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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
最終章 のんべんだらりな転生者
176/177

ep.176 『第5の封印』

『父様~♪』


 ルフが嬉しそうに俺の周りを羽ばたいている。それに追随するように白く淡い軌跡ができている。ルルーチェ曰く、あれはルフから溢れ出る神性なんだそうだ。よくわからんが、別に悪いものではないらしいので、このまま放置する所存である。なお、ノラさんがあれを浴びると絶叫するくらいには聖なるものらしいので、留意が必要だ。まぁでも今となってはノラさんも霊獣の仲間入りをしているので、死ぬことはないらしい。あの神性はルフが嬉しいときに勝手に出てくるものだそうだ。ただ、それ以上はそもそもルフの存在自体が稀なので、あまり解明されていないとのことだ。あのハイドラでさえわからないことなので、俺たちにわかるはずもなく諦めるだけだ。


「さて、黒幕も分かったことだしみんなの実力も把握した。なんなら実力自体向上しているんだから、こんなところでヤキモキしている必要もないだろう。さっさとみんなで封印に赴いて欠片を集めて行こうか」


 今となってはルナもイナギも欠片の吸収はお手の物だ。吸収した欠片が増えるごとにイナギも強くなっているようだし、存在力も上昇している。そんな時に師匠たちに鍛えてもらったんだから鬼に金棒ってものだ。本当はもう少し五苦行山で修業したかった気もするけど、それは追々でいいだろう。


「アウル様、それでは第5の封印に行きますか?」

「そうしようか。場所は――」

「永久凍土ファイブル、ですよね? ご主人様」

「おそらくね。正確な場所は――」

「大陸の端っこだよ、アウル」

「よし。実は準備もしてあるんだ。凍土でも動けるような防寒着をね」


 行くのはグラさんに頼んで転移盤で行く予定である。さすがに大陸の端っこまでは行けないので、転移盤を設置してもらっていくことにした。行くのはもちろん少数精鋭。永久凍土ファイブルは出てくる魔物もさることながら、劣悪すぎる環境がえげつないことで有名な土地なのだ。あそこは、あたり一面は雪で覆われており、不規則にブリザードが降り注ぐような危険な場所でもあるらしい。行くのは初めてだが、どんな土地なのかは事前にレティア様から教えていただいている。


 俺は防寒着がなくても魔力でどうにでもなるが、不意な事態に備えるためにも魔力は極力温存するべきだ。それに、凍土で半そでを着ていては雰囲気も台無しである。みんなで同じような衣装を着るのも趣があっていいものだ。


 用意したのは温かい毛皮で有名な凍土の猿系魔物のヘルモンキーのものを用意している。もちろん用意したのはノラさんだが。ノラさんが俺を探して旅しているときにたまたまヘルモンキーを倒していたので、毛皮を譲ってもらったのだ。それをいつもの如く加工してコート風の防寒着にしてもらった。……我が家はことコートにおいては困ることは無いだろう。


「アウル様、出てくるのはアイスリザード、ヘルモンキー、バラムンクという魔物です」

「バラムンク?」

「バラムンクは牛型の魔物で異常に硬い蒼い皮膚が特徴です。防御や魔法防御が高い上に、攻撃力も圧倒的です。弱点はスタミナが少ないため、長時間の戦闘ができないということでしょう。実質、凍土における頂点と言っても過言ではないです」


 バラムンクという魔物は凍土にしかいない固有種の魔物だそうだ。ゴブリンやオークなどは比較的どこにでもいるのだが、たまにこういう魔物の固有種がいるのだ。そしてそういった魔物は必ず通常の魔物よりも強いのだ。アイスリザードも弱い魔物ではないが、凍土以外にも普通に確認されていることからバラムンクのほうが圧倒的に強いらしい。


 みんなとても勉強熱心なのは関心なのだが、いかんせん最近は戦闘狂の雰囲気があるため、凍土の生態系が破壊されないかが心配だ。それくらい今の俺たちは強くなっているのだ。力にはそれ相応の責任を持たねばならないだろう。それが嫌ならひっそりとしているべきだろうしね。


 凍土を歩いていくのは面倒なので、何か乗り物になりそうなのは――――ヴィオレだな。クインは乗るには小さいし、ノラさんも無理だろう。グラさんたちにお願いするのも気が引ける。となると、四足獣系且つ寒さにも耐性がある元ベヒーモスの王角(ルティーヤ)ことヴィオレが適任だろう。ヴィオレにはあとでお願いすれば二つ返事で了承してくれるだろう。最近はシアの相手ばかりで旅に出たそうだったしな。





 というわけで来ました凍土。ヴィオレの背に乗って探索しているが、想定外のことが起こった。俺も完全に頭から抜けていたので仕方ないが、ヴィオレは種族進化したことによってとんでもないほどステータスが向上しているのだ。まじで、従魔だけで国盗りができるほどに。これはつまり、魔物の中でもトップクラスの実力を誇っているということでもある。魔物というのは強さに敏感であることがあるが、環境が厳しい場所ではそれがとりわけ顕著に出るらしく、ほら今もまた――


