ep.151 『第3の封印』①
水鬼と戦闘し始めてからというもの、予想外に苦戦していた。前衛を務めるのが勇者ということもあり、連携がうまくとれていないのは否めないが、それを含めても想像以上水鬼が強い。
地下を障壁で囲うようにしているおかげである程度の魔法は使えているが、水鬼の魔法耐性が異常に高いのか魔法の効き目が薄い。それに、水鬼というだけあって、体が水で構成されているのか物理攻撃もほとんど意味がない。
凍らせようとしても効かないし、超純水なのか雷も効果がない。はっきり言って八方ふさがりもいいところだ。幸いなのは攻撃力があまり高くないことか。障壁があれば耐えられるから焦る必要はないのだが、水鬼の体力は無尽蔵らしく疲れる気配がない。
「天馬! どうする⁈」
「これはちょっとやばいかもな! 俺が耐えるからそれまでになんとか方法を見つけてくれ!」
はっきり言って無茶ぶりだ。初めて戦う敵の弱点なんてそんな簡単に見つけられるものではない。……ただ気になるとすれば、あの水鬼の気配はどこかで感じたことがあるような気がするのだ。
元々の水鬼の気配とは別の異質とも言える気配……あれはまるで、邪神の欠片のような――
「――!! もしかして、邪神の欠片を取り込んだ……?」
もしそうだとすると厄介なことになった。邪神の欠片を守るはずの主が倒され、水鬼が欠片を吸収したとなると、ルナとイナギが欠片の抽出をできないことになる。さらに言えば、封印を強化しようとしていたのが全て水の泡になってしまう!
……落ち着け俺。まだ主が倒されたとは決まってない。主を倒さずに欠片だけ回収した可能性だってあるし、そもそも水鬼そのものが封印本体という可能性だってある。
だけど、仮にもしイナギ以外に欠片の抽出ができる存在がいるのだとしたら。本当にそんなことが可能なのか……? イナギ以外でそれができる人物っていったい何者なんだ?
ふと思い当たるのはテンド。理外の存在であり、化け物級の実力を持つ異質な何か。正体こそ分からないものの、常に何かを企んでいる第三者。勇者の件は失敗だと言っていたけど、それは本当にそうなのか?
あれは俺たちの目をスリードに向けさせるために仕向けられたのでは?勇者が暴れてスリードに来なければ、王族が動くことはなかったし、俺たちも欠片回収にくるのはもう少し後だっただろう。
今回、この水騒動を手引きしている何者かの企みを俺に解決させたかったとしたらどうだ? テンドは俺が邪心の欠片を集めているのを知っているだろう。それなのに止めないということは、テンドにとっても悪いことではないことだからだと推測できる。
だが、ここにきて誰かが横槍を入れようとしている。そう考えれば、テンドの動きにも納得できる部分がある。
それに、邪神の欠片を取り込んだかと思ったけど、それにしては気配が薄い。
「もしかして、この奥に封印があってその邪気の影響を受け続けたせいで水鬼の性質がかわったのか?」
なんとなく、見えてきた気がするな。テンドの掌で転がされているのは癪だけど、今は黙って転がされておくとしよう。
そうと分かれば、水鬼の邪気を払うのが先決だ。
「セイクリッドヒール!!」
『Guaaaaaaa!?』
『Gyaoooooo!!』
さっきまでは攻撃をしてもなんの反応もなかったというのに、効果覿面だ。邪気らしき黒い靄が水鬼から抜け落ちると、水鬼は一回り小さくなりってさっきまであった威圧感も嘘のようになくなった。
「さすがアウル! あとは僕に任せろ! ――ホーリーセイバー!」
厨二病らしき技名とともに叫んでいるけど、あれは剣に魔力を送っているだけだろう。白聖武器とかいう凄い剣だからできる芸当らしい。……ちょっとかっこいいな。
邪気の無くなった水鬼は魔法も物理も利くようになっており、こうなれば
Bランクの魔物と大差ないくらいの気配しか感じない。もう勇者である天馬だけでも余裕で勝てるだろう。
「よし! 勝ったぞ!」
「おめでとう天馬。先を急ごうか。ほかのみんなが心配だ」
「そうだな!」
さらに地下道を進むとそこにはまた少しひらけたホールがあり、すでにルナとヨミ、ミレイちゃんとアルフが待っていた。俺たちが一番遅かったようだ。というか、道は全部つながっていたんだな。
「ご主人様、お疲れ様です」
「うふふ、アウル様のチームが一番遅かったのであとで美味しい夜ご飯を作ってくださいね?」
「私はハンバーグが食べたいな~?」
「では主様、私もハンバーグを所望いたします」
「え⁈ ハンバーグがあるの⁈ アウル、いや兄貴! 俺もハンバーグ食べたい!」
誰が兄貴か。俺よりも年上だろうが。いや、前世も含めれば俺のほうが上だけども。
「分かった分かった。今夜は超特大ハンバーグを作るよ。それにしても、みんなの道には何もいなかったの?」
目立った怪我もないしかなり余裕そうなので、俺たちの道にしか水鬼はいなかったのかな?そうだとすれば、俺たちが一番遅かったのにも言い訳が――
「――いえ、水鬼らしき魔物はおりました」
「私とアルフレッドさんのほうにもいたよ。それも2体」
なんたることか。もし同じ強さの水鬼がいたとするなら、俺たちが一番遅いのは悔しいな。
「かなり強かったと思うんだけど」
「私たちはルナがすぐに欠片の気配に気づきましたので、手古摺るかと思ったのですが、イナギの力を借りることが出来たので邪神の影響なしに倒すことが出来ました」
なにそれずるい。いや、確かに言われれば納得できる話ではあるけれども。じゃあ、アルフたちは?
