ep.29 動き出す者たち
SIDE:冒険者ギルドギルド長
王都冒険者ギルド本部。
先ほど最年少Aランク到達冒険者チーム『赫き翼』が帰って来た。しかし、装備などはかなりボロボロみたいだが目立った怪我は全くないところを見ると、さすがAランクといったところか。
「よう、クライン。やっと帰って来たみたいだな。迷宮番号4はどうだった?」
「あぁ、ギルド長か・・・。なんつーか俺たちはまだまだだった。最年少Aランクなんて言われて少しいい気になってたのかもしれない。当分の間、クエストは受けない。それじゃまたな」
「は?お、おいおい!ちょっと待てよ!・・・・行っちまったか。何があったんだ?」
SIDE:『赫き翼』
俺の名前はクライン、赫き翼のリーダーだ。仲間はドワーフのゴルドフ、人族のリリーナ、猫人族のユキナの4人組だ。
俺とゴルドフが前衛、ユキナが斥候兼遊撃、リリーナが回復兼魔法遠距離のバランスが取れたパーティで、最近Aランクにあがったばかりだ。
基本的には王都の南にある『交易都市シクスス』に拠点を置いて活動しているが、冬だというのに王都への護衛の指名依頼があったから仕方なくクエストを受けた。まぁ、依頼料は破格の値段だったから二つ返事で了解したんだけどな。
無事に依頼は達成したが、あの人は何を運んでいたんだろう?今までに見た事ないくらいデカい荷馬車だったが。高貴な人の考えることはよくわからんな。
「なぁ、クラインよ。お主を疑うわけじゃないが、儂らを助けてくれたのは本当に子供だったのか?」
「それは私も思ってた。確かに私達は死を覚悟するほどの怪我を負ったはずなのに、無事だったのは不思議よ。けれど、ナンバーズ迷宮の地下16階層に子供1人がいるとは思えないわ」
「・・・でも、あそこに誰かが居たのは間違いないにゃ。微かに男の匂いがあったにゃ。倒れてたけど、私は微かに意識があったから覚えてるにゃ。どこかで嗅いだ事のある匂いなんだけど、思い出せないにゃ!」
ゴルドフ、リリーナ、ユキナが順に思っていることを述べるが、俺もこの目で実際に見るまでは信じられなかった。
「というか、なんで子供だって分かったわけ?」
「身長がまだ低かったんだ。10歳くらいの子供の身長だ。それに、身体が華奢だったんだよ。あと声も少ししか聞けなかったけど、声変わりする前みたいな声だった」
「うーむ、それだけで子供と判断するのは些か早計な気もするが、クラインの直感は馬鹿にならんからの」
「しかも、無詠唱で魔法を使う上に多重展開ですって?甚だ信じられないわね」
「でも、事実だ。じゃなきゃ俺たちは死んでた」
「「・・・・・」」
信じられないことだらけなのだが、生きている。これが何よりの証拠だということは全員が理解していた。
・・・ユキナはまだ何か悩んでいるみたいだが。
「仮に助けてくれたのが子供だとして、その子は私たちの命の恩人よ?なにか、お返しがしたいわ」
「それは儂も同意見だ。このままではドワーフとして、冒険者としての矜持に反する」
「名前は最後に教えてくれた。というか、その一言しか聞けなかったんだけどな」
「なんて言うの?」
「アウル、と言うらしい。本当かどうかわからんがな」
あそこで話しかけてこないと言うことは、救助の見返り目的ではないのは想像に難くない。というか、逆に関わらずに逃げたということはなにか理由があったと推測できる。
たとえば、何故迷宮の中にいる?と聞かれると困る身分であるなどだ。
「アウル、ね。こう言ってはなんだけど、そこまで珍しい名前ではないわね」
「そうじゃの、名前的には少なくともドワーフでは無いだろうがな」
問題はそこなのだ。アウルという名前はそこまで珍しい名前ではないので、特定が難しい可能性がある。
恩を返そうにも、相手が分からなきゃ意味がないし・・・。
「とにかく、悩んでいても仕方ないわ!とりあえずお昼ご飯にしましょう。ここら辺で1番有名なご飯屋さんを聞いておいたからそこに行きましょう?」
「そうだの。腹が減っては何も考えられんわい」
それもそうだな。って、ユキナよ。そろそろ悩むのやめて飯行くぞ。
「ここよ、黒猫の尻尾亭。ここはね、シクススでも流行り始めているベーコンが食べられるのよ」
「それだにゃ!!!やーっと思い出せたにゃ!いやー、以前シクススで嗅いだ事ある匂いだとは思ってたけど、その男からベーコンの匂いがしたにゃ!それもすっごい濃厚なやつにゃ!まるで、ベーコンが染み付いてるような感じにゃ!」
「なんだと?!それは本当かユキナ!」
「間違いないにゃ!」
