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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
最終章 のんべんだらりな転生者
174/177

ep.174 比武

比武=武芸を競うこと

「次は――ふむ。最後はバトルロワイアル、というのはどうだ?」

「それもいいかもしれないわね。試合形式はあくまでも比武ということにすればいいでしょう」


 ハイドラとルルーチェが話し合った結果、最後の戦いとして俺、ミレイちゃん、ルナ、ヨミの戦闘となった。戦闘形式は比武。危険度は下がることで、決め手にかける戦いとなる可能性がある。アセナに対して空気成分を変質させる魔法を使ってしまったが、比武では使うことができない。比武はあくまで腕試しの意味合いが強く、威力よりも技術や読み合い、騙し合いに重きを置く。


 比武とすることで俺が危険な魔法を使う選択肢を潰したのだろう。いや、さすがに俺もそんな何回も使うことはないんだが、信用がないな。まことに遺憾である。そして、俺だけではなく全員の使う魔法の威力が強すぎるため、ハイドラの張る結界が突破される可能性も考慮したのではないかと思っている。俺だけならば大丈夫にしても、全員が本気の一撃を放てば危うい可能性がある、と。


 ハイドラがそれくらい凄い結界を張れることも凄いのだが、それ以上に俺たちがそれくらい成長できたということに感動してしまう。俺も魔力制御のみならず、もちろん近距離戦闘も鍛錬を積んでいる。空天は良くも悪くも身体機能に特化した種族だったため、こと近接戦闘に関しては化け物じみた域にいた。それがルルーチェとの鍛錬を経てどんどん昇華されたのだ。そんな空天と一緒に鍛えた俺の杖術も、一段階――いや、二段階くらいは昇華したのではないだろうか。


「うふふふ、地面の味を教えてあげますね、アウル様?」

「ご主人様、先ほどの雷体纏装、あとで教えてくださいね」

「ブルー、出てきて。あれ、やるわよ」『御意』


 気合が違いすぎるだろ。しかも、さっきまでは覇気を隠していたのか、漲る力を感じるぞ……? こりゃ、さすがに負けるかもしれんな。現状のままだと負けるかもしれないと思い、ルルーチェに視線を向けてみたのだが、両手でばってんを作っていた。魔力循環阻止の指輪はやはり外してはいけないらしい。いや、鬼か。言っちゃなんだが、この三人は今までの仲間とは段違いに強くなっているように感じる。アセナもかなりの進歩を感じたが、まだまだ経験不足に思う。それに、俺の力を測り損ねていたのも大きいだろう。


 しかし、あの3人は違う。俺の実力を今までの戦闘でかなり把握しているだろうし、戦闘のための作戦も立てているだろう。その点、アセナはいい意味で俺の全力に近い力を引き出していった。奥の手の一つである『雷体纏装』も使わされたし、俺の切れる手札はあまり多くない。なにより、比武形式でのバトルロワイアルのため、俺は杖術をベースに補助に魔法を使うくらいで留める必要がある。


 強すぎる魔法を使えば比武の域を超え、俺の反則負けとみなされることも考えられる。それはあの3人にも言えることだが、俺の勘だと全力で来る気がしてしまう。俺が止められると絶対的に信頼している眼をしているのだ、そう思っても不思議ではないはずである。


「3人とも、比武だからね。そうだよね、ハイドラ?」

「…………」

「え、ちょ、ハイドラ様!? ハイドラ様~~~!?」

「では、はじめ!!」


 無情にも、俺は比武形式で、3人はまさかの全力戦闘という構図が作られてしまった。ハイドラはそうまでしてルルーチェに勝たせたくないのか!? ルルーチェはこの状況を理解しているはずなのに――


「アウル~~、負けるのは許さんぞ~~!!」


 ――まっこと、暢気なものである。ルルーチェもまた、俺が負けないと絶対的な信頼をしている。いや、あれは負けたらどうなるか分かってんだろうな?といっているのだろう。やばい、負けられない。これは本気で負けられないぞ!?


