ep.34 ステータス
SIDE:???
「・・・様、ご報告が」
「なんだ、今私は忙しいのだが」
「件のレッドドラゴンの呪いが解除されたようです」
「なんだと?!あの呪いには何人もの生贄と、高い触媒を使ったというのにか?!間違いないのか!」
「間違いないかと。呪術師が昨晩遺体で発見されております。おそらく、呪印が返されたものと思われます」
またもや私の計画を邪魔する輩がいるというのか・・・!4年前といい今回といい、これでは私の長年の計画が水の泡になってしまう!
「ドラゴンの件に関わっていそうな人間を調べろ。確かあのドラゴンは迷宮に住処を変えていたはずだ。ここ最近で迷宮に入った冒険者を徹底的に調べろ!」
「承知しました」
くそっ!!あと少しでドラゴンの呪いが完成し、傀儡に
出来るところまで来ていたというのに!
・・・落ち着け。あれはあくまで手札の一つ。まだもう一枚強力な手札があるのだ。
「仕方あるまい、些か早いが計画を実行に移すとしよう。これが上手くいけば・・・」
予期せぬところである者の計画を邪魔をしていたのは、まぎれもなくアウルであった。
SIDE:アウル
宝箱を開けたら、種ではなくオーブが入っていた。オーブとは言わば宝玉のようなものなのだが、俺はこれを知っている。
「ご主人様、これはなんなのでしょう?今までは良く分からない種ばかりでしたのに」
「これは"ステータスオーブ"と呼ばれるものだ」
ルナもさすがにこれは知らなかったみたいだな。ヨミも頭を傾げているところを見ると、知らないようだ。
「ステータスオーブというのは、簡単に言えばその人の詳細な情報が分かるんだよ」
「「えっ!?」」
やはり驚くよな。この世界にはステータスという概念がほとんど知られていないらしいし。
「わ、私の体重もバレてしまうのですか?!」
「うふふ、スリーサイズもバレてしまうのですね?」
・・・そうなのか?そこまで分かってしまうのか?!ふぉぉぉぉぉ!!
いかんいかん、俺は紳士なのだ。こんなことで取り乱してはただの変態ではないか。
「俺も詳細までは知らないけど、とりあえず使ってみるか」
オーブを持って魔力を注いでみる。
【ステータスオーブを吸収いたしますか?】
もちろんYESだ。
オーブが光ったと思ったら、オーブからは光が抜けて半透明なオーブになってしまった。
「良く分からんが、ステータスは見られるようになったのか?」
とりあえず、俺のステータスを見てみよう。
ステータスオープン!
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♂/アウル/10歳/Lv.127
体力:8600
魔力:33500
筋力:350
敏捷:280
精神:580
幸運:88
恩恵:器用貧乏
◇◆◇◆◇◆◇◆
・・・なるほど。分かるのはその人のパラメータのみか。くそっ!覗きし放題かと思ったのに!
というかスキルとかは見られないのに、恩恵は載ってるんだな。
それともステータスもレベルが上がると見られる項目が増えたりするのか?実験が必要だな。
「残念ながら、体重やスリーサイズは分からなかったよ。けど、面白いものが見られるから教えてやる。ルナとヨミのステータスはこんな感じだ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♀/ルナ/15歳/Lv.52
体力:2800
魔力:4500
筋力:130
敏捷:140
精神:210
幸運:20
恩恵:真面目
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♀/ヨミ/16歳/Lv.58
体力:2900
魔力:3800
筋力:140
敏捷:210
精神:230
幸運:45
恩恵:色気
◇◆◇◆◇◆◇◆
「「・・・・・」」
「これが2人のステータスだが、なんというかこの4日でかなり強くなったと思うぞ?」
「今まで誰にも言わなかった私の恩恵がバレてしまいました・・・」
「私の恩恵もです・・・」
余程バレたくなかったのか、2人とも体育座りしていじけている。
ルナの真面目さと、ヨミの色気は恩恵によるところが大きかったんだな。なんか、すまん。
「まぁ、俺の恩恵なんて器用貧乏だぞ?元気出せよ。今度美味しいお菓子作ってやるからさ」
「「絶対ですからね!!」」
全くもって現金な娘たちだ。
それにしてもいいものを手に入れたものだな。これがあればいつでも自分の強さを確認できるじゃないか。もう一度見てみよう。
・・・あれ?見れない。まさか、回数制限があったとか?!
