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ep.17 忍び寄る貴族の手

ここはライヤード王国王都。


公爵家の屋敷のある一室の令嬢が、巷で噂となっているクッキーというお菓子をやっと手に入れた。一応最上位の貴族家であるため、市井で密かに流行っているというお菓子を買い占めるということはやろうと思えばできたのだが、外聞があるために断念していた。なので執事に買い物を頼んで買ってきてもらったのだが


「これがクッキーなのね、見た目はどこにでもありそうな焼き菓子のようだけど・・・。これがそんなに美味しいのかしら」


さくっ


!?!?!?!?


「お、美味しい・・・。驚くほどに優しい口当たり、それなのに口の中に広がるはちみつと砂糖のまろやかで上品な甘み。それに食べるともう一枚と手が伸びてしまうこの絶妙なまでのサイズ感。・・・今までの焼き菓子とは一味違うようね。こんなに美味しいものを作る人はどんな人なのかしら。アルバス!このクッキーという焼き菓子の製作者に会ってみたいわ!」


「ほっほっほっほ、畏まりました。すぐに調べさせますので少々お待ちください」


「急ぎで頼むわね!・・・あと、もっとクッキーはないのかしら!?」





所変わってライヤード王国王城。


「王女殿下、これが市井で流行っているというクッキーなる食べ物にございます。お納めくだされ」


「ありがとう、下がっていいわ」


やっと!やっと手に入ったわ!貴族令嬢たちが皆美味しいと言っていてずっと食べたいと思っていたのに、なかなか機会がなくて手に入らなかったけど・・・。でも、確かに見た目は至って普通の焼き菓子なのね。


サクっ・・・サクサクサクサクサクサクサクサクサク


「あっ!?もうないの!?くっ・・・こんなの、悪魔の食べ物じゃない!誰か!」


「はい、姫様。こちらに」


「このクッキーなる食べ物がもっと欲しいわ!・・・というかこのクッキーの製作者を探して王城に呼べないかしら」




調べ始めたのは何も貴族令嬢だけではなかった。他にも王都内の至るところの貴族がこぞって探し始めていた。ここまで貴族たちがアウルの存在に気づかなかったのは、ひとえにレブラントの努力と裏で暗躍していたミュール夫人の存在だ。それでも人の口に戸は立てられず、徐々に広まってしまったのだ。






その頃レブラントは困っていた。アウルの売ってくれるものが飛ぶように売れてくれるおかげで、一躍有名になり今では王都でも大店と呼べるほどまでに成長している。それはいいのだが、今までひた隠しにしてきたが、とうとうたくさんの貴族たちがアウルについて調べ始めてしまった。ついさっきも店頭に公爵家の執事がきており、これ以上は引き延ばせないところまで貴族の手が伸びてきている。




(このままではいずれ間違いなくアウル君の元に貴族の手が伸びるだろう・・・。ミュール夫人とはうまく付き合っているらしいが、あの人は数少ない常識ある貴族だ。だが、王都にいるのは自分の利益ばかり考えている魑魅魍魎ばかりだ)


「急いでミュール夫人に相談しなければ」


馬車の手配をすぐに終わらせ、見た目は行商にいく風を装った。王都から辺境伯の領都まではおよそ3日程度で到着する。




刻一刻と時間が過ぎるなか、徐々にアウルへと貴族の手が伸びていた。





その頃のアウルはというと、迫り来る貴族を予期してその準備を・・・


「よしよーし、妹ながら将来が楽しみになるほど可愛いな。きっといろんな男が寄ってくるに違いない・・・!」


迫り来る貴族を予期して・・・


「そうだ、魔法を教えよう!せめて自分の身を守れるようになっておけば問題ないだろ」


迫り来る貴族を・・・


「そうと決まればまずは身体強化か?いや、最初はライトで魔力の鍛錬か?」


・・・・・・・


「ほらシア〜、これがライトだよ〜」

シアはまだ生後3ヶ月なのにすでに魔法を教え始めており、実際に魔法を実演したりシアの体にちょっとずつ魔力を流し込んでみたりと色々試行錯誤する毎日を過ごしていた。未だに魔法を成功させたことはないが、それでも諦めずに根気よく続けているようだ。



結果、貴族のことなんて何にも気にしていなかった。






ミュール夫人の元にきたレブラントは急ではあるが、面会を求めた。本来、辺境伯夫人ともなれば会うのには先ぶれを出してアポを取るものなのだが、それが間に合わないほどに急いでいる。門番にはアウル君についてです、と伝えてあるためきっと応じてくれるとわかっていた。