「覚醒『魔性』」とヨミ。(もともとは『色気』)

「覚醒『愚直』」とルナ。(もともとは『真面目』)

「覚醒『機知縦横』」とミレイ(もともとは『効率化』)


 のちに聞いたが、この時3人が覚醒した恩恵を発表したのは、俺に対する敬意からだったらしい。俺の恩恵はすでに知られていたが、俺は彼女たちの覚醒した恩恵を知らなかった。そのハンデを無くすためだったらしい。まさにスポーツマンシップに乗っ取っている。これでは俺が言い訳をする余地すらない。あくまで誠実で、そして悪魔的に徹底している。これでは、俺が負けたら俺の実力がたらないということに他ならないのだから。こんな愚直で、そして俺を苛め抜く、臨機応変な対応はこの3人だからこそ出た言葉であろう。涙が出そうになるね、ほんとに。


「覚醒『蓋世之才』」と俺。

 なんとなく負けじと言ってみたが、俺の魔力はアセナ戦でけっこう消費してしまっている。覚醒した恩恵を十全に使えるかと問われると、捨て鉢な態度になるのはしょうがないってもんだ。もうここまできたら魔力枯渇でぶっ倒れることを承知でぶちかますしか――――そうだ……。俺は比武形式で戦わないといけないんだった……。


 あれ、詰んでね?


「うふふふ、アウル様、ご覚悟を――――瞳術『魅惑の波動』」

「痛いのは一瞬ですので――――神槍『破雷・光芒一閃』」

「ブルー、いくよ!! ――――鬼霊憑依(きれいひょうい)!!」


 みんなの奥義かっこよすぎでは? というか、ヨミ――――なんか、一段と綺麗になったな。足なんかスベスベだし、髪も艶々、お尻も……はっ!? 魔法耐性はかなりの自信があったのに、ヨミの瞳術に危うく意識を持っていかれる所だったぞ!!


「くっ……、瞳術が解かれたわ!!」


 目の前にはすでにルナの放った雷の槍が飛んできていた。強化魔法で極限まで高められた俺の動体視力でさえギリギリ視認できないレベルの速さ。空間把握と感覚強化を同時に発動して初めてとらえることのできる速さ。

 こういえば速く聞こえるかもしれないが、アセナの体捌きには圧倒的に劣る速さでもある。いや、この世界にこの速さをどうにか出来る人がどれだけいるかわからないが、避けられないわけではない。


「白眉の盾――なっ!?」


 白眉の盾を出したにも関わらず、まるで何も無かったかのように雷槍は直進してきた。まさに愚直とも言えるほど真っすぐな雷槍は、防御一切を無視する性能を持っているらしい。即座に白眉の盾では防ぎきれないと判断した俺は、真横にジャンプし避けたが、そこであり得ないことが起こった。


「ご主人様、光芒一閃とはつまり、ことが急激に、瞬時に変化することを意味する言葉なのです」


 そう、雷槍は俺をホーミングしてきたのだ。俺もホーミング系の技はたまに使っているが、防御一切を無視した攻撃などできやしない。つまり、この攻撃は対象に当たるまで追い続ける防御不可能な攻撃ということだ。それなんてチートだよ。瞳術で俺の意識を奪い、その隙に準備に時間のかかる雷槍を発射。さらにその間にもっと時間のかかる鬼霊憑依とかいうのをミレイちゃんがしている。未だに準備しているミレイちゃんはひとまず放置で、この雷槍をどうにかしないとな。


「避けることも防御も出来ないなら――攻撃するしかないよな?」

《杖術 太刀の型 斬魔の一刀・紅椿》


 魔を斬る一刀をまるで紅椿のごとく、魔に白筋を浮かび上がらせるように斬り伏せる攻撃。これもまた空天との修業で編み出した技である。如意金箍杖の能力を合わせ、重さを自由自在にすることで物理限界を超越した速度での攻撃を可能としている。