なんてことだ。こんな所にヒントがあったなんて。
「飯食ったら、ベーコンについて徹底的に調べるぞ!」
「赫き翼」とアウルの2度目の邂逅は近い。
SIDE:第3王女殿下&アリスラート
その頃、時を同じくしてアダムズ公爵家にはある1人の少女が訪れていた。
「アリス。10歳おめでとう。誕生日パーティーに参加できなくてごめんなさいね」
「仕方ないですよ王女殿下。だって、さすがに王族が貴族の誕生日パーティーに参加したとなると贔屓にしていると思われても仕方ないですもの」
「そう言ってくれて助かるわ。いろいろ忙しくて来るのが遅くなったけど、お土産持ってきたから許してね」
「いえ、王女殿下のそのお気持ちだけで嬉しいです」
「む〜。その王女殿下ってのやめてよアリス!私のことはエリーでいいから!」
アダムズ公爵家に訪れていたのはアリスと同い年のこの国の第3王女エリザベスであった。
「ふふふ、わかりましたよエリー」
「分かればいいのよ、さ、お土産一緒に食べましょ!今日はクッキーを持ってきたのよ!」
「!!お、美味しそうでございますね」
やばい、もしかして王女殿下は知っているのだろうか。いや、知らないわけがない。私の誕生日に出したお菓子がこのクッキー含む、未知のお菓子だということを。
「あら、どうしたのかしらアリス?そんなに汗なんてかいて」
「こ、この部屋は少々暑いですから」
「今は冬よ、アリス?」
確実にバレている。そして絶対に怒っている。顔は笑っているように見えるけど、後ろにオーガが見えるのは気のせいではないよね?!
「は、ははは。ちょっとお花摘みに」
ガシッ
「お花摘みはさっき行ったばかりでしょう?座りなさいアリスラート」
「は、はい!」
「何か私に黙っていることがあるのではなくて?もしくは、伝え忘れていることとか」
ふぇーん!!怒ってるよ〜!けど、アウルのことは言えないし、言ったらアルバスにもお父様にも怒られる・・・。どうしたらいいのよ〜!アウルのバカ〜!!
「・・・・」
「沈黙、それがアナタの答えなのね?アリスラート」
「すみません、申し上げられません」
「そう。分かったわ。アナタの方からは言えない状況にあると言うことは理解しました。大方、口止めでもされているのでしょう。契約でもしましたか?」
!?
そこまで分かってしまうものなのか?!さ、さすがは王女殿下。王女の中でも随一の頭脳と言われるだけはありますね……。普段はポンコツなのにこんな所で発揮しなくてもいいのに!
「アリス、普段はポンコツなのにこんな時だけ勘がいいな!って感じの顔してますよ」
「?!?そ、そんなことごじゃりませんよ?」
噛んだーーー!私ダメダメじゃない!私のバカ!
「ふぅ、まぁいいわ。言えないのなら仕方ないし、これ以上虐めてアリスに嫌われたくないもの」
「エリーを嫌いになるわけないじゃない!」
これは本心だ。エリーとは子供の頃よく遊んだし、最近ではお勉強が忙しくて会えてないけど、大事な人の1人だ。
「でもアリス、わたし諦めないわよ。絶対に奇跡の料理人を見つけてみせるわ」
そう、誕生日パーティー以来、アウルは貴族や王族の間で奇跡の料理人と呼ばれているのだ。まぁ、本人は知らないだろうが・・・
「アリス、今日は楽しかったわ。また遊びましょう!」
そう言い残してエリーは帰っていった。ひやひやしたけど、なんとか誤魔化せたようね。
近いうちにアウルに会いに行って、王女様がアウルのこと探し始めてるから気をつけるよう言った方が良いかもしれないわね。
「誰か」
シュタッ「はっ、なんでしょうか殿下」
「アリスは近いうちにきっと奇跡の料理人に会いに行くはずよ。あそこまで言ったんですもの。アリスには悪いけど、監視しておくように」
「御意」シュッ
「アリス、悪いけど私も奇跡の料理が食べたいのよ。そもそもアリスだけずるいのよ!不公平だわ!すぐに見つけ出してあげるんだから!」
見つけられないなら、知っている人に案内させればいいだけだもの。
第3王女は智将だった。
SIDE:アウル
「はっくしょい!」
「おや、アウル君風邪かい?」
「いえ、きっと誰かが噂してるんですよ。じゃあ、今月分の羽毛は一気に納品しておきますね」
「ああ、助かるよ。お金は3日後までに用意しておくから取りに来てもらってもいいかな?」
「わかりました。じゃあまた!」
ふぅ〜、とりあえず今月分は納品したし落ち着いたな。そろそろルイーナ魔術学院用に勉強とかしたほうが良いんだろうけど、どうしようかな。
「ただいまクイン」
ふるふる〜!
