ep.24 迷宮攻略②
5階のゲートーキーパーを瞬殺してしまったので予定の時間まではまだ約5時間近く残っている。
「にしても、種ね。なんの種かは植えてみればわかるとはいえ、なんかイメージと違うよなぁ」
すぐに次の階へと階段を降りるが、わかりやすく雰囲気がガラリと変わった。さっきまではよくある洞窟のような感じだったが、次の階層はどこを見ても草原が広がっている草原エリアだった。
ところどころに林くらいの木が生えている箇所もあるが、おおよそは平原だけのようだ。こんなとこで寝転んで昼寝でもしたら気持ちいいんだろうな。
出てくる魔物もレッサーウルフやホーンラビット、グラスビー程度と少し強くなったが依然として雑魚ばかり。基本的に訓練も兼ねて杖術による攻撃で対処するが、数が増えたら魔法で一蹴する。
襲ってくる魔物を全部倒しながら進んでいると、気づけば大量の魔石が収納されているが、目標まではまだ折り返し地点。
「いくら草原エリアだからって、迷宮の中に空があるなんてな」
草原エリアの空には少しの雲と青空が広がっている。さすがに太陽は無いようだが、ずっと待てば夜になったりするのか・・・?
「そういや王都に来てからはクインを出せてやれてないから出すか」
実は、王都に来る事になったときクインはオーネン村に置いて行こうと思ったのだが、クインが俺から離れなかったため、仕方なく連れて行くことにしたのだ。しかし、従魔登録をしようにも年齢的に冒険者ギルドは登録できないので、仕方なく魔法でどうにかならんかと試行錯誤したら、なんとかなった。
なってしまった。人は入れないが魔物や動物が入れる亜空間のような魔法で、これは空間魔法の完成か?!と思ったのだが、どうやら違うらしい。
「おいで、クイン」
亜空間から出て来たクインは自然が楽しいのか、嬉しそうに俺の周りを飛んでいる。
「クイン、俺は下へ行くけどどうする?」
ふるふる!
どうやら、ここで少し遊びたいらしい。
「クイン、一般の冒険者もいるから気をつけてな?一応従魔とわかるようにバンダナを巻いていくね」
バンダナを巻いたクインはふらっと林の方へと飛んで行った。・・・さっきグラスビーがたくさんいた場所に飛んで行ったのは、気のせいだよな?
クインと別れた後は時間が惜しいので、全力で走る。草原を身体強化で走り抜ける爽快感がたまらないほど気持ちよくて、気づけば次の階に行く階段に着いてしまった。
本来であれば半日かかるような道のりも、魔力にものを言わせて身体強化したおかげで30分で走破できてしまう。まぁ、空間把握や気配察知のおかげで特に気張る必要が無いのと、草原エリアゆえの特性か罠が全く無い。
それゆえの30分というわけだ。
・・・だとしても、ここまでくると流石に人辞めてるような気がするな。でもまぁ、便利なのには変わりないか。
次の階も草原エリアだったので颯爽と走り抜ける。一応宝箱が無いか空間を把握しながら走ってるけど、さすがにこんな上層にはもう残っていないらしい。
そこから走り続けたらいつの間にか10階に着いていた。冒険者の人も途中いたけど、バレないように走り抜けたから大丈夫だよね?
「にしても、ボス部屋までもが草原とはな。んで、雰囲気のある黒い狼が1匹・・・。確かブラックウルフとかいう奴だよな。あとグレイウルフ、それにレッサーウルフが複数体ずつね。ここまで数が多いと面倒だな」
親玉と思われるブラックウルフにその部下のグレイウルフ、そして雑魚のレッサーウルフの混成部隊が一つのボスということらしい。
頭で考えていると、ブラックウルフが指示を出したのかウルフたちが迫って来るが、明らかに練度が高い。野生でいる奴らよりも戦闘のみに特化したような印象を受けるのは、さすがは迷宮の魔物か。
四方から噛みつきにくるのを体術のみで躱しながら、木の杖で頭を砕いて行く。魔力を込めた杖は鋼鉄並みに硬いのでそうそう折れることもない。
魔法を使わないように戦ってると気配察知に引っかからないが、空間把握に引っかかる奴がいたので前に思いっきり飛ぶと、さっきまで立っていたところにブラックウルフがいた。
おいおい、さっきまであそこにいなかったか?!気配察知にも確かにそこに・・・!
視線をやるとそこには黒い靄のようなものがあり、ふわっと消えた。
存在を偽れるってわけかい。ちょっと厄介な隠密系の能力があるみたいだが、生憎だったな。お前よりもすごい隠密能力のある魔物を知っているんでね!
そうだ。体が大きくなったことで、ちょっとだが前の世界で教わった杖術が使えそうだな。
集中。目を閉じて、敵が間合いに入る瞬間を狙う。
《杖術 太刀の型 紫電》
簡単に言うと、雷のような速さで抜刀術のように振り抜くだけの技だが、この世界では少しだけアレンジしてみた。雷属性の魔法を纏わせて本当に雷撃のような一撃に変化させたのだ。まぁ、子供の体故に限界があるから魔力を纏わせたってのが本音だな。
ん?確実に首を落としたと思ったのだが、少し浅かったか?まだ、この体の大きさに慣れきれていないのが要因だな。もっと練習しなきゃ。
でもかなりダメージは与えられたみたいだな、明らかにさっきより動きが鈍い。残るのはグレイウルフ2体と手負いのブラックウルフのみ。
「まぁ、こんなもんかな。時間はちょっと早いけど今日はここまでにしとくか」
アクアランスを10発展開して放つ。一瞬にして戦闘が終了してドロップアイテムが出て来た。
「これは、外套か?黒くて見た目もかっこいいし俺好みだ。あとは宝箱だ」
中を開けると、小さな皮袋が目に入る。
・・・嫌な予感がする。
そーっと開ける。
「また、種か。いや、いいんだけどな?俺は農家だから・・・けどさぁ」
モヤモヤするが仕方ない・・・。今日はこの辺にしておくか。
ゲートキーパーの階には転移結晶と呼ばれるものがあるので、それで各階に行けるみたいだ。帰り際に6階層に戻ってクインを探していると、クインがフラフラと飛んで来た。・・・それも、グラスビーをたくさん引き連れて。
ええ!?クイン、なんで魔物引き連れて来たの!?
