ep.27 羽毛の収集
季節は冬。
どうやら王都でも雪は降るらしい。しかし、さすがに辺境ほどというわけではないので、せいぜい5cmくらい積もるくらいだ。
アリスの誕生日が終わっておおよそ一週間が経過した。春まで時間はあるし、オーネン村に帰ろうかとも思ったが、冬は人が多いと食い扶持が増えるし、折角家も買ったので王都に残ることにした。
シアには今すぐにでも会いたいが。まだ赤ん坊なので来年のどこかでは一回帰るつもりだ。
こっちの世界『アルトリア』だと、冬の間は閑散期となるため農家は暇になる。強いて言うなら内職で籠を作るくらいしかやることはない。ある意味子育てには持ってこいかもしれないが。
冒険者も上のランクの人たちはお金に余裕があるから働かずにずっと酒場で酒を飲んでいる。
逆に下のランクの冒険者は悲惨らしい。この寒い中も街中の手伝いや配達、もしくは迷宮に潜らないとその日の食事さえ怪しいと言う。
その点、商人は強い。雨も雪も風も雷にも負けることなく働いている。
本当に逞しい人たちだ。
かく言う俺も暇つぶしがてらに、あるものを作成中である。俺の目指すのんべんだらりとした貧乏農家生活には欠かせないもの。
それは、『ロッキングチェア』だ。
あれは本当に素晴らしい。座るだけで心地よい眠気を連れてきてくれる。一面の小麦畑を眺めながら家の軒先で風に揺られながらロッキングチェアで気持ちよく寝る。
まさに「のんべんだらり」だ。怠惰で無為な時間を過ごすとか前の世界ではなかなかできなかったからな。
木材はオーネン村にいたころに伐採した木材が大量に余っているので作れるだろう。
総木製で作ってもいいのだが、どうせなら上を目指したい。ということで、クッション性のあるものを作ろう。
久しぶりにレブラントさんに会いに行くついでに、いろいろ商会のなかを見せてもらおうかな。白玉粉も無くなってきたし、いろいろ買おう。お金はたっぷりあるしな。
「いらっしゃいませ~、って、アウル君じゃないか。どうして王都にいるんだい?」
「ええ、実はかくかくしかじかでして」
「あぁ、やっぱり迷惑をかけてしまったみたいだね。いろいろと手を回しておいたんだけど」
「いえ、結局はなんとかなりましたから。折角来たので今まで卸せなかった分のベーコンや石鹸、売りましょうか?」
「いいのかい!?いやぁ、実は困ってたんだよ。各所から問い合わせが酷くてね!」
誕生日パーティーではベーコンや石鹸は使わなかったので、レブラントさんに売るくらいには残っている。
・・・しかし、今後も卸すことを考えたらマイホーム内に燻製小屋が必要だな。この冬の間に作っちゃえばいいか。
「そうだ、レブラントさん。この商会では綿って扱ってますか?」
「一応扱っているけど、今はちょうどないんだ。ごめんね」
ふーむ、綿がないとなると・・・。羽毛しかないか。
白玉粉や大豆などはそれなりの量があったのでとりあえず全部買い占めておいた。
差し引き金貨80枚の儲けだった。一瞬安いなと思ったが、よくよく考えれば10歳なったばかりの子供が持っている金額じゃないな。
「そういえばこの辺で、鳥系の魔物がたくさんいるところってない?」
「うーん、いないこともないが、今の時期は確かいなかった気がするよ」
渡り鳥の習性でもあるのか?
「あ、そういえば『迷宮番号4』の20階層のボスが鳥系の魔物だったかな。確かドロップは羽系だったはずだよ。綿の代わりに羽毛でも使うのかい?」
「う、うん。そうだけど、よくわかったね?」
「これでもアウル君との付き合いは長いからね。それに、商人ってのは金儲けの匂いに敏感なんだよ」
うむ、やはり商人という生き物は強かな生き物のようだ。
「でも、アウル君。君はおそらく物凄く強いのだろうけど、気を付けるんだよ」
「・・・や、やだなぁ。俺はただの農家ですよ?」
「ははっ、今はそういうことにしておいてあげるよ」
レブラントさんは俺が魔法を使えるのに気付いていそうだな。
・・・というか俺、ベーコンとか卸すのに何も考えずに収納から出してないか?
レブラントさんにはあとでワインの小樽でもプレゼントしよう。それで黙っててもらおう。うん、問題なし。
図らずもまた迷宮に行くことになったけど、これでクインを出してあげられるな。
衛兵さんも前の人を選べば問題ないだろうし、なんなら気配遮断して見えないくらいの速さで侵入すればいいか。
結果的にはすんなりと迷宮に入れた。俺としては助かるけど、なんかあったときに大丈夫なのか・・・?
