスタンピードを?そんなもの・・・一つだけ、あるかもしれない」
「ほんと?!」
「今は作成も所持も禁止されているものなんだけど"魔香粉"と呼ばれるものがある。その昔、戦争のときに敵国に魔香粉をばら撒かれて、魔物の手によって滅んだ国があると聞いたことがある。結局ばら撒いたほうも滅んでしまったらしいけどね。もしかしたら今回はそれを使ったのかもしれないな・・・」
「そんな危ない物が・・・」
「しかし、一体何のためにこんなことを?」
そうなのだ。そこがはっきりしない。何の目的でこんなことを仕組んだんだろう。王都がめちゃくちゃになるかもしれないのに・・・!
「もし、国を他国に売ったと考えるとどうですか・・・?」
「確かに、フィレル伯爵家はあまり良い噂がないですが・・・しかし、そう考えると辻褄が合ってきますね」
他にもいくつか気になる点はあるが、とにかく今はフィレル伯爵家の魔物をどうにかするのが先決か。
「レブラントさん、俺はフィレル伯爵家に向かいます。あんなのが王都に解き放たれたら、とんでもない被害が出る!」
「わかった。私のほうでも騎士団とギルドには上手く報告しておく。…アウル君、無理はするなよ」
「わかってますよ。俺はまだ死にたくないんでね!」
お、気配が動き始めたな。この方向は・・・やはり、王城か!あの強さの魔物を操れるなんてどんなチートだよ!
なんとか30秒で魔物に追いつけそうだ。いろいろ用意しなきゃ。といっても、ここは街中だから魔法はあまり使えない。被害がでるのは目に見えてる。
仕方ないけど、武器使うか…。折角だし、ガルさんから買った刀使うか。この刀の初陣にするには持ってこいだな。
って、敷地内から出る前に到着したはいいけど…。
「おいおい、エンペラー・ダイナソーじゃないのはいいけど、よりにもよってこいつかよ!」
帝国の発刊した魔物図鑑の最後のページには数匹の魔物が加えられていた。その中の1匹で、性格は狂暴で残酷。体長は6m前後で体は獅子、尻尾が蛇。背中には山羊のような頭。しかも獅子の額には鋭利な角が生えている。厄介なのは魔法を使うこと。角を媒体に雷を使ううえに、獅子の顔は火を吐き、山羊は氷を吐く。蛇は毒を吐く。その名をホーンキマイラ。
推奨討伐ランクはSだが、危険度はそれ以上だと言われている。
「なんだお前は!ここを誰の敷地だと思っておる!私の邪魔をするならお前から殺してやるぞ!もう少しでこの国は私の物なのだ!」
フィレル伯爵が騒いでいるが完全に無視だ。あんなのに構ってられるほど余裕はない。伯爵の執事らしき人は伯爵を置いて屋敷に逃げてしまった。
屋敷の中にシェルターでもあるのか?
まぁいいか。どうやって操ってるかは分からんが、今のうちに倒させてもらおう。
全然戦いたい相手ではないが、やるしかないだろう。騎士団は未だに来ていないが、レブラントさんが報告してくれているならほっといても来るだろうな。
じゃあ、やりますかねそろそろ!
