表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/177

ep.16 不労所得

夏もすぎて秋になり、とうとう俺も7歳になった。そして村にも一大イベントがやってくる。


作物を収穫し終わったらみんなお待ちかねの収穫祭なのだ。



「よしアウル、今日からは作物をどんどん収穫していくぞ。基本的にアウルには小麦を担当してもらう予定だ。朝ご飯食べたら向かうぞ。一応1週間を見込んでいるが、まぁ終わりきらなかったら手伝ってやるから頑張れよ!」


7歳になって俺は体も少し大きくなった。毎日動物性タンパク質もたくさん食べているし運動もしているからかすこぶる順調に成長している。


父も筋肉に磨きがかかっているように思えるし、母に至っては全く老けていない。むしろ、栄養のある食事をしっかりしているからか張りのある肌がすごい。それに去年からだがなぜか異常に母がツヤツヤしている日があるのだが、なぜだろう。その時に限って父はやつれているし・・・


「なかなか当たらないなぁ〜」なんて言っていたが何か狙っているのか?




「さて、朝飯もたっぷり食べたしやりますかね」


って言ってもなぁ、こんだけ広い畑をえっちらおっちら収穫していたら何日もかかってしまう・・・。こんな小さい鎌には限界あるしどうすっかな。


なんかこう一気に刈れれば・・・あぁ、そうか。木を切る感じでウィンドカッターで一気に収穫すればいいか。傷つけないように細心の注意は必要だけど、できたらかなり楽できるじゃん!



よし、では早速。ウィンドカッター!


・・・うまくいきすぎか?このペースだと今日で小麦全部収穫できちゃう気がするんだけど。まぁ、楽になる分にはいいだろ。ていうかそれにしても我が家の小麦ってなんでこんなに豊作なんだろ。週に一回だけグリーンヒールして回ってるけどそれが大きいのか?


他の家の畑をみて回ったことがあまりないからなんとも言えないが、これは豊作と言っても問題ないんじゃないかな。


順次ウィンドカッターして収納を続けていくが、順調すぎて拍子抜けだな・・・。



あっという間に終わってしまって、家でお菓子作りしながら待っていると両親が帰ってきた。


「お、アウル。今までは収穫はさせてこなかったが、どうだった?腰が痛くなったか?」


ニヤニヤしながら聞いてきた父になんとなくイラっとする。きっと本当は腰が痛い上に、全く終わらないから手伝ってって言ってくると思っているんだろうな。


ま、そうはならないのだが。



「うん!もう全部終わってるよ!」


「そうだろうそうだろう、俺も昔は泣きながら・・・え?もう終わった?冗談だろ・・・?」


ほんとだよと言って家の裏に連れていく。家の裏にはさっき終わったので収穫した奴を束にして置いてあるのだ。


「ほんとだ・・・。ど、どうやったんだ!?」


魔法を使って刈り取って収穫したことを伝えると、膝をついて落ち込み始めた。


「くそ・・・。メイド猫耳事件の復讐をしてやろうと思っていたのに・・・。我が息子ながらどんだけ有能なんだちくしょう・・・。喜ばしいことだが、釈然としない・・・」


なっ!?この脳筋ゴリラはどうやら俺に復讐を企てていたようだ。母に父がメイドさんにデレデレしていたことをチクったのを未だに根に持っていたとは・・・。意外と器が小さいのかもしれない。



そんな一幕もありながらも収穫は無事に終わった。他の家はまだ収穫作業をやっているのでとりあえずミレイちゃんの家を手伝ってあげたのだが、小麦を大きい麻袋二つ分を報酬としてくれた。我が家でも作っているからいいと言ったんだが・・・。また来年も余裕があれば頼むねと言われてしまった。小麦をもらってしまった手前断るのも忍びないな。まぁ、ミレイちゃんの喜ぶ顔がみられたのでよしとするか。