「ねぇアウル……バラムンクもヘルモンキーも走って逃げていくんだけど?」

「ご主人様、バラムンクって美味しそうですね」

「アウル様、とりあえず3匹ほど捕まえてきましょうか。ついでに家で飼ってもよろしいですか?」

「ヨミよ、飼ってどうするつもりだ」

「繁殖させて定期的に食べられますよ?」

「さいで……。まぁ、好きにしてくれ」


 バラムンクは牛系の魔物だから美味いだろうが、寒くない場所でも生きていけるのか定かではないから実験が必要だな。強さもあるから、手懐けておけば戦力になるかもしれない。非常食兼戦力と。いや、さすがに可哀想な気もするが、その辺はヨミに任せよう。しっかし、ヨミに酪農のような趣味があるとは思わな――


「ふふふ、この足場の悪い中をあの速度で走れるのだから、四肢引き裂きの拷問にも十分使えそうですね……」


 ――わぁ、聞かなかったことにしよう。だめ絶対。あんないい顔して言ってることが悪魔もドン引きの内容なんだもん。



 バラムンクを数頭……いや、数十頭捕まえながら探索していると凍土の中にひと際大きな山があり、その一部に洞窟らしき穴が開いていた。どうやらあそこが封印のある場所の入口のようだ。特に門番のようなものはないようだが、この環境だけでも十分に脅威だからSランクの冒険者でもかなり大変だろう。


 俺たちはヴィオレに乗っているから魔物も襲って来ないし、指輪の障壁を展開しているおかげでブリザードは無効化されている。寒さについてもヘルモンキーの毛皮コートのおかげで気にならない。そもそも、レベルが高いと環境への適応能力も上がっているらしいし、五苦行山での修業の成果も相まってか俺にはこれくらいの環境だとあまり苦ではない。みんなもレベルが上がっているおかげか問題はなさそうだ。


「アウル様、ここからは私とムムンにやらせては頂けないでしょうか?」

「それは構わないが……何かあったら介入するぞ?」

「ふふふ、もちろんです」


 ヨミがムムンを指名した上でやらせてほしいそうだ。特訓の成果を試したいのかね。



SIDE:ヨミ


 私の武器たちが戦いたいと疼いている。私とルナの武器は、みんなと違って唯一黒武器ではないものを使っている。ドワーフの名工によって打たれたものであり、アウル様から頂いた希少な鉱物や素材をふんだんに使っている。そのおかげか、使い込んでいくうちに意思のようなものを感じられるようになってきた。


 意思と言っても明確なものではなく、なんとなくそんな感じがする、といった程度のものでしかないが、戦闘態勢に入ると「戦いたい」という何かが頭の中に流れてくるのだ。最初は気のせいかとも思ったけど、気のせいではないということはすでにドワーフに確認してある。


「ウォーティ、シルフ、今日は目一杯暴れられますよ?」


 さすがに洞窟の中までヴィオレに乗って行くことができなかったため、洞窟内からは歩きである。そのため、体躯の大きなヴィオレがいなくなった今、気配を薄くしている俺たちに喧嘩を売ってくる魔物が増えてきた。愛剣に声をかけ、目的の場所へと行くために洞窟内にいるアイスリザードを切り伏せていく。


「さすがはヨミ姉さん。ムムンも負けていられないです」


 ムムンが私に張り合うように剣を振るう。ムムンの剣はファルシオンという癖のない片手剣のため、使い勝手がとてもいいようだ。耐久性も高いため武器としてはかなり有名だ。もともと戦い方が平民とは思えないほど上手な子だった。体捌きは未熟なところがあったが、仲間になってからこの2年間で体も成長し、その未熟だった体捌きも一流と呼べるものになった。


『我が主の仲間たちは、人とは思えぬほどの強者ばかりであるな』


 ヴィオレが私たちを褒めるが、かくいうヴィオレはその立派な角で、バラムンクを紙でも破るかのように引き裂いていた。さすがはSランクと呼ばれる魔物の中でも、アウル様が拾ってきただけある。その実力は今の私と同程度かそれ以上だろう。


「ふふ、みんな本当に強くなってるわね。私も負けていられないわね」


 強い敵が出てくるかとも思ったが、アイスリザードが出てくるだけで第二王子の手下などもおらずあっという間に神殿に到着してしまった。ボスは誰だろうとワクワクしていたのだが、ホワイトワイバーンが10匹とホワイトバラムンクが1匹いるだけで、それ以外にはいなかった。一応バラムンクの亜種がボスらしいが、明らかに今までのボスよりも劣る。


「いっけぇ!! 時雨雷槍(しぐれらいそう)!!」

「あっ……」


 ムムン……なんて恐ろしい子……あっという間に倒してしまったので、愛剣であるウォーティとシルフの出番がほとんどないまま戦いが終わってしまった。


「ムムン、よくやったな。よく鍛えているのがわかるぞ」

「えへへ、若様のためですから!」


 しょぼんとしているうちにムムンがアウル様に褒められていた。あれ……私の出番は!?


 バラムンクをたくさん持って帰って強大な牧場を築いてストレス発散しようと決めた瞬間だった。

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