ep.21 母からの手紙
母からの手紙にはこう書いてあった。
『親愛なるアウルへ♡
ヤッホー、これを読んでいるということはもう王都に着いた頃かしら?いや、アウルのことだからどうせ王都手前で読んでいるかもしれませんね。
どう?当たったかしら?そんなことはさておき、さて本題に入りましょう。あなたの才能ははっきり言ってオーネン村だけに止まるには少々大きすぎます。でもアウルがこの村を愛しているのは知っています。だから、成人するまでに第一歩として王都を見て来なさい。王都にあるルイーナ魔術学院を受けられるように公爵家の執事の方にお願いしてあります。
ちゃんと試験がありますが、アウルなら大丈夫でしょう。お金はアウルが稼いだものがたくさんあるのでその一部を執事の方に渡してあります。こっちで必要な分は確保してありますので気にしないでください。というか魔術学院に必要なお金は足りないので、頑張って稼いでね♡
ちなみに学院は3年課程で来年の春に入学だから、アウルが13歳の頃に卒業です。そこから2年間は世界を見て歩きなさい。そうして成人する頃には一度帰ってくるのよ?でも、寂しかったらいつでも帰って来ていいからね!
それから、ミレイちゃんはお母さんが色々と鍛えておくわ。完璧なお嫁さんにしといてあ・げ・る♡もし学院でいい娘がいたら、捕まえて来てもいいけどミレイちゃんも大切にするのよ!それじゃ、頑張ってね!
追伸 住むところは入学するまでは公爵家にお邪魔できることになっているわ!入学してからは寮に入るか家を借りるか好きな方を自分で決めてね! あなたの麗しのお母さんより』
読んだ瞬間に恥ずかしくなるくらいに絶叫してしまった。そして、猛烈に頭痛がして来たよ母さん・・・。
「ほっほ、手紙を読んだようですな。そういう事ですのでこれからもよろしくお願い致します。改めて、公爵家で執事をやっております、アルバスと申します」
「なんか、すみません。入学するまでですが、よろしくお願いします。アウルと申します」
「まぁ、入学と言ってもまだ来年の春の話でございます。おっと、屋敷が見えてきました。あれがアダムズ公爵家の王都での屋敷となります」
印象としては屋敷というのが生易しく感じる程度には豪華だし、何より広い。王都は建物も多く人もいっぱいいる感じなのに、ここだけ世界が違うかのようだ。
「なんというか、語彙力が低下するくらい凄いです」
「まぁ、公爵家ですからな。色々と示さねばならん所もある、ということです。では、着きましたので中へ参りましょう」
中に入っても全てが豪勢で、見るからに高そうな絵、壺、置物。ランドルフ辺境伯の屋敷も凄かったが、当たり前だがそれ以上だ。
「ここの部屋で少々お待ち下さい」
アルバスさんに案内された部屋は応接室のような見た目の部屋だが、この部屋だけで我が家より広い。なんだか悲しい気持ちになる…。
俺もいつかここまでとは言わないが、立派な家が欲しいな。憧れのマイホームというやつだ。
待つこと30分くらいでアルバスさんが戻ってきた。
「お待たせいたしました。お風呂の準備が整っておりますので、どうぞお入り下さい」
「え、お風呂ですか!?入ります!」
願ってもない!さすがに長い移動では汗を拭くくらいしか出来なかったからな。ここらでスッキリさせてもらおう。
アルバスさんに連れられて浴場へと到着したが、これは……。圧巻だな。
広さ30畳くらいはあろうという大浴場に、なみなみとたくさんの湯が張られている。
あの魔道具でお湯を張っているんだな。この量を賄える魔道具だと一体いくらするのか、考えるだけで懐が寒くなりそうだ。
体を丁寧に洗いお風呂へと入るが、やはり広いお風呂というのはいい。我が家でもそれなりの大きさがあったが規模が違うな。
ゆったりと体を温めて満足したところで、脱衣所へと戻ると数人のメイドさんが待ち構えているのが見えた。
「なぜここに?!」
焦ってはいけない。全裸だがここで狼狽えれば男として舐められる。そう、ポーカーフェイスだ。
「落ち着いてください、アウル様。私たちはアウル様のお世話をしにきた次第です。お体を拭かせていただきます」
ふむ、ポーカーフェイスは要練習だな。
失礼します。と、されるがままに体を拭かれた。というか、全身くまなく手入れされた感じだろうか。
途中、メイド達が俺の下半身を見て「まぁ、立派な…」などと言っていたような気がしたが、気のせいったら気のせいだ。
気づけば服もそれなりのものを着せられている。明らかに俺の服ではないけど良いのか?
