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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第6章 農家と勇者と邪神ノ欠片 後編
153/177

ep.153 騒動終結


 すべて問題が片付き一件落着だと思ったのも束の間、とんでもない爆弾を抱えていたことを思い出した。今でこそ天馬は馴染んでいるけれど、もともとはこいつが問題で俺たちが王都へ呼ばれていたのだ。


 エリーは先に帰ったのでひとまずの混乱は避けられるだろうが、なにかしらの責任問題になるのは目に見えている。あとはそこからどうやって天馬の責任を教皇側の責任にするかだ。でも、頭がいいエリーのことだから、一番納得できる形で終わらせてくれるだろうな。



 というわけで、勇者を連れて王都へと戻ってきたわけだけど、今のところは住人たちが何か勇者の噂をしているということはない。さすがに天馬も自分がしたことの重大さは理解していたのでヒヤヒヤしていたみたいだけど、一安心だ。まぁ、付き人だった2人は今も心ここにあらずって感じだけどね。イシュタルとかいう女性はなぜかこちらを舐めるような、血走った目で見てきている気がするがスルーしている。近寄って来ようとしたらヨミが止めてくれているので安心できるな。


 特に咎められることもなく王城へと行くと、門の衛兵が俺が来ることを知っていたようでスムーズに案内された。どうやらエリーが手配してくれていたらしい。流石の一言に尽きる。


「アウル……僕はどうなるのかな?」


「処刑ってことはないでしょ。きっとエリーがなんとかしてくれるよ」


 いざとなったら今まで散々貸しを作っているし、ここで一つ返してもらえればいい。それに、交渉材料はある。王族が今回の水騒動について関わっているということ。エリーはこうして帰ってきていることだし、俺の功績も認められるかもしれない。いざとなったら俺にも考えがある。


 同郷のよしみってほどでもないけれど、なんとなく天馬にはここで恩を売っておいたほうがいい気がしてならないのだ。これは俺の座右の銘と言ってもいいけど、情けは人の為ならずなのだ。人生は義理と人情を欠かしてはならない。基本的に人間は善意には善意を、悪意には悪意を返したくなる生物である。


 これはただの勘だけど、なんとなく俺にとってもうまい方向に話が転がる気がしている。もう少し待てば分かる話だけどな。


「アウルが言うとなんだか安心できるや。でも、僕は一度ワイゼラスに帰るよ。付き人をしてくれていた2人を返したいし、なによりケジメをつけなければならない。こう言っては何だけど、僕は教皇に感謝しているんだ。……あのつまらなかった日常から僕を拾い上げてくれて、こんなに未知に溢れた素晴らしい世界へ来れたのだから。――人前ではあんまり大きい声では言えないけどね」


 天馬の顔は、以前会った時とは全く違った顔をしているように見えた。重役とか責任とかそんなものから解放されたような清々しい顔だ。そして、どこか決意の籠ったような顔もしている。きっと王都に来るまでの間にいろいろ考えたのだろう。そして、やっと彼の中で答えが出たのだ。


 俺はそれを応援するつもりだし、これからも彼の味方でいようと思った。


 応接室で待っていると、謁見の間ではなく一番大きい応接室へと呼ばれた。そこにいくとすでにエリーと国王陛下が座っており、その横には宰相が立っていた。


 本来ならばかしこまるシーンなのだろうが、俺からすれば今更の仲なので遠慮なく対面のソファーに座った。今では俺以外の仲間も全員席についている。ルナとヨミはもう奴隷じゃなくなったからね。ただ、アルフはエゼルミアさんと話したいことがあるとかでここにはいない。


「ただいま戻りました」


「うむ、話はエリーから聞いている。そして、その結末もすでに報告を受けておる。大儀であった。それで――――其の方が、ワイゼラスで召喚されたという勇者だな?」


「はっ! 宗教国家ワイゼラスが勇者の天馬と申します。……この度は不敬を働いてしまい、誠に申し訳ございません。如何様にもこの身を罰していただいてもかまいません」


 国王は至って真面目な面持ちで勇者である天馬を見据えていた。そして、その隣で口元をほんのわずかに綻ばせているエリー。うん、やっぱり心配はなさそうだな。


「勇者よ。確かにお主がしたことは断じて許されることではない。一国の王女を断りもなく連れ出すなどあってはならぬことだ」


「ごもっともでございます……」


 天馬は下を向いているため、この状況に気付いていない。国王も今では笑いをなんとかこらえようとしているのだから。しかし、天馬がそれに気づくまではこの茶番を続けようとしているのだろう。




 その後も天馬が下を向いている限りはなにかと同じようなことを延々と言い続け、茶番を楽しんでいる。宰相様も楽しくなってきたのか笑っている始末だ。少し天馬が可哀想な気もするが、これはあくまでも天馬への罰なのだろうから、気付くまでは罰として受け入れてもらおう。


 都合15分くらい経ったころだろうか。とうとう国王自身が言うことが無くなり、やや支離滅裂になり始めたあたりで天馬もおかしいと気付いたのだろう。おそるおそる顔を上げたらみんな顔を真っ赤にして笑いをこらえていたのだ。