・・・フラグっぽいのたてちゃったかな。いや、気のせいだ。
前回行った階層まですぐに行ける転移結晶があるので10階まで転移する。
さてさて、11階層からはどんなエリアなのかなっと。
じわっとした空気、ぬかるむ足元、薄っすら視界を遮る霧、俺の身長と同じくらいの高さまで繁茂している植物。
どうやら湿地のようだ。
空間把握!気配察知!
・・・周りに人はいないが、魔物はぽつぽつといるな。冬でも迷宮の魔物は活発ってわけか。
「出ておいでクイン」
亜空間からしゅっと出てくるクイン。嬉しそうに飛び回る姿は本当に癒される。
ふるふる!
「またどこか行くか?」
ふるふる・・・
どうやら違うようだ。
「それとも俺についてくる?」
ふるふる!!
あぁ、癒しや・・・。今度からは家の中でも出してあげよう。
「お、さっそくお出ましか」
でてきたのは、全長2m程の超巨大なカエル。
色は紫で見るからに毒々しい。デスフロッグと名付けよう。
にしても、魔物の名前がわからないから今度本屋で魔物図鑑でも探すか。
風魔法で首を落とそうと考えていると、クインが前に立ちはだかる。なにがしたいんだろう。
「クインが倒してくれるのか?」
ふるふる!!
どうやら俺を守ろうとしてくれているようだ。何て健気で可愛いんだ君は。天使か。
クインは風魔法が使えるのか、羽に風の刃を纏わせて接近、どんどんダメージを与えているが、いかんせん体の大きさが違う。
クインが30cmなのに対し、デスフロッグは2m。さすがに違いすぎる。
手を貸そうと思った途端、デスフロッグは口から泡を吹いて死に、魔石を残して消えた。
小さい刺し傷が至る所にあるところを見ると、羽で攻撃しながら針も使っていたようだ。
アナフィラキシーショックってやつかもしれない。
俺も負けじと魔法や杖術によって敵を粉砕していく。クインもそれに合わせるように戦ってくれる。
「クイン、なかなかやるじゃないか!」
ふるふる!!
12階層では大きなオオサンショウウオのような魔物。
13階層では河童と狼をたしたような魔物。こいつは魔石だけじゃなくなぜか甲羅もドロップした。
14階層では毒を持ったスライムだった。
「ふぅ、やっと15階層だ。クイン、ここはボスが出るけど一緒に戦うか?」
ふるふる!!
ふふ、力強い返事だな。ここまでクインもたくさんの魔物を倒してきっとレベルも上がっているだろうし、大丈夫だろう。
ボス部屋で待っていたのは巨大なスライムだった。それも全長10mはありそうなほど大きい。
「クイン、物理は効きが悪い!魔法で攻撃するんだ!」
ふるふる!
敵も馬鹿じゃないのか、こちらを視認してすぐに触手で攻撃してくる。
その巨体からは考えられないほどに早い触手捌きに、一瞬だが呆けてしまった。
鞭のような攻撃方法というわけね!
クインも触手に当たらないように高速で飛行しているが、なかなか上手く攻撃できていない。
さすがにナンバーズと呼ばれる迷宮だな。15階層でこんなに強い魔物が出てくるとは!
アウルは知らない。本来であればナンバーズ迷宮の中層以降に挑戦する際は上級冒険者のパーティを最低でも5つ集めていること。そして、最高の73階層に達したのはここではなく、ナンバーズの中でも最も難易度の低い『迷宮番号10』だということを。
ナンバーズ迷宮の上層は10階層までと言われ、初心者でもなんとかなる程度と言われている。逆に10階層以降は中層と呼ばれ、難易度がぐんとあがるとされている。
この『迷宮番号4』の最高到達階層は35階層。そこのボスが倒せていない状況なのだ。
「クイン!さがれ!」
サンダーレイン!
幾つもの雷が巨大スライムへと降り注ぐ。
弱点属性だったのか、みるみるうちにちいさくなり、そして魔石と宝箱を残して消えた。
「ふぅ、お疲れクイン。よくやったな」
ふるふる!
