ep.18 収穫祭
アダムズ公爵家の執事であるアルバスは昔の資料を調べていた。それはスタンピードについての資料である。
酒場のマスターが言っていたことについては当時少しだけ話題になったのを覚えていた。しかし実際には、ランドルフ辺境伯家が情報を制限したためにあまり表沙汰になることもなく、噂程度に終わっていたのであった。
「ほっほ、これですね。村の名前は・・・オーネン村ですか。聞いたことはありませんが、少し調べればすぐでしょうな」
村の名前がわかったアルバスは商人ギルドへと赴き、オーネン村への情報を募ったが有力な情報は出て来なかった。
それもそのはずでレブラントもある程度の根回しはしていたし、そもそもオーネン村へと行商に行くのはレブラントだけだったのであまり情報が出て来ないのも必然であった。
次に冒険者ギルドへと赴き、冒険者たちに依頼としてオーネン村についての情報を集めるとある情報が引っかかった。
「四つ目暴れ牛、ですか。ちなみにこの依頼について教えていただくことはできますか?」
「すみません。当ギルドの制約上、依頼者について開示することはできません。ですので、その依頼を受けられた方に直接聞くのが1番早いでしょう」
「ほっほ、ありがとうございます」
その後も相場より高い値段で情報を集めると、すぐに情報が集まりいつも四つ目暴れ牛を狩って納品している冒険者たちとコンタクトを取ることに成功していた。
「毎年オーネン村に四つ目暴れ牛を納品しているというのはあなたたちで間違いないですかな?」
「あぁ、間違いないぜ。俺ら『竜の息吹』が毎年納品している。おっと自己紹介がまだだったな。俺の名前はグレン、右のこいつがセレン、その隣がミーア、俺の左にいるのがリリアだ。依頼の話だったな。あの依頼はオーネン村の村長が出している依頼なんだが意外と依頼料がいいし、何よりあそこの飯はめちゃくちゃ美味いんだ。それこそ毎年楽しみにしているぐらいな」
「ほっほっほ、少々それについて詳しく聞いても?」
「えっとな、毎年秋の収穫祭に四つ目暴れ牛を納品するという依頼なんだ。それで、納品ついでに毎年収穫祭にお邪魔させてもらってるんだ。何年か前からか、一風変わった料理を出している子供がいてな?それがまた美味いんだわ」
「そうよ、私たちもあんなに美味しい甘味を食べたのは初めてだったわ」と、グレンの意見に賛成するエルフのセレン。
「ほっほ、なるほどなるほど・・。美味しいご飯を売る子供ですか。興味深いですな」
「そういやもう少しでその依頼が出される頃にゃ」というのは猫獣人のミーアだ。
「おお、確かに。あと1ヶ月後くらいに収穫祭か?なら、あと2週間も後に指名依頼が来るだろうな」
「四つ目暴れ牛の納品の際に、私も同行することは可能ですかな?」
「おっと、それは護衛依頼ということかい?」ニヤリとするグレン。
「えぇ、構いませんよ。依頼料はこれくらいで・・・いかがです?」
「!?お、おう、それで構わない。むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ」
こうしてオーネン村へと行く方法を見つけたアルバスはすぐに公爵家へと帰り、令嬢へと報告したのであった。
しかし、このやりとりを影から見ていた者がいたことにアルバスは気づかなかった。アルバスは冒険者ランクで言うところのAランク相当の猛者であり、気配に関しても並大抵じゃないほど敏感なのだが、それを以ってしても気づかせない実力を有している人間がアウルについて調べていた。
アルバスが公爵家に帰って報告をしている頃、その影から見ていたものも主人の元へと戻り報告を行なっていた。
「・・・・様、以上が公爵家の執事が掴んだ情報です。いかがいたしましょう」
「ふむ、そうか。まさかあの村がそうだったのか。引き続き監視を続けろ」
御意。と言うや否や影の者の姿はなく、部屋には主人のみが残されていた。
「ほーらシア〜、これがアイスバレットだぞ〜?」
ドガンッ!! きゃっきゃっ!
