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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第6章 農家と勇者と邪神ノ欠片 後編
162/177

ep.162 合流と思量


 斉天大聖 孫悟空との戦いの疲れを引きずりながらも歩を進めた。森はドライアドのおかげで俺たちの行く手を阻むことなく歓迎してくれている。歩きやすいことこの上ないので助かると言えばその通りなのだが……――裏を返せば、ドライアドの思惑通りに誘導されているとも言える状況だ。


 霊樹と交信できるからと言って1から100まで信用するのは少々不用心かもしれない。霊樹と言っても生まれて間もない赤ん坊の樹。右も左も知らない状態であると考えれば、大精霊ということに安心してドライアドと交信してしまった可能性もある。


 というか、そもそも霊樹と交信したかどうかすら怪しい可能性もあるのか。ドライアドの特性はしらないけど、植物に精通していることは想像がつく。俺たちが霊樹に祝福されているくらいは判別できそうなものだし、何者か(・・・)に俺たちが邪神の欠片を集めていることを聞いていれば霊樹と交信していなくてもある程度の会話は可能、か。


 なんだろうな。この考えは可能性としては低い気もする。何者かって誰だよとか、こんなことする意味はあるのか? とか色々と気になることはあるが、散々面倒ごとに巻き込まれている俺としては、直感が厄介ごとだと囁いている。


 むしろ、そういった星のもとに生まれていると考えてもおかしくないほどに。あれか? 女神さまの差し金なのか? この世界を救え的なよくあるあれなんですか?


 冗談キツイよ……え、まじで?



 脂汗が垂れるのを感じる。そうだと決まったわけじゃないだろうに、この件の裏には間違いなくドライアドが噛んでいる気がしてならない。


 これは最悪の想定でもあるし、そうなってほしくないと思う未来ではあるが、俺の嫌な予感は当たるからな。自慢じゃないし全く嬉しくないけど。



 最悪な事態を想定して少しは手を打っておくか……。はぁ……。












「主様、お待ちしておりました」

「アウル~!」


 森に誘われながら進むと、アルフとミレイちゃんペアと合流することが出来た。見た感じルナとノラさんはまだ到着していないらしい。だが、歩いている途中で伝声による通信が可能になったので、それぞれが結界の主を倒したのは理解できた。


 そして、伝声の魔導具では会話を控えるようにしながら集合を決めたのである。合図はアルフの焚いてくれた狼煙。古典的だがとても分かりやすい目印である。


「2人ともお疲れ様。怪我はなさそうで安心したよ。結界は解けたみたいだけど、主は強かった?」


 これといって目立った怪我はなさそうなので、特に心配する必要もなさそうだが、どんな敵がいたかは気になる。俺のところが孫悟空だったので、考えられるのは猪八戒と沙悟浄だけど――


「主様、多少は苦戦しましたが、まぁまぁ、と言ったところでしょうか」


「まぁまぁ、ね。どんな敵だったの?」


「頭に皿があって甲羅を背負っていたわよ? 河童っていうんでしょ? アルフレッドさんに聞いたわよ」


 アルフにチラッと視線を送っても頷いているだけなので、間違いなさそうだ。



 しっかし『河童』かぁ。これはまた珍妙だな。沙悟浄とは元をたどれば僧侶とか役人だった気がするんだけどなぁ。俺も曖昧な記憶でしかないけど、河童だからと言って沙悟浄だと断定するのは早計だ。しかし、日本人ならば沙悟浄が河童だと思い込んでもおかしくもない。そういう風に広まっているからね。


 となると、だ。


 ルナたちの話を聞いてからになるけど、豚か猪の魔物が出ていたら十中八九この裏には異世界人――おそらく日本人――が絡んでいるとみていいだろう。そして、今も暗躍しているであろう人間は日本人説が濃厚ということになる。



 なぜこんなにも分かりやすいヒントを残したかは分からないけど、裏を返せば自分が異世界人であると隠す気がないともとれるか。俺のことを異世界人か何かだと断定しているのなら話は別だけど、ね。


 俺がこんな露骨にヒントとなるようなものを残すとすれば……陽動? というか、炙り出しか……? だとすれば何のために――うーん、判断に困るな。



 少しひらけた場所で警戒をしながらも休憩をとっていると、少ししてノラさんとルナが到着した。


『おお、アウル殿。遅くなり申し訳ございませぬ』


「いや、構わないよ。2人も怪我がなさそうで安心したよ」


 ルナも特に怪我はなさそうだし、ひとまず安心だ。だが、やっぱりおかしいな。全員揃ったからこのまま神殿まで行ってもいいんだろうけど、ドライアドの言葉が引っかかる。



「……みんなはここまで何の問題もなく来れた?」


「そうですな。木々が誘導してくれましたので」


『こちらも同じですぞ』


 何の問題もなし、と。うん――



「「『(おかしい)ですぞ』ですな」ね」



 軽食を用意してくれていたルナとヨミとミレイちゃんが首を傾げながらこちらを見ている。3人はあまり気にしていないようだけど、俺とアルフ、ノラさんは明らかにおかしいことに気が付いていた。


