ep.158 『第4の封印』①
「木の一本一本が大きくない?」
『ここの清廉な魔力が満ちているのが関係しているかもしれませんぞ!』
俺とノラさんは今、一足先に大森林フォーサイドへと来ていた。帝国側には事前に連絡をしているので特に問題視されることは無いだろう。そもそも大森林フォーサイドは高難度で知られる土地であるため、邪魔をしてくるような人はいないだろうけどね。
いるとしてもフォーサイドに住む魔物ぐらいだ。その魔物は襲ってこない限りはこちらから攻撃するつもりもない。
「……あの木、魔物だね。トレントだろうけど大きい。敵意はないみたいだから放っておくけど」
今まで見たことないくらい大きいトレント。もしかしたら上位種かもしれないけど、トレントにはあまり詳しくないからな。魔物図鑑にはトレントとハイトレント、エルダートレントが載っていた。木の魔物だから大きさには幅があると書いてあった。
主な攻撃方法は枝の薙ぎ払い、根による巻付きとドレインだったかな、上位種は実の砲撃なんかもしてくると書いてあった。一番厄介なのは普通の木に擬態しているから、見分けるのが至難だということだ。
擬態している時は気配もなく普通の木と大差ない。判定には魔力の流れを感じ取るしかないが、魔力が豊富なこの森ではそれをするのが難しい。
俺が先ほど気付いたのは、たまたま木の根元に半分埋まった大型の猪がいたからだ。根っこに巻き込まれるようになっていたから、その木が魔物だと気付けたというわけだ。
『アウル殿、あの辺は比較的安全そうですぞ。あそこに小屋を設置いたしましょう。ほっ!』
ノラさんの気の抜けた掛け声とともに土がせりあがり、簡易の小屋が出来上がった。……無詠唱であるのはデフォルトらしい。俺もできるけど、本来ならそれなりに技術がいるらしいけど、さすがだな。
ただ――
「ノラさん、小屋はいいけど屋根がないよ」
『……これはうっかり!!』
どこか抜けているノラさんであった。
◇◇◇
「ここが大森林フォーサイドですか……。オーネン村も空気は綺麗でしたが、ここはまた格別に綺麗ですね」
ルナが体に染み渡らせるように深呼吸している。確かにここは空気が異常なほどに澄んでいるいる気がする。地球の空気とは比べるべくもない。
転移盤を使って封印の地へと来たのはいいが、肝心の封印の場所が全くもって分からない。ノラさんに空中から探してもらおうにも木が多すぎてそれも無理だった。空間把握をしようにも、清純な魔力が充満しすぎて阻害されてしまう始末。
ある程度近づけば気付けるのだろうけど……。これは別れて探すほかないかもしれないな。問題なのはここに出る魔物はそれなりに強く、厄介なタイプが多いということか。仲間たちはおそらく大丈夫だろうが、万が一ということも考えられる。
ノラさん、アルフ、俺がリーダーとして動く方が良さそうだな。他のメンバーはミレイちゃん、ルナ、ヨミだ。ミレイちゃんはやや不安が残るけど、従魔契約したブルーはかなりの強さだ。それを考慮すると心配はいらないだろう。
メイド部隊も連れて来たかったけど、まだ早すぎる。もう少し鍛えてからでも遅くはない。それに、人手が多すぎても何かあった際に後手に回る可能性もあるからな。
「この広大な森から封印の場所を探すのは大変だけど、ここは3手に分かれて探そうと思う。ここは難易度も高いそうだから、俺とノラさんとアルフを筆頭に組み分けを行おうと思う。誰が誰と行く?」
この瞬間、残った3人の目がギラリと光ったように見えた。
寒気というか、なにか不思議な気を感じたのだ。
「……ここは公正にじゃんけんなんてどう?」
「ふふ、いいわね。そうしましょう」
「私は負けませんよ?」
ミレイちゃんが勝負方法をじゃんけんに決めたようだ。これは自惚れかもしれないけど、3人とも俺と一緒に行きたいと思ってくれているのかもしれない。なんだか気恥ずかしいな。
「「「最初はグー!! じゃんけん――」」」
その瞬間、3人の手が振り下ろされるまでにとてつもない心理戦が繰り広げられ、グー、チョキ、パーが振り下ろされる瞬間に何度も変わっていた。……前もこんな光景をみたことがある気がするな。
「「「――ポン!!」」」
ルナ:グー ヨミ:パー ミレイちゃん:グー
「うふふ、私の勝ちのようですね」
「くっ……私の負けのようですね……私の拳は岩をも砕くというのに……」
「さすがはヨミね。今回は譲るわ」