そして、数日のうちに全部の家が収穫を終えたので待ちに待った収穫祭である。この時ばっかりは村人総出で楽しむのが決まりとなっており、村の警邏隊の人も参加する。収穫祭の時だけ冒険者を雇っているみたいなので安全もバッチリだ。




実はこの毎年の収穫祭では村長が冒険者に依頼を出して、四つ目暴れ牛と呼ばれる魔物の肉を一頭丸々仕入れている。この肉は収穫祭での目玉であり村民全員が楽しみにしている。しかし、最近は村民が増えたせいで一人当たりの食べられる量が減ってしまうと俺は考えている。


それで俺は考えた。四つ目暴れ牛が出るのは夜のキャンプファイヤーをする時だ。それまでに村人をお腹いっぱいにすればいいのではないか、と。



密かに研究していたお菓子に加え、いつもとは違う特製ベーコンも大量に作っている。あとは秘策として用意したのはオーク肉を醤油と砂糖で煮詰めた甘煮だ。これをピタパンに葉野菜と一緒に入れて食べる。ピタパンはこの世界ではまだ発明されていなかったので目新しさもあるだろう。


ちなみにどれも銅貨5枚で販売している。ぶっちゃけ利益はあんまりないが、それほどまでに四つ目暴れ牛が美味いのだ。あの肉の串焼きに塩を適度にまぶして食べるのが格別に美味い。




・・・おっと、よだれが。




収穫祭が始まったので大人たちはワイワイと楽しんでいる。この収穫祭では楽しむもよし、商売するもよしととにかく参加すればいいらしい。


俺はミレイちゃんを誘って露店を手伝ってもらうことになっている。報酬は利益の20%ということで納得してもらった。


ちなみに研究していたお菓子というのは団子だ。レブラントさんに聞いてみたところ海を越えたところにそのような食べ物がすでにあるらしい。それを聞いたときは少しがっかりしたものだが、たまたま白玉粉を仕入れていたらしく全部売ってもらった。


・・・というか、レブラントさんの品揃えが怖すぎる。


以前レブラントさんに聞いてみたことがあったが、さすが商人という回答だった。

「あぁ、それはこの村に来る前に、何か珍しいものがないか探しているんだよ。この村では大商いをさせてもらえているからね。あとはアウル君の好きそうなものとかがあればとりあえず買ってみたりもしているかな。あとは、アウル君が品物をみている時にどんなものをよく見ているかを調べているんだよ」

と言っていたが、そんなに簡単なことなのだろうか・・・?


最近だと王都の店もかなり順調らしい。すでに大店の主人なのだが、基本的には自分で足を運んで商品を仕入れるという徹底ぶりだ。中でもオーネン村だけは自分が行くと決めているらしい。


・・・そこまでしてくれると俺も嬉しいものだ。


「アウル君はお得意様だからね」



そんなわけで白玉粉を手に入れたのだが、白玉粉があるということはもち米があるということだ。もしかしたら海の向こうにあるというのは昔の日本のようなところなのかもしれないな・・・。


お団子で作るのはみたらし団子だ。これは俺も大好きなのでようやく作れて感動している。自分用の白玉粉は確保してあるので売るのも吝かじゃないし、何より俺が食べたい。



「ミレイちゃん今日はありがとう。じゃ、頑張ろうか!悪いけどお客さんの相手は任せるよ。俺は商品を用意するから」


「うん!いっぱい稼ごうね!」



いざ店をやってみるとお客さんが途切れる事は無かった。なんでもミレイちゃんのお父さんが事前にみんなに宣伝してくれたらしい。団子がダントツで売り上げがすごかった。売り始めて2時間で団子は売り切れてしまったのだ。それも買うのはご婦人方ばかりで、男の人はベーコンやピタパンサンドばかり食べていた。




