ep.3 5歳になりました
洗礼を受けた結果、『器用貧乏』という恩恵を授かった。
神父様に以前聞いたが、基本的に恩恵というのは人には言わないものらしい。
自分の恩恵に自信があったり、目覚ましい活躍などをする英雄のような人は言うこともあるという。剣聖なんかが良い例だろう。
そんな訳で実は両親の恩恵も知らないのだ。まぁ、自分から両親に聞いた訳ではないので聞いたら教えてくれるのかもしれないが。
とりあえず、恩恵も無事にもらえたので家へと帰る。
ここオーネン村は村人全体で400人くらいの人口であるが、ほとんどの家庭が農家であるため一つ一つの家は意外と遠い。それでも人数が多い訳でもないのでみんなの顔はだいたい覚えている。
村人たちに挨拶しながら歩いているが、ほとんどの人が小麦を作っているようだ。かく言う我が家も小麦を中心に芋やネギのようなもの、あとはキャベツのような葉野菜をいくつか作っている。
2人で育てている上に、地球のように便利なものはないので育てられる面積は決まってしまう。それでも愛情込めて作っているおかげか我が家の野菜はかなり美味い。
家に着くとまだ両親は働いているのか家の中にはいなかった。畑に行くと両親がいたので無事に恩恵がもらえたことを伝える。
「あら!それは良かったわね!じゃあ今日はご馳走にしちゃおうかしら!ねえ、あなた!」
「そうだな、どんな恩恵も使いようだ!アウルがどんな恩恵を貰ったか知らんが、胸を張って生きていけばいいぞ!」
優しい両親に涙が出そうになる。ただ、父よ。俺がどんな恩恵を貰ったか知らないのにそのフォローは酷くないか?
夜ご飯まではまだ時間があるので、家の裏にある林の中に行くと少しひらけた場所に出た。広さ的には40㎡くらいだろうか。ここは4歳になった時につくった俺の秘密基地だ。
実は魔法を使うようになって以来、魔力を増やすための訓練をずっとして来たおかげか、3歳を過ぎた頃くらいからすぐには魔力が枯渇することが少なくなった。
しかし、家の外にはあまり出る機会もないため家の中でずっと魔力を身に纏い身体強化について練習していたのである。魔力を身体中に行き渡らせて活性化させるイメージだろうか。
そのおかげか魔力の消費に困ることはなかったが、色々な魔法を使いたくて家の裏の林に場所を作ったのだ。
これは推測だけど、子供のうちから魔力の練習をすると成長率が高いのではないかと考えている。
「さて、洗礼も終わった訳だし今日からは本格的に魔法の練習をしようかな」
練習する魔法の属性は7つを考えている。
「火・水・風・土・雷・氷・空間」の7属性である。他にも生活魔法の灯火や光源なんかもあるがこれは今更練習しなくても問題なく使える。クリーンだけはまだ上手くイメージが出来ていないので未だに母にやってもらっているが・・・。
土属性の魔法で的を作るとそこに魔法を打ち込むことにする。
「ウィンドバレット!」
ドガンッ!
透明の風の弾が土壁へとぶち当たった途端、的が吹っ飛びその後ろの木が一本折れた。
「ちょ、ちょっとやりすぎたかな?」
次に空間属性で、あるイメージを固める。
「アイテムボックス!」
イメージ的には某国民的アニメの青いロボットのお腹についている袋だろうか。魔法名を呼ぶと空間に穴が空いたので、恐る恐る折れた木を入れると、しゅおんっと音を立てて中に吸い込まれていった。
「成功みたいだな」
だけど、何が入っているか覚えていないといけない仕様のようだ。ウインドウのようなものがあれば良かったのだが・・・。まぁ、もっと魔力が増えてから考えよう。
森の中なので火魔法は自粛してファイヤーボールを自分の体の周りで待機させるだけにしておいた。他にもウォーターバレットやロックバレット、アイスバレットなどを土の的にぶつけて練習した。ただ雷魔法だけはバレットにすることができなかったので、色々考えた結果レーザーのようなイメージで発動ができた。
「サンダーレイ!」
バチンッ!!!
