ep.22 アダムズ公爵家
公爵家のご令嬢であるアリスの誕生日パーティーが2週間後に開催されるから、それのお菓子を作ることになった。そして、一応材料の砂糖はたんまり作ってあるのでとりあえずは大丈夫だろう。
なので、とりあえず試しにいくつかお菓子を作ろうと思い厨房を貸してもらったのだが…
「お前のような子供にこの神聖な厨房を貸すことは出来ない!」
と言われている。彼曰くここの料理長らしい。たしかに彼のご飯をさっき食べたが、本当に美味しかった。
「しかし、アリスラート様からお菓子の製作依頼をされているのですが?」
「ふん。お前のような子供に何ができる。お嬢様が認めようと私は認めんぞ!」
ふむ、このままでは平行線だな。正式に依頼されている手前、はいそうですかと引き下がるわけにもいかないしなぁ。ここで、アリスに泣きついてもいいけど、それじゃあこの人達と禍根が残る。よし。
「わかりました。ではこうしましょう。もし私があなた方をあっと驚かせるような料理を作ったら、厨房の使用許可をください」
「王城の料理担当もしたことのある私をあっと言わせるだと?ふん、面白い。いいだろう、その代わりできなかった場合さっさとこの屋敷から出ていくんだな!」
よし、乗ってきたな。にしてもこいつ、なんでこんなに俺のことを目の敵にするんだ?そんなに子供が嫌いなのか?
大見得切ったはいいが、何作ろうかな。お菓子を作ってもいいのだがどうせならちゃんとした料理でコイツらを黙らせたい。どうやら、食材はおおよそなんでも揃っているみたいだし、足りないものは自分のものを使えばいいか。
牛乳、卵もあるな。決めた、『オーク肉の角煮』『カルボナーラ』『ポトフ』の3種類にしよう。
オーク肉は熟成させた最高の物がアイテムボックスに入ってるし、醤油も完成してる。
生クリームはないけど、牛乳あるから魔法でそっと生クリーム作ればなんとかなるだろ。チーズもいろいろあるな。パスタはまだこの世界に無いみたいだし、村にいるときに試しに作ったやつを使うか。
ポトフも自家製の特製ベーコンとソーセージを使って作ればいい味出るだろ。コンソメないけど、醤油風味でなんとかしようかな。あとは沢山の野菜を煮て旨味を出せば完璧かな。なんなら、魔法でコンソメ作れないかな。
調理しておよそ2時間、最初は馬鹿にしたような目で見てきた料理人たちも、途中からは珍しいのか食い入るように見てたな。最後の方なんて、色々質問してきたし。見たことない料理ってのはインパクトも強いよね。
「できました、オーク肉の角煮とカルボナーラ、特製ポトフです。温かいうちにどうぞ?」
角煮を作るときに圧力をかけるように魔法をかけてみたが、どうやらうまくいったようでかなりホロホロに仕上がっている。
パスタもアルデンテでいい感じだし、ポトフも野菜の旨味とベーコンとソーセージの旨味が混ざり合って最高に美味い。
「・・・・・」
「料理長?どうしました?」
「アウル君、いや、師匠!私にこの料理を!どうか教えてください!!先程は失礼なことを言いました!!何卒お許しを!あ、靴舐めますか!?」
もはや引くレベルの手のひら返しだが、それ程に料理が好きなのだろうな。俺としても嫌ではないが、この料理は割りかし魔法も使ったし特製の材料も使ったからなぁ。そこは我慢してもらうか。
「料理長、頭をあげてください。別に料理を教えるのは構いません。むしろ、俺もいろいろ教えてほしいですから、おあいこということにしましょう」
「師匠・・・。なんてお優しいんだ。不肖クックル、これからは師匠を目標に料理道を極めたいと思います!」
大袈裟な人だが、悪い人ではないんだろうな。
「あ、今作った料理教えますけど、他の人に教えたりしたらダメですよ?一応、これのレシピで稼いだりしようと思っているので」