さてさて、久しぶりの宝箱の中身はっと。
厳かな見た目の宝箱に対し、こじんまりとした皮袋が一つ。
え・・・。やっぱりこうなるの?嘘だよね。嘘だと言ってよ。
中身は何かの種がぎっしりと入っているのみ。
ここからの記憶はない。
気づけば次のボス部屋に辿り着いており、目の前に翼が6つある大きな鷲のような魔物が叫んでいた。体の周りにはうっすら電気が迸っているように見える。
「・・・はっ!俺はいったい何を!?って、こいつがレブラントさんの言っていた魔物だな。確かドロップは羽系なんだよな」
このイライラを一撃にこめてぶつけてやろう。
「クイン!亜空間に入っとけ」
障壁多重展開!
いくぞ、火魔法と土魔法の複合魔法。
『メテオ』
東京ドームの2/3くらいの広さと高さ40mくらいあるボス部屋に突如巨大な隕石が複数発生。
これにはボスも驚いたのか、電気を思い切り叩きつけているようだが、焼け石に水だ。
20枚近く展開した障壁が残り3枚になるまで破壊されたところをみると、威力は絶大だろう。
「ここまで大きい魔法を使ったのは初めてだけど、気持ち良すぎて癖になりそう」
って、危険な思想か。10歳が考えることじゃないな。
ドロップした魔石は今までで二番目に大きい魔石だな。さすがにエンペラー・ダイナソーよりは小さいみたいだ。
問題はこの宝箱。
この中に羽毛があるはずなのだが、果たしてあるだろうか。
怖くて開けられない・・・。
ええい!
15階層よりも少しだけ大きな皮袋。
中身はお馴染みの種。
「ふ、ふふふふ。レブラントさん、覚えておけよぅ?地獄をみせてや・・・ん?」
ふと目に入ったのはさっきの魔物が落とした羽。本体が消えた今も残っている。
「・・・まてよ?そういえば、5階層のボスのキングゴブリンも王冠を落としてたな」
・・・そうか!もしこの法則があっているなら、俺はとんでもない思い違いをしていたかもしれない!
よし、改めてもう一度15階層からやり直しだ!
転移結晶で15階層へと戻るアウル。
「そう言えば、16階層からのフィールドってなんだったんだ?」
記憶が曖昧なせいで思い出せないな・・・。20階層のフィールドもなぜか一瞬で荒野になってしまったし。
16階層に降りると目に入る景色すべてが木。どうやら、森エリアのようだ。
1ヵ所だけ木が無くなって道のようになっているのは、おそらく俺が魔法をぶっ放しながら進んだんだろうな。
「クイン、でておいで」
ふるふる!
「クイン、俺はちょっと検証したいことがあるからこの階層で遊んでてくれ」
そういうと嬉しそうに森へと入っていった。さっきは俺が暴れてたから付いてきてくれたのかな?
そのあともさっき自分が通ったと思われる、道を通って最短で20階層へと辿り着く。
途中の魔物はハイオークやハイオーガ、ハイゴブリンなどの一段階強くなった人型魔物が多かった。
検証を試してみたところ、ある程度の確証は得られた。
検証結果はこうだ。
『魔物が死ぬ前に素材を確保できた場合、それは消えることなく入手が可能。死ぬような攻撃で素材をとってもそれは消えてしまう』
要は死なないように剥ぎ取れば素材は取り放題というわけだ。
なので、毛皮なんかは確保できないということになる。
「よし、やっとついたな20階」
中には翼が6つある鷲のような魔物が叫んでいる。
「いくぞ鳥野郎!!」
ロックチェーン×20!
岩でできた鎖が魔物へと巻き付き身動きを封じる。
電気で岩の鎖は壊せないのか、ジタバタするだけで特に何もできていない。
「悪いな、俺の優雅なロッキングチェアのために犠牲になってくれ」
身動きの取れない鳥魔物に対して、羽を毟り取るという行為を続けること5周。
どうせならと羽毛布団用にも集め始めたせいで時間がかかってしまった。
任務達成だ。
クインを拾いに16階層へ行くと、なぜかまた大きな巣が出来ており、仲間の蜂がいた。
・・・近くに糸か何かでぐるぐる巻きにされて動けない女王蜂の魔物が見えるがきっと、気のせいだろう。
クインはそんなことをする奴じゃないしな!
とりあえずぐるぐる巻きになっている女王蜂モンスターを倒して魔石を回収した。
よし、ともかくこれで念願ののんべんだらりな生活に近づけるぞ!
アウルは気付かない。倒した翼が6つある鳥型の魔物が討伐ランクAの魔物であり、作ろうとしている布団や椅子は売ると一つ当たり白金貨10枚にもなる高級品だということに。
心がいつまでたっても貧乏農家な彼は気付けない。
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