 数瞬の鍔迫り合い、ではないにしても拮抗の末に雷槍を消し飛ばした。


「お見事です、ご主人様――――しかし」

「アウルなら、タエラエル、ヨネ? ――――『穿て、水滴石穿(すいてきせきせん)』」


 いつの間にか準備を終えていたミレイちゃんは、雷槍に攻撃をした直後で硬直してほぼ回避行動ができない俺に向かって、禍々しいほどの魔力が込められた魔法――いや、大魔法を放った。ミレイちゃんだけではなく、水鬼であるブルーの魔力も伴った攻撃であり、方陣を得意とするブルーが何かしたのか明らかに魔力が倍増している。はっきり言って、あれ(・・)は今の俺では絶対に受けられない。万全だったとしても、あれは絶対に無理だと言い切れる。指輪を外してもいいのなら別だが、制限のある今の俺では受け切れない。

 この時点で、ミレイちゃんは五苦行山に行く前の俺を超えたことを意味する。ルナもヨミも確かに強くなったが、こと上昇率で行けばミレイちゃんには勝てないだろう。それもこれも、ミレイちゃんの覚醒した恩恵が凄すぎるからではないかと思う。

 

(洒落にならんぞ!!)


 真空の壁でも無理、白眉の盾も同様。水という攻撃なのに、すでに水という概念を覆している気がする。ルナの雷槍同様に、ミレイちゃんの攻撃には何かしらの効果が付いていると推測できる。防御一切無視は言わずもがな、もしかすると、迎撃すらも一切無視するかもしれない。回避そのものならば可能性はあるが、今この瞬間は絶対的に避けられない不可避のタイミングで発射されてしまっている。まさに見事な連携と言わざるを得ない。


 諦めようとしたとき、一つの妙案が浮かんだ。魔法により極限まで高速化されている俺の脳は、焼き切れるのではないかと思うくらいの頭痛を伴っているが、それでもいい。それくらい俺は負けたくないと、思っていたのだ。こんなときに使うのも卑怯だとは思うが、そうでもしないと勝てないという一種の賭け。負ければ俺の土手っ腹に大きな穴が開くことだろう。ルルーチェがすぐさま回復してくれるとしても、痛いのは間違いない。未だかつてないほどの大怪我になることだろう。さぁ、賭けに勝てるかどうか。



「ミレイちゃん大好きだ!!!! 心から愛してるっっっ!!!!」



 刹那の静寂。



「ふぇ……!?」


 僅か、ほんの極僅かな動揺が、ミレイちゃんの攻撃に大きなズレをもたらした。俺の土手っ腹を貫くはずだった攻撃は手元の僅かなズレとなり、俺に到達する頃には大きなズレとなって、俺のわき腹を掠めて駆け抜けていった。直後に聞こえたのはハイドラの結界を突き破り、闘技場に直撃しただろう轟音。


 恐る恐る振り返ると、闘技場の一角が見るも無残に吹き飛んでいた。ハイドラの結界を突き破るときに威力が減衰していなければ、もっと後方までもがえぐり取られていたことだろう。いや、こんなもの人に放って良いレベルの攻撃じゃないぞ。

 というか、俺に勝てばなんでも一つお願いできる権利がもらえるということから、3人が共闘しないと思っていた俺が甘かった。そんな権利よりも、3人は自らの成長を俺に見せたかったのだろう。俺が死を覚悟し、生きるか死ぬかの賭けに出るくらいにはやばかった、とだけ言っておく。


「え、えー……。比武形式なのに対し、致死攻撃の連携をとったヨミ、ルナ、ミレイは反則負けとする」


 さすがにドン引きしたハイドラが、3人の負けを発表した。


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~!!?!」」」


 3人の絶叫が、闘技場に木霊したのだった。

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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