即座にアクアランスを展開させるが、クインが慌てている。グラスビーを守ろうとしているようだ。
「クイン、そいつらどうしたんだ?」
ふるふるふるふる!!
うん、焦ってるクインも可愛い。じゃなくてだな。舎弟にでもしたのか?たしかに、あんなに可愛いけどクインはジェノサイドビーの女王蜂だからな。
「クイン、今日は帰るよ。また連れて来てあげるからね」
ふるふる!
クインを回収して転移結晶で地上へと戻ると、例の衛兵さんがこちらに気づいて走って来てくれた。時間的にも余裕はあるし、公爵家には問題なく帰れそうだ。
「坊ちゃん、迷宮はどうだった?まぁ、2階層くらいには行けたかい?」
「いや、10階層までしか行けなかったよ」
「そうかそうか!まぁ、また次・・・え?は、ははは。冗談が上手だな」
ま、信じてもらえないのは当たり前か。所詮俺は10歳だし。ここでこれ以上言っても仕方ないか。っと、もう着いたのか。15分くらいしか歩いてないけど、意外と公爵家は近かったみたいだ。
「ありがと衛兵さん!」
「おうよ、執事の爺さんによろしくな〜!」
公爵家に入るとアルバスさんが迎えてくれた。
「ほっほっほ、どうでしたかな?」
「うん、まぁまぁかな?次は行くなら数日かけて行けるとこまで行ってみたい」
「それはそれは、楽しかったなら良かった。また、連れて行ってあげますぞ。そろそろ夕食の時間です。先にお体でも洗って来てはいかがですかな?」
体を見ると確かに少し汚い。風呂に入って上がると新しい服が用意されていたので遠慮なく新しい服を着る。
夜ご飯もかなり豪華なものが出て来たので、食べ過ぎてしまった。当たり前だがやっぱり料理長も料理うまいな。
次の日、やっと念願の食材が届いた。とは言っても量はそこまで多くない。これで一応考えていた料理を試作してみて、メイドたちが嬉しそうに食えばとりあえずは問題なしかな?
まずはイタリアンだ。
パスタは小麦からすぐに作れるし、問題はソースだな。んー、カルボナーラとボロネーゼかな?生クリームはお菓子作りするときに魔法でなんとかなるし、ベーコンもある。牛乳も卵もあるからカルボナーラは簡単につくれるか。どうせなら麺の種類を色々用意してみよう。
リングイネ、フェットチーネ、ヴェルミチェッリ、パッパルデッレくらいあればいいか?マカロニとかペンネも作りたいけどまた今度だ。
カルボナーラとボロネーゼを作ってメイドさんと料理長に食わしてみたが・・・
「師匠〜!!なんですかこのコク!濃厚なソース!美味い、美味いです〜!!」
・・・うん。問題ないみたいだな。
ピザも案の定、好評だった。・・・しかし、問題もある。ピザは時間が経てば硬くなっちまうんだよなぁ。これはナシかなぁ?
その後も中華、和食と試してみたけどどれも好評で、料理長はもはや神のような扱いをしてくるのがちょっとうざい。そして、メイドたちからやたらと誘惑というかアピールしてくるのも、嬉しいけど困りものだ。
「よし、お菓子もご飯もいい感じだな。料理長、今見せた料理の作り方を記したこれを渡しておくから、覚えておいて!料理自体の仕込みは前日からやるから手伝いよろしく!」
「任せてください師匠!他の料理人にも下拵えは手伝わせますんで!」
「うん、頼むよ!じゃ、おやすみ〜!」
部屋に戻ると、杖術の型の練習。いくつかまだ体が出来上がってなくてできないけど簡単なやつならできる。あとは自分の体にもっと慣れなきゃな。
寝たのは深夜を過ぎた頃だろう。時間にして3時間くらいか?我ながらよくやるもんだ。
でも、料理を作ってみて思ったがやっぱり俺の料理は、というか前の世界の料理はこの世界では新しすぎるのかもしれない。・・・なーんか、嫌な予感がするし、打てる手は打っといたほうがいいか。
幸いまだ時間はあるし金もあるし、今のうちだよなぁ。誕生日パーティには参加する必要ないし、料理を作ったのは俺だとバレないようにしてもらう契約だ。だとしても、おそらく情報はいつか絶対バレると思っておいたほうが賢明だろうな。
ケーキはさっき作ったのは全部メイドたちに食べられてしまったし、また作らないといけない。明日また作ってストックしておかなきゃ。あとは、準備したら街を回って色々みてみよっと。
・・・あぁ、流石にこの歳だと睡魔には勝てん。おやすみなさい。
ちょっとずつ更新していきます。
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