その頃のアウルはシアに魔法を見せまくっており、そしてシアもまたそれをみて喜んでいた。どんどんシアを魔法の道へと誘うアウルであったが、その成果は着実に現れていた。
まず、シアが魔法を怖がらなくなってきたのだ。それに加えてとうとうライトを発動させた。・・・そう、もうすでに魔法を使い始めてしまったのだ。
アウルも半ば冗談でやっていた部分もあったのだが、魔法を見せたり魔力を循環したりなどをしているうちにいつしかライトを使うようになったのだ。
両親もこれには驚いたが、自分の子がこんなに小さい頃から魔法を使えるということに感動していた。
この世界では恩恵がその人を形成する一つのファクターとされてるが、基本的にそれを公言しないという暗黙の了解がある。
その恩恵なしに魔法を使ったシアはかなり優秀な子供の可能性があった。・・・実際はアウルによって魔力を訓練され、環境が整ったゆえの出来事なのだが、それは誰にも知る由もない。
「それにしてもアウル、今年の収穫祭でも何かの店をやるのか?」と父が聞いてきた。
「うん、意外と人気だしミレイちゃんも手伝ってくれるしやろうと思ってるよ。今年は例年通りベーコンの直火焼きとピタパンサンドはやるけど、最近レブラントさんが来なくて白玉粉が手に入らないから、甘味はクッキーにしようかなって思ってるよ。砂糖なら相当量作ったからね」
「そうか、無理に働かなくてもピタパンの利益だけで毎年大金がもらえるんだから、普通に収穫祭を楽しんだらいいんじゃないか?」
「いや、一日中ずっとは店はやらないし、それにミレイちゃんも収穫祭で遊ぶお金と貯金もしたいって言ってたしね。それに、商売は楽しいから!」
「うふふ、根っからの商人ねアウルは。誰に似たのかしら?」
作物の収穫はいつも通り魔法でサクッと終わらせて、ついでにミレイちゃんの家の分も終わらせる。そして、ミレイちゃんに手伝ってもらって収穫祭時に売る用の商品を作っては収納するという日々がこの時期の定番だ。
今となってはミレイちゃんも料理が得意になってきていて、「アウルのお嫁さんになるには料理くらいできないとね!」というのが口癖になっている。
しかも、最近だとシアに魔法を見せたり教えたりする時にはミレイちゃんも参加している。単純にシアの面倒を見るのを手伝ってくれるというのもあるが、自分でも魔法を覚えたいそうだ。
その甲斐あって、今では簡単な魔法くらいなら使えるようになっている。適性があったのは水魔法だけだったけど、「生活が楽になったよ!」と言ってくれるのでこっちも嬉しい。
攻撃魔法も教えているが、実はあまり覚えがよくなくて、ウォーターバレット、アクアランス、アクアカッターぐらいしか覚えられていない。俺も研究に研究を重ねて魔法の種類は数えられないくらい覚えたのだが、やはりこの体は創造神の特別製のようだ。
逆に防御魔法と回復魔法には目を見張るものがあって、俺も一緒になって練習するくらいにはすごい。
魔力量も訓練の賜物なのか、いつも収穫祭に四つ目暴れ牛を納品しにくる冒険者と比べても少し多いくらいだ。
「じゃあ、ミレイちゃん今日はここまでにしようか」
「うん、今日もありがとうアウル。じゃあねシアちゃん」
シアもミレイちゃんにはかなり懐いているなぁ・・・。ミレイちゃんは今年で11歳。どんどん可愛くなってきていて一緒にいると本当にドキドキするんだよな。俺には勿体無いくらい良い子だ。でも、俺は成人したら村を出て色々見て回りたいんだよなぁ。・・・付いてきてくれるかな?
