ep.157 大森林フォーサイド
霊樹を植えてから数日、毎日魔力を注いでいるとそれに合わせて霊樹は驚くほどの成長を見せた。もともと大木くらいしかなかったのに、今となっては樹齢1000年くらいの大きさにまで成長している。高さも30mくらいにまで成長しているが、エゼルミアさん曰くこれでも人間でいう子供くらいの大きさらしい。
エルフの里にあるのは全高で100mを超えているというため、それも嘘ではないだろう。
しかし、いくらまだ成長途中といえど、霊樹の恩恵は俺の周りに少しずつ現れ始めていた。まず、眠りの質が明らかに改善されたこと。一晩寝れば嘘のように疲れが無くなるようになったのだ。
他にも細々とした効果は現れているが、エルフの里に比べればまだまだ微々たるものだ。
変わったのは俺達だけではない。
従魔であるヴィオレも霊獣として認定されたのか、見た目がやや変化した。
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王角/♀/ヴィオレ/Lv.1(→200)
体力:28000
魔力:8000
主人:アウル
個体:特殊
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種族もベヒーモスからルティーヤという種族へと進化し、ステータスも大幅に向上している。もう従魔だけで国を獲れるほどに強くなっている気もするが、そんなことは口が裂けても言えない。ノラさんあたりは真に受けて本当に国獲りを始めそうだからね。
あとは、いつの間にか生えた大木をみた村人たちが、村の御神木だと言い始めたことか。そのせいで連日のように村人たちがお祈りに来るようになっている。そして、霊樹を植えたのが俺だと誰かが言ったらしく、俺にも挨拶をしてくれるのだ。
この村は大好きだからいいのだが、こう毎日挨拶にきてもらうのはなんだかむずがゆいな。それでも、霊樹が村人たちの心の支えになるのならば好都合だ。
俺は特に急ぎでやることも無かったため、ノラさんと魔法の研究をしたり、シアに魔法を教えたりしながらのんびりとした農家生活を送っている。メイド部隊や婚約者たちはかなり能動的に活動をしているらしいけど、あまり深くは聞かないようにしている。
言いたくなればいうだろうしね。ただ、日に日にみんなから感じる気配が強まっている気がするので、おそらくだけど迷宮攻略でもしているのだろう。俺もたまには潜っているのだが、最近は働き過ぎだったのであまり気が向いていないのだ。
「あっ、霊樹に気を取られて忘れてたけど、褒美でもらった手甲をアルフに渡そうと思ってたんだ」
すぐさま念話でアルフを呼ぶと、いつもの如く背後に現れた。しかし、現れる瞬間に俺も後ろを向いたため、結果的には対面する形となった。
「早かったね」
「……成長されましたな」
「いつも驚かされているのも悔しいからね」
「それで、どうなされましたかな?」
「これをアルフに渡そうと思ってね」
「これは……!!」
「知っているの?」
手甲を収納から出した途端、アルフの顔つきが変わった。
「すみませんが、一度手にしても?」
「? うん、いいけど」
おそるおそるといった感じで手甲を手にしたアルフは、受け取った途端にふらふらとふらつき始め、その場に片膝をついた。
「……主様、これはかつて私が使用していた武具です」
「え? かつてって……アルフ、昔のこと思い出したの?」
「全部ではありませんが」
驚きだ。悠久を生きるエゼルミアさんと会って話しても、いまいち記憶が回復しないと言っていたのは知っている。アルフがどんな存在なのか、知りたいとは思っていたけど別にそれでアルフに対する気持ちが変わることもない。
「じゃあ聞くけど、アルフは――元魔王なの?」
これは俺が前々から気になっていたことである。魔人の生態は、魔王の眷属であり個体名は無いことが多く、基本的には能力と強さに応じて階級がわけられる。しかし、アルフは明らかに上位の魔人であり、能力も飛びぬけて強い。そこから導き出されることはあまり多くない。