「かかってこいや!ホーンキマイラ!!」
ホーンキマイラへとサンダーレイ×5を放つも傷一つない。しかし、アウルを敵としては認識したようでアウルを見据えている。
ホーンキマイラとアウルの戦いの火蓋が切られた。
SIDE:ルナ&ヨミ(ルナ視点)
ご主人様と別れた私たちは、スタンピードが起こっているグリューエル大森林へと向かっている。
ご主人様が買ってくださったメイド服は軽くて着心地は最高だった。これはさっき気付いたことだが簡単に魔力を通すことができた。このメイド服は魔力を通すことで硬度が格段に跳ね上がるというなんとも素晴らしいメイド服なのだ。
「ねぇルナ、この戦いが終わったらご主人様からご褒美が貰えるとしたら、何が欲しい?」
ええ?急すぎて分かんないよ。でもご褒美か。うーん。
「今まで食べたことのない最高に美味しいお菓子を作ってもらう、かな?」
「うふふ、それもいいわね」
「ヨミは?」
「私はね、ご主人様とデートがしてみたいの!」
ヨミは可愛いなぁ。でも確かにデートというものには憧れる。奴隷になった時に普通の女として生きることは諦めていた。
けど、ご主人様に会って存外奴隷というのも悪くないと思ってしまっている。まぁ、ご主人様が特殊だからそう思うのかもしれないが。
「私も、デートしてみたいな・・・」
無意識に本音が口をついて出た。はっとしてヨミを見ると、ヨミは嬉しそうに笑っている。
「デート代を魔物たくさん狩って稼いじゃおっか!そしてデート全部奢っちゃおう!」
「うん、そうだね!よーしやるぞっ!!」
「じゃあ、基本的には2人で行動しよう。別れたら危険度も増すしね。ご主人様がくれた指輪のお陰で近くの状況は手に取るようにわかるけど、なにが起こるか分からないから油断してはだめよ!」
2人の活躍は目覚ましく、押し寄せる魔物を大量に殲滅していく。流れるように倒していくその様は、他の冒険者や騎士団でさえも見惚れる程に凄かった。
出てくる魔物は、ゴブリンやオーク、グレイウルフと言った比較的弱い魔物が多かったため、被害は最小限に済んだ。
ひとえにスタンピードが起きた時期が冬ということが幸いし、この程度で済んでいたのだ。
これが春や夏とだったらもっと魔物が多く、強い魔物もいただろう。
それでもそれなりに強い魔物はいる。有名どころでは四つ腕熊や鋼鉄百足と言った推奨討伐ランクBの魔物や巨大犀といったランクAの魔物も混ざっていた。
「水艶!銀雷!ここは俺たちに任せて先に行ってくれ!」
え、水艶?銀雷?
「ふふ、私たちの二つ名よ。知らなかった?」
「知らないよ!そんな恥ずかしいこと知ってたなら教えてよ!」
まったくもう。ヨミったら。・・・でも二つ名ってなんかかっこいいかも!って集中しなきゃ!
「ヨミ、ここは騎士団や他の冒険者に任せて私たちは討伐ランクの高い魔物を重点的に倒そう!」
「うふふ、そうね。高そうなのは倒してアイテムボックスに入れられるだけ入れましょう」
そのまま順調に戦っていき、魔物の数が減り始めた頃、異質と呼べる何かが舞い降りた。
『あれ~?おかしいなぁ、そろそろ王都でも騒ぎが起きてここもパニックになるはずなのに。あいつ、まさかしくじったか~?これだから人間は使えないんだよな~。それにここももっと酷い状況になってるはずなんだけどな~』
現れたのは肌が浅黒くて、軽薄な喋り方をする…男。喋っている内容からすると、今回の騒動の何かを知っているようだ。
「あいつは一体なに?魔力が、尋常じゃない!」
「ご主人様より魔力が多いなんて、俄には信じがたいわね…」
『あれ、君たち人間なのにかなり強いね~?まぁ、僕ほどじゃないけど。そっか、ここは君たちのせいでこんなことになってるのか~。うーん、消えてもらおうかな!』
男が消えたと同時に、ご主人様がくれた指輪の自動多重障壁が展開された。
パリン!パリン!パリン!ドガっ!!!!
男がブレたと思ったら障壁が展開されて割れた?それも3枚も!?この障壁が何枚展開されるか分からないけど、そんなには多くないはず…!
『あれ〜?けっこう強めに殴ったはずなのに、止められちゃったな。・・・・ふ〜ん、その指輪凄いね!それ凄すぎだよ!僕もそれ欲しいな!』
さっきと同じところにいる男。距離としては20mくらいだろうか?一瞬で攻撃して一瞬で戻ったのだとしたら、こいつは本物の化け物だ!
「ご主人様から頂いた品は誰にも渡さない!」
「そうね、これはご主人様が創ってくださった大切な品だもの」
『ご主人様が創った、ね…。僕もそのご主人様とやらに興味が湧いてきちゃったな~?うーん、本当はこの王都で遊ぼうと思ってたけど、なんだか、王都の方もうまく行ってないみたいだし…。それに折角僕がキマイラたんを召喚してあげたのに、使いこなせないとかおこだよ!』
「キ、キマイラ?!そんなものが王都に?!ご主人様が危ない!」
「ルナ、さっさと魔物とこいつを殲滅して戻るわよ!」
使わないと思っていたご主人様の魔法を発動する。
「"轟雷"!!」
「"水龍招来"!!」
突如として現れる雷雲と複数の水龍が敵をオートで襲撃する。幸い他の冒険者や騎士団とは距離を取っていたおかげで被害はない。
雨が降るかのように雷が炸裂し、次々と魔物を屠る。複数の水龍も魔物が密集している箇所へと次々に着弾していく。
『えっえっ?ちょっと、さすがにこれは俺も防御しないとまずいな〜』
さすがにあの男も無事では済まないだろうと思ったが、呑気に喋りながらも、魔法を防いでいた。
あり得ない…!ご主人様の魔法が通用していないなんて!
