ep.177 ヨミの故郷
「……ヨミはどうしたの? なんか急に森を切り拓いてるみたいだけど」
「触れないであげて」
永久凍土から帰ってきてからというもの、ヨミがなにかに取りつかれたように森を切り拓いている。さすがの攻撃力によりあっという間に切り拓かれてしまった森。ミレイちゃんに聞いても教えてくれないし。一体どうしたと不安になったが、ヨミは心なしか楽しそうな顔つきだったので、ひとまず触れないことにしておいた。
第五の封印も無事に回収できた。強大な敵が出てくるかもと思ったのだが、出てくる様子は無かった。むしろ何事もなさ過ぎて不安になってしまったくらいである。しかし、この調子ならばすぐにでも残りの封印を巡り、欠片を集めてしまえばいい。
第二王子が暗躍しているのは間違いないが、今の俺たちは今までとは比べ物にならないほどパワーアップしているのも事実。それを第二王子はどこまで把握しているかと思うと、おそらく把握していないのではないだろうか。孫悟空を倒したことからある程度の実力は把握していると思われるが、正確な強さがバレていない今が好機とも言える。
というわけで次なる封印へと訪れる準備をしているところだ。……ヨミを除いて。触らぬ神に祟りなしとも言うし、今は次なる封印へと専念するだけだ。
「次の封印は――交易都市シクスス。あれ、ここって」
「私の生まれ育った都市、ですよ」
「わぁ!? ヨミ、戻ってたの?」
「ただいま戻りました」
いつの間にか戻っていたヨミの気配に気付けなかった。自分の家にいるということもあり周囲の感知をしていなかったことを考慮しても明らかにヨミの気配は希薄だった。さすがに成長しているのは俺だけじゃないということらしい。まぁ、あの人外集団に鍛えられたとあればこれほどの実力がつくのも頷ける話ではあるけれど。
「次の封印の場所だけど、ヨミは詳しいかな?」
「シクススであれば私が案内できると思います」
「都市の中だけど、心当たりはあるかな?」
「そうですね……、怪しいと思われる場所の候補にいくつか心当たりがあります」
「じゃあそこを重点的に調べようか」
「わかりました」
「出発は――明日でどう?」
「うふふ、調整しておきますね」
いつものヨミに戻ったようだ。
ちなみに、後から聞いた話だけどヨミが切り拓いた森に大きな牧場ができたらしい。飼っているのは普通の牛や豚に加え、牛型の魔物も多数いるんだとか。普通の動物と魔物は共存できないのが常識なんだけど、なぜかこの牧場は共存することができているらしい。霊樹による影響なのか、はたまたヨミの手腕によるものなのかは不明だ。従事しているのはメイド部隊と、村の中で働きたいと言った女性たちらしい。
噂ではここで働くと一定の強さを身に着けられるんだとか。ヨミが何をやっているかは分からないが、村の女性たちと商人からは好評らしいので黙認している。俺も美味しい牛乳が飲めるのはありがたいからね。
……ランドルフ辺境伯に勝手に森を切り拓いたことを報告しないといけないな。はぁ。
「というわけでやってきた交易都市シクスス。辺境伯に相談したら手形を貰えたので、自由に通ることができるよ」
「持つべきものは権力者の知人ですね」
「今回貰えたのはたまたまだけどね」
ルナは権力者の直系だけあって言いたいことがすぐにわかるらしい。もちろん、たまたまという名の賄賂であるが。
「それにしても、人も多ければ店も多いね」
「交易都市ですからね。今はアウル様の発明なんかもあって王都もかなり賑わっていますが、もともと商売だけならシクススのほうが賑わっていたんですよ」
「言葉だけだと信じられなかったけど、この光景を見れば納得だよ」
「私もここで商売をするのが夢だった時期もありました。そんな境遇ではありませんでしたが……」
「ヨミ……」
「ふふふ、でもいいんです。こうしてアウル様やみんなに出会えましたから!」
「いろいろ落ち着いたら、ここで店を出してみるのも面白いかもね」
「あら、それは素敵です! うふふ、また一つ楽しみができました!」
行き交う人、人、人。確かに王都に負けないくらいの人の数だ。お祭りなのかと思ってしまうくらいに人が多い。それ以上に、明らかに商人だと思われる人の数も尋常じゃない。屋台もさることながら、露店ではない店持ちの商人たちが多いのだ。ヨミも昔はここで暮らし、商人になることを夢見ていたのだな。今すぐには無理でも、落ち着いたらいろいろやりたいことをやらせてあげたい。みんな若いんだし、まだまだ好きなことをやったっていいはずなのだ。
シクススは各大都市と呼ばれる街からの流通が集まりやすい箇所にあるため、交易都市として発展した街である。