アルフがかつての魔王だということだ。そうであれば辻褄はあう。その昔にあったという邪神との戦いで命を落とした、とかね。しかし、俺がそれを捻じ曲げるように召喚してしまったため、記憶の欠落という形を伴ったのだろう。
こんなことが可能なのも、特別製の体と馬鹿げた魔力の成せる技なのかな? 個人的にはノラさんを見てしまったあとでは俺の魔力量なんてちっぽけでしかないけど。
「主様に隠し事はできませんな。私は……原初の魔王と呼ばれる一人でした。自分で言うのもおこがましいですが、原初の魔王の中でも特に力の強い魔王でした」
だから魔人についても詳しかったのか。記憶が無くなっていても、魔人に対する畏怖なんかが微塵もなかったのは、無意識的に自分の方が格上だと知っていたからなのかな。これが、魔王の風格というやつなのだろうか。
「なんか納得がいったよ。じゃあ、その手甲はアルフにあげるね」
「……よろしいので? というより、私が元魔王だと知っても、なんのお咎めもなしでしょうか?」
「? 別に今のアルフが何かしたわけじゃないでしょ? それに、アルフはアルフだから」
「ありがとう、ございます」
深々とお辞儀をしたアルフレッドを見送った。地面が薄っすらと濡れていたから、もしかしたら……いや、これ以上は野暮だな。
それにしても、アルフは元魔王かぁ。俺の周りには凄い人ばかりが集まってくるな。それが嫌というわけではないけれど、なんだか自分の非才さが余計に悲しく感じられる。みんなに見限られないように、もう少しだけ頑張ろうかな。
邪神さえどうにかできれば俺の役目はなくなったも等しいはずだ。イナギの解放はルナの役目の終了を意味している。そうすれば後顧の憂いなく生きていくことが出来るだろう。
それに俺はまだまだ若い。もう少し頑張れば成人なのだ。そうすれば結婚も出来るし、状況も変わってくるだろう。
第4~9までの封印場所は既におおよその見当がついている。あとは時間次第なのだ。しかも、ミレイちゃんにも心強い従魔が出来たし、みんなのレベルも上がっている。覚醒自体はまだでも、かなりの強さがある。俺も覚醒自体はしているけど、使えるようになるまではまだまだ時間がかかるだろう。
やることがいっぱいだな。
俺がそんな日々を送っているころ、ライヤード王国と宗教国家ワイゼラスはかなり険悪な状況になっていた。このままでは冷戦に発展し、いずれは戦争にまで進展する可能性もあるそうだ。教皇がかなり独裁的に動いている部分があり、国王も手を焼いているらしい。
そのせいもあって天馬やエリーも忙しくしているらしいが、今となっては俺には関係のない話だ。ただ、各国の動向だけはメイド部隊に探らせているので、何かあった際は村を守るために手を打つつもりだ。
そして、前回の封印から時間が経ったため、第4の封印に行こうと考えている。目星をつけている場所は、帝国にある『大森林フォーサイド』だ。
大森林フォーサイドはその名の通り広大な森で、希少な薬草や素材の宝庫とされている。その分、危険な魔物も多く、Aランク冒険者でも上位でなければ奥地にはたどり着くのが難しいとされている土地だという。
言わずもがな、その土地に短時間で行くには空路を使うしかない。しかし、青龍帝であるレティアは妊娠していて、そろそろ生まれるかもしれないらしいのだ。生まれると言っても卵の状態で出てくるらしいのだが、そんな出産間近の夫婦に頼みごとをするのは忍びない。ティアラについても同様だ。
「困ったな。どうやってフォーサイドまで向かおう」
家でソファーに寝ころびながら一人唸っていると、不意に誰かに目を隠された。
「だーれだ?」
ぷにぷにとした手の触感。ふわりと香る花のような香水の匂い。どこか色気のある声色。そして、暴力的にまで主張が激しい双丘。
「ヨミでしょ」
「せいか~い! うふふ、さすがね」
