ep.25 念願のマイホーム
時は流れて、アリスの誕生日まで2日後にまで迫った。作る料理も決まっているし、あとは料理の食材が届くまでは自由時間だ。
公爵家の人たちは誕生日の準備で忙しいのかあまり会うことはない。唯一会うのは朝食と夕食のときくらいだろう。
そして、今日やることは決めている。アルバスさんには言ってあるから完全に秘密というわけではないが、内密に動かないといけないから今日は一応、王都内を見て回るということになっている。何をするかというと。
「ここが不動産屋か。すみませーん、家借りたいんですけど!」
「はいはい、家を・・・ってなんだ、坊主1人か?」
「うん、2LDKくらいでいい家ってないかな?ルイーナ魔術学院に近いと尚いいんだけど」
「あのなぁ、お前みたいなガキに貸すような家は・・・!?」
懐からそっとアルバスさんが渡してくれた書類を出して渡すと、分かりやすいように態度が変わった。やはり、どこの世界も権力というのは偉大ということか。
結局、公爵家の力のおかげでなんとかなるってことなんだが、些か不本意ではあるが今は甘んじて受け入れさせてもらおう。
「ええっと坊っちゃま、家ですが良さげなところが3軒ありますがいかがいたしましょう?」
分かりやすく揉み手でにじり寄って来るのを見ると、商人って生き物の本性を見た気がする。
「全部見せてもらうことはできる?」
「もちろんでございます!それでは近いところからご案内いたしましょう!」
案内されたのはどれも一軒家で、全部がそれなりに条件の良さそうな家だった。
・1軒目
見た目はごく普通の一軒家で、小さいけど庭付き。井戸は無し。二階建て2LDK。ルイーナ魔術学院までは歩いて20分。賃貸月額金貨20枚。売却額→金貨4800枚。
・2軒目
家というよりは屋敷、小規模の畑が作れる程度の庭。井戸もある上に三階建て6LLDK。ルイーナ魔術学院までは歩いて45分とやや遠い。賃貸月額金貨130枚。売却額→金貨32000枚。
・3軒目
見た目はそこそこの家、庭もそこそこで井戸もある。間取りは二階建て4LDKでルイーナ魔術学院まで徒歩30分。賃貸月額金額45枚。売却額→金貨9000枚
という感じだ。ルイーナ魔術学院に受かったとして3年住むことを考えると、買うのは金の無駄遣いのような気もするが、アルバスさんが折角手を回してくれたおかげか、めちゃくちゃいい物件ばかりな気がする。
さすがに2軒目は買えないな。俺の所持金貨はたしか金貨18000枚だから、2軒目以外は買えるか。
学費や食費、その他雑費を考えても3軒目が一番良いか。
3軒目のいいところは、リビングが20畳くらいあるから、夢だった馬鹿でかいコの字型のソファが置けることだよな。
・・・買っちゃおうかなぁ。ぶっちゃけ金はあるし、夢のマイホームってのも悪くない。気がする。問題があるとすれば、ここは王都だから永住するわけでもないってことか。
うーん。・・・というか地球と違って一回買っちゃえば追加で税金みたいなのはかからないらしいし、資産になると思うとそこまで邪魔になったりはしないじゃん。
「決めたよ、3軒目を買うよ」
「はい3軒目を賃貸で・・・は?借りるのではなく、買うというと、金貨9000枚ですが」
もちろん金貨で現金一括ニコニコ払いだ。山のような金貨をバッグから出したように見せかけて収納から取り出す。
「!?あ、ありがとうございます!清掃等は済んでおりますので、住もうと思ったら今日からでも大丈夫でございます!ただ、家具はありませんのでそれだけはご了承ください」
「わかった。ついでにオススメの家具屋さんがあれば教えてよ」
「もちろんでございます!懇意にしている商会がありますので、そちらへの紹介状を書きましょう!」
これで家具はなんとかなりそうだ。部屋は広いけど何もないでは寂しさしかないしな。
家具屋では紹介状のおかげですんなりと欲しいものが買えた。あの不動産屋がなんて書いたか分からんが、紹介状を見た瞬間家具屋が物凄く驚いていたので、ろくな事はかかれていないのだろう。
ぶっちゃけ公爵家とは大した繋がりがあるわけでもないというのに・・・。
無事にベッド2つとキャビネット、テーブルやイス、馬鹿でかいソファー等、最低限の家具を購入した。
もちろんソファーはコの字型で何かの革製のやつ。金貨30枚。
ベッドはクイーンサイズを2つ。それぞれ金貨20枚。布団は最高級なやつを2セットで金貨30枚。
テーブルとイス×6は魔物のトレント製で全部で金貨60枚
その他にももろもろ合わせて、合計金貨300枚の家具や生活雑貨を購入した。端数はサービスしてくれたらしい。
家の場所に無料で届けてくれるそうなので、このあと家で待っているとしよう。
待つ事約2時間で家具が搬入されて来たが、なんとなく家の中には入れたくない。仕方ないけど庭に置いて帰ってもらおうかな。
なぜ庭に置くのかと不思議がられたが、他人を家に入れたくないなんて言える筈もなく・・。
愛想笑いって、この世界でも有効なんだな。
「よっと、身体強化はまじで万能だな」
身体強化を使って楽々と家具を運び込み、レイアウトを整える。
「こんなもんか?うーん、なんか殺風景な感じがするが、何が足りないんだ・・・?」
わかった、敷物だ。絨毯や毛皮なんかを敷けばもっとかっこよくなるじゃん。
家具屋に絨毯は無かったし、どこに売ってるんだろう?あとでアルバスさんに聞いてみれば分かるかもしれないな。
とりあえずはアザレ霊山の麓の森で狩った隠密熊 --※本当は暗殺熊--の毛皮でも敷いておけばいいよね。
・・・我ながらかっこいい家になってきたじゃないか。ツリーディアの頭の剥製とか飾ってもいいかもしれないな。
そういやもう冬になるし、寒さ対策もしなきゃか。一応魔法で暖かくすることは出来るけど、元日本人としては風情を楽しみたいよね。
薪はオーネン村にいた頃にたくさん作ってあるから、薪ストーブでも欲しいところだけど・・・さすがに、鍛治はできない。
んー、餅は餅屋か。
さっきの不動産屋に腕のいい鍛冶屋がないか聞いてみると、一軒心当たりがあると言うので試しに来てみたが…。
「ほんとに大丈夫なんだろうなぁ…」
外見は見るからにボロボロ、それに言われなきゃここが鍛冶屋だなんて気付かないぞ。本当に大丈夫か?