「えっと、何かおかしいことがあるの?」



 ミレイちゃんは何がおかしいのか素直に聞いてきた。ルナとヨミは何かに気づいたのか周囲を見渡している。うん、やはり冒険者歴が長いだけあって気づくのが早いね。いや、それでも少し遅いくらいなんだけどさ。



『時にミレイ殿(奥方殿)、周囲に魔物や野生動物の気配はありますかな?』


「? えっと、野生動物は少しいるみたいだけど……魔物はいない、かな? だからここで休憩しているんじゃないの?」



 その判断は正しい。ここを集合場所にしたのは魔物がいなくて当面は安全だからと、アルフが判断したからだ。もちろん俺も気配を探ったり空間を把握してそれは理解している。


「ミレイ様、ドライアドはなんて言っていたか思い出してください」


「えっと、結界を守る主がいて、その中は――あっ!! 異常な魔力も感じないし、狂暴化した魔物がいない!?」



 そうなのだ。危険な魔物がいる可能性があると俺たちは聞いていた。しかし、どうだろう。いざ結界を突破してみたら中は異常な魔力などなく、さらには狂暴化した魔物など見当たらない。


 もし仮に、俺たちが結界を突破したことで異常な魔力は霧散し、魔物たちの狂暴化も解除されたとしよう。そうすれば今の状況も説明がつく――ように見える。しかし、実際にはおかしいのだ。


 結界があったと思われる土地内に魔物の気配はほとんどない。それに、アルフが分かりやすく狼煙を上げているというのに魔物が一匹も寄ってこない。ここは腐っても大森林フォーサイド。


 危険な魔物と思しき気配がひとっつもないのだ。俺たちの強さを考慮しても、だ。いるとすれば森イノシシくらいの雑魚ばかりで、Aランク冒険者が必要になるほどの脅威をもつ魔物がいないというのは考えにくい。


 以上より、情報が操作されているとみるべきだ。



 ついでに言うならば、俺の『斉天大聖 孫悟空』は明らかに強すぎた。まるで俺を殺そうとしていたと言っても信じられるほどに。どうやってあの魔物を用意したかは不明だし、俺を殺そうとしている理由もわからないが、あのドライアドが言っていたこと全てが嘘である可能性があるということである。



「この状況で神殿に行くのは危険だね。ドライアドのお願いはあくまでも結界の破壊であり、狂暴な魔物がいた際の駆除だった。ここから先はあくまで俺たち個人の都合だから、ドライアドは一切関係ないと言える」


「その通り、ですな。主様と同じ意見です」


『補足するならば、ドライアドが敵かどうかはまだわからない、ということでしょうな』



 そうなのだ。ドライアドはもしかしたら誰かに唆された、または言いくるめられたり脅されていた可能性だってある。大精霊であるドライアドにそんなことできる存在がいるのか? という疑問は残るが……裏にいるのが転生者で異世界人――日本人のことだけど――であるなら、俗にいうチートが関係していれば可能性はある。



 十中八九、九分九厘、神殿には罠があると確信していいだろう。



 だが、それでもなお俺たちはいかねばならない。こちらの事情を詳しく理解している。尚且つ、俺の強さをきちんと把握し孫悟空という強敵を用意できる。魔物を用意するなど、どこかで聞いたことのある話だなぁ。直接ではないにしろ、間接的にアイツ(テンド)が絡んでいる気がしなくもない。




「ご主人様、どうされますか?」

「アウル様が行くというならついていきますが」


 ルナとヨミは覚悟を決めているらしい。ミレイちゃんも覚悟を決めた目をしている。アルフとノラさんは言わずもがな。あとは俺だけなのだが――





 なんだろうな。この状況が気に喰わない。まったくもって。手のひらで転がされているような、そんな不快感。先ほど手は打ったし、ひとまずお手並み拝見してもいい気がする。


 常にこちらは攻められっぱなしで腹が立つし。ここいらで相手の思惑から外れてやるのも一興か。間違いなく裏にいる誰かは俺を意識しているみたいだしね。

11/28に第4巻が発売させていただきます!!

内容をところどころいじっているので、WEB版とは内容が異なります。

どこが違うかはお楽しみということで……!!

というか、表紙が凄かったです……!!


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