ep.31 ルナとヨミ
「じゃあ、食べようか」
「「はいご主人様」」
食べようと言ったのに、なぜか2人とも椅子に座ろうとはしない。何を思ったか俺の近くの床に座っている。ルナに至っては涎が出るほどお腹が空いているみたいだ。
「えっと、2人とも何してるの・・・?」
「ご主人様の食べ残しを頂ければと思いまして」
「うふふ、こんなご馳走は久しぶりですので、楽しみです。それにしても、ご主人様はまだ10歳ですのにたくさんお食べになられるのですね?」
・・・どうやらこの世界の奴隷は床でご飯を食べるのが普通のようだ。しかも、主人の食べ残しを食べるのが普通らしい。
「あ〜そうか。いや、みんなで一緒に食べようよ。床じゃなくて椅子に座って良いし、同じものを食べよう?遠慮しなくて良いんだ。2人の歓迎会も兼ねてるんだから!」
「よ、よろしいのですか?!」
「うふふ、ではお言葉に甘えまして」
ルナは驚いているようだが、ヨミは順応が早いようだ。この調子でどんどん慣れてくれたら良いな。詳しいことはご飯を食べてからで良いか。お腹が膨れれば少しは落ち着くだろうし。
「ちょっとヨミ!!・・・もう。で、では私もお言葉に甘えます」
「じゃあ、いただきます」
「「??いただきます、とはなんでしょうか?」」
「あ、ご飯を食べる時のお祈りみたいなものだよ。食材の命をいただきます、という意味になるかな?」
「なるほど、いただきます!」
「ふふ、いただきます」
ルナは元気一杯な感じで、ヨミはいちいちエロい。見ているこっちが恥ずかしくなるんだよなぁ。
「美味しいですご主人様!」
「こんなに美味しい食事は本当に久しぶりで、体が喜んでいるのがわかります!」
2人とも喜んでいるようでよかった。っと、俺も早く食べなきゃな。それにしても、ルナは片腕がないからやはり食べにくそうだ。回復させるにも体力が落ちていると、命に危険があるし今日たらふく食べさせて、しっかり寝かせてから、明日治してあげよう。ヨミにも念のため回復魔法かけてあげなきゃな。
「食べながらで良いから聞いてね。今日俺は2人を買ったわけだけど、別に虐げたり乱暴な扱いをしたいわけじゃないんだ。ちょっと俺には色々秘密があるから人を雇ったりできなくてね。だから、ルナとヨミに来てもらったんだ。あとで家の中も案内するけど、外から見てもわかる通りそこそこ大きいんだこの家。それで、部屋も全然片付けられてない。だから、2人には家事全般を任せたいと思ってる。あと、奴隷商では詳しくは言えなかったけど、2人ともすでに成人してるから冒険者登録をしてもらう。それで一緒に迷宮へと潜って欲しいんだ。えっと、ここまでで何か質問ある?」
「はい、質問よろしいですか?」
「なんだいルナ」
「えっと、ご主人様の秘密っていうのはなんでしょうか」
「それについては追い追い説明していくから、今はまだ内緒だ」
完全に信用したというわけではないから、今は言えないかな。もう少し一緒に暮らして見てからだ。
「では、私からもよろしいですか?」
「良いよ」
「家事全般と仰いましたが、それ以外は普段冒険者として活動するということでよろしいですか?」
「うーん、まぁそういうことになるかな?」
「わかりました」
「じゃあ、次いいかな?今は特に決まったことはあんまりしてないけど、来年の春からはルイーナ魔術学院に通おうと思ってる。だからそのための勉強をあと4ヶ月でなんとかするつもりなんだけど、その手伝いもして欲しいんだ」
「「かしこまりました」」
「とりあえずは、こんなところかな?次はルナとヨミについてだけど、どうして奴隷になったか聞いてもいいかい?もちろん言いたくなければまだ言わなくていいと思うし、言えるタイミングでいいと思ってる」
「・・・私はもう少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「うん、いいよ。ルナの中で整理がつくまで待ってるよ」
「じゃあ、私が。私はもともと交易都市シクススで生活しておりました。そこは商業が盛んな都市なのですが、スラム街もあるのです。そして私はそのスラム街出身です。そこで色々な仕事をしてなんとか生計を立てていたのですが、4年前にある仕事をした時に依頼主に嵌められまして・・・。私は仲間の助けもあってなんとか生き延びることができたのですが、仲間はおそらく全員死にました。心身ボロボロになりこのまま死ぬくらいならと、奴隷商に身を売ったのです。カスツール様はおそらく私の過去については嘘の書類を信用していると思います。裏切った依頼主がそこそこえらい貴族だったらしく、何かあった時用にと嘘の戸籍と過去を用意してくれてたんです。なのでそれを使って出自に関しては事なきを得ました。・・・購入していただいたご主人様には申し訳ないですが、私の手は汚れているのです。特技はその時に色々と覚えたものになります。あ、もちろん処女ですよ?知識としてあるというだけです」