ルナがなんだかぶつぶつと怖いことを言っているが、ミレイちゃんは潔く負けを認めている。ルナよ、嬉しいけどそこまで思い詰める必要はないのだぞ。
その後、実力的にアルフとミレイちゃん、ノラさんとルナとなった。ミレイちゃんはアルフに色々と教えてもらおうとしているらしい。向上心があるのは良いことだが、俺の婚約者たちがどんどん強くなっているのはなんだか不思議な気分だな。俺も負けないようにしなければ。
「ノラさん、ルナのことを頼んだよ。絶対に怪我なんてさせないように気を付けてね」
『もちろんですとも! アウル殿の奥方は我が命を懸けてお守りいたしますぞ! まぁ、我はすでに死んでいるのですがね!』
「よし、じゃあこれから探索だけど。ひとまず3時間くらいで一度ここに戻ってきて報告しよう。何かあったら伝声で教えてくれ。では解散!」
ノラさんお得意の自虐ネタが飛び出しつつも、なんとか組み分けをして森の探索を始めた。
SIDE:アウル&ヨミ
「ふふふ、アウルと探索できるなんて嬉しいなぁ~」
ヨミは心底嬉しそうに俺の隣を歩いている。ルンルンしているが気は抜いていないので、周囲への警戒は怠っていない。かくいう俺も気配察知だけは常にしている。あと、なるべく木のすぐ近くは通らないように気を使っている。
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
2人きりだから話し方が変わったのかな。それにしても、この森の主は誰なのだろうか。ここまで清廉な魔力が漂うほどだから、特別な主なのは想像がつくが。
「!! ……なんとなくですが、あっちから今までにない気配を感じます」
「そうだね……。さっきまでは何も感じなかったのに」
探索を始めて15分くらいしたとき、急に気配が発生したのだ。それも今までにない種類の反応に、思わず罠かと思ってしまうほど。
いや、これは敢えて気付かせるように気配を発していると言った方がしっくりきそうだ。挑発されていると言っても過言じゃないだろう。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、だね」
「気配は強いですが、負けるほどとは思えません」
それはそうだ。挑発はされているが、明確な敵意までは感じないからね。何かしらの手掛かりがあるといいんだけど。
そのまま森を進むこと10分程度で目標の気配まで近づくことが出来た。そこにあったのは小さな神殿だ。海で見た神殿の1/10程度しかないもの。しかし、明らかにここから気配は放たれている。
「ここだね。心の準備はいい?」
「いつでも」
頼もしい返事だ。いつでも動けるように意識も張り巡らされている。心配はいらなそうだな。
満を持して神殿内に入り込むと、森にあふれていた清廉な魔力をより一層研ぎ澄ましたような魔力が満ち溢れていた。これに似たような魔力は、村にある霊樹からも感じたことがある。
なんとなくの予想をしながらも神殿を進むと、神殿の奥には神々しい一本の木が生えていた。
「これは……凄いな」
「この清廉な魔力はあの木から放たれているようですね」
そして、その木の根元に横たわるようにいるあの存在。おそらくアレが俺たちを呼んだ張本人だろう。
「君が俺たちを呼んだの?」
『――そう。霊樹に祝福された子らよ。汝らならば信ずるに値する。我は大精霊樹妖精。この森の守護者である』
ドライアド、ね。これまた凄い存在が出てきたものだな。ただ、ここには邪神の欠片は封印されていないように思う。俺たちからすれば無駄足だったかな?
「俺たちを呼んだ理由はなにかな? 念のために言っておくと、俺たちはこの森を荒らすつもりはないんだ」
『それは理解している。新たな霊樹から概ねの話も聞いている。邪神の欠片を集めに来たのであろう? 我の願いもその邪神の欠片についてなのだ』
おっと、これは思いもよらぬところに情報があったものだ。
「ぜひ聞かせてください」
『実は――』
ドライアドは淡々とこの森に起こり始めている異変についてしゃべり始めた。
気を付けてはいたのですが、8月の下旬くらいにコロナにかかり、ぶっ倒れていました。
今はかなり回復してきたので、またちょっとずつ更新をしていきます。
コロナは本当にしんどいので、皆様もお気を付けください。
また、漫画版が9/30からリリースされるそうです!(わーい!)
さらに、書籍版第4巻が11月末に発売されるそうです(わーい!)
興味があればぜひお手に取ってみてください! web版からは色々と手を加えています!