クインは冬だけど、マフラーを巻いているおかげで暖かそうにしている。しかし、基本的には動かないで定位置のソファーで寝ている。
・・・癒される。
ふと、部屋を見やる。
ごちゃ〜
「さすがに、広過ぎたな。色々忙しいし家も中途半端に大きいせいか、掃除が追いつかない…。どうしようかな」
ぶっちゃけマジでやばい。ここまでごちゃごちゃしてくると掃除する気にもなれないし、掃除しても直ぐに汚くなるのは目に見えてる。
ゴーレムに雑事をやらせようと研究は密かに続けてるけど、未だにうまく行っていない。あとなにか1つきっかけが有ればうまく行きそうなんだけど、それがわからない。
うーん……。そうだ、誰か雇えばいいんだよ!そうと決まればもう一回レブラントさんに会いに行くか!伝手とかあるかもしれないしね!
「というわけで、もっかい来たんだね?」
「そうなんですよ。何か伝手とかありますか?」
「そうだなぁ。無いこともないけど、アウル君の場合秘密にしなきゃいけない事が多すぎるだろ?私にすら言ってない事、あるんじゃないかい?」
ギク
「まぁ、大凡の予想は付いてるけどね。第一、子供がこんなに沢山の羽毛を手に入れる事自体不思議なんだけどね。まぁ、今後もお願いするけども」
「レブラントさん、それは言わない約束ですよ・・・」
「時にアウル君。君はそれなりにお金は持っているね?」
「まぁ、少しは」
「(白金貨を沢山持っていることを少しとは言わないのだが)じゃあ、雇うのではなく買ってしまえばいいんだよ」
「なにを?」
「奴隷だよ。奴隷は主人には逆らえないし、情報が漏れることもない。それに、家事もお願いできるし一石二鳥じゃないか」
その発想は無かった。この世界で奴隷というのは至極一般的である。罪を犯した者、借金が返せずに奴隷になる者、口減らしに売られる者、さまざまな要因はあれど、奴隷が受け入れられている世界なのだ。
俺もこの世界に順応しているせいか、奴隷という存在にそこまで忌避感などはない。
「奴隷ですか…」
「アウル君は家も買ったそうだし、お金もある。ご飯もきちんと食べさせるだろう?だから、何も問題無いと思うけどね。強いて言うならまだ子供だから買うのに保証人がいるけど、それは僕がなってあげるから問題ないよ」
「保証人って、レブラントさんにそこまでしてもらうわけには」
「アウル君。頼っていいんだ。私は君にはお世話になっているし、君の助けになりたいんだ!」
すごい良いことを言っている。もちろん嬉しいし感動した。けど、なんだろうな。釈然としないのは何故だろう。
「本音は?」
「アウル君がそんな家事ごときで時間とられてしまっては儲かるための時間を取れないだろ?それだと私も困……はははっ」
本音ダダ漏れじゃないか。最後笑って誤魔化した風にしたつもりだろうけど、全然誤魔化せてないからな。
・・・はぁ、でもこんな人だからこそ信じられるんだけどな。目的もなく優しいやつってのは真に警戒すべき奴だ。これはこの世界に於いても地球に於いても変わらない。
「わかりました。でも、何処で買えば良いんです?」
「それは私に任せてくれ!王都で1番の奴隷商を紹介するよ!あそこの商会長には少々貸しがあってね。まぁ、アウル君のおかげなんだが」
「なんで俺なんです?」
「あそこの商会長の奥さんは甘いものに目がなくてね。クッキーを優先して売ったら、とても感謝していたよ」
なるほど、なら何か手土産でも作って持ってけばサービスしてくれるかもしれないな。
「今日はまだやる事があるから、明日になっても良いかい?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、明日の夕方にまたここに来てくれるかい?あと、お金を忘れないでね」
なんか、奴隷を買うのって異世界っぽいな!
ちょっとずつ更新していきます。
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