おぉう・・・。思ったよりもヘビーな過去じゃないか。
「その貴族は誰かわかっているの?というか、今でも憎いかい?」
「もちろん憎いです!!しかし、今となってはその時の貴族が誰なのかは分かりませんし、私は奴隷です。ご主人様の迷惑になるようなことはできません」
「そうか・・・。辛いだろうに教えてくれてありがとう。でも、俺に手伝えるようなことがあれば全力で手伝おうと思う。もし、強くなりたいと思うならそれの手伝いをさせてもらうよ。例えば迷宮に行くとかね」
「ご主人様・・・。ありがとうございます、その気持ちだけでも嬉しいです。うふふふ、ご主人様と一緒に迷宮行けるの楽しみにしていますね」
ヨミを嵌めたという貴族については追い追い調べてみようかな?伝手もあるしね。ヨミには今度当時の詳しい話を聞いてみよう。ルナも時間かけて仲良くなっていこう。きっと彼女も何かしら抱えているのだろう。さっきの食事を見る限り、かなり育ちが良さそうに見えた。下手したらどこかの貴族なのかもしれないな・・・。
「さて、ご飯も食べたしそろそろお風呂に入ろうか!」
「「お風呂ですか!?」」
「え、うんそうだよ?」
何を隠そうこの家にはもともと風呂なんてなかった。しかし、風呂に入らないなんてことは今更考えられないってことでやっぱり作っちゃいました!木は迷宮の森エリアで大量に入手していたらしい。・・・記憶はないが。
「もうお湯は張ってあるから先に入るといいよ。石鹸は好きに使っていいし、シャワー・・って言っても分からないか。お湯が出てくる設備も好きに使っていいよ」
「それはいけません!!お風呂はご主人様から入ってください!私は庭にあった井戸の水でも使わせていただければ構いませんから!」
「うふふ、ご主人様のお背中お流しいたしますわ」
「なっ!?ヨ、ヨミ!!・・〜〜〜!!わ、私も一緒にお背中流すもん!」
えーっと、なんでこうなった?確かに風呂はどうせならと広めに増設したし、木組みをしっかりとしたかなり立派にしている自慢の風呂だ。とは言ってもなんでいきなり一緒の風呂に!?
そこまでルナとヨミの好感度を稼ぐようなことしたかな?・・・まぁ、ルナはヨミに釣られた感じがあったからルナについては半ば事故のようなものだろうけど。
・・・とりあえず、明言は避けるがルナもヨミもいいものをお持ちでした!またお風呂は一緒に入らねばならんな!これは主人としての責務である!
なんやかんやあって、風呂から出たので次は部屋の案内だ。と言ってもこの家は4LDKなので俺の寝室と物置部屋とリビングを除けばあとは2部屋しかない。なので2人には1部屋ずつ使ってもらうつもりだ。
「部屋は2つ余っているから好きに使っていいからね。ただベッドは俺以外には1つしかないから申し訳ないけど、今日は2人で1つ使ってもらっていいかな?明日にはまたベッドを買いに行くから。他にも必要なものがあれば買うからね」
「奴隷にわざわざ部屋を1つずつ与えられるのですか?」
「うふふ、私はご主人様と一緒のベッドでも構いませんが」
ヨミは積極的すぎて困るな。嫌ではないけど、ヨミに釣られてルナまでもが張り合おうとするからな〜。まぁ、まだ初日だし俺より先に女の子同士で仲良くなってもらえたら嬉しいな。
「ま、まぁ、それについてはいずれお願いするかもしれないけど!今日の所は2人で寝てくれ。積もる話もあるだろうからね」
「「かしこまりました」」
「じゃあ、夜も遅いし明日も色々と買い物する予定だから、今日の所はぐっすり寝てくれ。おやすみ」
「「お休みなさいませご主人様」」
SIDE:ルナ
ご主人様であるアウル様は寝室へと行ってしまったので、今日の所は私も寝るとしよう。それにしても今日は本当に色々なことがあった。片腕と右目が欠損している私なんかを買った上に、ありえないくらい優しくしてくれるご主人様。
まるで1人の人間として扱ってくれているように感じる。奴隷商では女奴隷は基本的に性処理用として使われることが多いと教わった。他にも奴隷としての行動や考え方を叩き込まれた。なのに、ここではそんな奴隷の常識は通じない。というより、必要ないと言った方が正しいかもしれない。
しかし、奴隷には違いない。思い上がってはいけないけど、少しは甘えてもいいよね・・・?