相性が悪いのか土の的を破壊することはなかったが、発動から的に届くまでの速度は他の魔法に比べて段違いに早かった。これはかなり使えるだろう。
魔法を練習していると日が暮れて来ていることに気がついたので、家に帰ると両親はすでに帰って来ており夜ご飯を作っていた。いつもはあまり食卓には上がらない肉が見えた。
それも俺の大好きなウェルバードという魔物の肉だ。ウェルバードは比較的に弱くどこにでもいる魔物で、かつ肉もそこそこ美味いという貧乏農家にはぴったりな食材なのだ。
それでも魔物なので一般人が手に入れようとすると3人くらいで囲んで攻撃しないと倒せないくらいには強いのだが。
「あら、アウルお帰りなさい。もうすぐご飯できるから手を洗ってらっしゃいな」
家の外で魔法で水を出して手を洗って家に戻る。親にはまだ魔法が使えることをいっていないのでまだ内緒だ。
「今日はウェルバードの唐揚げよ!いーっぱい食べてね!」
特大の木の皿の上にはこれでもかというほどこんもりと積まれた唐揚げ。あとは茹でた芋と葉野菜の炒め物だ。育ち盛りの俺としてはタンパク質は必須なので山盛り皿にとって食べる。それを嬉しそうにみる両親は本当にいい顔をしている。
ちなみにから揚げは俺が母に教えた料理だ。
あっという間に唐揚げはなくなり、食事を終えた。いっぱい食べたら眠くなったので少しはやいが今日は寝ることにした。
・・・・ん?
寝ていると夜中に両親の声が聞こえたので起きてこっそりと話を聞いてみる。
「ねぇあなた、今年はちょっとまずいわね。隣の村で作物に病気が流行っているらしいわ。もしこの村にもその病気が来たら・・・」
「そうだな・・・しかし、我々にはどうしようもない。なぁに、いざとなったら俺が魔物を倒して金を稼ぐさ」
「でも、そんなの危ないわよ。もしあなたがいなくなったら私・・・」
「エムリア・・・」
どうやらこの近辺で作物の病気が流行っているらしい。このまま何かあったら我が家の美味しい作物が食べれなくなってしまう。それはまずい。
善は急げと畑に出て魔法をイメージ。練習はしていなかったが今の俺ならできる気がする。あるかどうかは知らないがイメージ的には聖魔法とでもいうのだろうか?作物が病気にならずむしろ元気になるようなイメージだ。植物を癒す魔法だな、よし。
「グリーンヒール!」
各畑を回って全部の畑に魔法をかけていく。なんとなく効いているような気がするが、今のところよく効果はわからないな。まぁ、こんなのでも役に立てば儲けものである。
両親にバレないようにベッドへと戻り、ぐっすりと眠る。それにしても、今日食べた唐揚げ美味しかったな。俺が狩って来たらまた食べられるかな?
次の日の朝、両親と一緒にご飯を食べた後に畑の手伝いをしながらグリーンヒールをかけていく。
「アウル、今日のお手伝いはそろそろいいからその辺で遊んで来てもいいわよ。ただ危ないことはしちゃダメよ?」
と、母からお許しが出たので今日は家から歩いて15分くらいのところにある森へときた。ここオーネン村の近くにある森は魔物が出る。ただそのレベルはかなり低く、最高でもツリーディアという鹿の魔物が出るくらいの初心者向けの森なのだ。
「よし、魔法の練習がてら魔物を倒そう。ついでに肉を狩ったらお母さんも喜ぶだろう」
俺の頭の中は肉でいっぱいだった。
森の中をゆらゆらと歩いていると、薬草になりそうな草や食べられそうなキノコ、美味しそうな木の実などがたくさんあった。
ちょこちょこ採取しながら歩いていると遠目に森イノシシが見える。大きさとしては2mくらいなので成体だろう。
森イノシシは肉も美味いが、特筆すべきは頭や背中に生えているキノコだ。これはかなりの珍味であり高級品らしいのだ。
森イノシシ自体はどこにでもいる魔物だが、ここオーネン村の森にいる森イノシシのキノコはめちゃくちゃ美味しいのだ。これは意外と知られておらず、オーネン村の中でも一部の人しか知らない秘密である。
「ウィンドカッター!」
風の刃が森イノシシの頭を切断する。綺麗に切り落としたため肉に損傷はない。近寄り水魔法の応用でさっと血抜きを済ませる。魔物を殺すことへの忌避感などあるかと思ったが、この世界に順応しているのか、そこまで悩むこともなかった。
「うーん、軽く400kgくらいはありそうだな・・・まぁ、アイテムボックスに入るしまぁいいか」
そのあと、ホーンラビットを2匹狩ったところで帰ることにした。
家に着いたら母はいるが父はいなかった。おそらくまだ働いているのだろう。
「お母さんただいま」
「おかえりアウル、どこに行ってたの?」