『これは指輪の力だね?君たちのご主人様という人にもっと興味が湧いたよ。うん、今回はだいぶ満足したから帰ることにするよ~!また遊びたくなったら来るから、ご主人様とやらによろしく言っといてよ!次は君に会いに行くってね!アハハハ〜』
空間が歪んだと思うと、そこに次元の切れ目とでも言えるものが発生して男はその中へと消えた。
あいつは一体なんだったんだろう?
「ルナ!ご主人様の元へ急ぐわよ!」
「うん!!」
SIDE:アウル
絶賛俺は苦戦している。なんとかフィレル伯爵家の敷地内に留めることはできているが、それ以上ができない。将棋で言う千日手というやつだ。
なぜだか騎士団も来てくれないし、一体どうなってるんだ?
かれこれ1時間は戦ってると思うのだが。
体力的には問題ないが、魔力が徐々に減りつつある。このままではゴリ押しされてしまうかもしれないな・・・。
俺が必ず駆け付ける!的なことをルナとヨミに言っちゃった手前、早く行ってあげたいけど、なかなか思い通りにいかないもんだ。
…まぁ、だから人生は面白いのだが。
並大抵の魔法じゃ効かないし、かといって強すぎる魔法は街への被害が多すぎるし・・・。
「ん?この雷雲は・・・ってあれは水龍か?ってことはルナとヨミがあれを使わざるを得ない敵がいるかもしれないってことか?!仕方ない…」
おそらくこいつに弱点属性は無いだろう。そんな奴を倒すには物理的にどうにかするしかない。
魔法障壁×20!物理障壁×20!
曼荼羅のようにおびただしい数の魔法陣と半透明な物理障壁が展開される。
「頼むから持ってくれよ!」
杖じゃないけど、刀だったら太刀の型いけるよな?この刀嘘みたいに馴染むし。
無理だったら流石に死ぬかな・・・?いや、余計なことは考えるな!
精神統一、集中、一点の突破のみを正確に狙う。
ホーンキマイラの攻撃は次々と障壁を破壊していく。もってあと5秒というところだろう。
4秒
3秒
2秒
1秒
ギリギリ間に合ったか。
《杖術 太刀の型 獅子王閃》
仰々しい名前だが、ざっくり言うと相手の首めがけて噛みつく獅子の如く、相手の懐に潜り込み首を刈り取る技だ。もちろん魔力をたっぷり纏わせて斬れ味は増してあるが。
斬られたことに気付かないホーンキマイラは今もなお襲おうとしてくるが、時間差で首が落ち、やがて息絶えた。
「っはぁ~~~危なかった…」
無事倒したタイミングで2つのよく知る気配が近寄ってくる。
「ご主人様!ご無事ですか?!」
「…これがキマイラですか。キマイラが死んでいるということは、ご主人様が勝ったのですね」
「ルナ、ヨミ。あぁ、なんとかな。スタンピードの方はもう大丈夫なのか?」
「はい。ご主人様の魔法を発動したらほとんどの魔物が死滅しました。残った魔物もいますがわずかですので、騎士団と他の冒険者で何とかなると思います」
「それに、倒しすぎても他の冒険者の稼ぎを奪うことにもなりますから」
言われてみると確かにそうだな。金がもらえないとなると商売あがったりか。
「さてと、この魔物は俺が貰うとしてっと」
すかさずホーンキマイラを収納する。素材が傷むと勿体無いからね!
「フィレル伯爵を捕らえたほうがいいのかな?」
フィレル伯爵はホーンキマイラが死んだタイミングで気絶したっぽい。
操ってたリンクが切れた代償かな?
