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ep.28 ロッキングチェア

今俺は王都で一番大きいとされている本屋に来ている。


欲しているのは魔物図鑑と呼ばれるものだ。冒険者ギルドの資料室に置いてあるというのはレブラントさんに聞いたのだが、いかんせん年齢が足りないため入れない。


昔は何歳でも登録できたらしいのだが、成人もしてないような子供が死にすぎるという状況が起こったために、規定が成人していることが条件になったらしい。


王都で一番の本屋に来たが、確かにでかい。中を見ても品揃えも豊富なようだ。


この世界では本はかなり高価なのに、ここまで揃っているともはや図書館と思えるくらいだ。



「あら坊やいらっしゃい、なにかお探しですか?」


俺が子供なのに丁寧に挨拶してくれたのは見た目20歳くらいのお姉さん。


よく考えるとこの年で本屋に来るってことは金を持っているというのは当たり前か。


「えっと、魔物図鑑が欲しいんですけどありますか?」


「あら、運がいいわね。つい先日魔物図鑑を仕入れたところよ。帝国が新たに発刊したやつだから内容はかなりすごいわよ?その分値段もすごいんだけどね」


言い終えながら舌をぺろっとだす仕草が思った以上に艶があり、10歳ながらにもエロいと思ってしまった。


「いくらなんですか?」


「上・中・下の3巻構成なんだけど、一冊当たり白金貨2枚よ。全部買うとすると白金貨6枚ね」


見せてもらった本は思ったよりも厚く、一冊当たり10cmくらいある。


それでも一冊200万円か・・・。全部手書きなのだとするとそこまで高くないのか?


「じゃあ、全部ください!」


白金貨6枚をポケットから出すと、お姉さんは少し驚いた顔をしていたけど、すぐさま笑顔になってお金を受け取ってくれた。


俺の手をしっかり握りながら、受け取ってくれた。


・・・なんで手を放してくれないんだ?なんか手をニギニギしてませんか?!


こ、これが大人の女性というやつなのか!?


「うふふふ、坊やまた買い物に来てくれるかしら?」


お姉さんは目線はあってるけど体は少し屈んでいるせいで、胸を強調するような姿勢になってしまっている。


こいつ、かなりの手練れとみたぞ!さすが王都一の本屋だ。店員の接客までもが一流とは恐れ入ったぜ。


「うふふ、また来てね」

「もちろんです!またすぐに来ます!」


おっと、俺としたことが少し食い気味に反応してしまったか。反省しなければ。俺は紳士なのだ。



なにはともあれ、目的の本は買えたので良しとしよう。


市場で珍しいものがないか確認しながら家へと戻るが、なんやかんやあっていっぱい色々買いすぎてしまった。




「ふぅ、ただいまクイン」


ふるふる!!


家に帰るとクインがお出迎えしてくれる。昨日から家の中ではクインは亜空間ではなく外に出している。


クイン用の小さいソファーを家具屋で買い、ダンジョンで確保した羽毛で作ったクッションを置いてある。そこがクインのお気に入りの場所になっている。



もちろん念願のロッキングチェアも完成した。


完璧に計算されつくした足の円弧に、洗練された全体のデザイン、細かなところまでに拘った意匠と、背もたれと座るところに羽毛クッションを設置することで包み込むような安心感を実現した究極の逸品だ。