「はい、有体に言えば力技ですね」
でたよ。この万能執事め。アルフに全て任せればうまくいくのではないかと思ってしまう。
「……よし! この奥から強い気配を感じるから、みんな心してかかるように!」
先に着いていた4人の顔にそれぞれ思っていることが書いてあるけど、俺はそんなの気にしない。気にしたら負けだからな。それに、俺だってもっとちゃんと戦えれば早く終わったかもしれないのだ。
こういう強敵に会った際に、自分の恩恵が悔しい。良くも悪くも器用貧乏なせいで、決定力に欠けるのだ。確かに強い魔法を使えるけれど、大規模な魔法が多いし、洞窟内だと使えないものも多い。
早く覚醒して「蓋世之才」としたいけれど、覚醒には至っていない。何かきっかけが必要なのかな……。夢世界では使えたので、覚醒するポテンシャルはあるはずである。
ジト目を躱しながら道を進むと、ひと際大きくて頑丈そうな扉があった。その奥からは、扉越しでもわかるほど強大なオーラを感じる。間違いなくこの奥に水鬼がいる。封印の主である可能性もあるけれど、ここまでくれば確信を持って言える。
封印の主は水鬼に違いない。
おそるおそる扉に手をかけると、力を入れてもいないのに独りでに開いた。まるで、俺たちをこまねいているかのように。
『やっと来たか……待ちわびたぞ』
扉を開けた先から聞こえたのは若々しい男の声。それも、かなり流暢に言葉を喋っている。
パチン、と音が鳴った直後に部屋の四隅に火が付いた。薄暗かった部屋を見渡せるようになると、部屋のそこら中には白骨化した人骨が山ほど積み上げられていた。
「お前は誰だ? 水鬼か?」
『ふはは、我は水鬼でもあり、この封印の守護者でもある。しかし、そんなことはどうでもよいことだ。お前らがここにきたのはこれを求めているからだろう?』
「っ!! ご主人様! それは間違いなく欠片です!」
『ほう、これを一目で判別するとは。そこの女、興味深いな』
水鬼が持っていたのは今もなお邪悪な気配をまき散らしている邪神の欠片だ。しかし、なぜこいつは俺たちがそれを求めていると知っているのだ? 今回の事件を起こした存在に教えられたとでも言うつもりか?
「……お前を解き放った奴は誰だ?」
『ふははは、急くな急くな。しかし、我を解き放った人間がいると確信しているようだな。それなりに頭はキレるということか。ふむ。しかし、そんなこと我には不要。目覚めたばかりで渇いて仕方ないのだ。お主たちに我を満たすことができるか?』
品定めするように俺らを見たと思ったら体がブレた。確実に攻撃に移ったというのは分かったが、その速度は強化をしていない目では追いきれないほど速かった。
パリンっ!
『む? 自動障壁とはまた手の込んだ装具を持っているみたいだな。しかし、そうと分かれば我に障壁は効かぬよ――浸透水波双掌』
さほど強くない両手による掌底。しかし、水に波紋が広がるように障壁にヒビが入っていき、全ての障壁が一瞬にして破壊されてしまった。本気ではない攻撃かもしれないのに、全ての障壁を破壊されたことに冷や汗が流れる。
改めて分からされるが、目の前の軽薄そうな男は相当な実力者だ。皮膚が青いだけの鬼ではない。見た目こそ人間型だが、今までの敵でも最強と思って戦うのがいいかもしれない。
即座に後ろへと跳んで距離を置く。
「みんな、こいつは想像以上に化け物かもしれない!! 前衛を天馬とアルフとルナ。ヨミは遊撃、ミレイは後衛を頼む! 俺は全部こなす! 各自気を付けて!」
『よい、よいぞ。我の渇きを潤しておくれ』
細々と更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
遅ればせながら、コミカライズが来週の18日に『マンガがうがう』というアプリで一話目が配信されるらしいです~! わー、ぱちぱち!
(第3巻の原稿も仕上げたので、そろそろweb版も更新しなきゃ……!)