「ルナ、悪いけどレブラントさんを呼んできてもらっていいかい?場所は……冒険者ギルドにいるみたいだ。疲れているとこごめんね」
「かしこまりましたご主人様。滅相もないです!ではすぐに連れてまいります!」
ルナにはレブラントさんを呼びに行ってもらっている間、ヨミにもお願いすることがある。
「ヨミ、今すぐフィレル伯爵の屋敷に侵入して、重要そうな書類を確保してきて」
「書類ですか?かしこまりました」
俺の思い過ごしならいいんだけどね。
とりあえずフィレル伯爵を縄でグルグル巻きにして放置すること20分くらい経った頃、ルナがレブラントさんを連れてきた。
「アウルくーん!」
レブラントさん以外にも何故かギルド長と数人の人がいる。
こんな時なのにギルド長が来ていいのか…?
「アウル君!例の魔物はキマイラだったんだって…?」
現場に到着するや否や、周囲の荒れ様をみて顔が引きつっているがレブラントさん。
これ俺がやったんじゃないからね?!
「いえ、正確にはホーンキマイラという魔物です」
証拠にと収納から取り出すが、これが失敗だった。
「ホーンキマイラだと?!っというか今お前どっから出した!」
いけねっ。ギルド長いたの忘れてた!
「まぁ、そんなの今はどうでもいいじゃないですか。問題はフィレル伯爵がこれを王都に運び込んでいたということでしょ?」
「っ~~~!!!・・・・・はぁ、いろいろ聞きたいことしかないが、用件は分かった。本当に伯爵がこいつを使ってなにかしようとしていたんだな?」
「間違いないですよ。私はこの国の王になるんだーって叫んでましたもん。屋敷の中に執事の方が逃げて行ったのを見たので、その人も知っていると思います」
ギルド長が顎をクイっとやると部下らしき人たちが屋敷へと入っていった。
あっ、ヨミを戻さないと!
『ヨミ、ギルドの人たちが屋敷の中に入ったからそろそろ戻ってきて!』
これで、声届いてるんだよね?
あ、まったく別の方向からヨミが戻ってきた。そういうとこ流石だよ。
「スタンピードはどうなりましたか?」
とりあえず話を変えるために、違う話を振ってみる。
「あぁ、なんとか終結しそうだと報告が上がっている。被害はあるが、死者はほとんどでていない。水艶と銀雷のおかげだとみんな言っていたよ」
水艶?銀雷?なんだそれ。二つ名的なやつだとしたらなんか恥ずかしいな。
「特に、最後に放った雷と水龍が凄かったと聞いている」
んんん?ってことは水艶と銀雷ってヨミとルナのことか!
「ぶふっ!!」
「あぁ!?ご主人様笑うなんて酷いです!」
「まぁまぁいいじゃないのルナ、恥じることは無いわよ?」
「ヨミも笑われてるんだからね!」
なんか一気に場が和んでしまったが、とりあえずは一件落着かな?
「ギルド長!執事の方から証言が取れました!その少年の言っていることは本当です!」
「まじか・・・。今回の事件はかなり大事になるぞ。おい坊主、ちょっとギルドでいろいろと詳しくお話しようか」
ですよね~。俺がギルド長でもそうするわ。
「ちなみに拒否権は?」
「一応あるが、その場合は貴族の敷地に勝手に侵入した賊として捕えないといけないなぁ」
実質一択ってわけね。まぁ、しゃーないか。
「わかりました。答えられる範囲で答えますよ」
「そうこなくっちゃな。とりあえず、証拠品としてこのホーンキマイラはギルドが預かってもいいよな?」
「・・・所有権は俺にあるんですよね」
「・・・・・」
「はい収納っと」
「あぁ?!坊主、それは無しだろ!分かった分かった!ちゃんと返すかそれ相応の対価は払うから!」
「絶対ですよ…?」
「あぁ…もちろんだ」
「目そらさないでくださいよ!」
「よし、お前ら!フィレル伯爵を騎士団へと連れていけ。事情もちゃんと伝えろ!証拠にこの鱗を一枚もってけ!」
そのへんに落ちてたホーンキマイラの鱗を拾って部下へと投げるギルド長。
「じゃあ、疲れてるとこ悪いがギルドへ行こうか」
ともかく、少しの被害はあったもののこの事件は一旦幕を閉じたのだった。
ちょっとずつ更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。
ルナとヨミの2つ名の詳細については、【外伝】の奴隷の日常①にて書かせて貰っています!




