表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/177

ep.2 魔法と恩恵

 この世界で俺の名前は『アウル』と言うらしい。言語は日本語ではないみたいだけど、幸いなことになぜか理解できる。


どうやら女神様が調整してくれたみたいだ。


 体は思うように動かないけど、意識はハッキリしていると言う、なんとも不気味な赤ん坊になってしまっている。


しかし、体は本能に忠実に動くようで腹が減ったり生理現象などが起こると泣いてしまう。お腹いっぱいになると眠ってしまうし、赤ん坊と言うのは存外苦労が多い。



それでも母は嫌な顔ひとつせずに私の面倒を見てくれる。どこの世界も母の愛は変わらないようだ。


母の名前はエムリアと言うらしい。父親はまだ見ていない。外で働いているのだろう。



 ……いかん。また眠くなってきてしまった、ようだ……。




起きたのは夕方だった。起きると見知らぬ男が母と話しているのが見える。


目が合うと近寄ってきて私を抱き寄せるところからすると父のようだ。ちなみに名前はラルクというらしい。2人とも苗字がないところをみると貴族ではないのかな。


「アウル~、お父さんですよ~」


見た目はガタイのいいワイルドイケメンなのだが、恐らく親バカだろう。



2人の話を聞いていてわかったことだけど、どうやらうちは農家をしているらしい。そして今年は豊作でかなりゆったりと冬を越せるそうだ。


領主が善人で税は安く、民に優しい人らしい。これにはとても好感が持てる。贅の限りを尽くして、領民を家畜にしか思わないようなやつだったら、反乱を起こすところだ。


とはいっても地球と違って、アルトリアでは農家は貧乏な分類らしいが。



そして夜。


何気なく母が『光源ライト』と呟くと、直径10cmくらいの明かりが発生した。


これが所謂、魔法らしい。普通に考えれば魔力を消費して行使するものなのだろう。


うむ、これは実験が必要だぞ!




次の日の朝、母から母乳を飲ませてもらったあとは家でお留守番だ。一応近くにいるらしいが、それでも1人きりになったのは間違いない。


とはいっても喋れないので、心の中で詠唱するだけだが。


(光源!)


うん……とりあえず魔力がなんたるかを知るところからだな。きっと体内にあるに違いない。



・・・・・・瞑想すること約2時間。


はっ。


気付けば寝てしまっていたようだ。いかんいかん。気を取りなおしてもう1度瞑想。


すると、体の中にもやもやとする何かがあるのがわかる。


それは極僅かであるが、確実にある。なんとか右手に集めてみようと意識してみるも、全く上手くいかない。


魔力を動かそうとしていると、いつも気付けば寝てしまっている。赤ん坊の体というのはやはり寝るのが仕事なのだろう。


それでも諦めきれずに魔力を右手に集めるというのを続ける。というかそれくらいしかやる事がないのだが。



そうして起きては魔力を集めるという工程を続けるというのを2週間する頃に変化があった。


(やっともやもやが右手に集まった。これが魔力か)



やっと魔力を右手に集めることが出来たのだ。しかし、決まって魔力を動かすと直ぐに疲れて眠ってしまう。


今のところ集めたところで意識が遠のくので、それ以外は何も出来ていない。それでもめげずに魔力を動かす訓練を続けている。



そんな毎日を続けて半年がすぎる頃には、意識しなくても魔力が体中を血液のように巡るまでに成長していた。しかも毎日練習したおかげか、最近ではいくら練習してもなかなか疲れなくなってきている。


体が成長しているというのもあるかもしれないが。


今は冬を越えて春を迎えた。この村の冬はあまり雪は降らないようだけど、冬は父も母も普段は家の中でなにか作っていたようだ。冬の内職のようなものだろうか。


春になり、また父と母が外で働く日が多くなってきたため、やっと次の段階に移れるのだ。


目指すは『光源ライト』だ。というかあれしか知らないというのもある。


まだ上手く喋れないので、心の中で念じる。


(光源!)




・・・薄々分かってはいたが、何も起きない。魔法と言うのはなかなかシビアなようだな。


それでもめげずに練習を続ける。母の作りだしたライトをイメージしたりしたが上手くいかない。


どうしたものかと思ったが、それでも諦めずに続けること3日。


急に目の前がピカッと光ったかと思うと、目の前に直径20cmはあろうかという光球が発生した。


母のより大きい気もするけど特に気にならず、それよりも初めて魔法が発動できたことに感動してしまった。


(やった!魔法だ!とうとう、つかえ…た…ぞ…)


と言っても、最初のうちは発動出来てもすぐに寝てしまったんだけどね。でも、それ以降は暇さえあれば光球を何個も作って魔法の練習をした。


おおよそ3ヶ月くらいで光球は同時に20個も発生させられるようになった。しかも大きさは直径30cm近くある。


触ってみても熱さはないから冷光のようだ。蛍の光などと同じなのだろうか?