「わかりました!しばらくの間は研究します!」
ふう、これでなんとか厨房を使えるな。
と思っていたらアリスがふらっと厨房に現れた。じっと見つめているのはさっき作った料理たち。
「料理長、これはあなたが?」
「いえ!これは師匠・・・アウル君が作った物ですお嬢様」
それを聞いたアリスは嬉々として、料理を黙々と食べ始めた。あっという間に全て食べてしまった。
俺の分無くなった・・・。
「ふぅん?アウル、あなた料理もできたのね。それも、食べたことのない料理で味もめちゃくちゃ美味しい。よし決めた」
嫌な予感がする。
「アウル、あんたにお菓子だけじゃなく提供する食べ物全てお願いするわ!!」
ほらね?厄介ごとだ。この体は厄介ごとを引きつけるスキルでもあるのだろうか。…いや、俺の自重しない性格のせいか。
じゃあ、仕方ないか!一回言ってみたかった台詞もあるしな。
「俺の料理は高いですよ?」…ふっ、決まった。
「いくらでも報酬は払うわ。誕生日パーティーに参加する全員をあっと言わせるような料理やお菓子を作りなさい」
おぉう…さすがは公爵家。経済力が段違いだ。ここまで言われたら俺もやるしかないか。
「わかりましたよアリス。当日は楽しみにしていてください。ということで今日以降は厨房に来ちゃダメですよ?」
「なんでよ!?」
「先程アリスは参加する全員と言ったので、アリスは主役として参加しますよね?つまり、そういうことです」
がっくりと膝から崩れ落ちたアリスは、料理のつまみ食いを楽しみにしていたようだが、我慢してもらわなきゃな。
「そういえば料理長、さっきはなんであんなに帰らせようとしてたんです?」
「うっ、えっとですね。実は・・・」
率直に言おう、逆ギレのような理由だった。要はクッキーに嫉妬して作ったやつを見定めてやろうと思ったらまさかの子供が来たかららしい。もっと言うとクッキーのせいでお菓子をアリスに作ってもため息ばかりされていたせいで、八つ当たりのようなことをしたのだとか。
・・・子供か。
と言うことで、2週間後に控えたパーティの料理とお菓子を考えないといけなくなった訳だが、1人で作りきれる訳ない。料理長や料理人の方々に手伝ってもらわなければ、確実に無理だな。・・・何人参加するかも確認しないと。
・・・驚愕の350人らしい。アメリカもびっくりするスケールだな。これでもかなり抑えた方だと言うのだから、貴族というのは本当に恐ろしい。
まずはお菓子だが、必須なのは誕生日用の大きいケーキだろう。あとは一口サイズの小さいケーキ等を5種類くらいか。チーズケーキ、アプルパイ、ロールケーキ、フルーツタルト、シュークリームがまだ作りやすいところか。あとは数種類のクッキーかな。さっき食料庫見たらりんごのような果物があったのでアップルパイが作れる。ちなみにアプルというらしいのでアプルパイなのだ。
・・・ここまでやってしまって大丈夫かな?今更感はあるけど不安になって来たぞ。一応、製作者は明かさないって約束も守ってもらわないとな。
「アリス〜、お願いがあるんだけど」
「あらアウル、なんのお願いかしら?味見ならいつでも受け付けるわよ?」
「まぁ、それは諦めてくれ。クッキーあげるから」
「わーい」
「じゃなくて、材料もなんでも集めて貰えるということなので、俺は過去最高に自重なしで色々作る予定だ」
「最高の誕生日パーティになりそうね?」
「それでなんだが、俺が作ったということは秘匿して欲しいんだ。面倒ごとは御免だからな。そして、アリスのためにこうして依頼を受けるのはこれが最初で最後だ。俺はのんべんだらりと過ごすのが目標なんでね」
「えぇ!?そんな!!」