まぁ、今悩んでもしょうがないか。それにしても俺もとうとう10歳かぁ。あと5年もしたら成人だし、今後どうするかを考えなきゃな・・・。
色々考えることがあるが、なんやかんやとクッキーを作ったりピタパンサンド、ベーコンを作ってをしているうちにあっという間に収穫祭前日になっていた。
最近のオーネン村の収穫祭ではアウルの出す屋台がある種の楽しみになってきている。元々は小さい露店から始まったのだが、人が捌き切れないということで村の大人たちがわざわざ簡易なテントや屋台を作ってしまった。しかも、近隣の村にも店の噂が広まりわざわざ遊びに来る人が出る始末だ。手伝いもミレイだけでは足りないので、同年代の女の子が手伝ってくれている。同年代の男の子は手伝ったりはしない。昔、ミレイに惚れている男の子がアウルに喧嘩を売るという一幕があったが、アウルを怒らせる言葉を言ったためにボコボコにされたのだ。
まぁ、この話はいずれ語られるとして。
そんなわけでアウルの周りには女の子が多いのだった。それを楽しそうに見る両親とは裏腹に、ミレイは良い気がしていないのだがアウルはそんなことに気づくはずもなかった。
「アルバスさん、着いたぜ。ここがオーネン村だ。俺たちはこれから四つ目暴れ牛を村長に届けに行かないといけないのだが、どうする?」
「そうですね、もしよろしければ私も付いて行ってもよろしいですかな?」
「まぁ、この村の人たちは良い人たちばかりだから大丈夫だと思うぜ。それじゃ行こうか」
荷台に四つ目暴れ牛を積んだ馬車が村長宅へとつくといつものように村長が出迎えてくれる。
「グレンさん、いつもありがとうございます。今年の仕事も完璧ですね」
「村長さんお久しぶり。悪いけどここにサイン頼むわ」
「はいはい、そういえば今年も収穫祭に参加されますか?参加するなら今夜はいつものようにうちに是非泊まってくださいな」
「お、すまねぇな。今年も参加させてもらうよ!今年もあの坊主の飯が楽しみでな。わざわざいっぱい買うために小さいアイテムポーチを買っちまったよ。ははははは」
「あぁ、アウル君の屋台ですね。あの子のご飯は本当に美味しいですからね。おや?そちらさんは初めて見ますな。初めまして、この村の村長をやらせてもらっております、ムルガと言います」
「ご丁寧にありがとうございます。私は公爵家の執事のアルバスと申します」
「公爵家?!そ、そんな高貴なお方の執事様がこんな辺鄙な村へ何用で?」
「ほっほっほ、公爵様の御令嬢がクッキーなる食べ物にはまってしまいましてな。それを買いに来た次第ですよ」
「おお、そうでしたか。私もアウル君にもらったことがありますが、あれは本当に美味しいですな。確か今年の甘味はクッキーを売るとアウル君が言っていましたよ」
「それはそれは僥倖です。ここまで来た甲斐があるというものです」
「執事様も今夜は是非我が家へ泊まっていってくださいな。生憎、この村には宿がありませんで」
こうしてアルバスはオーネン村にて、クッキーの製作者にたどり着くことができた。クッキーを買うためというのも嘘ではない。しかし、公爵令嬢のお願いは製作者に会うことであったためアルバスは悩むことになる。
「大人であれば話は早かったのですが、まさか子供だったとは・・・。何歳かまでは聞けませんでしたが、これはまたどうしたものですかね」
さすがに子供1人を連れて帰るわけにも行かず、悩み始めたアルバスだがとりあえず明日会ってから考えようと決めたのだった。
「ジモン!その話は本当なの!?公爵家の執事がオーネン村に入ったというのは!」
「はい間違いありません」
「・・・明日は確かオーネン村で収穫祭があるはずよね。私も行くわ」
「畏まりました。そのように準備しておきます」
いち早くアルバスがオーネン村に入ったことを聞きつけたランドルフ辺境伯執事のジモンはミュール夫人へと報告していた。
そして、晴天に恵まれた収穫祭当日を迎えた。
ちょっとずつ更新していきます。
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