迂闊だった・・・。少し舞い上がってしまったのかもしれない。
でもまた見つかるかもしれないし、別にいいか。
「じゃあ、地上帰ってみんなで風呂入るぞ~」
「待ってました!やっと帰るんですね!お風呂早く入りたいです!」
「うふふふ、お背中もお腹側もすべてお流しします」
「お、お手柔らかにね?」
久しぶりに入るお風呂は格別に気持ちがよかった。
「・・・お風呂が、だからね!?それ以上でもそれ以外でもないから!!」
「ご主人様、誰に喋っているのですか?」
「独り言だから気にしないでくれ」
「うふふ、いっぱい出ました」
ヨミさん、アウト!!
朝起きてリビングへ向かうが誰もいない。ヨミとルナはまだ寝ているようだ。
「さすがに厳しくしすぎたかな?朝ご飯は俺が作ってやるか」
今日の朝ご飯はベーコンエッグ、サラダ、おっちゃんの肉串、豚汁、麦粥、ホットミルクだ。
少し肉々しい気もするが、ルナもヨミも肉は好きだし、俺も好きなので問題ない。
「お、匂いにつられて起きてきたな?」
「寝坊してしまいましたご主人様!すみません!」
「んふふ、ご主人様のご飯が食べられると思うと、寝坊も存外悪くないのかもしれないと思ってしまいました」
真面目のルナに色気のヨミ。うーん、なかなかに個性的な面子だ。
「慣れない迷宮に籠りっぱなしで疲れてたんだから仕方ないよ。冷める前に食べようか!」
「「「いただきます」」」
「ご主人様、今日のご予定を聞いてもよほひいでふか?」
ルナよ、美味しく食べてくれるのは嬉しいから、飲み込んでから喋りなさい。
「今日は特にやることはない。強いて言うなら休日だ。お小遣いをあげるから2人で遊んでくるといい」
「お休みが頂けるのですか?!」
「お小遣いまで頂けるなんて、ご主人様に買われてヨミは幸せです」
「わ、私も幸せです!!」
「俺は少しやることがあるけど、夕方くらいには帰ってきてね」
「「かしこまりました」」
「明日は以前行った服屋に頼んでおいた服を取りに行くからね。ついでに、迷宮で特訓頑張ったから上下3着ずつ買ってあげるよ。下着も3着ね」
「ご主人様は神か何かなのでしょうか?」
「うふふ、私はたまに自分が奴隷であることを忘れてしまいそうになります」
だいぶいい感じに慣れてきたな。いい傾向だよな本当に。
「とりあえず2人に金貨5枚ずつ渡すね。冒険者ギルドの登録のときに渡したのも使っていいから」
「「・・・・・」」
あれ、反応がないな。少なすぎたか?
「えっと、少なかった?」
「「逆です!多すぎるのです」」
なんだ、そっちか。もっとおねだりされるのかと思ってドキドキしたよ。
「多い分にはいいじゃないか。2人ともすでに自衛はできるくらいには強いんだし、ハメ外さない程度に遊んでおいで!」
ルナとヨミは朝ご飯の片づけをした後、2人で楽しそうにお出かけの準備を始めた。
さて、俺もいろいろやらなきゃ。ざっとこんな感じか?
・ベーコン等の燻製の作成
・化粧水の作成
・石鹸の作成
・クッキーの作成
・醤油、味噌の作成
・ゴーレムの研究
・ワイン作成
・・・我ながらさすがに多趣味というか、いろいろ手を出しすぎて収拾がついてないな。楽しいからいいんだけど。
肉はたらふくあるし、薬草や花の種も迷宮で集めてある。クッキー作成なんて慣れたものだし醤油と味噌は魔法で作れる。
問題はゴーレムとワインだ。
「ゴーレムはどうやったら作れるのかな~。あと1つきっかけがあればいける気がするんだけど・・・」
核となる何かが魔石じゃだめとか?じゃあ何が使えるかだけど、宝石?水晶?オーブ?
オーブ!
空になったステータスオーブがあるじゃん!
・・・これに魔力ぶち込めばいけないか?元を正せばただのオーブだし!
どうせ込めるなら俺の持てる属性全部ぶち込んでやる!
せーのっ、ふんっ!!!!!!