「ちゃんと料理人たちが作れるようにしておくから心配するな。まぁ、その料理人たちもこの公爵家以外では作らないように言ってあるし、そもそも必須材料の確保は俺以外にはおそらく無理だから、そこまで心配は必要ないけどな」
「むぅ〜!」
膨れているアリスに一瞬ドキッとさせられたが、これ以上の厄介ごとは御免被る。まぁ、可愛かったけれども。
「まぁ、たまにならお菓子作ってやるから、それで許せ」
「ふふふ、絶対よ?」
やはり、女性の笑顔というのは本当にずるいな。ずっと見ていたくなってしまう。ましてやこんな美少女だとなおさらな。・・・ミレイに怒られそうだな。少し自重しなければ。
・・・その日の夜、アリスのご両親を急遽紹介されることとなった。というか最初から決まっていたらしく、ただ伝えられていなかったらしい。最初から教えてくれよ!心の準備が・・・。
食堂で座って待っていると、アリスとアリスのご両親が入って来た。お母さんはアリスの姉と言われれば信じてしまいそうなほどに若く見える。アリスが長女と知らなかったら絶対に勘違いしていただろう。次にお父さんだが所謂細マッチョな体格と甘いマスク、貴族というのは美男美女しかいないのか?
「初めまして。アリスの父のアダムズ・フォン・クラウドだ」
「私はアリスの母のアダムズ・フォン・フィオナよ。よろしくね」
「私はオーネン村のラルクとエムリアの子、アウルと申します。よろしくお願いします。言葉遣いがなっていませんでしょうが、ご容赦いただければありがたいです」
「構わん構わん、それに今まで辺境の農民とは思えない程度には喋れておるしな。とりあえず食事をしながら話をしようか。冷めてしまうのも申し訳ないしな」
ちなみの夕食のうち、一品だけ俺が作ったものが出されている。アリスにどうしてもと頼まれたので作ったのだ。
「む、今日は今までにない料理があるな。白いスープとはまた斬新な」
「そうですわねぇ。クックル、これはなんて料理なのかしら?」
「えっとですね、それは・・・」
やばい、料理名を教えるのを忘れていた。クリームシチューというのだが、伝わるわけないよな。口パクでいけるか?
アウル『これはクリームシチューと言います』
クックル『おれにぜーんぶまかせてくれないか』?
やばい、絶対伝わってないよ。あの顔はよくない顔をしている顔だよ。クックルのポンコツ野郎。
「これはアウル君が調理したものになりますので、アウル君に聞いていただければと」
グッと親指をあげてこっちにウインクを飛ばしてくるクックル。あとで覚えとけよ、料理名を教えなかったのは俺の落ち度だがそれ以外は俺は悪くないよね?!
「あー、これはクリームシチューという牛乳を使った料理です」
「牛乳!?牛の乳か!・・・食べないうちに何かを言うのは間違っている、よな」
アリスのご両親は意を決したように口へ運んだ。アリスは特に気にせず食べており、美味しい〜!と嬉しそうにしている。
「くりーむしちゅー?とやら、美味しいではないか!これは素晴らしい!」
「えぇ、これは素晴らしいですわ!」
喜んでもらえたようだ。その後は世間話をしつつも食事が終わり、特に深くは聞かれずに解散となった。途中、クラウドさんから圧力のような何かを感じたが、放っておいているとフィオナさんに叩かれていた。楽しいご家族のようだな。
「では、アウル様。今日から春まではここの客室をお使いください。何かご用がありましたら、このベルを鳴らしていただければメイドが来ますので、何なりとお申し付けください」
「何から何までありがとうございますアルバスさん。今日は少し疲れてしまったのでもう休ませていただきます。お休みなさい」
公爵家のベッドは驚くほど柔らかく、一瞬で眠ってしまった。
ちょっとずつ更新していきます。
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