「ワハハハハ、もうだめだ!! これ以上笑いをこらえるのは厳しいの」


「うふふふ、でもとても面白かったですね。お父様ったら同じことを何度も言うものですから」


「そうですな。陛下には少し語彙力をつけてもらわねばなりませんなぁ?」


「……余はそんなにひどかったのか?」



 お父様、ね。ここは完全に非公式の場だということか。この場がそれなりにちゃんとした場ならば、エリーが陛下と呼ばずにお父様と呼ぶはずもない。これで完全に安心だ。


「えっと……これはどういう?」


 天馬はやっぱり分かっていないな。地球のころに大財閥の御曹司だったとしても、威厳ある国王の前ではそれなりに緊張したということだろう。まぁ、誘拐した本人の父親ってだけでも頭が真っ白になるのは当たり前か。


「これが天馬への罰だってことだよ。何度もおんなじことで怒られて、だいぶ反省しただろ?」


「あぁ……。そうか、そういうことか。もともと怒ってはいなかった、けれどなにも罰は無しとはいかないと、そういうことだね。アウルがいたから少しは大丈夫だと思っていたけど、やっぱり国王陛下を目の前にしたら頭が真っ白になっちゃってね。なんか不思議な感じだったよ。……父も威厳のある人だったけど、ここまで緊張したことなかったんだけどなぁ」



 うーん、もしかしたら国王にはなにか威厳を発するような恩恵を持っているのかもしれない。たとえば、カリスマとか。王の威厳、なんて恩恵は無いだろうし。でも、俺はあんまり感じたことないぞ? 国王が気を使ってくれているのか、はたまた俺には通用しないのか。やっぱり恩恵についての研究もした方がいいかもしれないなぁ。



「アウルの言う通りだ。それに、お主はスリードの問題をいち早く察知し、勇者として動いた(・・・・・・・・)。――――そうであろう? そこで交流のあったアウルの友人であるエリザベスを急遽頼った。そうだな? まぁ、気が逸るあまりにその手段はちと問題だったがのう」


 ……なるほど。対外的にはそういうことにするのか。勇者として活動していた天馬が、スリードでの問題にいち早く察知し、俺の友人であるエリーに知らせようとした。しかし、急ぐあまりに手段を問わずに行動を起こしてしまったと。そこには勇者として(・・・・・)、つまりワイゼラスからの指示と方針のもとに行動したということだろう。勇者の行動はワイゼラスが責任を持つということだ。


「! 本当に、もうしわけありませんでした。これからは、もっと考えて行動いたします」


「うむ。これからも励むがよい。しかし、信賞必罰は世の常。此度の問題については罰したが、スリードでの件は別だ。なにかしらの褒美を出そうと思うが、なにがいいかの?」


 国王は流し目で俺にも視線を送ってきた。おそらく俺にも褒美を出そうというのだろうが、目が完全に俺に報告を求めている感じだ。きっと詳しい話を聞こうというのだろう。


 ……そろそろ潮時かな。さすがにもう隠し通すことが難しいだろう。それに、王族の誰かは邪神の欠片について気付いている。


「……厚かましいお願いであるのはわかっているのですが、一つだけお願いがあります。この国での活動を認めていただきたいのです。そして、それをエリザベス王女に見届けていただくことはできないでしょうか」


「ほう、エリザベスにか……?」


 天馬のやつ。エリーのこと本気みたいだな。俺は応援するけど、エリー次第なところはある。しかし、国王としてもここで勇者に恩を売って仲良くしておくのは悪い話じゃない。今でこそ魔王とかは静かにしているけれど、それ以外にも脅威はある。それこそ水鬼みたいなこともありえる。まだ今だと俺のほうが強いけれど、それでも勇者の成長率は著しい。


 これからは俺以上に強くなることだって往々にしてあり得る話だ。となれば今後を見据えて考えると、国王的にはありなんだろうな。


「はい。……だめでしょうか?」


「エリザベスはどうなんだ?」


 当のエリザベスはなぜか俺の方をチラリとみると、何かを考えた顔をしながらコクリと頷いた。勇者の活動を見守るということだろう。しかし、なんで俺の方を見たんだ?


「エリザベスも了承していることだし、勇者の活動を許可する。それに、貴族たちに向けてのポーズにもなるな。緘口令は敷いたが、耳の早い貴族どもはエリザベスがさらわれたと知っている。それに向けて、特に問題はなかったという風に伝わるだろうからな」


 言われてみればそうか。国王もエリーもいろいろ考えているようだ。



「ありがとうございます!」



 ということで、そのあとは他愛ない話や勇者についての話をしてから解散となった。いや、正確には後日俺にもう一度王城へ来るように要請はあったが。なんでも当初予定していた報酬をくれるらしい。勇者の人柄が分かったので、護衛をする必要がなくなったのだそうだ。まぁ、これは建前で簡単に言えば、俺が裏で何やっているかそろそろ詳しく話せということだろう。


 少し準備しておこうかな。

のんびりと更新していきます。

評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?エリーって決闘の時、「勝者の妻となることを宣言します」って言ってなかった?
[一言] >エリート国王陛下 エリートじゃない国王とかも存在するん?(目反らし
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