「やぁ、アウル君、僕にも全部一つずつもらえるかい?」


「あ!レブラントさん!収穫祭はこの村よりもっと大きくやってるところもあると思いますが、どうしてここに?」


「いやぁ、それはそうなんだけどね。なんとなくアウル君がまた何かやってくれるような気がして来てしまったよ。しかし、思った通りだ。7歳とは思えないほどの商才に知識、それに大胆さも兼ねそろえている。やっぱりウチで働かないかい?」


「ははは、俺はそんな大した人間じゃないですよ。それにまだ7歳ですし農家ですから。まぁ、もう少し大きくなって成長したら色々見て回ろうと思ってはいますのでそのときは、客としてまた商人としてもお世話になりますので、よろしくお願いしますね」


「これはこれは厄介な同業者ができたものだね。今のうちにもっと大きな店にするためにも、アウル君に今のうちに手伝ってもらおうかな!」



レブラントさんにもみたらし団子は好評だったが、持ち運びに難があったため諦めていた。ピタパンには感動していたので、レシピを教えてあげたところ、タダでじゃいけないという事で今後ピタパンで得た利益の5%をもらえるということになった。


「アウル君、このピタパンと言うのは画期的だ!日持ちもしそうだし何より柔らかい!それに中に色々挟んで食べられるしこれは売れるよ!しかもレシピを教えてくれるなんて、どうやって恩を返せばいいか・・・。そうだな、毎年の終わりの時期にピタパンの利益の5%でどうだい?」


「うん!それでいいよ!それに、レブラントさんにはいつもお世話になってるしね」



・・・この歳で不労所得とは、この世界には恐れ入るな。ありがたい話だが。




レブラントさんはそのあとも自分でも商品を売ったり、買い付けなどをして帰って行った。


用意した分は全て完売したので普通に祭りに参加している。ちなみに全部売った結果、金貨30枚分を売りあげたのでミレイちゃんには金貨6枚分を渡してある。ミレイちゃんもこんなにもらえるとは思っていなかったのか驚いていたが、半分以上を貯金して少しだけこのお祭りで使うようだ。



そして待ちに待った、四つ目暴れ牛の串焼きが振る舞われた。思惑通りご婦人方は肉串を取りにこなかったのでいつもよりたくさん串が食べられたのだ。


・・・あぁ、美味い。地球で言うところのA5ランク和牛のような感じだ。年に一回のこれが最高にたまらない。




こうして秋の収穫祭は無事に終わり、そしてまた冬が来る。冬は魔物もあまり活動しない休眠期に入るので、また森に入れば冬眠している魔物を狩って回れるからおいしいのだ。





一方で王都ではピタパンブームが起こり、また一段とレブラント商会が発展する一助となるのだがそれをアウルは知らない。そして、次の年に莫大な不労所得が入って来るのだが、その金額の大きさに驚いたのは言うまでもない。








そんなちょっとした日常を過ごして2年が経ち、俺が9歳になったときにある転機があった。母が妊娠したのだ。ある時を境に調子が悪そうにしていたので、どうしたのだろうと思っていたのだがまさかの妊娠だった。


そして数ヶ月して赤ちゃんが生まれたのだ。元気な女の子だった。赤ちゃんは本当に可愛くて、見ているだけで癒される。女の子の名前は『シア』と名付けられ、髪は銀髪で目がくりっとしている。将来絶対可愛くなるだろう。うむ、確実に可愛くなる。



新たな家族のためにももっといい暮らしをするために頑張ろうと決めたのだった。



ちょっとずつ更新していきます。

評価・ブクマしてくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] シアちゃんの成長が楽しみです。 オーネン村は楽園の様な場所ですね。 アウル君の今後活躍が楽しみです。 癒されています。有難う御座います。
[良い点] 男としての気持ちと親としての気持ちを表現している上手い文章だと思います。琴線に触れ、膝を付き悔しがる男親の姿が幻視されます。 〉「くそ・・・。メイド猫耳事件の復讐をしてやろうと思っていたの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