一緒に買われたヨミは私と同時期くらいに奴隷商に売られてきた子だ。すぐ売れそうなものだが、元々の値段が高いというのと、売るための条件が信用に足る人にしか売らないというものがあった。あと貴族にも売らないというのもあったかな。まぁ、私も同じだけどね。
このまま売れずに時間ばかりがすぎて行くのかと思ってたけど、それは今日変わってしまった。
ふと現れたのは見た目10歳くらいの男の子。見た目は将来絶対イケメンになると思われるが、まだ少し幼さの残る顔立ちをしてた。話をさせてもらったけど最初の印象通りかなり優しそうな子だ。
私たちをカスツール様が薦めるということは、貴族ではないのは間違いない。それに服装も綺麗だが、貴族のものではない。なのに、私たちを現金で買うということはかなりの金持ちということなのだろう。
家に連れてきてもらったが、そこそこ大きい家だ。平民にしてはかなりのお金持ちなのかな?
家に入るとまぁかなり散らかっている。家事ができる奴隷を欲した理由はこういうことだったのか。
自己紹介を済ませたタイミングでお腹から大きい音が鳴って恥ずかしかったけど、ヨミとご主人様からも鳴っていたからみんなお腹が空いていたみたいだ。
ご主人様が何もない虚空から美味しそうな料理をたくさん取り出した。・・・え?どこから取り出したの?しかも、すごい湯気が出てる。まるで出来立てみたいに。
ヨミも驚いているようだ。なのにご主人様は平然としている。これは、なかなか凄いご主人様に買われたみたいだ。
私の過去についても聞いてきたけど、無理に聞き出そうとはしなかった。本来なら奴隷に拒否権はないけどそれを尊重してくれるなんて、本当に変わったご主人様だ。本当に。この人になら、言ってもいいのかなって思えるくらい。いつか、私の過去についてもちゃんと言おう。
驚いたのはこれだけじゃない。なんとお家の中には風呂があったのだ!貴族家か豪商の家にしかないようなお風呂が!私も最後に入ったのは5年前くらいだろうか?
ヨミはご主人様の背中を流すと言っている、えっ?!そうなの!?初日なのに?!積極的すぎるよヨミ!恥ずかしいけど、私も負けてられない!
すっごく恥ずかしかったけど、久しぶりのお風呂は最高に気持ちが良かった。そういえばお風呂のお湯はご主人様が張ってくれたみたいだけど、いつの間に入れたんだろう?
まだ少しの時間しか一緒にいないけど、このご主人様がすごくいい人だというのがわかった。それだけに、私の体が五体満足じゃないのが、本当に申し訳ない・・・。
それでも、できることは全力で頑張らなきゃ!!明日からも頑張ろう!
SIDE:ヨミ
ご主人様は寝室に行ってしまった。私は今日買われた。奴隷になってから約4年たったが、あっという間だったかもしれない。奴隷になったおかげで家事全般は身につけられたし、食に困ることはなかったから悪いことばかりではない。
売られるにも条件をつけたからなかなか売られることもなかったけど、私を買ったのは10歳の子供。見た目からそこまでお金持ちには見えないけど、人は見た目じゃないというのはこのことだろう。
現金一括で買ったこの子はもしかしたら凄い人なのかもしれない。
家に着いたら、10歳の子供が持っている家にしては大きすぎる家だった。庭も広いし井戸もある。小屋もあるけどあれは物置なのかな?
それにしてもご主人様はかなりのイケメンだと思う。物腰も柔らかいし10歳とは思えないほどに余裕がある。まだ幼いけど、あと5年もすればかなり化けるだろう。
食事も一緒に摂るように言ってくるし、虚空から取り出したのは本当にびっくりした。ルナも驚いていたところを見ると、やっぱり普通じゃないみたいだ。
ご飯はものすごく美味しかった。今までに食べたことがないくらいに。これが毎日食べられるなら、ご主人様に全てを捧げてもいいと思えるほど美味しくて感動した。
それにご主人様は私の過去を聞いても、ちゃんと聞いてくださった。本来なら奴隷商に文句を言っても仕方がないようなことなのに、受け入れてくれただけじゃなく、手伝うとさえ言ってくれた。
本当に嬉しかった。私を消そうとした貴族はおそらくかなり上位の貴族だというのに、それを聞いても微塵も引くことすらしなかった。
・・・あぁ、やはり私はこの人に全てを捧げよう。この人はきっと信用するに足る。
ご飯を食べたあとはまさかのお風呂!ルナは井戸水でいいなんて言っているけど、奴隷は確かにそれが正解なのかもしれない。けど、私はお風呂に入ってみたいし、それにご主人様のお背中を流してあげたい。もっとご主人様が知りたい!
一緒のお風呂は少し恥ずかしかったけど、ご主人様は喜んでたみたいだし?また、一緒に入りたいなぁ。
ベッドも立派だし、一部屋ずつ奴隷に与えるとは本当に変わっているご主人様だ。ついつい甘えてしまいそうになる。自分が奴隷であるということを忘れてしまいそうになるほどに優しくてカッコいいご主人様。
明日も楽しみだなぁ。
ちょっとずつ更新していきます。
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