「っはぁーー!だめだ!魔力がもう空だ。でもこの調子で注ぎ込んでいけば何か作れそうな気がすんだよな。合間見て続けてみよう」
次はワインだけど・・・葡萄ないから諦めるか。まだ小樽で何個かあるし。次のシーズンで庭に種を播けばいいよね。
よし休憩!今頃ルナとヨミはなにしてるかな。
夕方になると2人はちゃんと帰ってきた。それも大量の荷物を持って。
「おかえり2人とも。凄い荷物だけど、全部買ったの?」
「ええっと、話せば長くなるんですが、簡単に言うと貰いました」
「たくさん貢いでもらいました。あ、もちろんご主人様一筋なので安心してくださいね?」
え・・・あの量を貰った?軽く20ℓ入る麻袋が8個はあるぞ?
なんというか、ルナとヨミ恐ろしい子!!見るからに防具とか剣、他にも大量の冒険者用の道具が見えるのは気のせいじゃないよね!?
あとは大量の食材だ。どこから仕入れてきたんだろうか?
何があったかは何となくわかるが、なにはともあれ強く鍛えて良かったかな!
「ご主人様、これは私たちからです」
ルナとヨミから渡されたのは指輪だ。それもかなり高そうなやつ。
「これどうしたんだ?渡したお金じゃ買えなかっただろう?」
「うふふ、それは内緒ですよご主人様。乙女の秘密です!」
はぐらかされてしまったが、なんだか凄くいいものを貰ってしまったようだ。
近いうちに俺からも何かプレゼントしよう。指輪を貰ったから指輪でいいかな?
どうせなら何か能力のついたものがいいよね!
うーん、買ってもいいけど、いいモノがそんなに簡単に見つかるかな。
・・・・・・。
仕方ない、作るか!
そうと決まれば、今日は徹夜だなぁ~。
「ありがとう、本当に嬉しいよ。大切にする。俺からも今度何かプレゼントするから楽しみにしてて!」
「お気持ちだけでけっこうですよご主人様」
「私たちは返しきれないものをもう既に貰っていますもの」
「いや、俺があげたいんだ。だから、その時が来たら受け取ってくれ」
「かしこまりましたご主人様!」
「ふふふ、楽しみにお待ちしていますね」
ルナとヨミが寝静まったころ、一人迷宮へとやってきた。場所は34階層。
「おーい、グランツァールいるか~?」
34階は相変わらず魔物の気配がない。きっとグランツァールが食べたり殺したりしてるんだと思う。あとはどこかにひっそりと隠れてるとかね。
『どうしたのだアウル』
「えっと、この辺で希少な鉱石とかあったら欲しいんだけど、なにか知らない?」
『・・・希少な鉱石ならばなんでもよいのか?』
「指輪を作ろうと思ってるんだけど、それに使えそうなら助かるかな」
『であれば、我の収集した鉱石から好きなものをいくつか持っていくといい』
「え!いいの?!ってかドラゴンって鉱石とか収集するんだね」
『何故だか知らんが、希少なものや奇麗な鉱石を見ると無性に集めたくなってしまうのだ』
もしかして、グランツ鉱石が最近火山から取れるようになったのって、グランツァールが火山から迷宮に移動して、鉱石を収集されることがなくなったからなんじゃ・・・?
真実を見つけてしまった気がする。
『ほら、どれにする。好きなものを持っていくがよい』
「俺は鉱石なんて見てもわからないから、お勧めなのを何個かもらえればいいよ」
『であるか。ならば、アウルには世話になったしとっておきをくれてやる。アダマンタイトと神銀、それにミスリルを持っていくがよい』
「なんだか良く分からないけど、凄そうだというのは分かったよ」
聞いたことあるのミスリルくらいだし。
『おすすめはアダマンタイトを核にして神銀で指輪を象る。それをミスリルでコーティングするのだ。そうすれば唯一無二の指輪ができるだろう。魔法の触媒としても使えるしな!』
おぉ!これ以上ないくらい指輪向きの鉱石じゃないか。
「ありがとうグランツァール!助かったよ!!」
『よいよい。我が受けた恩はこんなものでは返しきれないほどに大きいからの。またいつでも来るといい。あと1年はここでゆっくり療養する予定だからな』
そう言いながら、まるで海にでも入るかのように溶岩の中へと沈んでいった。
「鉱石貰ったはいいけど、こんなにいらないよなぁ?ガルさんに頼んで武器でも作ってもらえばいいか」
グランツァールからもらったのはいずれも50kgくらいのかたまりだった。神銀に至っては、全部売れば王国の国家予算3年分くらいの値段になるのだが、貧乏農家な彼は気付けない。