「ではこちらです」
メイドに案内されるがままについて行くと、食堂のような場所へと到着した。
「お腹も空いていると思いますので、お食事をお持ちします」
待つこと5分くらいで、かなり豪華なご飯が出てきた。見るからに美味そうな食事に、思わず喉が鳴った。
焼かれている肉はミディアムレアで良い火加減、パンも外はパリッと中はふわっと、スープも喉越し抜群だ。呆れるほどに美味い…。
ゆっくり食事を堪能しているとアルバスさんがいつの間にか目の前にいた。
「?!アルバスさん、気配を消すのはやめて下さいよ。めちゃくちゃビックリしました」
「ほっほっほ、執事の嗜みですのでご容赦ください。さて、食事も済んだようですな。それでは、そろそろお嬢様に会っていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
とうとう来たか…。緊張するが、仕方ない。そのために来たのだ。
「はい、大丈夫です」
アルバスさんに連れられて、最初に入った応接室へと戻る。待つこと10分程でドアがノックされた。
入ってきたのは見た目12歳くらいの年上の女性。目を引くのはその縦巻きの髪と子供には似つかわしくない程度に大きい胸、さらにはその容姿。危うく見惚れるほどに綺麗で整った顔、心なしかいい匂いがここまで漂っている気さえする。
しかし、そのお嬢様は部屋に入った途端ピタリと止まり、アルバスさんと俺を行ったり来たりしながら見ている。
アルバスさんが頷いたと思うと、見定めるような目で俺を見ながら目の前のソファの前に立った。
「私の名前はアダムズ・フォン・アリスラート。アダムズ公爵家の長女よ。失礼だけど、貴方が本当にクッキーの製作者なの?」
「私は平民ですので、少々言葉遣いがなっていませんが、そこについてはご容赦ください。クッキーの製作者は私でございます。これ、よかったらどうぞ」
アイテムボックスを態々見せる必要も無いので、事前にクッキーを入れた籠を出しておいたが、正解だったようだ。
アルバスさんにクッキーを渡し、念のために毒味をしてもらう。
「大変美味しゅうございます」
無言でクッキーを受け取り、食べるお嬢様。
さくっ
「これよ!!本当にあなたなのね?!最初は子供だったから信じられなかったけど…。会えて嬉しいわ」
「はい、私も公爵家のご令嬢にお会いできて嬉しく思います」
「アリスでいいわ。親しいものは私のことをアリスと呼ぶの。だから、貴方にも特別に許可します」
「ではアリス様、クッキーがお気に召したようで何よりでございます」
「敬語もいらないわ。私が呼んだのだし、貴方は客人ということになっているの。我が家は平民を見下すような家ではないから安心して頂戴。だから、もっと砕けた感じで喋ってもらっていいのよ」
ちらりとアルバスさんに視線を送ると頷いているので、本当にいいようだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて。俺の名前はアウル、今年で10歳になりました。春まではここでお邪魔させてもらうと聞いてます。よろしくお願いしますねアリス様」
「ふふふ、もっと砕けてもいいのだけど最初はこんな物かしらね。ついでに言うと様もいらないわ。私も今年で10歳になるから同級生なのよ?」
?!この見た目で10歳だと?世の中というのは広いんだな…。この発育で10歳とは驚いた。実にけしからん。
「ではアリス、1つ聞きたいのですが、何故私をここへ呼んだのです?」
「ふふふ、気になるわよね。実はこのクッキーは今王都で流行っているお菓子なのだけれど、1つはこの美味しいお菓子を作る人に会ってみたいという好奇心、2つ目は、あと14日後に予定されている私の10歳を祝う誕生日パーティーで振る舞うお菓子を作っていただきたいの」
「誕生日パーティーですか」
「もちろん、報酬は支払うし材料もこちらで手配するわ。レシピを教えて頂いても構わないのだけど、恐らく2週間では覚えることは出来ても、完璧なお菓子まではたどり着けないでしょうから、できれば作って欲しいのよ。あ、レシピは絶対に口外しないし報酬もかなり弾むようにするわ!これで儲けたりもしないから安心してね」
誕生日パーティーとなるとケーキは必須だろう。まだ王都にどんなお菓子があるかリサーチしてないからなんとも言えないが、クッキー程度で感動しているんだから、ケーキは恐らくこの世界には無いだろうな。
それに、ここでなら牛乳も手に入りそうだし生クリームも頑張ればなんとかなるだろう。俺もついでに牛乳を大量に買い込んで収納しておけばいつでも使えるようになる。
お菓子だけじゃなく料理の幅も格段に上がるな。グラタンにシチュー、パスタ。なんでもありだな。
春までお世話になるんだし、ここで1つ恩を売っておくのもいいかもしれないな。
「わかりました。そのご依頼、受け付けましょう。詳細については後で詰めるとして、確認ですが牛乳、卵などは手に入りますか?」
アリスは分からないのかアルバスにちらりと視線を送る。
「はい、もちろん大丈夫でございます。何でしたら砂糖も手に入りますよ」
「あ、いえ、砂糖は自前のものを使うので大丈夫です」
途端に場が凍りついたように固まった。…なんだ?急にどうしたんだろう?
「ア、アウル様。もしかしてとは思いますが、王都に少量のみ流通している白亜の如く真っ白な砂糖はアウル様がおつくりになられているので…?」
・・・あ。そうか、内緒にしてたんだった。
「えっと、内緒にしてくださいね?」
「喋るわけにも参りません。あれは、どこの商会、貴族も喉から手が出るほどに欲しているものなのですから」
「アウル、あなた何者?」
「あはは、俺はただの貧乏農家ですよ」
こうして、アリスの誕生日パーティーのお菓子作りを担当することに決まったのだった。
ちょっとずつ更新していきます。
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