「すぐそこの森だよ。はいこれ、食べたくて狩って来た!から揚げかステーキが食べたい!」
床に置いたのは巨大な森イノシシ。
「・・・え?」
・・・?あ・・・!?魔法使えるの内緒だったじゃん。肉に目が眩んだというか魔法で狩ったことに気が大きくなったというか、なんにしてもこれは失敗な気がする。
「アウル、まさか魔法が使えるの・・・?」
「えっと、うん。少しだけ」
いろんな属性使えて、魔力もたくさんあるなんて母の精神衛生上言わないほうがいいんだろうな・・・。
「そ、そう。いつから使えるようになったの?」
「うーん、恩恵をもらったあたりからかなぁ」
そういうと母は何か納得したような顔をしていた。きっとそういう恩恵をもらったのだと勘違いしたのだろう。
「魔法が使えたとしても危険には変わりないんだから、あまり森の奥までは行っちゃダメよ?わかった?」
ということで、浅いところまでなら森に入っていいという言質が取れたのでまた行こうと思う。
「それにしてもこんな量のお肉があっても食べきれないわねぇ。お隣さんに配ってこようかしら。アウルはそれでもいい?」
「うん、さすがに多いもんね」
アイテムボックスに入れておけば腐ることはおそらくないのだが、食べたくなったらまた狩りに行けばいいし、魔物を倒せば強くなるらしいので一石二鳥である。
テキパキと肉を解体する母は美味しい部分とキノコは我が家用に確保し、余った部分を適当に切り分けると籠に入れて近所へと配りに行った。
・・・なんて言って渡すんだろう。まさか俺が1人で魔法使って狩って来ました。なんて言えるわけないよな。・・・え、言わないよな母上様!?
30分くらいで帰って来た母に聞いてみたら、父が狩ってきたことにしたらしい。あの筋肉なのでまぁ誤魔化せないこともないか。なんにせよよかった。面倒ごとはごめんだ。
ちなみに夜ご飯はキノコとバラ肉の炒め物と茹でた芋、それと野菜スープだ。
いい匂いをさせていると匂いを嗅ぎつけたかのように父が帰って来た。
「お、今日の夜ご飯も豪華だな。ってこれは森イノシシの肉じゃないか、どうしたんだ?」
父が帰ってくるなり解体されてなお大量に余っている森イノシシを見つけて驚いているが、それも無理はない。何せ全長2m近くある巨体の森イノシシを狩ったのだ。解体してお裾分けしたと言っても大量に余っている。残りは母があとで干し肉にすると言っていたのでこの後も食べられるだろう。
「実は・・・」
母が説明しているところを補足しながら説明していると、父が俺のことをじっと見つめてくる。
「なぁアウル、お前は魔法が好きなのか?」
「え、あ、うん。好きだよ」
「なんのために魔法を使う?」
「うーん、深く考えたことはないけど、魔法を使って今より豊かで便利な生活ができたらなって思うよ」
「そうか。ハハハハハ。そうかそうか!ならいいんだ!いいかアウル、力ってのは振るい方を間違えればそれはただの暴力だ。しかし、その歳で年寄りみたいな考え方というか達観した考え方しているとは我が息子ながら面白いな!さぁ、冷める前に頂こうか!」
力の振るい方、か。父の言った言葉が脳裏へと焼きついたまま離れない。確かに少し魔法が使えて浮かれていた部分があったかもしれないな。今後はもっと気をつけて行かないと。
ちなみに隣の村の作物の病気はやはりオーネン村でも流行し始めているらしいが、我が家の作物は無事らしい。両親は不思議がっていたが、これは言わないほうがいいだろう。
ここで伝えて、他の家の作物も助けてってなったらキリがないし、別に全滅するってわけでもないらしいので、今のところは知らないふりをしよう。
それでも近所に住むミレイちゃんの家の畑は助けてあげたい。というかすでにグリーンヒールをしてある。
ミレイちゃんというのは俺の幼馴染でブロンドが綺麗な美幼女である。たまに一緒に遊ぶ仲で性格も良く、俺にもよく懐いているのでなんだか見捨てられなかった。
ちなみに一個上なのに妹のような美幼女だ。さっきも母が森イノシシの肉を持って行ったうちの一軒で家族全員でめちゃめちゃ喜んでいたらしい。
・・・俺としてもミレイちゃんにはすくすく育って欲しい。他意はない。ないったらない。
それにしても、調味料がなあ。基本的に塩しかない。この辺では岩塩が取れるらしく塩は簡単に手に入るのだが、それ以外の調味料があまりない。あるとすれば木の実のジャムやお酒くらいか。
今後の目標は調味料の確保と魔法の練習、それに魔物を倒してレベルを上げることだろう。余裕があれば自分専用の小さい畑があるといいな。俺も野菜を育ててみたい。
あぁ、味噌とか醤油、砂糖が恋しい。
ちょっとずつ更新します。