そんなこんなで夜中に一人指輪の作成に挑み、満足のいくものができたのは朝方であった。
「ふわぁ・・・ねむ」
さっきから欠伸が止まらない。子供の体ってのは寝ないと、行動もままならないんだな。
回復魔法をかけて体力は戻っても、眠気がなくなるわけじゃない。
お休みなさい。
結局アウルが起きたのは寝て2時間くらいした頃。なんとなくいい匂いがしてきたので起きてしまった。
「お腹すいたな・・・」
「おはよ~」
「「おはようございますご主人
様」」
ご飯はすでにできており、俺が来るのを待っていたみたいだ。
「今日は遅くなって、ごめんね。折角作ってくれたご飯が冷めるのももったいないし、食べようか!」
今日の朝ご飯は、卵と味噌の麦粥、葉野菜のおひたし、魚の干物、ベーコンステーキだった。
教えていないのに味噌をここまで扱えているのは、ひとえに彼女たちの努力だろう。
もちろん全部美味しかった。
「ルナとヨミに渡すものがあるんだ。はいこれ」
「え・・・?これは、どうされたのですか?」
「可愛くて綺麗ですが、物凄く高そうなのです」
「いや~、2人に貰った指輪が嬉しくて昨日の夜、頑張っちゃったよ。魔力にものを言わせて加工したけど案外上手にできただろ?」
「ご主人様がお創りになられたのですか・・・なんというか、さすがご主人様です」
「うふふ、とっても奇麗です。ありがとうございます。一生の宝にします!」
「私も一生の宝にします!」
「それは一応発動体としても使えるから是非使ってくれ。他にも何個か制限付きだけど魔法を付与してみたよ」
ざっとこんな感じだ。
・自動多重障壁展開(5層)
・アイテムボックス 10m×10m、500kgまで
・身体強化 1.2倍
・空間把握 半径50m
「「・・・・・」」
開いた口が塞がらないというのはこういう時に使うんだろうな。せっかく美人な顔なのに、とってもアホ面になってしまっている。
「もはや凄すぎて言葉に出来ません・・」
「ここまで私を想ってくれてたのですね!今夜お邪魔いたします!」
ヨミの中からルナが消えているように思えるのは気のせいじゃないだろうな。間違いなく鍵をかけて寝なければ。俺の貞操が危ない。
でもこれで何かあってもこの子たちがすぐに危険に晒されることはないだろう。
それにもう一つ追加の機能があるが、今はまだ内緒だ。
「さて、朝ご飯も食べたし服屋へ行こうか!時間も無いし、あんまり選ぶ時間はないけど許してね!」
「その点はぬかりありません!昨日のうちに欲しい服はリサーチしておきましたので!」
「似合ってたら褒めてくださいね!」
いつのまにか逞しく育ってしまった・・・。迷宮でしごき過ぎただろうか?
メイド服を受け取り、着てもらうがやはり似合うな。どちらも個性が出ていてそそる。
「うん!とてもよく似合っているよ!家の中や迷宮ではそれを着てほしいんだけどどうかな?」
「とっても可愛いです!着心地もいいですし、それにご主人様の奴隷って実感できるのでなんだか嬉しいです!」
「うふふふ、奴隷メイドだなんてご主人様も男の子ね。今夜楽しみにしていてくださいね」
おっと?2人とも暴走気味だな。これは本当に俺の貞操が危うい気がするぞ。
「服持ってこないと買わないぞ~?」
ヒュン!!という音が聞こえたかと錯覚するほどの速さで会計へと服を持ってきた。
・・・店員さんもちょっと引いてるじゃないか!
にしてもここの服は安い。オーダーメイドは高いが既製服は安い。なのに質はいいと来ている。
まさにお値段以上だ。服屋の名前は『ニトル』。惜しい!!
次はレブラントさんのとこか。確か『赫き翼』の人たちがいるんだったな。
無事に終わるといいけど。
しかし、アウルの思いは届かない。
「レブラントさん、お久しぶり?です。時間は大丈夫ですか?」
「やぁアウル君!少し早いくらいさ。もうそろそろくるはずだよ。あ、ほら噂をすれ・・・ば!?」
レブラントさんが急に何かを見て固まっている。どうしたんだろう?
通りを覗いてみると確かに迷宮で見た4人組がいた。そしてその4人の真ん中に、見るからに高そうな服を着た女の子がいる。
俺とヨミが誰なのかと思案していると、爛々と目を輝かせたその女の子は声高々にこう言った。
「あなたが奇跡の料理人ね!やっと見つけたわ!」
ちょっとずつ更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。