コロコロと嬉しそうに笑っているヨミは、とても楽しそうだ。
「あれ、今日は王都に買い物に行くって言ってなかった?」
「ルナとミレイはまだ買い物してるわ。私は付き添いだったから早めに帰って来たの。それより、何に悩んでいたの? 男の子の悩み?」
くっ……。成人一歩手前ということもあり、俺の若い体が思わず反応しそうになる。鉄の意思でなんとか感情を抑制し、何食わぬ顔で返事をする。
「いや、フォーサイドまでの移動をどうしようかと思ってね」
「あぁ、なるほど。王都に設置しているような転移盤を設置するとかは?」
「あれは二つで一つだから、一度そこに転移盤を設置する必要が……そっか」
俺にはとても優秀な従魔がいたんだった。アルフも転移魔法は使えるが、俺のいるところか一度訪れたことのある場所にしか行けなかったはず。それよりも、超高速で移動が可能なノラさんにフォーサイドに転移盤を設置してもらえばいいんだ。
従魔使いが荒いかもしれないけれど、ノラさんならきっと了承してくれるだろう。
「うふふ、何か思いついたのね。解決したみたいだし、夜ご飯でも作ってくるわね」
ヨミの作るご飯か。食べたいな。でも――
「いや、俺も一緒に作るよ。ノラさんにはあとで頼んでおくから、明日はフォーサイドへ出発だ」
行くための人選もしないといけないし、向こうでの簡易拠点も作りたい。転移盤があるとはいえ、転移盤を設置する場所を作る必要がある。
「なら、今日はしっかりと栄養を取って明日以降に備えないとね!」
何を食べようと考えた際に、なんとなくもつ鍋が食べたくなったので、大きな土鍋を数個用意し、ストックしてあった新鮮なもつと大量の野菜を適当にカットし、鍋で煮込む。もちろんもつは下処理をきっちりしてだ。
ヨミにはおかずになりそうなものを二品頼んでおいたので、これで豪華な夜ご飯になる。〆はやっぱり麺が食べたかったので、手打ちでうどんを作った。コシを出すための足ふみ作業は、ゴーレムのディンに頼んだので、シコシコの麺が完成するだろう。
「さて、せっかく鍋だしみんな呼ぼうかな」
鍋はみんなで食べたほうが美味しいからね。
仕事を終えた両親や、ミレイちゃんの御両親、あとはルナの家族と龍たち、メイド部隊も呼んでみんなで鍋を囲んだ。
じっくりと煮込んだもつは最高にぷりぷりで、箸が止まらないほど美味しく、なんかいもおかわりしてしまった。もちろん、途中からみんな酒盛りをはじめ、最終的には宴会みたいな雰囲気へと変化していった。
どこからか宴会を聞きつけたのか、仲のいい村人たちが集まり始め、またもやどんちゃん騒ぎへと発展していった。税が免除されているお陰で、この昔から村にいる村人は割と裕福な人が多い。普通に酒も飲むし、肉も食べる。人がいいから、全員が全員何かしらを持ち込んでくれるのだ。
野菜や穀物など、みんなご飯や酒代として俺にくれるのだ。本当に素晴らしい人たちだと思う。
もつが少なくなってきたら、もちろん〆のうどん。ディンに頼んで大量に作ってもらっていたので、このうどんもみんなで食べるくらいはある。
「アウル君、この麺の作り方って教えてもらえないかな?」
「レブラントさん、いつの間に……、あぁ、ウルリカが呼んだんですね。うどんの作り方でよければお売りしますよ」
「はははは、それは助かる。こんなシコシコな麺は珍しい、というより他にないからね!」
商魂たくましいレブラントさんの一幕がありつつ、夜は更けていった。
更新が遅くなり申し訳ございません。
細々と更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
アウル「……ノラさんって骨なのにご飯食べれるんだね」
ノラさ「我も驚きました! 食べなくても大丈夫ですが、このうどんとやら我の舌をも唸らせる逸品ですな。シコシコな上にスープが絡んで誠に美味い! さらには喉越しが最高ですぞ!」
アウル「いや、ノラさん舌も喉もないじゃん」
ノラさ「うわはははは~~」