※※※


最近ちょっと困っていることがある。それは気温だ。ここら一帯は暑い地域らしく、夏はかなりの温度になるらしいのだ。母も日陰に私を置いてくれるけど、それでも暑いものは暑い。


どうにかならんのかと考えた結果、魔法を使えば何とかなるかもと思いたった。氷系と風系の魔法を使ってクーラーをイメージしてみた。


そもそもどんな属性の魔法があるのかも知らないのに、使えるわけはないか?当然上手くいかないだろうとおもいつつもやってみると、成功した。


は?


いやいやいや、ライト出せるようになるのにどんだけ時間かかったと思ってるんだよ・・・。



ふと思い立ち、いつもやっているライトではなく、LEDのイメージを思い浮かべながら魔法を念じると物凄く光った。


今までのライトが霞むくらい。


ここで俺は気付いてしまった。俺の体はどうやら魔法が苦手らしい。ただしそれはこの世界の魔法だ。


地球にいた頃のイメージを持って魔法を使うと、簡単に使えると言うなんともチートじみた力を持っているらしい。


女神様・・・こんなところに気を遣っていたのか。そりゃ、前世の記憶を持っていればそっちにイメージが行きがちだよな普通。



そこからは簡単だった。魔法名はオリジナルで『クーラー』とつけた。


父と母も仕事から帰るとなぜか家が涼しいことに気がつき、こちらを不思議そうな目で見てくるが、首をかしげて見つめ返すと二人して笑い合って終わる。


さすがに赤ん坊がやったとは考えないのだろう。それでも深く考えない親で良かった。



次の日からは頑張って色々な魔法を練習しようと思い立ったが、魔力が足りないのか発動しないことが多かった。


なので当面は焦らずに体内で魔力を巡らせたり、ライトやクーラーで魔法を練習することにした。これは恐らくだが魔力を使えば使うほど魔力は増えるだろうと考えたからだ。







そして4年の月日が流れた。



今日は俺の5歳の誕生日なのだ。この辺の子どもは5歳になると教会に連れていかれて洗礼を受けることができるらしい。



「アウル、今日は洗礼の日よ。準備は出来てる?」


「大丈夫だよお母さん、じゃあ、いってきます!」


母は5年も経ったと言うのに全くと言っていいほど老けていない。姉か?と聞かれればそうだと答えてもばれないくらいには若々しい。


ちなみに父はさらにゴリゴリになってしまっている。何を目指しているかは不明だが、今でも母とはラブラブなので夫婦仲は良くて安心だ。


そのせいで妹か弟が出来るかと思っていたが、金銭的に2人目を作れるほど余裕がないので諦めたらしい。意外と堅実なのか?



洗礼と言うのは、この世界の創造神から恩恵が1つもらえることを言うらしい。創造神というのはあの女神様だろう。


その恩恵は多岐に渡っており、恩恵によっては人生が決まるといっても過言ではないほどだ。


凄い人は剣聖という恩恵を貰い、国を建てたこともあるという。



ワクワクしながら教会に行くと何人かの子どもが集まっていた。この村には小さい教会しかない。もっというと神父様はこの近隣の村々を回っているためたまにしか会えないらしい。


そのため、誕生日を迎えた月の子どもが集まり、決まった日に洗礼をするのが慣わしとなっている。



「おや、アウル。今月で5歳になったのか。早いもんだなぁ」


「はい神父様、どんな恩恵がもらえるか楽しみです!」


「アウルは聡明な子だからな。もしかしたら凄い恩恵かも知れんぞ?」


はっはっはっはっ。と言いながら神父様は洗礼の準備を始めた。



次々と他の子たちの洗礼が始まり、俺の番が来た。



「汝アウル、これからの人生に創造神様のご加護があらんことを」


神父様が短い祝詞を言い終えると、自分の体が一瞬ぼやっと光り直ぐに収まった。


そしたらすぐに頭の中でどんな恩恵なのかが不思議と理解できた。


俺が貰った恩恵は「器用貧乏」だった。


・・・ん?



器用・・・貧乏。



なんだか俺の前の人生のような恩恵だ。すごい皮肉られている気がする。あの女神さまは実は俺のこと嫌いなのか?



だがまぁそこまで悪くないか。多趣味な俺としてはなんでもそこそここなせるというのは逆にありがたいかもしれないし。うん。きっとそうだ。


別にこの目から流れているのは汗だ。




・・・はぁ、泣きたい。あ、泣いてたか。





俺がこのスキルの凄さを理解するのはもっと成長した後の話だ。

ちょっとずつ更新します。

評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 【ep.1 転生】で女神から、てきとーに調整しておくと言われましたからね。 異世界なのに身体は地球仕様なのか…。 〉「そう・・・ですか。そんなことを言うのは貴方が初めてです。分かりました。あ…
[良い点] 器用貧乏ってのは確かに回りまわれば褒め言葉ですしね、損をしてるのは自分ですけど、周りからすれば役立つかもしれません。 いいものかも。
[一言] 転生を打診されたときには 「いえ、過分な力は争いを呼び寄せます。ですので私に加護はいりません」 と加護を断っていたのに、器用貧乏という恩恵を戴いて、泣いていると言うことは、転生してから、やっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