ここまでのものを作るにはかなり苦労した。ダンジョンから出てすぐに取り掛かったが、一週間はかかってしまっただろう。


試作品の数も両手では足りないくらいに作った。


そして漸く完成したのがこのロッキングチェアというわけだ。


実際に座ってみると、朝座ったはずなのに気づけば夕方になっており、タイムスリップしたかと勘違いするほどに座り心地がいい。




試作品は邪魔なので廃棄しようと思ったが、どうせなのでレブラントさんに売ることにしょうかな。


「レブラントさん、お久しぶりです」


「やぁ、アウル君。今日はどうしたんだい?生憎、白玉粉と大豆はまだ仕入れられていないけど」


「いえ、今日は別件です。ちょっとこれを見てください」


試作品のロッキングチェアを取り出して見せるが、足が不思議な形をしているのが気になるのか、首をかしげている。


「見たところ椅子のようだけど、これでは安定しなくて揺れちゃうんじゃないかい?」


「そうです。これは揺れる椅子なのです。この良さは座らないとわかりませんよ」


一応、この試作品にも魔物の羽毛を使っているのでそこそこの完成度にはなっているだろう。


「!!こ、これはすごい!敢えて揺れるようにすることで、普通の椅子にはないリラックス効果があるように感じる!それにすごいのはこのクッション!おそらく最高級の羽毛をつかっているのだろう?!そのおかげか包み込まれて天にも昇るような気持ちよさがある!これは売れるよアウル君!ぜひ、我がレブラント商会で扱わせてくれないか!」


さすが商人、ロッキングチェアの価値に一瞬で気付くとは。にしても、息継ぎなしでここまで喋りきるレブラントさんも凄いな。


「はい、もちろんです。なんなら設計図をお渡ししますので、商会の商品にしていただいてもいいですよ」



(これが出回るころには他の商会も真似をし始めるだろうが、その頃には大金を稼いだあとだろうし、この羽毛はなかなか手に入らないから、貴族向けとするなら最高かもしれない)

「アウル君、この羽毛だけど定期的に卸すことは可能かい?」


「えっと、量にもよりますが多分大丈夫ですよ」


「であれば、悪いんだけどこの羽毛をありったけ集めてもらってもいいかな?もちろん、無理はしない範囲で大丈夫だから」


「分かりました」


「それで、値段なんだけど設計図を白金貨10枚で買わせてもらうよ。この椅子も一個白金貨5枚で買うね。定期的に卸してもらう羽毛もこの麻袋一つで白金貨2枚で買い取る、って感じでどうかな?」


うーん、そこまで悪くないか?原価率はおそらく半値だとすると売るときは白金貨10枚で売るんだろう。


俺としても羽毛集めはそこまで手間ってわけじゃないし、問題ないかな。麻袋も20ℓくらいの大きさだし。


いざとなれば羽毛布団も売れば金になるしね。


「はい、それでいいです。羽毛は2週間に1回で、この麻袋20個くらいでいいですか?」


「よし、契約成立だ!とりあえず契約期間は6ヶ月くらいでどうだい?」


「わかりました」



あとは定期的にダンジョンに侵入して羽毛を回収しまくるだけだ。どうせだから、もっと深層にも行ってみたら面白いかもしれないな。



このあとは家に帰ってクインと遊んでご飯を食べてぐっすりと寝た。


次の日は、ずっと忘れていた燻製部屋を庭の隅っこに新設した。小屋くらいだったら2時間もあれば作り上げられるし、魔法は本当に便利だと思う。


「そういえば、そろそろオーク肉が心もとないから、狩りに行かなきゃ。ベーコンとソーセージも卸してあげないとレブラントさんが可哀そうだな。もう石鹸は椿油がないから作れないし・・・。あ、久しぶりに化粧水でも作ろうかな。やっぱりそのためにも狩りに行かなきゃか。きっと、ダンジョンの森エリアなら薬草もあるだろうし、ハイオークもいたから一石二鳥じゃん。倒し方さえ気を付ければ肉も剥ぎ取れるよね」


そうと決まれば話は早い。早速行く準備を済ませる。


装備は10階でドロップした黒い外套と木の杖。見た目は完全に魔法使いっぽい感じだ。


「クイン、ダンジョン行くから亜空間で待っててね」


ふるふる!