「すみませーん、誰かいますかー?」
・・・・・
あれ、誰もいないのか?
「すみませーん!!!誰かいますかー!!!」
「うるっさーーい!そこまで叫ばんでも聞こえとるわ!」
現れたのは、背が小さいが筋骨隆々で力強そうなおじさん。きっとドワーフという種族だろう。
「不動産屋さんに紹介してもらってきたんですが」
「ほう、あいつにか。てことは金は持っとるようだの。で、なにがほしいんだ?稽古用の剣か?」
「はい、いえ冬用の薪ストーブが欲しいんです」
「すとーぶ?なんだそれは」
そうか、この世界にはまだストーブはないのか。確かに我が家にも囲炉裏のような火を囲う程度しかなかった。公爵家にも暖炉はあったがそれだけだったな。
「実はかくかくしかじかという構造で、ほにゃほにゃらららという感じのものなんです」
「ほう・・・興味深いの。ふむ、材料は鉄だといささか不安か。少々割高でも構わんのか?」
こんなんで通じるなんて異世界って最高だな。表現するのがめんどくさい時にはもってこいじゃないか。
「そうですね、技術料抜きで金貨100枚くらいであれば大丈夫です」
「はっ、なかなかに金払いがいいのは嫌いじゃないぞ。よし、ではグランツ鉱石を使おうかの」
「グランツ鉱石って?」
「グランツ鉱石ってのは王都の北にあるグランツ火山から取れる鉱石のことで、火に強く硬度もそれなりにあるのが特徴な石だ。そのすとーぶっちゅうのにはおあつらえ向きだろ」
「そうなんだ。けっこう高いの?」
「昔はかなり高くてなかなか手が出るような代物じゃなかったんだが、近頃だとなぜかそこそこ流通しておるから、値段もそれなりってとこかの」
「そうなんだ。どれくらいでできそう?」
「1回鉄で作ってみて問題なく作れればそのまま製作してしまうから、まぁ3日ってとこかの。金はそんときでいい」
「わかった、えっと・・・」
「おっと、自己紹介がまだだったの。儂の名前はガルヴァンスだ。ガルでいいぞ」
「俺の名前はアウル、宜しくお願いします」
3日後に取りに来ることを約束して、鍛冶屋を出る。無事にストーブを作る段取りもついたし、暖かな冬を過ごせそうだ。
その後は、時間が中途半端に余ったので、市場でいろいろな食材を大量に買い込んではバレない様に収納するを繰り返して、金貨20枚分くらいを買ってしまった。
そのまま雑貨屋を物色していると、日本にもあった狐のお面が売ってあったので、懐かしくて買ってしまった。
子どもの頃はお面被ってお祭りに参加してたな~。そういや、王都にもお祭りとかってあるのか?あるんだったら出たい。是非出たい。
時間になったので公爵家に帰ると、誕生日用の食材が到着しており、冷蔵用の魔道具の中に運び込まれている最中だった。
念のために食材を確認させてもらうと、流石と言うべきか鮮度は抜群で、どれも美味しそうなものばかりだった。
腕の振るい甲斐があるってもんだな。アリスも喜んでくれるといいんだけど。
次の日は早朝から、公爵家の料理人達と共に食材の下拵えをして、先んじて作れるものは全て作った。
作るのに時間が必要な餃子等は作って凍らせてあるし、ハンバーグも焼くだけで食べられる状態にしてある。その他の料理も直ぐに完成させることができるように準備済みだ。
味見もしてみたが、食材がいいのか予想以上の出来に仕上がっている。
明日が楽しみだな。
普通の人間であれば寝静まっているであろう時間。公爵家の周りには黒ずくめの人間が集まっていた。
「おい、準備は完璧か?」
「へい、問題ありません」
「では行くぞ。ぬかるなよ」
波乱の予感は誰にも気付かれることなく公爵家へと近寄り、そして誕生日パーティー当日を迎えた。
ちょっとずつ更新していきます。
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