「レブラント殿、夫人がお会いになるそうです。こちらへ」


門番と一緒についてきた執事に連れられて応接室へと案内される。待つこと10分程度でミュール夫人が応接室へと入ってきた。


「それでレブラント、今日はどうしたの?アウル君がらみと聞いているけど。まさか、アウルがまたとんでもないものでも作ったのかしら?」


うふふ、と笑いながら嬉しそうにしている夫人。しかしその美しい顔は、レブラントの返答を聞いて固まってしまった。


「はい、予てより警戒していたことですが、とうとうアウル君の存在について色々な貴族家が調べ始めました」


「何ですって!それは本当なの!?」


「はい、間違いありません。我が商会にも何人か貴族の遣いのものが来ました。大きいところで行くとフィレル伯爵家、リステニア侯爵家、さらにはアダムズ公爵家の執事やメイドが確認されています。噂だと王女殿下も動き始めたとか」


「そんなに、ですか。・・・まずいわね、そこまでの貴族家が動いたとあっては、もう私にはどうにもできません・・・。当分の間、アウル君とは距離を置くしかないでしょう」


「やはりそうですか・・・」


「アウル君には私の方から遣いを出しておきましょう。今あなたがアウル君に接触するのはあまりに危険です」


「畏まりました、では手紙を書きますのでそれも渡していただいてもよろしいでしょうか」


「わかりました。では準備いたしましょう」



王都の現状、アウルを調べようとしている貴族家について、少しの間距離を置くこと、もしかしたら今後貴族家がオーネン村を訪れる可能性、その他諸々を書き記してミュール夫人の遣いのものに渡した。



「これで、少しでも誤魔化せればいいのだが・・・」






レブラントの手紙が届き、内容に驚いたアウルだったが少しは懸念があったため仕方ないといえば仕方ない。しかし、困ったこともある。この村に来てくれる行商人はレブラントさんだけであったため、そのレブラントさんが来ないとなると消耗品を買うことが出来なくなる。さらには大豆や白玉粉など定期的に買う約束をしているものが届かなくなるとするとかなり不便になるのだ。


・・・どうしたものか。でも両親にもシアにも迷惑はかけたくないし、当分は我慢するか。





こうして、クッキーや砂糖、はちみつ、石鹸、ベーコンなどレブラント商会を有名にした商品は徐々に姿を消していった。


極たまにミュール夫人の遣いがアウル君から買ってそれを届けてくれているが、それでも焼け石に水状態で全く需要と供給が追いついていない状態になりつつあり、顧客の予約だけがどんどん溜まるという負のサイクルがレブラントを悩ませた。


しかし、これのおかげでアウルについては秘匿できた。・・・かのように思えた。



きっかけは単純で、レブラント商会から消えつつあった商品の製作者は同じなのではないか?という噂がたったのだ。同時期を境にどんどんなくなる商品を見て、そう考えるのも仕方ないのかもしれないが・・・。それで、その噂を聞きつけたアダムズ公爵家の執事がクッキー以外の商品について調べ始めたのだ。


そこで一つだけ気になる噂を見つけた。


『ある村では村民になれば安くベーコンが買える』というものだった。アダムズ公爵家の執事は何かあると考えて、冒険者たちにその噂を聞いて回るが有力な情報は出て来ない。どうしたものかと酒場で悩んでいると、酒場のマスターが有力な情報を知っていたのだ。



「あぁ、その話なら知ってるよ。何年か前だったがその村の者がたまたま王都に来ていたみたいで、ここで酒を飲んでたんだ。そしたらそのベーコンの話になってその村人が丁度持っていたみたいで俺が調理したんだが、確かにあれは美味しかった。今でこそ王都では高いが食べられるようになったけど、あの頃はあまり有名じゃなかったからよく覚えているよ」


「その村の名前なんていうか覚えていますか?」


「んー、名前までは覚えていないなぁ。何せ何年も前のことだし・・・。あ。でも変なことを言ってた気がするな」


「それはどんな?」


「あぁ、信じ難いんだがスタンピードが起きたのに被害がほとんどなかったらしい。守り神がなんとかしてくれたんだ!とか言ってたかな。はははは」



執事はそのこと聞いたことがあった。


(スタンピードがあったにも拘らず、被害はほぼなかったと。あれは確か、ランドルフ辺境伯領だったはずだ。村の名前までは覚えていないが、調べればわかることですね。それに、辺境伯に聞けばすぐにわかることでしょう。なんとか結果が出せそうですね・・・)





アウルの元に貴族の手はすぐそこまで迫っていた。

ちょっとずつ更新します。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、なるようにしてなったというか。 自分で自分の首を絞めていたというか。 本当に目立ちたくないのであればもっと慎重になりますよね。 『この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる』くらい慎重にな…
[一言] 妹ちゃんの存在は逆鱗という名前の弱点ですねえ。
[良い点] www 〉その頃のアウルはというと、迫り来る貴族を予期してその準備を・・・ ・ 迫り来る貴族を予期して・・・ ・ 迫り来る貴族を・・・ ・ 結果、貴族のことなんて何にも気にしていなかった。…
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