転移結晶で15階層へと飛び、16階層でクインを放してあげるとふらふらと森の中へと消えていった。


「さて、ハイオークでも探しますか」


ハイオーク、ハイオーガ、ハイゴブリンというのは普通のオーク、オーガ、ゴブリンとは違って体が大きい。そして肌の色が普通のより浅黒いのだ。


魔物図鑑はしっかりと程度読み込んできたため、今となっては魔物の名前もある程度わかる。


ちなみに、20階層のボスの名前は『サンダーイーグル』と言って討伐ランクAの危険モンスターだった。


「本来なら強いんだよな~」


まぁ、今となってはそこまで強くも感じない。魔法でごり押しできるくらいには俺も成長しているということらしい。



「お、この気配は・・・ハイオークかな」


この後、ハイオークを狩り続けながらも下の階層へと進んでいく。


ハイオークの肉の確保の方法だけど、試行錯誤の結果なんとか見つけ出せた。


方法は至極単純。


死にそうになるまで魔法で切り刻んで、死にそうになったらエクスヒールで回復させてから殺す。これを繰り返すだけ。


そうすれば余ったお肉がたくさん残るという作戦である。


そのおかげで20階層に到達するころには1t近い肉が手に入ったので今日のところはこれでいいかな。


というか途中からハイオークが可哀そうになったからという理由もあるが・・・。



なんて考えながら20階層のボス部屋に入る。


GYAooooooooooooooo!!!!



勇ましく叫ぶが、意味はない。


ロックチェーン×20!



身動きの取れないサンダーイーグルは何もできずに落下してきた。


あとはロックバレットで頭に当てて脳を揺らしてやると大人しくなる。


10分もすれば、羽のない寒そうなサンダーイーグルの出来上がりだ。


今回はせっかくなのでハイオークと同じ要領でサンダーイーグルの肉を剥ぎ取る。


50kgくらい確保できたし、今回はこのくらいかな?オーク肉も手に入ったし、あとは羽毛だけ集めればいいか。



周回すること10周。さすがに飽きる。というか飽きた。もう今日は無理!



「クイン~。そろそろ帰るぞ~」


帰るために16階層でクインを探すが、なかなか見つからない。


うーん、どこ行ったんだ?





「うわーーーーーーー!!」


突如として聞こえる叫び声に、気づけば声のほうへと走り出していた。


辿り着いた先には男2と女2のパーティが戦っている。しかし、クインの姿はない。


「!!だ、誰か分からないが助けてくれないか!」


気配遮断している俺に気付くということはかなりの手練れだろう。


よく見るとぐったりしているのが3人いるな。早くしないと死んでしまうか。


収納から咄嗟にお面を装着して戦闘に加わる。



敵はハイオーク5体とハイオーガ3体、それに真っ赤なオーガがいた。


「その赤いオーガはレッドオーガだ!動きが速いぞ!」


サンダーレイ×9!


「なっ!?無詠唱なうえに多重発動!?」


驚くリーダーそうな男を無視して戦闘を続けるが、レッドオーガ以外は倒すことができた。


「ふぅん、それなりに魔力込めたのに。なかなか固いみたいだな。それなら」


最近開発したサンダーレイの進化技を見せてやろう。


グリッターランス!


雷をさらに強くイメージした光輝く槍のような技である。


GAaa..?


脳を打ち抜いたおかげか、一瞬で沈黙した。


いまならアザレ霊山の魔物も余裕かもしれないな。



レッドオーガの魔石を回収したら、リーダー的な奴が横たわっている3人に声をかけていた。


「大丈夫か!?魔物はいなくなった。みんなで帰れるんだ!」


・・・返事は帰ってこない。よく見るとリーダー的な奴もかなりボロボロで起きているのが奇跡とすら思える。


「エリアハイヒール」


「これは・・」


死にそうだった3人には血の気が戻り、肩で息をしていたリーダー的なやつも落ち着いたようだな。


ここまですれば問題ないだろう。あと数分すればあの3人も起きるだろうし、下手に関わっても面倒なのでここで逃げるとしよう。


「あ、ありがとう!この礼はいつか絶対するから!名前だけでも教えてくれ!」


「・・・アウル」


これが後にSランクとなり、世界的に有名となる『赫き翼』との一回目の出会いである。









ちなみにクインは新たな蜂の巣をいくつか占領しており、またもやキラービーの女王蜂が何匹も糸のようなものでグルグル巻きにされていた。


お?てことはここら一帯の蜂の巣はクインの支配下にあるのか。


大量のハチミツ、ゲットだぜ。

ちょとずつ更新していきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] チート過ぎるとハチャメチャで面白くなくなるところを、「目立ちたくない」でうまくカバーできていると思う。今のところすごく気に入って読ませていただいてます。 [気になる点] 「赫き翼」赫はカク…
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